「役を通して作品の世界でどう遊ぶかにワクワクする」 初主演映画『ツーアウトフルベース』で見せた 堕落した青年の奮起と再生への逆転劇 7ORDER 阿部顕嵐インタビュー
二死満塁というピンチを脱することができず甲子園出場の夢を引きずる元高校球児イチとハチのふたり。高校卒業以降堕落した生活を送る中で、町のヤクザと不良グループとの厄介事に巻き込まれたことをきっかけに、絶体絶命の状況から抜け出そうと奮闘するイチとハチの姿を描く――。『レディ・トゥ・レディ』の藤澤浩和が監督を務め、『ミッドナイトスワン』の内田英治が脚本を担当した青春映画『ツーアウトフルベース』が現在公開となっている。その主人公のひとり、イチ役を演じたのが7ORDERでも活躍する阿部顕嵐だ。「Happyをみんなで作りあげていく」というモットーを掲げている7ORDERからは想像できないほど堕落した人生を送る青年を見事に演じ切った阿部に、初の主演映画に対する思いと7ORDERが担当した主題歌「レスポール」について語ってもらった。
脚本があったうえで、予想外な演技をしたい
――主演された映画『ツーアウトフルベース』、拝見させていただきました。疾走感があってヒリヒリする、そして最終的には心をグラグラと揺さぶられる作品だなという印象を持ちました。待ちに待った公開から数日経ちましたが、今の心境はどうでしょうか。
自分が出ている作品をたくさんの人に見てもらえるのは純粋に嬉しいですね。実は僕、公開初日に映画館にお客さんとして観に行ったんですよ。実際にお客さんが入っているのを見たらすごく感慨深くて、観てもらえるからこそ映画は完成するんだなと改めて感じました。
――初日は公開を心待ちにしていた人が多いはずですしね。みなさんのお顔は直視できました?
それはもう、ガッチリ見ました。初日に作品を観たいと思ってくれた方特有のワクワクした雰囲気がまた嬉しかったですね。初日満席というのはコロナもある世の中では当たり前のことではないですし、劇場まで足を運んでもらえたことに感謝しています。
――SNSがある時代だからこそ、見ようと思えばすぐ感想を目にできるようになったと思うのですが、エゴサーチされたりはしますか?
エゴサは…しないですね。したい気持ちはありますけど、人づてに聞く感想までにとどめています。僕自身最近Twitterを始めたばかりなので、もっと使っていかないとですよね。そういう流行に疎いので、発信することに使ってばかりです。これからはちゃんと見ていこうかなぁ。あ、でも映画の感想を聞いているとすごくいいことばかり聞くので、逆に不安ですね。
――(笑)。中でも嬉しかった感想はありましたか?
監督やプロデューサーの方たちが舞台挨拶を見てくださっていて、「すごくお客さんが温かい拍手をしてくれていたね」って言ってくれたのが印象的でした。言葉じゃなくても雰囲気で伝わるのは、本当に温かいし嬉しいなと。
――気持ちが伝わるってくるのが、何より嬉しいですよね。そもそも最初に『ツーアウトフルベース』主演のお話が届いた時は、どう受け止められたのでしょうか。
嬉しいし、ずっと夢にまで見ていたことだったので…とにかく台本を読んで、初めての主演作がこの作品になるということに対して本当にワクワクしていました。ただ、嬉しいけどそれよりもこの作品をどう面白いものにしていくか、どうこの世界の中で遊べるかなということが頭の中を占めていましたね。いつも新しい作品のお話をいただいた時は、嬉しいという気持ちよりもそっちを先に考えてしまうんです。あまり喜ぶ隙がないといいますか。
――一気に演じるモードになるんですね。
はい、そうですね。作品がみんなの目にちゃんと届いて、喜んでもらえたり心が動いてから僕が喜ぶべきなのかなと思ったりもして。お話をいただいた段階で喜ぶ気持ちもあるけど、「まだそこじゃないだろう」って思っているのかな。
――今、公開を迎えてようやく喜べているのかもしれないですね。今回の映画はハードボイルドというかアウトローな世界観の作品ですが、台本を読んだ時にどう膨らませていこうなど考えたことはありましたか?
