「もう音楽だけなんですよ、自分が誠実でいられるのは」 音と言葉で今を描いた『Small World』、そして新曲『Pixie』 Kroiの野心と狂気と飽くなき探求心に迫る! 内田怜央(vo)×関将典(b)インタビュー&動画コメント
得も言われぬ予感を漂わせ、昨年、メジャー1stアルバム『LENS』をついにリリース。リード曲の『Balmy Life』が全国47局以上のラジオ局でパワープレイを獲得し、各種メディアから同業のミュージシャンまで称賛の声を上げるネクストブレイク最右翼=Kroi(クロイ)が、’22年に打ち出す次の一手『Small World』は、テレビ東京系 ドラマ24『しろめし修行僧』OP主題歌に抜擢。ブラックミュージックをベースにさまざまな音楽を血肉化するKroiサウンドが目まぐるしく展開する渦の中、改めて自らの野心と狂気に着目し、音と言葉で今を描いてみせた攻めの1曲に。さらに、その余韻に浸る間もなく、国際ファッション専門職大学の'22年度TVCMソングとなった新曲『Pixie』の存在も明かされるなど、今年も彼らのクリエイティビティは絶えることがない。久々にして過去最大規模の東阪ワンマンライブ『Kroi Live Tour 2022「Survive」』に加え、関西圏では『METROPOLITAN ROCK FESTIVAL 2022』や『FM802 MEET THE WORLD BEAT 2022』等大型イベントへの出演も控えるKroiの内田怜央(vo)と関将典(b)が、大躍進の1年とその内情、バンドのスタンスや制作の裏側を語ったインタビュー。そこにいたのはアヴァンギャルドなイメージとは裏腹に、優しきミュージックラバーにして誠実なクリエイターの姿だった――。
街鳴りしているのを聴いたりすると、自分の曲とは思えない
――デビュー以前から、Kroiはこうやってメディアで発言していくことを積極的にやってきた印象です。関(b) 「インディーズ時代は本当に巡り合わせでこういう取材をしていただくことが多かったんですけど、デビューしてからはリリースのたびにインタビューだったりラジオ出演をさせていただいて...メンバー全員、話すのが結構好きなんですよ。Kroiのことをみんなに分かってほしいので、こういった機会はとてもうれしい場面なんです」
――アーティストとしても、聞かれて話して気付くことがあると言いますもんね。 内田(vo) 「間違いないですね。まずは自分たちの音楽を聴いてほしいのがあるので、そのチャンスは欠かさず貪欲にというか...楽しくやらせていただいております(笑)」
――今日の取材にはどのメンバーが来るのかなと思ったら、飛び道具ではなくKroiの良心が来て安心しました(笑)。 (一同爆笑) 内田 「(あとの3人は)何を言い出すか分からないですからね(笑)」
関 「彼らを制御できる人がいないと。なので今回は連れてきませんでした(笑)」
――昨年は、初のアルバム『LENS』('21)のリリースも含めて、濃厚なデビューイヤーだったんじゃないですか? 内田 「やりたいことができるようになって、思い描いていた生活にだんだん近づいていってるというか...」
関 「あとは、圧倒的にチーム力が増したのはあります。信頼できる方たちが新しく関わってくれて、5人がやりたいことを全力でサポートをしてくれる関係性ができたので、'21年は今後の自分たちの活動において、重要な地盤が築き上げられた1年だったと思いますね」
――ただ、Kroiは多作なアーティストなのに、『LENS』がキャリア初のアルバムだったのは意外ですね。 内田 「そうなんですよ。こんなにたくさんの曲を一気に世に放ったことがなかったので、いろんな人から言われる"この曲が良かった"の意外性だったりは、すごく楽しかったですね」
関 「中でも、アルバムのリードトラックになっていた
『Balmy Life』 が、全国47局以上でパワープレイになって。まさか自分の所属するバンドの音源が、そういう形で日本全国で流してもらえる日が来るとは...去年はそう簡単にはできない新しい経験がいっぱいあったなと思いますね」
――僕も映画館で『Juden』('21)のMV が流れているのを見ましたし、コンビニとかもそうですけど、音楽を求めて行く場所じゃないところで曲が流れていると、より実感しますよね。 関 「ふとしたときに街鳴りしているのを聴いたりすると、自分の曲とは思えないというか..."これ、俺が弾いてるんだ"みたいな感覚は確かにあります」
内田 「だからもう"混乱"ですよね(笑)。うちのPAとかをやってくれているエンジニアの柳田(亮二)さんが、ライブ収録の音源をミックスしてる最中に、スーパーか何かに買い物に行ったらしいんですよ。そしたら、そのスーパーでさっきミックスしてた曲が聴こえてきたから、"ついに俺、頭がおかしくなったのか..."と思ったって(笑)」
Kroiなら何をやっても許されるんですよ(笑)
――初のアルバム『LENS』が完成したときには、"Kroiの第1章が終わった"と言っていて。その次に出したEP『nerd』では、ルーツに縛られずよりオリジナリティを、好きな音楽を追及した。その次の一手が今回の新曲『Small World』だったと思うんですけど。
