「リズムや音の配置に耳がいくようになった」
今だからこそ生まれた、1stとは趣向の異なる
ミニマル/サイケで脳にくるニューアルバム
Luminous101インタビュー
関東を中心に活動を続けている4人組バンド・Luminous101(ルミナスイチマルイチ)。この春、デビューアルバム『Luminous101』に次ぐ2ndアルバム『Friction State』がリリースとなった。1stアルバムをリリースしてから、3年。長い時間を経ての新作は、その間に経験した音楽や人との出会いを通して自分たちの音楽性を進化させ続け、2020年に発表した「namari / CLK」で見せたサイケ/ミニマルな音楽の方向性をさらに追求した作品となり、1stアルバムから驚くほど異なる変化を見せた。そんなLuminous101のヤマザキ(Vo/Gt)、トリイ(Gt)、シゲノ(Ba)とリモートでつなぎ、バンドについて、ニューアルバム『Friction State』について、そして注目したいレコードのみのフィジカルリリースについて、じっくりと話を聞くことができた。
見えてきた音楽性のキーワードは「ポストパンク」
――今日はインタビューよろしくお願いします! まずは自己紹介からお願いできますか?
ヤマザキ:Luminous101でボーカルをやっています、ヤマザキといいます。釣りと虫取りが趣味です。野山を駆けるのが好きです。
トリイ:ギターのトリイです。僕らは趣味が似ていて、遊ぶのはバンドのメンバーが多いですね。ひとりの時はずっとギターを弾いています。
シゲノ:ベースのシゲノです。彼らが言った通り僕らみんな趣味は似ていて、よく釣りや虫取りをしていますね。トリイとは中学から一緒で、大学でヤマザキと(今日は欠席している)ヤナギサワと出会って、今まで仲良くやらせてもらっています。
――そうなんですね。バンドの結成は大学で?
ヤマザキ:はい、大学の軽音楽サークルです。僕だけ学年が上で、残りの3人が同級生ですね。
――そこで誰のカバーをやろうとか、どんな音楽をしようみたいな話は?
ヤマザキ:「SPARTA LOCALSのコピーやろう」って誘われたんですよ。その頃は今のLuminousみたいなオリジナルバンドをやろうというイメージはなかったですね。
――へー! SPARTA LOCALSをコピーしていたことによって、今に活きていることはありますか?
ヤマザキ:あると思いますよ。そもそもSPARTA LOCALSが好きで集まったメンバーなので一緒に音楽をやるうえでの共通言語になったし、音楽性にも影響されているところはありますね。
シゲノ:SPARTA LOCALSの音楽性でいうとポストパンク的な要素が好きです。ポストパンクって音楽の過渡期というか、許容範囲が広い寛容なジャンルの音楽だと思うんです。
――ふむふむ。そうしてコピーバンドとして始まって、2016年くらいからLuminous101として音源を発表されていますが、正式なCDリリースは2019年ですよね。その間はどういった活動をされていたんでしょう?
ヤマザキ:元々僕らはコピーバンドだったので、音源を発表することよりもバンドをやる=ライブっていう形だったんです。大学卒業でサークルからも出たけれども、この後もライブを続けるにはどうしたらいいか考えてました。だからLuminousとして音源を出していきたいというよりは、ライブをしていきたいっていうモチベーションでのバンド活動でしたね。オリジナル曲をやると決めてから合宿をして、新しいことをやろうというテンションで曲を作りました。だから最初の頃は、音源も出していない状態でライブをやったのかな? でも音源を作ったら発表したくなって、YouTubeでポツポツ曲を上げていました。それで2019年にそれまでの活動をまとめた1stアルバムの『Luminous101』を作ろうという流れになりました。
――聞くところによると、『Luminous101』をリリースしたあたりでそれまで作った曲をガッサリお蔵入りにしたと…。
ヤマザキ:お互い好きな音楽は理解しているけれども、最初は方針が固まらなくてバラバラに曲を作っていました。でもライブを重ねて曲の制作も並行していく中で、バンドの音楽の方向性がある程度定まってきたんです。だから『Luminous101』というアルバムを作ったことがリスタートというか、“改めて定まったLuminous101”になってきたので昔の曲をとっぱらおうと。
――メンバー全員、お蔵入りには賛成を?
