「通過点って考えたら何も無駄なことはないって思える」
心地よく寄り添う新曲を発表し記憶に刻む2年半ぶりのツアーへ
藤原さくらインタビュー&動画コメント
2015年のデビュー以来、そのマルチな才能でシンガーソングライターとしてだけではなく、ドラマ、舞台、ラジオ、朗読など幅広い分野で活躍を続ける藤原さくら。そんな彼女は今年、音楽のギアを上げ、3月23日にデジタルシングル『わたしのLife』をリリースし、現在も「弾き語りツアー 2022- 2023 “heartbeat”」で全国を行脚中だ。そこで今回は新曲や待望のツアーについてインタビュー。制作エピソードや困難への向き合い方などに加え、驚きの一面も明らかに。
――まずは新曲『わたしのLife』についてお聞きします。この曲はとてもリラックスした雰囲気で、そのうえ歌詞の内容も……。
「……自分のことを全肯定していくという(笑)。始まりから『ほんと よくやってんなぁ』って言っちゃってます」
――誰もが共感できる、自分を褒める気持ちですよね(笑)。
「あれもこれもできなかったって、できなかったことを数えてしまうことが多いと思うんですけど、これはできたなって、できたことを数える方が、精神的にも健康というか。ポップなメロディとトラックができたので、メッセージも悲観的なものより、ポジティブなものになったらいいなと思って書き始めました」
――確かにできたことを数える方が健康的で建設的。
「もちろんすごく沈むこともあります。それこそコロナ禍でライブができなかったり、舞台が中止になったり、思うように活動ができない期間が長くて。でも、いろんな活動に違う方向からアプローチすると、これってコロナ禍じゃなきゃできなかったなって思えるようになって、それからは結構ポジティブになってきましたね。しんどいことがあっても、これがあったからもっと成長して、いい方向に進むなって」
――でもかなり苦しい経験を経ないと、その考えには至らないですよね?
「苦しかった時期はいろんな面でありましたね。18歳で東京に出てきて、歌を歌ったり、演技の仕事をするうえで、新しいことに挑戦することがすごく多かったように思うんです。バンドメンバーや制作陣も新しい人とご一緒することが多くて……『わたしのLife』も(プロデューサーの)Yaffleさんは初めましてですし。新しい人と出会っていろんなことを吸収していくなかで、ずっと同じ環境じゃないからこそ、毎回悩みが出てくるんですよ。どうやって打破すればいいんだろう?って。そうなった時にやんなきゃよかったって思うのは簡単ですけど、あれがあったから今ここにたどり着けたなって、通過点だったなって考えたら、何も無駄なことはないって思える。みなさんにも、とんでもなくつらいことがいろんな形であると思うんですけど、例えば大事な人と会えなくなったとしても、その人から学んだことがあったなとかって考えられたら、その人を恨んだりもしないし、サンキュー!っていう気持ちになれるのかなって(笑)。そういう私のポジティブな思考回路が曲に表れてる気がしますね」
――すばらしい!
