日々の言葉で届ける金曜の夜に寄り添う音楽 Bialystocksインタビュー
Spotifyが今年躍進を期待するアーティスト10組を選ぶ「RADAR:Early Noise 2022」に名を連ねるなど、熱い注目を集める2人組・Bialystocksが4月15日に新曲『差し色』を発表した。同曲は現在放送中のドラマ「先生のおとりよせ」のエンディングテーマとしてもオンエアされ、彼らの存在はますます広く知られるところに……。そんな今気になる2人にインタビューを実施し、今作のことやバンドの成り立ちなどについて話を聞いた。映画監督の一面を持つ甫木元空(vo&g)とジャズピアニストとしてソロでも活躍する菊池剛(key)は、一見謎めいても見えるが、果たしてその制作の様子や素顔とは?
――バンド結成のきっかけは、2019年に甫⽊元さんが監督を務めた映画『はるねこ』の⽣演奏上映とお聞きしました。
甫木元空(以下、甫木元) 「そうです。本当にその日を乗り切るというか(笑)、そのイベントのために集まりました。映画の劇伴はほかの方に演奏してもらっていたんですけど、それを再現する時に同世代を集めてやってみたら、バンドをやったことがなかったのもあってすごく楽しくて。劇伴として練られたものが、メンバーが違うだけでかなり変わったので、オリジナル(曲)をやってみたらどうなるんだろう?って」
――『はるねこ』の劇伴はバンド演奏で何が変わったのでしょう?
甫木元 「シンプルにテンポ感とか、そういうことなのかもしれないです。劇伴は劇伴として自分で作ったんですけど、それを、ま、ざっくり言うと再現した時、ジャズの人たちが多かったので、即興で合わせてくれる感じとかも個人的にすごく楽しかったんですよね」
――お二人が出会った時、そもそも一緒に音楽をやる予定だったんですか?
甫木元 「ちょろっとバンドっぽいことを1年ぐらいはやってました」
――ではもともとバンドをやるつもりがあったんですね。
菊池剛(以下、菊池) 「いえ、ないです」
甫木元 「だから不思議だなって(笑)」
菊池 「プレッシャーなくできてますね」
甫木元 「最初から何か成功させるんだ!みたいな感じはなく、何ができるんだろうな?っていうのが今も続いていますね」
――しかし結果として一緒に今もやれているということは、お二人の好きな音楽やルーツが同じなのでしょうか?
甫木元 「似てないからうまくいってるっていうのかもしれない。根本のところはすごく共通すると思うんです。でもルーツは全然違うので、そこが合体した時のおもしろさっていうか、それを楽しんでいる感じはあります」
――共通する点、また異なる点とは?
甫木元 「共通するところをこれだ!って言うのは難しいんですけど、例えばド派手でてんこ盛りの曲ってあるじゃないですか。そういうのより引き算で作られた曲が好きだったり。ただ、その曲のなかで行けるところまで行っちゃおう!みたいな、表現のボーダーというか、ここまでならいいよね、ここからはダサいかもみたいな、そういうのは共通認識としてあると思います。異なるルーツに関しては、僕はフォークとか、母親が合唱をしていたので合唱曲だったり、家がピアノ教室をしていたのもあってピアノの口ずさめるようなわかりやすい日本語の曲だったりですね」
菊池 「僕は小さい頃からピアノを習ってたんで、ルーツというと潜在的にクラシックとかがあるかな。でもそのうえで高校の時にフランク・シナトラを聴き始めて、今はそこが一番大きいです」
――ほかの同年代の方と比べると渋いですよね?
甫木元 「そこが共通点ですね」
菊池 「華がない(笑)」
甫木元 「きらびやかではないです(笑)」
――いえいえ(笑)。そしてお二人はそれぞれ映画監督とジャズピアニストというソロ活動もされていますが、バンド活動はどんな位置にあるととらえていますか?