トリイ:みんな賛成でしたね。
――それはバンドが進化したことによって、過去の作品に違和感が出てきた?
トリイ:そうですね。各地のライブハウスを点々としながら、とある下北沢のライブハウスに出始めたタイミングで、ブッキングのスタッフさんにも対バンにもお客さんにもビシッとハマったなと思える時がきて、その時にメンバー内で「この感じでやっていきたい」という話をしました。感覚的でしたけど。
――ビシっとハマったというのは?
ヤマザキ:ブッキングする方の熱意やセンス、お客さんの反応と対バンとの相性の良さまで、本当に全部です。
――それってなかなかないことですか?
シゲノ:僕らにとってはなかなかないことでした。
ヤマザキ:いろんなライブハウスに立ってきましたが、よく「ジャンルがわからない」とか「どういう人と組ませていいかわからない」っていうことを言われてきまして…。
――そうして見えてきた自分たちの音楽性を、言葉にすることはできますか。
ヤマザキ:言葉にするのは難しくはありますけど…、さっきシゲノが言った「ポストパンク」っていうのがひとつのキーワードではあるのかな。度量が広い音楽みたいな話をしていましたけど裏を返せばひとつの何かではなくて、オルタナティブロックと一緒でジャンル分けされても「それがこういう音楽を指している」ということでもないと思っていて。
――「オルタナティブロック」が指すのもかなり広いですし。
ヤマザキ:説明しているようで何も説明していない(笑)。でもポストパンクがメジャー音楽ではないことは確かだと思っていて、性格的にも僕らみたいなひねくれた精神性はあると思います。
――なるほど。そうして1枚目の『Luminous101』をリリースした時はどうでしたか? バンド名をタイトルにつけるほどだからいわゆる名刺がわりの一枚なのかなと感じました。
ヤマザキ:沢山の人に聞いていただくという意味では初めての機会なので、まさに名刺がわりという気合いで作っていました。よくライブでやっていた曲をまとめたのが1stアルバムです。
――じゃあ、このアルバムを作るために曲を作ったというのではなくて…。
ヤマザキ:1stアルバムに関しては、その頃の曲をまとめて出したという感じですね。
シゲノ:完成したこの作品をどう広めて行こうかと思った時に、日本各地にある僕らが憧れているレコードショップに直接持ち込んでみようと。その時に運良くいくつかのショップで曲を聴いてもらえたんですよ。その時に今回のリリースでもお世話になったFLAKE RECORDSのDAWAさんにも聴いてもらうことができました。
ヤマザキ:自分たちが信頼を寄せるレコードショップが認めてくれたら、制作のモチベーションになるので、そこに置いてもらえるような音源を作りたいなっていうのはありました。レコードショップも、自分たちでリストアップして飛び込みで。
――飛び込み!
ヤマザキ:事前にメールしたところもありましたけど。でも結果的に自分たちの作品を置いていただけたお店は、本当に趣味が合う気がして嬉しかったですね。個人で営業されているレコードショップは、僕たちのスタンスとも合うなと思っていました。
――自分たちでレコードショップを回ってみて、印象的だった反応は覚えていますか?