こういう映画は昔からすごく好きな世界観でした。ガイ・リッチーとかクエンティン・タランティーノが大好きだからこそ、イチのことをこの作品の世界でも常に何かを探しているような、いい意味で集中力のない人物にしたいなと思いました。端的に言うと、常にフラフラとしているような役でありたいなと思いながら作品について考えていました。すごくテンポのいい脚本だからこそ1シーン1シーンにとても意味があるので、その中で意味がないことを敢えてしたいと思ったり。
――確かに全てのシーンに意味があって、最終的にいろんなシーンで見たものが回収されていく気持ちよさがありました。
ジーッと見てもらうと、つながっていくんですよね。だからこそ演技の中で、例えばムダに頭をぶつけるみたいなことをハチ役の(板垣)瑞生がやってくれたりしていたんです。それと同じようにお芝居の中で、どう遊べるかなということをすごく考えたりしました。
――「遊び」というと…?
脚本の中に書いていないところをどうするかですね。脚本の内田(英治)さんや藤澤(浩和)監督も含め、スタッフのみなさんの想像通りにはいきたくないというか。脚本があったうえで、いい意味で予想外なことをしたいというか。脚本通りでいいのならば、極論演じるのは僕じゃなくてもいいのかなと思うんです。「それもいいね」とか「そういう感じで来たか」って言われたくて。
――なるほど。阿部さんはこのイチという役をどのように捉えて、どのように自分の中に取り込んでいったのでしょうか。
そうですね、ひとりの人間としてリアルにその場にいたかったので、誰もが心の中に思っていることをイチの中に投影させたいと思いました。イチみたいなピンチに陥ることって、実は誰にでもあるのかなぁと。本当にヤバいくらいピンチなんだけど、その中にちょっと寝坊しちゃった~みたいなコミカルさが潜んでいるのがイチとハチのコンビの良さだと思うんです。のうのうと生きてきているからこそ、「なんとか助かるんじゃねーか」って楽観視しているところが感じ取れると、彼らがリアルに見えてくるのかなと。ヤバい中にもちょっと余裕がある方が、人間的だなぁって。
――ヤバい中にもちょっと余裕が感じ取れるのは、イチとハチの仲の良さや、関係性もあってのことなのかなとも感じました。板垣さんと共に演じる上で、どういうコンビにしていこうみたいな話はされましたか?
それが意外と…していないんですよ。ナチュラルにその場で出来上がっていった感じですね。走るシーンでは、「あそこらへんでスピードを落とそうか」とか「あのあたりでセリフを言い始めようか」くらいの話はしました。でも撮影が始まっちゃうと集中しすぎてその打ち合わせも忘れちゃうぐらいだったんですけど(笑)、それもまたいい勢いになったかなと思います。
――のうのうと生きている…とはいえ割としっかり者のイチを演じるにあたって、自分と似ているなと思った点は挙げられますか。
イチたちが乗っていた車に対してピンチがいろいろと起こってしまった時、ハチはギャーギャーわめくんですけど、冷静なイチはピンチだと思っていないんですよ。いい感じで諦めているというか。その必死じゃない感じは僕もすごくよくわかるし、イチのことをリアルに思えて自分を投影させやすかったところはあります。僕もピンチな時は一旦置いといて次行こうかってなるタイプなので。どうしようもないことってありますよね。抗ってもダメなことというか。そういう時は諦めた方が他のことにパワーが回せるので、あくまでもポジティブに諦めて次にいきます。映画の中で起こる車にまつわるやりとりは自分そのままというか、役との境界線がなくなる感じがしました。
――逆に自分にはないなという点はありました?
あそこまで堕落はしません!(笑) 彼らはすごく極端ですよね。自分自身はあそこまで堕落してしまうことを想像したこともないですし…。でも客観的に考えて、ああいう堕落してしまった生活も彼らは楽しいんだと思うんですよ。まわりからは堕落していると思われているけど、彼らは単に楽しいからそういう生活を続けている。あれはあれで幸せな日々だからいいですよね。
――そうですね。でもやっぱりそれもイチとハチの仲の良さあってこそというか…。彼らは自分たちのことを「腐れ縁」って言っていますが、腐れ縁って文字にするとスゴイですけどニュアンスとしてはすごく愛しいということを含んでいるような気がします。
はい、ホントおっしゃる通りで台本を読んだ時から「腐れ縁」っていう言葉に悪いイメージはなくて。腐っていたとしてもつながっていられるのだとしたら、それって腐ってないよね。魅力があるってことかなと思うんです。
――確かに。しかも劇中でイチやハチの口から発せられる「腐れ縁」という言葉も、どこか愛おしさがあって可愛らしかったです。それと私が映画の中で気になったのは、イチがよれよれのバンドTシャツを着ていて、弾くでもないレスポールのギターを持っているというところでした。彼はどんな音楽を聞いて育ってきたのだろう? と興味が湧いたといいますか。ちなみに阿部さんはどんな音楽に影響を受けてきたんでしょうか?
