アルバム『ハラミ定食2~新メニュー揃いました!~』で
新たなスタートを切った、ポップスピアニスト・ハラミちゃん
昼と夜で内容の違うライブツアーにも初挑戦!
駅や施設に設置されているストリートピアノを即興で弾きこなし、チャーミングな笑顔と人柄で、人々の心を掴んで離さないポップスピアニスト・ハラミちゃん。YouTubeチャンネルの登録者数は今や198万人(2022年5月現在)。今年1月には武道館公演を大成功させ、ピアニストとしての地位を確立した。3月23日には待望のアルバム『ハラミ定食2~新メニュー揃いました!~』をリリース。カバー曲は全て新曲で、ストリートピアノでも人気の『BOHEMIAN RHAPSODY』や『夜に駆ける』をはじめ、『異邦人』『楓』といった、幅広い年代が楽しめるラインナップとなっている。さらに、配信リリースされたオリジナル曲『雨』『947』に加え、新曲『ひとり』も収録。カバー、オリジナルともにアレンジの幅がグッと広がり、曲の深みや世界観を存分に引き出している。活動を開始してからわずか3年。武道館ワンマンを終えてスタートした、ハラミちゃんの第2章とは。インタビュー中に感じたポジティブなエネルギーが、彼女の状態の良さを物語っていた。現在、約1年ぶりの全国ツアー『ハラミ定食2 全国ツアー ~新メニューお届けするぬ!~』真っ最中のハラミちゃんに、アルバムについてはもちろん、今後の展望や関西のお米さんについての話を聞いた。
老若男女のお米さんが来てくれた武道館。第2章は、自分から会いに行く
――武道館公演『STREETPIANO in 日本武道館~ハラミちゃん947日目のキセキ~』を振り返ってみて、今のお気持ちは?
「自分は活動を始めて2年半~3年ぐらいなんですけど、武道館はしっかり“夢だ”と公言していたわけでもなく、“立てたらいいな”とうっすら思っていたのが、皆さんのおかげで実現させていただきました。実は公演を終えた今もまだ、あまり実感はないんです。本当に夢心地のまま、ずっときてしまっていて。武道館には小さい子からお爺さまお婆さまの世代まで、本当に老若男女の方が来てくださって。あまりにも世代がバラバラなことに驚きました。あとは360度ステージで、自分が真ん中にいてピアノを弾いて、周りで皆さんが笑顔で聴いてくださる。その様子が、小学校3年生の時に“自分の夢”として描いた絵にそっくりで。その絵が実現したのが、こんなに素敵な武道館の夢の舞台。自分はピアノで演歌から童謡まで、色々な曲をカバーしているので、こういう現象が起きてるんだなと感じました。それが本当に嬉しかった。だから、ピアノを色んな世代の方に楽しんでもらいたいんです。ピアノは頭を使う楽器なので、子どもさんには教育上とても良いですし、お爺さんお婆さんも頭の体操に良いんです。ピアノをもっと身近にしたいなと改めて強く思いましたね」
――なるほど、いいですね。
「あとはちょっと逆説的なんですけど、武道館に立ったことで、ライブに縛られなくてもいいのかなと。ライブは基本会場で人が来るのを待つスタイルで、きちんと準備したもので素敵なんですけど、武道館に来てくれた皆さんの姿を見て、今度は私が“行くピアニスト”として、老人ホームに行ったり、幼稚園に行ったり、病院や学校に行かせていただきたいなって。その場でしか生み出せない音楽や、一期一会の出会いを大切にしたい。第2章では、色んな場所に行くことも頑張りたいなと思ってます」
――すでに全国各地のストリートピアノに現れるイメージでしたが、それをさらに強めていきたいと。
「そうですね。ストリートピアノだけじゃなくてもいいなと思ってて。それこそ今言った病院とか保育園とか、元々ストリートピアノとは認識されてないけれど、ピアノがある場所。ピアノがない場所にも持っていけばいいし、本当にどこにでも可能性があるなと感じました」
武道館を経た自分が、今出せる全てを表現したアルバムを作りたい
――新作アルバム『ハラミ定食2~新メニュー揃いました!~』は、“アーティスティックなビジュアルと、音楽の方向性に新たなスタートを切る”というコンセプトがあります。どのように意識されて作っていかれましたか?
