「この曲でたくさんの人の背中を押せるかもしれない」 稲生司(Vo・Gt)、阿坂亮平(Gt)が語る、 メジャーデビュー曲に託したバンドの新たな一歩 Mr.ふぉるてインタビュー&動画コメント
刺さる、という言葉は彼らの音楽に相応しいと思う。平均年齢21歳の4人――稲生司(Vo・Gt)、阿坂亮平(Gt)、福岡樹(Ba)、吉河はのん(Dr)によるロックバンド・Mr.ふぉるて。経験する喜怒哀楽の全てを丁寧にそして文学的に昇華させた歌詞と、光と影が同居するように不思議にゆらめくメロディー。そこに稲生司のまるで優しい叫びのような声が乗ってゆく。その3つが一斉に鳴り響いた瞬間、Mr.ふぉるての音楽はどうしようもなく心に刺さってくる。そんな音楽を2017年から続けてきた彼らが、2021年12月デジタルシングル「エンジェルラダー」でメジャーデビューを果たした。“7年後でかいフェスの大トリを受け持つバンドです“と宣言している彼らにとって、大きなステップとなるメジャーデビュー。そんなMr.ふぉるての結成から現在に至るまでのエピソードを、稲生司、阿坂亮平にじっくりと聞く機会を得た。メジャーデビュー曲に彼らが託したかったこと、そして3月にリリースを予定しているアルバムについて、これからのMr.ふぉるてが楽しみになるインタビューとなった。
「LINE教えて!」から始まったMr.ふぉるて
――まずは12月15日、メジャーデビューおめでとうございます!
2人 :ありがとうございます!
――デビューから間もないですが、実感はどうですか?
阿坂 :まだ実感はないですね。急に何か変わったとかもないですし…。
稲生 :僕もそうですね。先日メジャー一発目のライブをやったぐらいですしね。
阿坂 :そのライブにはずっとメジャーで戦ってきた先輩バンドが多くて、メジャーで活動することのレベルの高さを思い知らされたところはありました。そこに出演できたおかげで自分たちに足りないものも見えてきた気がします。あと周りの反応としては、ポジティブな意味で「メジャーデビュー曲が今までのMr.ふぉるてと違う」というものが多くて、間違っていなかったなと思っています。
――間違っていなかったというと、意図が思った通りうまく伝わったという感じですか?
稲生 :そうですね。それこそ「エンジェルラダー」を出す前から少しずつ楽曲自体のアレンジを変えていっていたんです。少しずつ変わっていく段階を踏んでいた分、すごく新しいものを出してもマイナスに捉えられることはないだろうなっていうのはありました。
阿坂 :SNSを見ても、いい反応をもらえているなと思います。
――プラスかマイナスか反応がどちらかに大きく分かれるかもしれないほど、楽曲に大きな変化を加えていたということですか?
阿坂 :そうですね。司くんが作ってきてくれた「西から太陽を呼び寄せられる」っていう歌詞を見て、それほど大きいことをしなきゃっていうメッセージをこの曲で伝えるなら、僕ら自身が思い切ったことをしてお客さんの力になれればなと思ったので、すごくMr.ふぉるてを大きく変えるようなアレンジをしましたね。
――なるほど。曲についてはまた後ほどお伺いするとして、今回初めてインタビューをさせていただく機会なので、もう少しおふたりについて知っていけたらと思います。そもそもバンドを組む以前に音楽を始めることになったきっかけはどんなことだったんですか?
稲生 :僕が音楽を始めたきっかけは、小学校高学年の時にラジオでたまたま聴いたSEKAI NO OWARIの「天使と悪魔」に衝撃を受けたことですね。曲にすごく感動して。実はその頃、人とのコミュニケーションが上手くできなくて不登校になっていたんです。その時の状況と歌詞がリンクして、すごく自分の中に入ってきた感覚がありました。音楽ってこんなにも人の心を動かせるんだ! っていうところから自分もやってみたいと思うようになって、高校に進学したタイミングで軽音部に入りました。
阿坂 :僕も高校生の時に、友達のお姉さんが軽音部に入っていたのもあって軽い気持ちで体験入部してみたんです。その時の軽音部にはギターを弾ける部員が足りていなかったので、僕が強制的にギターを持たされていて(笑)。その流れで今、っていう感じですね。
――高校の軽音部が共通点なんですね。そんなおふたりが出会ったのは…?
阿坂 :いろんな高校の軽音部が集まるコピーバンド大会です。司くんがSEKAI NO OWARIのコピーをしていて、その歌声を聞いて感動してしまって。それで「一緒にバンドやらない?」って声をかけました。
――すごい人を見つけてしまった! って?