甫木元 「その時にやれることをやってる感じです。今はバンドがいろいろ声をかけてもらえたりするので中心でやりつつ、僕の地味な映像作業とかは細々とやった方がいいかなって(笑)。でもあまり分けては考えてないです。タイミングが合えば(映画と音楽を)一緒にやってもいいなって思うし」
菊池 「僕はソロも音楽(活動)なんですけど、ジャズが多いんで、そうすると即興でその日限りのメンバーが多くなるから、バンドでは丁寧に作り込んで構築していくような音楽がやりたいなって。そういう欲を満たそうと思ってやってます」
――ちなみに甫木元さんの映像制作、また音楽制作の源泉とは? それぞれ異なりますか?
甫木元 「映像は自分が知りたいことがいっぱいあるし、できたものに気づかされるみたいなこともあるし。単純にそれ(興味の対象)を取り上げたいというか。ただ、それは歌にもできるけど、そうするのは違うと思うんですよ。例えば(ドキュメンタリーの映像に収めた)その人たちの悲劇を歌にして発信するみたいなのは自分がやりたいことじゃなく、純粋にその人たちの人生を聞きたくて話を聞いてて、そうするなかでそれが音楽に還元されることも多少はあったりするんですけど、聞いた声は映像として、記録として残した方がいいなって」
――菊池さんの音楽活動の原動力とは?
菊池 「モチベーションは……わかんないです。やめても別に生きていけるというか(笑)。音楽がないと俺は何もないんだ!みたいな人もいるじゃないですか。でも、別にもし明日耳が聞こえなくなったとしても……もちろん落ち込みますけど……ま、人生は続いていくよなあみたいな」
――Life goes onですね。では新曲『差し色』の話へ。あ、その前に一つ。バンド名の由来が知りたいです。
菊池 「僕が高校生の時に2000回ぐらい見た……数えたわけじゃないですけど、体感的には2000回って思ってる『The Producers』という映画があって、その主人公の名前がビアリストック。その名前はたぶんポーランドの都市(ビャウィストク)から取っていると思います」
――ありがとうございます。それでは今度こそ新曲『差し色』の話へ。この曲はテレビ東京ドラマ25『先生のおとりよせ』のエンディング曲として書き下ろされたそうですが、いかがでしたか?
甫木元 「テーマはなくはなかったんですけど、かなり自由にやらせてもらえたので、ドラマの内容に合わせ過ぎず、ドラマの骨格みたいなものを出せればいいかなって考えてました」
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――尺などドラマならではの制約もあったのかな?と。
甫木元 「本編にかぶるかもしれないって聞いていたんで、あまり言葉が引っ張り過ぎない方がいいのかなとかはぼんやりと」
菊池 「アウトロが数秒とイントロも欲しいっていうのは……(聞いていた)」
――それにより制作がいつもと変化することは?
甫木元 「毎回似た作り方ではなく、曲によってって感じなんで、あまり普段と違うことをやってる印象もなかったかなと思います」
――作業フローは決まってないんですか?
甫木元 「大雑把には(決まってる)って感じですね。お互いに弾き語りをクラウドにあげて、それがたまったら聴いて、気になったものを2人で選んで、それを菊池が編曲してくれるんです。で、サビが弱いとかイントロがあった方がいいとかで、またクラウドの弾き語りを見返して、これがくっつけられるとか新しく作った方がいいとか。いつもそうやってガチャガチャやってるので、〇秒の尺でって言われたら、はい。わかりましたって感じです(笑)。今回も僕が作った弾き語りをベースに弱いところを菊池が作ってくれてという方法は同じでした」
――ストックからパーツを選んで合わせるんですね。
甫木元 「ま、ほぼ合わない(笑)。でもそういう風に部品というかを組み立てていく感じは今までどおりでしたね」
――そんな今作は1曲を通して穏やかで、先ほど話に出た引き算で作られたように感じました。
菊池 「ドラマの放送が金曜の夜なので、金曜の夜に流れてきても疲れない感じにと。1週間が終わって寝る前に聴けるテンション感で作りました」
甫木元 「曲があまり盛り上げてもなっていう。最初に弾き語りで作った曲はかなり田舎くさい曲だったんですけど、村から市ぐらいにっていうので(笑)、ジャカジャカっていうより引き算で、音色で聴かせる感じのがいいかなって。で、盛り上がり部分も作ろうと思ってサビとか大サビも考えたんですけど、全然うまくいかなくて今の形に。最初から明確にこういう風にしようっていうよりかは、結構悩みながらレコーディングの日を迎えました」
――詞はシンプルで文字数が少ない。基本的に文字数の少ない曲が多いですよね?