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内田 「この曲自体は『Balmy Life』と同じぐらいにできていて。ドラムの益田(英知)さんがめちゃめちゃ気に入って、ずっと音源化したいと言ってたんです。何なら『nerd』に入る話もあったんですけど、ちょっと他の曲と合わないねとなって、また先延ばしになって。やっと益田さんの願いがかないました(笑)」
――KroiのYouTubeチャンネルで『nerd』のオフィシャルインタビュー が上がっていたのを見て、"益田さんがむちゃくちゃやりたそうだった曲はこれ=『Small World』だったのか!"と思いました。 関 「去年の秋ぐらいに『nerd』を作り始めて、そのまま次の『Small World』に取り掛かった流れだったので、割と地続きで制作はしていて。デモの段階からパワフルな曲ではあったんですけど...」
内田 「うちは鍵盤の千葉(大樹)がミックスもしてるんですけど、それも相まってよりパワフルになったよね? 『nerd』のリードとして
『WATAGUMO』 を出してからの次の一手ということで、あんまり静かなバンドとは思われたくないのもあって、しっかりパワフルに...新年一発目ということで、おめでたくいこうじゃないかと!(笑)」
――言うても、'22年ももうだいぶ経ってますけどね(笑)。『Small World』はサビの抜け感も含めて、今まで以上に間口が広く感じました。それこそ街鳴りしていて違和感がない曲だなと。内田 「デモの段階ではそこまでオーバーグラウンドなイメージではなかったんですけど、やっぱり今の自分たちが作る楽曲として各々がフレージングして、最後に千葉さんがミックスして、ポップな部分が足されたのかなというのはありますね。『Balmy Life』と同じタイミングで録ってたら、こうはなってなかったかも」関 「尖っているにも関わらず、サウンド面ではポップさやキャッチーさが表現できてるなというのは、後から聴いて自分たちでも思ったところですね」――歌詞に関しても分かりやすくなったというか、内田さんは基本、歌詞の意図をあらわにするよりはいろんな解釈をしてほしいというスタンスですけど、今回はそのさじ加減が少し変わったのかなと。 内田 「表現を新しくしていくことに着目したとき、歌詞の考え方についてもちょっとアップグレードというか、何らかの方向かに進んでみた方が面白いかなというのはあったので、今回はこっちの方向に行ってみました」――常に新しいことをやるのがセオリーなら、何でもチャレンジする理由になりますもんね。 内田 「だから、Kroiなら何をやっても許されるんですよ(笑)」
音楽をさらに芸術にするというか、音楽から逸脱させる手段が歌詞なので
――そもそも今作のテーマとしては、野心や狂気というのがあったと。内田 「成り上がり精神みたいなものを曲にするのは、元々やっていたことではあったんですよ。それを今の状態のKroiの価値観と組み合わせてみた感じですかね」――野心や狂気に改めて執着したのは若さ故なのか、それをちょっと失い始めてる自分を感じるからなのか。 内田 「今考えたら、学校の中でやってたことなんてほとんど狂気じゃないですか(笑)。昔は何も考えずにピュアにやってた、狂気に対しての憧れみたいなもの...我々は非日常が大好きだから音楽をしているのもあるし、非日常って狂気と結び付くものだと思うんですよ。狂気を感じる人間の美しさみたいなものも素晴らしいなと思いますし。それが失われていく怖さすら、ちょっと美しかったり。全ては狂気を主軸に素敵なことが巻き起こってるんじゃないかと思うので、そこに関しては今後も書いていきたいなと思ってますね」――ぶっ飛べる瞬間が人生にあるかどうか。その装置の一つが音楽というのもあるでしょうけど、それが人生にあるだけで生き方は変わりますよね。 あと、これまでの活動の中で、歌詞の力に気付き始めたとも。 内田 「それはありますね。音楽をさらに芸術にするというか、音楽から逸脱させる手段が歌詞なので」――音楽を音楽の範疇にとどめないものにする。 内田 「なので、最近はすごく頑張って書いてます(笑)。これもいつも通り締切ギリギリでした。やっぱり"ここで終了!"というのがないと、どこまでもこだわれちゃうので」関 「でも、早く書き終わるのも何か違くない? 俺もフレーズを考える上で2〜3日前にこれでいいやと思っても、録る当日にはもう別のアイデアが浮かんでるから。その2日間でもうちょっといいアイデアを思い付く、みたいな。だからギリギリって結構、理にかなってる気もするんですよね」――この曲の、"風に運ばれた火の粉で灯す明日"の1行は、本当にすごいなと思いました。言ったら20文字もないぐらいの言葉で今を表して、こんなにジャストでこんなに美しいラインは他にないんじゃないかって。 内田 「めちゃくちゃうれしいです!(照笑) いや、なかなかちゃんと見つけてもらえないので」――炎上とも取れるし、ちゃんと希望もあるし。 内田 「そうそう! この1行で明るい曲なのか暗い曲なのかどっちか分からなくなる空気を作っていて、自分の中でも結構パンチラインかなという感じはあります」――そんな楽曲のタイトルを『Small World』としたのはいったい? 内田 「ディズニーランドにイッツ・ア・スモールワールドってあるじゃないですか? 乗り物に乗って一気に世界を回れるんですけど、『Small World』も曲の展開がめちゃめちゃ早いんで、その感覚がすごく"ぽい"なと」