阿坂 :はい。僕が軽音部で組んでいたバンドのメンバーは、部活は部活だけでいいみたいな感じでした。でも僕はライブハウスに出たりいろいろ活動したかったので、独自にバンドのメンバーを探していたんです。そんな時に司くんの歌声を聴いて、「これだ!」って。
稲生 :その合同ライブが終わって帰ろうとした時に、亮平くんがすごいスピードで走ってきて「一緒にバンドやらない? LINE教えて!」って言われました。
阿坂 :ナンパ的な。
稲生 :僕、すごく人見知りだからびっくりして。とりあえずLINEは交換したんですけど、後日カラオケに行ってようやく仲良くなりましたね。その時に亮平くんもSEKAI NO OWARIを歌っていたので、同じバンドが好きなんだ! それなら一緒にバンドやってみようかなって。
阿坂 :僕コピバン大会ではマキシマム ザ ホルモンの曲をやっていたので(笑)。でもそのカラオケの時に司くんがSEKAI NO OWARIやRADWINPSを歌ったのを聞いて、僕も好きな音楽が似ているし一緒にやれるかもって動き出しました。
――そこからどうやって今の形になったんでしょう?
阿坂 :バンドをやるならドラムとベースが必要だ! って地元の足立区で軽音部のある高校の学祭に潜り込んで、演奏が気になった人に声をかけて集まったのが今のメンバーです。
――スカウトするぐらいだから、阿坂さんの頭の中ではやりたいバンドの形は明確になっていたんですか。
阿坂 :いや、正直イメージはなかったですね(笑)。とにかくバンドをやりたくて必死でした。直感でいいなと思った人に声をかけたんです。メンバーが揃って、最初はKANA-BOONとかのコピーから始めましたね。
稲生 :でも最初…俺はみんなのこと怖かったんだよね…。
阿坂 :ええっ!?
稲生 :初めましての人、得意じゃないから(笑)。だから最初はビクビクしていて。でも音を鳴らしていれば間も持つので、だんだん平気になっていきました。
阿坂 :そこから高校生のバンド大会に誘われて、とりあえず1曲作らなきゃ! ってバンドでオリジナル曲ができていきました。
稲生 :あの1曲目は今となっては恥ずかしすぎて、世には出せないです。
阿坂 :そこから司くんがデモを作ってくるようになって、その初めての曲が「口癖」という曲でした。彼が弾き語りで作って、バンドでアレンジをするっていう流れはそこで出来ましたね。そのちょっと前ぐらいにバンドに名前もつけて。
――バンド名の由来は?
阿坂 :ちょっとナヨっとしたメンバーが集まったので僕らこれからどんどん強くなっていきたいねって、音楽記号の「強くなっていく」っていう意味のフォルテからとって、Mr.は後付けで(笑)。当時英語のバンドが多くて、フェスのタイムテーブルを見てもバンド名が読めなかったり差別化が難しくて…。こういうところに載った時に印象に残る名前にしようって、ひらがなを採用しました。
――確かに字面を見ても、個性的だし目立ちますよね。
阿坂 :よかった、狙い通りです。
モヤモヤも壊して前に進もうという曲にしたかった
――曲作りは稲生さんが基本1人で?
稲生 :そうですね。1人でやっています。
阿坂 :元々は司くんが弾き語りのデモを作ってきて、それをメンバーで合わせるっていうシステムだったんです。でも最近はDTMを導入したので司くんのデモを僕が一旦フルでアレンジして、メンバー各々ブラッシュアップしていくという形に変わってきました。
――曲の基盤はおふたりで作る感じなんですね。稲生さんと阿坂さんに共通している部分とか、何かありますか?
阿坂 :共通して好きな音楽はUKロックかな。oasisとかColdplayとか。
稲生 :その他は全然被んないよね。
阿坂 :好きな音楽が被っていないからこそ、予想外で化学反応的なアレンジができるのかなとも思います。
――oasis好きと聞いて納得しました。Mr.ふぉるてのライブ動画を見てびっくりしていたんです。稲生さんがまるでリアムみたいな歌い方をされていて。
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稲生 :ふふふ。あれは意識してやっています。
――ちなみに今回メジャーデビューの経緯っていうのは…声がかかった時はどうでしたか?
稲生 :正直僕はまだ早いでしょ! って。あまり自信もありませんでしたし、今メジャーに行って大丈夫かなって思いましたね。でもMr.ふぉるてとして楽曲が少しずつ変わってきている中でステップアップできたらとは思っていたので、結果的にはよかったなって感じています。
――そのメジャーはまだ早いと思った理由は…?