甫木元 「初めて言われた。どういうことなんでしょうね。要するに短いってことですか(笑)? ま、2人ともあまりダラダラするのが嫌いなんですよね。確かに歌がドベーッとあるような曲はないかもしれない」
――詞は短いですが、ちゃんとゴールや落としどころがある気がします。
甫木元 「いや全然(笑)。たぶん起承転結で考えたことがないから長くないっていうのはあるかもしれないし、物語ろうとか物語につなげようともしてないですね。だいたい(詞は)鼻歌で歌ってて……菊池は英語で歌うんですけど、その英語の歌詞に僕が日本語であとから(詞を)のせるんですよ。だから菊池が最初にワッて使った言葉の方が全然強いんです。曲との親和性が高いというか。僕も日本語になってないのをワッて歌って、そこから頭で考えてのせてみたりするんですけど、あまりうまくいかないんですよね。なので、頭で考えたものは良くなることが少ないなって思うから、(言葉の)組み合わせとか、音(語感)を選んで当てはめてくということをしてます。でも、なるべく遊び(がある)というか……意味意味!に(意味重視に)ならないようにしたいなって」
――最適解を先に提示する菊池さんは、ある意味罪深いかもしれませんね(笑)。
菊池 「ま、でも甫木元さんが英語で歌えば、そのままでいいので(笑)」
甫木元 「(英語は)しゃべれないので(笑)」
――なるほど(笑)。そして詞もメロディもすごく明るくはないにしろ、曲全体の雰囲気は暗くはないですよね。どこかに光があるような、先ほど話した菊池さんのLife goes onのような感じ。この曲は特にですし、ほかの曲もそうですね。
甫木元 「悲しみをずっと吐露するような曲ばっかりにはならないようにしたいなと思ってます」
菊池 「声(ボーカル)が結構シリアスだから、それで暗くするとどん底になる(笑)」
甫木元 「あと展開を作っていくうえで、そればかりだとあまりおもしろくないなって。実は悲しいっていうのは簡単というか、楽っちゃ楽なんで。肯定的なことを言いつつ、普通の曲にならないようにするっていう。最近、光とか使い尽くされた言葉ですけど、それら普通の言葉を組み合わせるのがおもしろいなって。そのなかで悲しさ、明るさ、どっちかに振り切れるものじゃないようにできたらいいかなって思ってます」
――日常にある言葉で幅を出す?
甫木元 「そうです。組み合わせで違う印象になったりするじゃないですか。でも突飛にはしないようにって。歌って、いわゆる自分を知らない人に配信とかで届いちゃうじゃないですか。でも、何か少し感じ取ってもらえるようにするには、そういうこと(バランス)が必要なのかなって思って書いてますね」
――無防備な状態の人に曲が届いた時でも、程よい感じで耳に残るような塩梅ですかね。でもこれまでの曲のMVは、たまにバイオレンスの要素がまじっていて結構印象的でした。
甫木元 「そうですね。ちょっと変わったことができたらいいかなとは思って作りました。王道なこともやりつつ、少し変なことで、できることをって」
――見るのが楽しみです。では最後に今後の展望を聞かせてください。
甫木元 「アルバムができればいいかなと。あと映画とコラボレーションじゃないですけど、いろんなジャンルと接点を持ちながら、例えばストリングスを入れたりとか。今までやってないことができたらいいですね」
Text by 服田昌子
(2022年5月11日更新)
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