柳井"871"貢インタビュー
【第15回】10代が特別な世代である理由
柳井“871”貢(やないみつぎ)。株式会社ヒップランドミュージックコーポレーションの執行役員及びMASH A&Rの副社長として、「THE ORAL CIGARETTES」など全6組のマネジメントを担当する傍ら、近年は独自に「#871ンスタライブ」「#871さんに質問」など、SNS/noteを中心に主に音楽業界を志望する若者に向けて継続的に発信を続けている。
そんな彼が、自身の仕事やひいては生きる上でのキーワードに掲げる”No Border”とは?境界にこだわらず働き、壁を作らず人と関わり、越境して生きていく、そんな871流「NoBorder的思考」を紐解いていく。
871:やっぱり2022年はこの問題に切り込まないと、「No Border的思考のススメ」は始められないのかな。
――ずいぶん久しぶりですけど、どうしました?
871:チケット先行における「厳正なる抽選」は厳正なのか問題。
――挨拶もそこそこにいきなりぶっ込みが過ぎますが、一応確認しておきますけど、この連載が掲載されているのは「ぴあ」です。ぴあっていうのはもちろんチケット事業の草分け的存在である、あの「ぴあ」です。担当してくれているのも、チケットぴあの高橋さんです。
871:はい(笑)。でも例えば、ユーザーの皆さんは「厳正なる抽選」をどのように考えているんでしょうね。ふと思ったんですよ、例えば北海道で行われるライブがあったとして、当然ながら全国から申し込みがあって、そこに沖縄の人とか九州の人が多めに当選したりするのはどうなの?ってなるじゃないですか。主催者としてもファンとしても。そりゃあ地元の人が優先されてしかるべきでしょうって。言葉通りの意味で「厳正なる抽選」が行われているのだとしたら、そういうことが起こりますよね。さらに例えば、このアーティストのファンで、とにかく抽選確率を上げたいから全国の公演に申し込んだけど、当たったのは地元の広島ではなく札幌と仙台公演でした……っていう謎現象が起こりますよ。つまり「厳正なる抽選」というのは、すべてを横並びにしたフリーハンドで無作為に抽選することではなく、ある程度お客さまと主催者に対して配慮のあるフィルターをかけた上での抽選なのではないか?と。
――なるほど(笑)。ひとつだけ言っておくと、おじさんだってSaucy DogやVaundyのライブに行きたいんだぜということ(笑)。その意味、わかるよね。
チケットぴあ高橋:(無言)
871:はははは。じゃあ僕もひとつだけ言っておくと、10代と30代とでは、エンタメへの密接度が違うということです。10代の若者よりも30代以上の社会人の方がお金を持っているから、この層をコアターゲットと考えて、購買意欲を煽るような施策をした方がいいのではと思われるかもしれません。もちろんその考えも正しいです。でも10代って他の年代に比べて何が違うかと言うと、自分の好きなエンタメにかけられる時間をめちゃくちゃ持っているというところなんです。例えばサブスクで同じ曲を10代の人と30代の人が聴いて同じように気に入った場合、30代の人は1日に3回聴きました、でも10代の人は30回聴くんです。だからファンとして10代の人が1万人いる場合は、30代の人の10倍の人数に相当するという見方もできるのではないかと思います。考えてみたら僕らだってかつてそうだったじゃないですか。このアルバム何回聴くねん!ってくらい聴いてましたよね(笑)。そしてそういう音楽って今もずっと心に残り続けていますよね。やっぱり10代って、特にロックやポップスのような音楽にとっては、特別な輝きを放つ年代なのだと思います。
――そうすると、いかに若い層を獲得するかということが少なくともロックやポップスというジャンルにおいては重要な指標になってくると。じゃあ例えば、“ジャンル”というのはどうなのでしょうか。つまり、バンドなりアーティストは人間がやっている以上歳は取っていくものだし、それにつれてファンも年齢を重ねていくものだ、というのは数々の先達を見ても動かしがたい事実としてあります。けれど、ジャンルという共和国みたいなものの中でやっていれば、自ずとそこには若いアーティストもファンも流入してくるのではないか。
871:いや、ジャンルも歳をとるんじゃないでしょうか。要するに流行り廃りがあるということです。特にトレンドとなったり、ワーッと盛り上がるジャンルって、ニッチなものだったりするじゃないですか、最初は。ヘヴィメタルだって、メロコアだって。そうするとどうしても最大勢力だった時に活躍していたバンドがその後もシーンを牽引していくことになるし、そのバンドのイメージというのが抜けないですよね。
――確かに。
871:それに、ジャンルというものの概念自体がもう今の若い世代にはないのではないでしょうか。我々がCDショップやレコード屋で当たり前のように植え付けられたジャンルによる棚っていうものがサブスクによってある種消滅し、かつ、音楽の制作の仕方自体もどんどんクロスオーバーになっていき、聴かれ方自体が“その人のこの曲”というミニマムな単位になっている――そのように感じています。
――もしかしたら、フェス自体がジャンル分けの代わりになっているかもしれない。
871:ああ、そうですね。そういう側面もあるでしょうね。フェスに出るかどうかとか、MVがイラストを用いたタッチかどうか、みたいな。それくらいざっくりしたカテゴライズかもしれない。もはや情報流通の過程にすら従来のカテゴライズはないですからね。僕らが若い頃にヒップホップのことを知りたければ、専門の雑誌やウェブサイトにアクセスしたりという、専用の乗り物に乗らなければそこに行き着くことはできなかった。だからこそそこにまつわる様々な背景やストーリーを知ることができたわけですけども、今やYouTubeのオススメでその人の“好きそうなもの”が一挙に表示されるわけですからね。出てくる音楽もジャンルに依らないのは必然です。
――というところで、今回はお蔵にならないで済みそうかな?
871:どうでしょう(笑)。
Text by 谷岡正浩
(2022年4月 1日更新)
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