シゲノ:お店のTwitterとかでおすすめ文を書いてもらえたり。そこにあった言葉が、僕らが目指す方向をすごく言い表していただいているなと思いましたね。
気持ち悪さある「Este」が軸のニューアルバム
――個人的に、1枚目の『Luminous101』を聞いて、続きで今回の『Friction State』を聞くと、まるで違うバンドの作品のようだと言いますか…。違う人格を持ったアルバムのように感じました。活動を続ける中で、コロナ禍も含めていろんなことがあったと思います。2枚目のアルバムはどのような形でスタートしたのでしょうか。
トリイ:『Luminous101』のリリースから3年空いたので、そろそろ次のアルバムを出したいというのはありました。1stの制作時と比べれば自分たちも色々スキルが身について、やりたいこともよりできるようになってきて、2ndは自分達なりに「アルバムを作ろう」という意志を持って制作しようという感じでした。
――その後、制作はどのように進んだのでしょうか。
ヤマザキ:曲に関しては各々考えてきてアレンジは全員で考えるとか、こういう曲を作りたいねって作り始めたところもありました。
――1stはメロディーや歌詞をしっかり聞けたり、歌もの的楽曲も多かったイメージだったのですが、2ndはどちらかというとサイケでミニマルで、どちらかと言うとリズムを楽しむようなイメージで聞きました。気になったのは1stから2ndの間に、バンドに何が起こってこんな変化が起こったんだろう?ということでした。
ヤマザキ:それまで自分たちが好きだったものとか内にあったものを、素直に出せるようになったのかなと思います。1stの時は自分たちのやっている音楽を音源にした時に受け入れてもらえるかどうかも未知でしたけど、活動を続ける中でいいフィードバックを受けて、突き進む方向が定まったんでしょうね。
トリイ:1stを制作している時は、まだどこか自分たちがコピーバンド上がりだというところがあって。音楽の聞き方も、自分たちが演奏できるものを選んで聞いている傾向があるなと思っていたんです。その延長で『Luminous101』が完成したと思っているんですけど、『Friction State』の制作時は純粋に「自分がかっこいいと思える音楽ってなんだろう?」っていう音楽の聞き方ができるようになったと思っていて、そうするとリズムや音の配置に耳が行くようになって。じゃあそれをどうやって曲に反映できるかなといろいろ試していった感じはあります。
シゲノ:今1stの曲を録り直したら、全く別のものになるでしょうね。
――それは演奏の仕方が変わる? アレンジの仕方が変わる?
シゲノ:どっちもですね。
ヤマザキ:今回のアルバムではメロディーの存在や作り方は以前とあまり変わっていませんが、メロディーに対してどういうアプローチでどこを聞かせるかというところが変わったので、聞こえ方も変わったのかな。だからアレンジと演奏の仕方が今の状態で1stを再録したら、2ndに近いものになるかなと思います。
――今回の『Friction State』に関しては、すごく野外のフェスでドリンク片手にゆらゆら聞きたいなっていう聞くシチュエーションのイメージがすごく具体的に湧く不思議な作品だなと思いました。体をのせていく音楽というか…。アルバムを作る過程で、この曲が軸になると思った曲はありましたか?
シゲノ:個人的には2曲目の「Este」じゃないかなと思いますね。リフとメロをヤマザキが持ってきてくれたんですけど、「うん、気持ち悪い!」と思って。
――印象的なイントロに始まり、高いとこが苦手とか東尋坊とかさぶいぼとか、「え、なんて言ってる?」ってなりました(笑)。
トリイ:アルバムの方針を探っている時に、最初の2~3曲を決めるのがとにかく大変でしたが、「Este」は最初の方から割と固まっていましたね。
ヤマザキ:「Este」は入れるというのが最初に決まったので、そこから逆算する形でこういうアルバムの構成になったらいいねって作っていきました。
――確かに「Este」に対する感想としては、さっきシゲノさんがおっしゃった「気持ち悪い」っていうのがすごくピッタリな感じがします(笑)。脳にビリビリくる違和感というか、その違和感が気持ち悪さというか。
ヤマザキ:(「気持ち悪い」は)褒め言葉ですね。
――逆にチャレンジだなと思った曲はありました?