小さい頃は母が好きだったこともあってクラシックに影響を受けていましたけど、中学からはロックを聞くようになりました。中学の頃はLINKIN PARKが好きでしたね。映画の『トランスフォーマー』の主題歌だったのかな。LINKIN PARKと並行して、ONE OK ROCKとかRADWINPS、BUMP OF CHICKENとか日本の音楽も聞き始めました。でもそこからちょっと優しい音楽も聞きたいなぁという気分になって、カントリー調のテイラー・スウィフトを聞いたり。高校になってからは友達に勧められたThe 1975やColdplayを聞いてみたら「めっちゃいい!」って。品があるし、ちょっと暗く悲しい感じもあって、どんなシチュエーションにもハマるイメージがありました。今一番好きな音楽は? って聞かれたら、UKロックとクラシックって答えますかね。
――いろんな音楽を聞いてきた中でも、クラシックは別としてどこかにギターは存在していますね。
あ、言われてみればそうですね。ギターのリフとかがすごく好きなんですよ。
――そんなギター好きな阿部さんにとって、劇中ではレスポールのギターがすごくカギになってくるというのはどうでしたか?
レスポールって憧れのギターでもあるじゃないですか。ネックの重いじゃじゃ馬なギターって感じで、弾きこなすのが難しいイメージです。実際弾いてみて思ったのが、1回1回弾くたびになんとなく音が違うなとか、音にすごく味はあるけど思った通りの音が出ないんです。それがいいところでもあるし面白いところでもあるって。弾きこなすまでに時間がかかるし、音を作っていても裏切られるところがあるっていうことも聞きました。
――劇中ではレスポールのギターがなんとなく取り組みたいと思っていたけど後回しにしていたものの象徴として描かれていましたけど、ご自身にも後回しにしていることってありますか?
これ、すごくプライベートなことですけど…最近は寝ることを諦めていますね。
――えー! それは寝ない? 寝られない?
なんか時間がもったいないなと思って寝ないですね。1日24時間じゃ足りないと思ったりして。本来寝るのは大好きだけど、あえて寝ない。映画を見たりしています。僕にとって夜はすごく魅力的な時間で、なんでもできちゃう気がするんですよね。昔からずっと夜が好きですね。暗いところが好きなんです(笑)。
コンビを組んだ板垣瑞生は、「人に好奇心を持つ天才」
――イチとハチのストーリーは18歳から始まって、主に描かれているのは28歳ですが、大きく捉えると10年のストーリーでもあります。18歳から28歳の10年ってすごく大きな10年だと思うのですが、ご自身のここ10年で思い出深い出来事ってありますか?
本当に濃い10年で…。14歳から24歳、濃いことしかなかったです。表舞台に立ち始めたのが12年前で、強烈な出来事ばっかりだったなぁ。でもホント、ここ10年を振り返ると何万人という人たちと出会ってきて、1回1回が衝撃的だったなと思います。これからも大事にしていきたいですね。
――その出会いというキーワードからの質問したいのですが、『ツーアウトフルベース』に主演で参加したことで一番自分が影響を受けた出会い、影響を受けた人は挙げられますか?
うーん…ひとりに絞りづらいですね。ホント、冗談抜きで全員ですって言いたいです。人から影響は必ず受けるし、僕は出会いとご縁を一番大事にしていて。ひとりひとり全員からいいところを盗んで、無敵な人間になっていきたいと思っているんです。でも、特に瑞生は一番長く一緒にいたから影響を受けたかなぁ。年下だって最近になって知りましたけど。
――最近まで知らなかったっていうのも意外です。
年齢にあまり興味がなくて(笑)。瑞生は人として素敵なところがたくさんある人ですね。彼はどんな人にも好奇心を持つことができる天才だと思います。人懐っこいし、そこに裏や想いに翳りがないのはすごく素敵だと思いました。天性のものなんでしょうね。こういう仕事をするうえで素晴らしい才能だし、すごく大きな強みだと思います。
――そんな素晴らしい相棒と作り上げた『ツーアウトフルベース』という作品を通して、見る人に伝えたいことはどんなことだったのでしょう。
実は…作品を見ていて「こういうことを表現したかったんだろうな」って演技が見える感じになってはよくないなと思っているんです。自己が見えてしまうのは、作品にはノイズになってしまう気がして…。映画の中ではストーリーが一番大切だから、自分が表現したいものというよりは作品を表現したい。その作品の中で可能な限り遊びたいという感じですね。その中で飛び出しすぎたら監督が戻してくれるし、そこに忠実に向き合っていました。
――イチとしてこのストーリーの中に佇むというか。
はい。それを一番考えていました。でもそれをできたかどうかは観ていただく方の受け取り方次第ですね。でも、全力は尽くしました! 一瞬一瞬を大切に演じたので、それが伝わっていれば嬉しいです。
この映画でなければ7ORDERとしてロックは歌わなかった
7ORDER
――『ツーアウトフルベース』では、7ORDREの新曲「レスポール」が映画の主題歌にもなりました。この曲をご自身で紹介するとしたら、どんな言葉で伝えますか?