『Small World』と『Pixie』はその解釈をより深く補っていける2曲
――そして、ついさっき音源をいただいた新曲の『Pixie』についても、せっかくなので少し聞いておきたいなと。
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関 「これは国際ファッション専門職大学のCMソングのお話をいただいて、怜央(=内田)が書き下ろさせていただいた楽曲ですね。ある程度CMのコンテだったりデザインを見せていただいた上で書いたのはあるんですけど、そこまで寄せた感じでもなかったよね?」
内田 「監督さんと一度お話をさせていただいて、専門学校のCMソングなので"クリエイター"を軸にしようと。歌詞の世界観は『Small World』と結構近いと思っていて、自分の中では同じ枠に入ってる楽曲なんです。『Small World』と『Pixie』はその解釈をより深く補っていける2曲なのかなと思ってます」
――それにしてもKroiは多作ですね。しかも内田さんはデモの段階で構成も含めてしっかり仕上げてくると聞いて。 関 「つい最近も一気に6曲デモが上がってきたんですけど、ほぼフルコーラス、フルパートできていて」
内田 「"明るい曲を作ってくれ"って益田さんが言うから頑張りました(笑)。明るい曲って俺、苦手なんですけどね」
関 「さっきおっしゃっていただいた
YouTubeの『nerd』のインタビュー の中でも、いろいろと"夏っぽい曲"とか...」
――言ってましたね! 季節をテーマに1曲ずつとか、クリスマスソングを書きたいとか。 関 「だからめちゃくちゃ夏っぽい曲がもう何曲かあります。本当に何気ない普段の会話で"こういう曲が欲しいよね"みたいなことをサラッと言うと、結構忠実に怜央がその意見を反映したデモを出してくれたりするんですよね」
内田 「"メンバーが何を欲しいのか"はよく聞くというか、察するようにしてるんですよ。みんなも曲は作れるんですけど、あえて俺に任せてくれてるのが...やっぱりそこは頑張らなきゃなというのもありますし、Kroiの楽曲を作る上で一番理解のある人間でいたいなと思うので、めちゃめちゃ慎重に考えてますね」
――歌詞に関しても、気になったワードを直感でメモはするけど、そこからは緻密に事象を調べ上げてから書くというところにも、誠実さを感じました。 内田 「もう音楽だけなんですよ、自分が誠実でいられるのは(笑)」
(一同爆笑) ――逆にここで誠実じゃなかったらお前...という(笑)。 内田 「そうですよ。恐ろしい話です(笑)」
ライブでは素のKroiを見せられたら
――『Kroi Live Tour 2022「Survive」』は、東阪それぞれ今までよりも大きいキャパの会場で。Kroiはいろんな制限下でも途切れずライブをやってきましたよね。関 「うまい具合にコロナ禍を走り抜けられてる印象は自分たちにもあって、満を持して大阪はBIGCAT、東京はZepp DiverCity(TOKYO)という、今までで一番大きな会場でワンマンができるのはすごくうれしいですね。あと、この規模感になってくると、共有する人数も、関わってくれるスタッフの方の数も違ってくるので、ワクワクは当然ありますけど、右も左も分からないみたいなところも正直あります。その辺を探りながら、いいライブにしたいなと」内田 「ワンマンは久々なので、思いっきりふざけようかな?(笑) やっぱりツーマンとかだと、"ちょっと迷惑が掛かっちゃうかな?"とか思うので」――関西では他にも、 『METROPOLITAN ROCK FESTIVAL 2022』 や 『FM802 MEET THE WORLD BEAT 2022』 への出演も決まっていますね。 関 「俺らは去年最後のライブも今年最初のライブも、大阪で終わって大阪で始まってるんでホーム感があるというか。今年もガンガン関西に来ることが決まってますし」内田 「やっぱり東京は良くも悪くもクールなので、関西の温かさみたいなものはライブをしていてもめちゃめちゃ感じますね。場所によってノリが全然違うのは楽しいです。まぁでも今はお客さんが声を出せないんで、本当の特色を知れてはいないんじゃないかな。だからこそ、今後が楽しみなんですけど。新しい音楽を追求するのと同時に、今年もKroiをもっといろんな人に聴いてもらえるようにしっかり考えて頑張りたいし、久々のワンマンはいい感じに肩の力を抜いてやりたい。ライブでは素のKroiを見せられたらなと思うので」関 「今年もいっぱいリリースしていきたいなと思って絶賛制作中ですし、ライブもどんどんやっていこうと思ってるので、気になった方はぜひKroiを応援していただけるとうれしいです」――BIGCATやZepp DiverCity(TOKYO)ぐらいのキャパでワンマンができるようになった今こそ、ブレイクを一緒に体感できるスタート地点のような気がするので、そういう意味では初見の方でも合流するにはいいタイミングかも。 関 「そう、ここからでも遅くない!」
Text by 奥"ボウイ"昌史
(2022年4月26日更新)
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