ヤマザキ:「Este」は気持ち悪いながらも構成としては一番シンプルにしているから聞きやすさはあると思うんです。他の曲は、もう少し…トガっているのかなと思います。僕らは曲ができてからブラッシュアップするのに時間をかける方だと思っています。誰かひとりが作ってきたものだとトガりまくっているんですが、それをいかにLuminousの色に近づけるかっていうことに時間をかけていて、その過程で元の形とは全然違うものになることもあります。
――曲ができたときと、出口が全く違うものになった曲って挙げられますか?
ヤマザキ:逆に当初の予定通りになったのが「Este」くらいですかね。
――当初の予定通りに曲を収録するのは、今までバンドとしてもなかったことですか?
ヤマザキ:すんなり決まることの方が珍しいとは思います。変化度合いが大きかったものでいうと「Hazumu Hito」と「Shou Jou」ですかね。
トリイ:「Hazumu Hito」は元々リズム&ブルースな感じの曲だったんですけど、自分の中でBig Blackブームがあって、そういう要素を取り入れようとして大分変わっていきました。
ヤマザキ:再構築に時間をかけるから制作が長引くんですよね。
シゲノ:素直なバンドなら、アルバムをもう1枚作っているだろうなと思いますよ。
――これだけできたし、曲数を増やそうかとはならなかった?
ヤマザキ:最終的に出来上がったのが、精米しまくって小さくなった米っていう感じですかね。だからそれ以外のものは「もったいないから入れよう」っていうのは本末転倒で。何かの時にリサイクルされる可能性はありますけど。
――リリースに関してもサブスクでの配信と、フィジカルはレコードのみという変化球です。
ヤマザキ:この音源をレコードにしようというのは、メンバー全員制作当初から同じ気持ちで。アルバムを作ろうという話になってからすぐに「LP出したいね」って。単純に自分たちがフィジカルで買うなら何を手に取るかというところが、最終的な要因かなと思います。
シゲノ:1stと2ndの間にEPを出していまして、じゃあ次はデカ盤だ!と。
ヤマザキ:ただ聴くだけならサブスクで出来てしまうので、フィジカルは自分たちが欲しいものでいいんじゃないかと思いました。それこそFLAKE RECORDSに行ってLPが並んだ光景を見て、そこに並びたいという憧れもありましたし。
――今回FLAKE SOUNDSからのリリースですが、そうなることになった経緯というのは?
トリイ:1stの時にFLAKEのDAWAさんに「うちから出す?」って言ってもらったこともあったんですけど、自主制作して自分たちで売り込みもかけてしまったのでそのまま自分たちで出しました。あのDAWAさんに声をかけてもらえたことも嬉しかったし、自分たちとしてもレコードを作るならFLAKEから出したいなと思っていたので今回バンド側からお願いしました。
――そしてこの春のライブは、リリースツアーになるんですね。
ヤマザキ:そうですね、そうなります。
トリイ:ツアーに向けて、ニューアルバムの曲も含めてアレンジを大きく変えようとしています。
ヤマザキ:ライブでアレンジを変えるというのにもいろんな理由はあって、そういうバンドのスタイルに自分たちが憧れてきたっていうのがひとつと、あと自分たちのスタイルや趣味に合わせて曲も変わっていくのでライブを重ねていくごとに誰かが今のアレンジ違うよねとか言い始めるんです。それで少しずつバージョンアップしていくのが自分たちの曲の作り方に組み込まれている感じですね。
トリイ:今回のツアーはパーカッションを加えた5人編成で臨むので、それに合わせてアレンジを変えるのと、ヤナギサワ(Dr)もナンみたいな形の新しいシンバルを手に入れたらしくて。
新しいシンバル
ヤマザキ:今回のライブではすごく顕著に曲の印象が変わると思います。
――『Friction State』を聞き込んでライブに行ったとしても、また違ったものが楽しめると。
ヤマザキ:既に作品完成後からリリースまでの間にすらどんどん形が変わってきていた感じなので。そこはもう、ぜひ楽しみにしていただければと思います。
取材・文/桃井麻依子
(2022年4月 6日更新)
Check