「レスポール」は、まずイントロで心が掴まれると思います。ギュイーンっていうギターの音で始まるんですけど、最近は打ち込みの音楽も多いのでこういう始まりをする曲は少ないなぁと思っていて。アナログというか生っぽい音Radioheadみたいでいいですよね。若い人には新しく聞こえるだろうし、僕より年上のみなさんには懐かしいとか耳馴染みがいいと思ってもらえると思います。あと、サビの頭の部分で音がぶ厚くなるんですけど、そこがかっこいいよって。
VIDEO
――この曲の制作に関して、制作された新羅慎二さん、大沢伸一さんには何かリクエストなどはされたんですか?
歌詞には特に要望は出さなかったんですけど、音的にはUKロック要素が欲しいなというか、とにかくこの映画の世界観に合ったものにして下さいということはお伝えしました。僕ら7ORDERのイメージというのは一旦取り払っていただいて、何よりもこの映画のイメージに合う曲をお願いしますと。
――じゃあ『ツーアウトフルベース』という作品の主題歌でなかったら、7ORDERとしてこういうロック色の強い曲をリリースするということは…。
なかったと思います。多分というか、絶対なかったですね。この「レスポール」は僕の趣味の音楽とはドンピシャですけど、これまで7ORDERの曲を聞いてきた人にはどう聞こえるだろうかと思ったりします。7ORDERとしては異色な曲だからこそ、この機会に歌わせていだだけて光栄です。
――確かにこれまで7ORDERの音楽に親しんできた人たちにとっては、新鮮で新しい扉が開く1曲なのかなと感じました。
そうですね。それは僕たち自身も感じています。初めて聞いた時から僕は「かっこいい!」って思って、曲に引き込まれたというか、先が予測できない曲だなと思いました。展開とか音が厚くなったり効果的に薄くなったり、考えられない音色だったり。曲の展開のわからなさが、映画の世界観にも通じているなと思いました。
――ちなみに映画には出演されていない、他の7ORDERのメンバーはこの曲に対してどんな感想を?
「めちゃくちゃ顕嵐が好きそうな曲だね」っていうのは言われましたね(笑)。特に僕と真田(佑馬)は曲の好みが似ていて、森田(美勇人)もすごくハマっていましたね。ふたりはこの曲をよく口ずさんでいます。
――私個人的には、サビの「かき鳴らすレスポール」というワードがすごく映画にピッタリだなと感じました。阿部さんもギターを弾かれるわけですが…かき鳴らすことってあります?
家でかき鳴らしてますよ! 寝ない夜に。騒音にならないように気をつけながら、LINKIN PARKやColdplayのかっこいいリフを延々かき鳴らしています(笑)。
――では最後に…主演、そして主題歌を担当された映画が公開になってひとつ落ち着かれたのかなと思いますが、それを経たうえで次の展望として描いているものを教えて下さい。
常にやりたいことはいっぱいあります。ただ、映画はまだ2本しか出たことがないので、これからもたくさんやっていきたいなと思いますね。この作品のこの役が素敵だからやりたいと思えるような役に出会えたら嬉しいかな。今回『ツーアウトフルベース』に主演させていただいて、演じることの面白さが加速した感じがあるんです。現場で一丸となって1シーン1シーンを撮っていく喜びも実感できましたし、スタッフさんとも作品が好きでよくしたいと思っているからこそできる話もあって、愛があるからこそ楽しかった。みんなと話をしながら作品を作っていくことが本当に好きだと思えました。また新しい作品やいろんな人と出会って、みんなでひとつのものを作り上げていく楽しさをもっと味わっていきたいですね。
取材・文/桃井麻依子
(2022年4月 8日更新)
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