「前回のアルバムと1番違うのは、アレンジの幅が広がったことです。約1年ぶりのアルバムなんですけど、1年の間に全国ツアーや武道館ライブ、パシフィコ横浜でのライブといった大きな舞台を踏ませていただいて、ストリートピアノでもこの1年で100曲以上は弾きました。その経験を踏まえて、自分自身でも、より原曲の魅力が伝わるアレンジの幅が増えたのかなと感じていて。今作は、武道館を経た自分が、今出せる全てを表現したアルバムを1枚作りたいなと思って制作しました」
――ストリートピアノも積み重ねると、雰囲気でアレンジが変わるものなんですか。
「やっぱり駅はガヤガヤしているというか、時の流れが速い場所もありますし、家族連れが多いショッピングモール、東京の方だと二子玉とか府中、そういうところはもう少し時間の流れがゆったりで、滞在時間も長かったり。大阪の方は、時の流れが割と早い」
――せっかちですね(笑)。信号とか待たないので(笑)。
「そうですよね、すぐ来て、すぐ行っちゃう(笑)。駅だというのもあると思うけど、急いでいらっしゃる方にはアップテンポな曲や、音にインパクトのある曲、タッチが強い曲を弾きます。逆に沖縄だと、すごくのんびりされていて、皆ストリートピアノの周りに座り込むんですよ。“何曲でも弾いていいよ~”みたいな雰囲気があったり、土地によって雰囲気も人柄も全然違うので、選曲やアレンジはそこに合わせています。サラリーマンが多い場所はサラリーマン世代の曲、親子連れが多いと『パプリカ』とか、お客さんに合わせながら即興でやるのも、ものすごく刺激的で楽しいです」
――そうやって揉まれる中でアレンジ力がついていくのですね。今回収録されている楽曲は、昭和から令和の曲まで、かなりの幅広さです。楽曲の選定で意識されたことはありますか?
「まさに今おっしゃった、昭和から令和という部分を1番気を付けました。自分のYouTubeチャンネルに登録してくださっている方の年齢分布のグラフは、めちゃくちゃ均等で、本当に全世代いらっしゃって。たとえば、ずっと真夜中でいいのに。さんの曲を弾くと、40~50代の方は最初“何ですか、これは?”みたいな反応なんですけど、“調べてハマりました”と言ってくださったり、最近だとBE:FIRSTさんの曲を弾いたんですけど、60代の方が“BE:FIRSTは知らなかったけど、曲がすごく良いですね”と言ってくださったり。逆に『異邦人』や『紅』を小学生や中学生が真似して弾いていたり、自分という存在を通して、色んな年代の曲の架け橋になれている実感がありました。それに、そういう存在になりたいという想いが強いので、そういった意味でも、やっぱり原曲の良さを失わないようなアレンジをしたいと思っています。ピアノはボーカルもないし、バンドでもないので、本当にシンプルに曲のメロディの強さや良さが際立つ楽器です。なので、あまり先入観なく、“この曲、こんなに良い曲だったんだ!”と知ることができる。色んな年代の方が交われるアルバムにしたかったので、“年代を超える”というのは、選曲で気を付けた部分ですね」
1人は素晴らしい。もっと前向きに捉えていいんだよ
――今作にはオリジナル曲が3曲入っています。初のオリジナル曲『ファンファーレ(『ハラミ定食DX ~Streetpiano Collection~ おかわり!』収録)』に比べると、表現力やダイナミックさが増したと感じました。オリジナル曲はどのように書かれますか?
「自分は、映し鏡じゃないですけど、“自分が今何を思ってるのか”を日記に書いて見返す感覚で曲を作ることが多いです。心の中の答え合わせのように、思い浮かんだフレーズと共に、“ああ、自分は今こういうことを思ってるんだな”という感じで書きますね」
――新曲の『ひとり』は、環境の変化で1人になりやすい春だけれど、1人も素敵だよというメッセージが込められているそうですね。
「『ひとり』は、春の応援ソングをピアノだけで表現してみたいなという想いで作りました」
――“1人になる”、ということについては?