「いや、でもイラっとしたりしますけどね(笑)。でもあんまり気にしないっていうマインドの方が楽しいなって」
――見習いたいです。さて『わたしのLife』の話に戻りますが、今作はコーラスワークも印象的ですね。
「一番重ねてる部分は6、7回かな。コーラスワークは最後に録っていったんですけど、(メインボーカルより)こっちの方が長くかかったんじゃないかなと思います」
――吐息が漏れるやさしいコーラスは重ねても重い感じがしませんね。
「結構ウィスパーに録りました。同じ旋律をダブルで歌う時って、どっちも同じように歌うとあまり合わなかったりして。どっちかが寄り添わないと……ちょっと吐息で包むようにして歌わないと分離しちゃったりするんです。」
――あと個人の感想ですが、そんな吐息と同じくらい耳に残ったのは“エルサ歌ってたし”のフレーズ。
「歌詞の第一稿をディレクターさんに送った時に、『普段しゃべってる感じとか、ブログで書くフランクな文章のほうが良かったりし、歌詞だからこうしなきゃ、ではなく、型にはまり過ぎずに思ったまま自由に書いてみたら』というようなことを言われて。そこから書き直して出てきた言葉だったりするんです。だから今回の歌詞は、より口語っぽいというか普通にお喋りしてる感じ。自分だけで作ったらもう少しまとまった感じになってしまってたと思います」
――今作の歌詞は語感もいいですよね。
「言葉遊びのようにたくさん韻を踏んだ曲になりました。メロディが先にできると、毎回歌詞は英語にするか日本語にするかって結構悩むんです。今回も最初は英語で書こうかなと思ったんですけど、より多く、いろんな人に届く歌詞にしたいよねってことで日本語にしたんです。で、どんどん韻を踏んでいったら楽しいかもって」
――韻を踏むのは難しそうですが。
「使えないようなものも合わせて相当たくさん案を出しましたね。“どんくらい”と“don’t cry”とか、 “いっぱい 頑張ってるから 一杯 飲んでもいいでしょ”とか」
――大変でしたね。
「大変なんですけど、すごくおもしろかったです! 良い案が思いついて、これだ!みたいな瞬間もあって。前作のアルバム(『SUPERMARKET』)でラップした時も、日常で使う言葉を意識しながら韻を踏んだんですが楽しかったですね。」
――そういえば、“いっぱい 頑張ってるから 一杯 一杯 飲んでもいいでしょ”の歌詞に忠実にMVではビールを……。
「……飲んでます(笑)」
――そのイメージはなかったです(笑)。
「お酒は好きです(笑)。以前はワンピースとかを着て歌番組とかに出ることも多くて、穏やかで静かそうって思われることは多くて。でも、ファンの人はわかってくれてるんですけど、全然違います(笑)」
――本来の姿が垣間見られました(笑)。では『わたしのLife』には出していない“愛おしく思う わたしの生活”ってありますか?
「……“愛おしく思う わたしの生活”……今度のツアーで九州の実家に長いこと帰れるんですけど、やっぱ(実家の)犬が最高ですね! 本当にかわいい。犬の歌作りたいです。ウシの歌なら作ったことあるんですけどね(笑)」
――ウシ!?
「ウシがすごく好きで。実家の近くにある牧場に昔から結構行ってました。上京するちょっと前には一人で十勝へ行って住み込みで酪農家さんのお手伝いをしたことがあるくらい好きです。高校の時の進路希望は、第一希望はもう事務所に入っていたのでシンガーソングライターにしたんですけど、第二希望は酪農家って書いてました」
――本気のヤツでした(笑)。では次に2年半ぶりとなるツアーの話を。
「コロナ禍で、なかなか全国ツアーができなかったんですけど、今回は自分史上一番会場数が多いツアーになりそうです」
――しかも会場は能楽堂、寺、美術館、映画館、博物館、天文台など、魅力的な場所ばかり。
「実は前から、普段ライブできないような場所で弾き語りをしたいなって話してたんです。全国の雰囲気のある会場で、心と心が近くに感じあえるようなツアーになったらなと。お客さんもその土地の持つパワーとか、会場が持つ空気感みたいなものを旅行気分で味わってもらえたらいいなって思います」
――このツアーはこの先もずっと思い出に残りそうですね。
「絶対に残る! ただ、せっかく来たなら(地元グルメを)いろいろ食べておこうってなるじゃないですか。ご当地の食べ物ってラーメンとか多いので、すごく太るか、逆に疲れて痩せるかっていうツアーになりそうです(笑)」
――間違いありません(笑)。公演数も移動距離も胃袋もハードになりそうな今ツアーですが、最後に見どころを。
「今回はリリースツアーではないので、セットリストは昔の曲、最近の曲、いろいろな曲で組むことができるし、初めて弾き語りする曲とかもあります。公演によってもセットリストを変えようかなって思っていて、自分としても楽しみです。きっとまだ見たことのない私が見られるのではないかと思うので(笑)、ぜひ遊びに来てください」
Text by 服田昌子
(2022年5月27日更新)
Check