「私は、本当の意味で自分が1人になったことって、多分まだないなと思っています。会社員をしていた頃、ちょっと疲れてしまって、SNSを全部見るのをやめたり、アプリを全部消したりして、世の中との関わりをシャットダウンした時期があって。その時は、本当の意味では1人じゃないかもしれないけど、ちょっと1人っぽくなった時だったんですよね。その時期があったからこそ、仲間や友達、家族も結局1人同士の集合体なんだ、という概念に変わりました。春はさみしかったり、心が不安定になる時期だけど、“結局最後は1人だし、皆1人同士なんだ”とポジティブに意識した時に、結構楽になれた自分がいて。“1人は素晴らしい、もっと前向きに捉えていいんだよ”って、『ひとり』を聴いてくださる方に言ってあげたいです」
――今、新しい環境の中で頑張ってる人もいますよね。
「新しい環境で不安じゃない人は、きっといないです。人生で初めてのことをする時は、本当に胃が痛くなったり、緊張したり、不安になったり、焦っちゃったり。自分の恥ずかしい部分をいっぱい認めなきゃいけない時期なので、心にも体にも負担がかかりますよね。自分のことを知った上で自分を認めるのは、なかなか難しいと思う。でも、疲れて会社や学校に行けなくなったり、頑張りすぎても、皆がそれぞれ選んだ道が全部正解だと思ってます。続けることがゴールじゃないし、クラスの人気者や、優秀な社員になることもゴールじゃない。無理して合わせることなく、自分が感じて選んだ道を、信じてそのまま進んでほしい。ダメだったらダメだし(笑)、良かったら良かっただし。“こうしなきゃ、こうならなきゃ”というロールモデルを描きすぎないことが大切だと思います。肩の力を下ろして、“どうなっても自分は自分、1人が1人”と、思ってください」
――ミュージックビデオの4分30秒ぐらいのところで、ハラミちゃんの後ろを人影が横切ります。あの演出で“1人だけど1人じゃない”が表れていると思いました。
「まさに(笑)。おっしゃる通りです」
――ちなみに、会社員だった当時のハラミちゃんに今言ってあげたいことはありますか?
「そうですね~いっぱいあるんですけど(笑)。過去に戻ってやり直したいと思ったことは1回もなくて。結局全部結果論だし、自分の人生、皆さんの人生の中でも、無駄なことはないと思ってて。どんなに後悔や失敗したことでも、全部後から点と点が繋がると思っているので、“何かを変えた方がいいよ”と言うよりも、“そのままの自分でいいよ”と言ってあげたいですね」
カラクリがわかると、音楽はすごく面白い
――今作も全世代が楽しめる1枚に仕上がっていますが、資料によるとターゲットは40、50代~、「子どもがピアノを習い始めた若いファミリー層」とあります。3月にはファミリーコンサートを開催されたり、4月13日にはピアノ絵本『ハラミちゃん監修 たのしくひけるピアノえほん』を発売されていますが、今後は教育方面にも力を入れていきたいという想いもあるんですか?
「もともと中高の音楽の教員免許を持っていて、教えることに対して、実は結構興味があるんです。音楽大学に通っていた時は、ピアニストになりたいという気持ちもありつつ、ピアノの先生の道もいいのかなと考えていた時期もあって。私には“ピアノを身近に”という軸があるんですけど、音楽は専門性が高い分野じゃないですか。“EメジャーからAメジャーいって、セブンスでドミナントで……”と言われても、全くわからずシャットダウンしちゃう世界だと思っていて。でも、学術的な単語を私がひも解いて、わかりやすく説明することで概念を知って、“そうなんだ!”と理解してくれることで、皆めちゃめちゃ音楽を好きになってくれる感覚を、教育実習でも感じたんです。昔、YouTubeの生配信で“ハラミ先生”という授業の企画もやっていました」
――学術的な単語をひも解く。
「たとえば、松任谷由実さんの『春よ、来い』は、何となく和風じゃないですか。理由はなくても感覚的に感じますよね。それって実は、ドレミファソラシドの“ファとシ”の音が使われてないんですよ」
――へー!!!
「“ドレミ、ソラド”と、ファとシを抜くことを、音楽的に“ヨナ抜き音階”と呼ぶんです。つまり、ドレミファソラシドの4番目の“ファ”と7番目の“シ”を抜いているんですけど、ヨナ抜きだとすごく和風に聴こえるんです。『チューリップ』『ぞうさん』『お正月』といった童謡に使われていたり、星野源さんの『恋』や、NiziUさんの『Make you happy』、『君が代』もそうだったり。日本に馴染み深い、日本人が大好きな音階なんです。そういう知識を1個でも知って、カラクリがわかると、すごく面白いですよね」
――確かに!
「生配信の授業の企画をしていた時に、皆さんの音楽との距離がぐっと縮まる体験をして、言葉で噛み砕いて教える分野でもアプローチできるのかなと思ったんです。それでお子様に向けて絵本を出してみたり、今後大人に向けて教室をやるのも面白そうだなとか。まだ何も動いてないんですけど。将来的に弾くピアニストだけではなく、教育分野も広げていきたいな、なんて思ってます」
――今のお話を聞いただけでも、わかりやすくてすごく面白いですね! 参加したいです。
「ぜひ(笑)。いつになるかわからないですけど(笑)」
大阪人に人気で、大阪に所縁のあるハラミちゃん
――今作はジャケットがこれまでよりもアーティスティックで、初回限定盤にはフォトブックが付いています。第2章ではどんなハラミちゃんを見せていこうとお考えですか?
「第2章のハラミちゃんとして、ガラッと何かを変えるとかは特にないんですけど、これまでビジュアルに関しては、ストリートピアノでオーバーオールとか、“ザ・ハラミちゃん”っぽい服装で、“ストリートピアノのお姉さん”みたいな部分を押し出していましたが、今回は音楽の内面にもちゃんと向き合っている姿を見せたくて。自分で垢抜けたと言うと変なんですけど(笑)、殻を破ったというか、全体的に少し大人っぽいスタイリングに挑戦しました」
――フォトブックの見どころはありますか?
「何でしょう(笑)。過去のCDにもちょっとしたフォトブックが付いていて、1年前は同じポーズしか取れなかったんですけど、1年後の自分はだんだんカメラにも慣れてきて、より素の自分を切り取った表情ができるようになってきたので、そういう意味で成長したなと思ってくれたら嬉しいです(笑)」
――そして現在、アルバムを引っ提げたツアーが始まっています。大阪は5月22日(日)大阪国際会議場 メインホール(グランキューブ大阪)、京都は6月12日(日)ロームシアター京都 サウスホールです。関西のお米さんはどんな感じですか?
「関西のお米さんはめちゃくちゃ元気です。そう、これ、超“実は”の情報なんですけど、YouTubeの登録者数が1番多いのは、大阪なんです」
――そうなんですか!?
「大阪が圧倒的1位。なぜか大阪の方に好かれてるので、めっちゃ嬉しいんですよ」
――そうなんですね!
「“出身”と言うと少し意味合いが違うんですけど、実は私、父親が転勤族で、生まれたのが大阪なんです。だから勝手に親近感を感じていて。YouTubeのデータを見て、大阪にゆかりがあるなと。春の全国交通安全運動の警察のポスターも、なぜか大阪府さんからオファーが来たりして。大阪のお米さんは仲が良くて、皆で飲み会とかしてるんですよね」
――お米さん同士で?
「そう、お米さんのオフ会が活発に行われているんです。コミュニケーションが上手な方が多いですよね。今はライブで声を出しちゃダメなんですけど、皆ニコニコ聴いてくださって、大阪でのライブはいつもすごく楽しいし、気合が入りますね」
――大阪のお客さんは音楽への愛も強いので、“楽しい!”となったら、全面に出ますからね。
「ルクアさんの前のストリートピアノを弾いてても、マクドナルドのアルバイトの人も出てきて普通に聴いていたり、自由です(笑)。普通に肩とかパーン! て叩きながら、“この前テレビ見たで~”って、親戚かな?みたいな(笑)。そんなフレンドリーさが大好きですね」
――京都はまた違いますか?
「京都のお米さんは皆さん明るいですけど、しっとりしているというか、ちょっと落ち着かれた方が多いのかなと。大阪の方がよりコミュニケーションが活発なイメージがありますね」
――今回は「表メニュー」と「裏メニュー」の2部構成ということですが、裏メニューは土地によって違いが出そうですね。
「夜公演はセットリストを決めないコンセプトでやっていて、皆さんに書いてもらったリクエスト用紙を集めて箱に入れて、くじ引きで決めていきます。セットリストが書いていない空のボードに自分が書いていき、曲順も皆で決めます。リクエストいただく曲は弾いたことのある曲が多いんですけど、“何この曲?”みたいな知らない曲もあります。この前は『君の瞳に恋してる』という昔の洋楽の曲(Boys town gangの楽曲)がきて、タイトルだと何の曲かわからなかったんですけど、その場で耳コピして、その様子も見守ってもらって。本当にその場で聴いた曲を初めて弾くから、より拍手が大きくなって、めちゃくちゃ一体感を感じられるんです。何を弾くか分からないから照明さんも即興ですし、皆さんのペンライトの色も即興で曲に合わせて変えていただいたり、ガチで皆で作るライブ。すごく刺激的です」
――お米さんの対応力も上がりそうですね。
「そうそう、お米さんも慣れてきて(笑)。昼公演はアルバムの曲を中心に演奏する演出されたライブで、そちらも正統派でオススメです。私自身どちらの良さもあるなと思っているので、両方来てほしいです!」
Text by ERI KUBOTA
(2022年5月16日更新)
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