稲生 :完全に技術面です。
阿坂 :そうですね、技術面と経験値と。今メンバーは21とか22歳とかなんですけど、ここでメジャーデビューして大丈夫かなという不安と、メジャーって憧れていた場所でもあるから楽しみも入り混じってドキドキしていました。
――その大きなステップとなるメジャーデビュー曲はどんな曲でいこうということになったんですか。
稲生 :メジャーデビューは頭にはあったけど、それは関係なしにとりあえずいい曲を書こうっていうことをとにかく大事にしました。
阿坂 :うん。メジャーデビューだからこそこういう音色にしたというよりは、楽曲ありきでこういうアレンジにしたのがたまたまメジャーデビュー作品になったという感じです。
――この「エンジェルラダー」は、どんな思いで制作が始まったんでしょう。
稲生 :曲自体は2年以上前からあったもので、詞はレコーディングの前に少し書き直しました。最初は20歳そこそこで書いたので、今よりももっと尖っているところがあって。バンドのことも大人から「甘くないよ」とか「音楽はやめた方がいい」とか言われて、クソ! と思った気持ちをストレートに殴り書きした感じでした。
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――歌詞にも「クソくらえ」っていう言葉が使われているぐらいですし。
稲生 :そうですね(笑)。その辺の気持ちが今より強めだったというか。そんな気持ちで書いて「それでもやってやるよ」っていう曲だったんですけど、この曲を久々に掘り起こしてみて、やっぱり今の状況を考えると…去年とかやっぱりいろいろあった年で、みんながダメージを受けた年でもあって、その中で歌詞を少し変えたらすごくたくさんの人の背中を押せる曲に変わるんじゃないかなと思ったんです。それこそ音楽業界をはじめいろんなところで、誰かが敵に回ることが起こったり、敵対構想が出来上がったり。そういうことも壊して前に進もうよという曲にできるんじゃないかなって歌詞を書き直しました。
――ということは、コロナという経験がなかったら今の「エンジェルラダー」にはなっていなかったかもしれないということですか?
稲生 :そう思います。歌詞の中身は元のまま変わっていなかったかもしれないです。
――それほど個人としてもバンドにとってもコロナは大きいことだった。
稲生 :はい。
阿坂 :とても大きなことでした。
稲生 :僕ら、平均月に8本ぐらい東京以外でもライブをやっていたので、それがストップすると何もできない感じになったんです。足を止めちゃっている感じがして。
――そのキツい時を経て、新しくなった「エンジェルラダー」の歌詞を見た時、阿坂さんは何を感ましたか?
阿坂 :僕は…元々の歌詞を少し忘れかけていて。コロナを経験してこの歌詞を見た時に、世の中の偏見なんてクソくらえだとかの強いパワーワードに心を打たれました。パワーワードがすごくたくさんちりばめられた曲だなという印象でした。
――そんな歌詞を持った曲を前に、アレンジ面ではどういうことを意識されたんでしょう?
阿坂 :アレンジはコロナに深くひもづけているわけではないですけど、シンプルに歌詞の言葉を汲み取って今までのMr.ふぉるてとは違うものにしたいっていう思いが強くありました。かなり方向性を変えたアレンジの曲を仕上げても、Mr.ふぉるてはMr.ふぉるてですっていうのを世の中に発信できたらなと思いました。
――サウンドとして初めて挑戦してみたこともあったんですか?
阿坂 :初めてではなかったんですけど、これまでリリースした曲でストリングスとかシンセの曲があったものが、全部統合することでこの楽曲になったというか。今までのMr.ふぉるてでやってきたことが全部詰まったような曲になりました。この曲自体は新しい曲なんですけど、辿っていくと今までバンドとしてやってきたことが凝縮されていると言いますか。
――今までやってきて良かったことを総動員してギュギュッと1曲に詰め込んだ。新しいやり方を取り入れた大きな変化ですね。
阿坂 :そうですね。とにかく新しいMr.ふぉるてを見せたいというイメージが大きかったと思いますね。それがいい意味で「今までのMr.ふぉるてっぽくない」と言われるのは、嬉しいですね。
できるのは「いい曲を書き続けること」だけ
――そういう気持ちで制作した「エンジェルラダー」をリリースして、3月にはアルバムのリリースも発表されていますね。どんな作品になったのかが気になります。
稲生 :1曲1曲は本当にバラバラの印象だと思います。僕はいつもアルバムをこういうテーマで作ろうとか決めずに曲を作っていくんです。全て出来上がってから俯瞰してみて、軸になるワードを1曲1曲の中から探していく作業をするんです。全曲につながるキーワードを見つけて、アルバムタイトルを付けたりテーマを考えたりしますね。
――その方法で導き出されたアルバムタイトルが、『Love This Moment』。
稲生 :はい。今この瞬間が好きだとかこの瞬間を愛してるっていう意味なんですけど、コロナ禍で当たり前なことがずっと続くわけではないことがわかったり…どんなことがあってもすごく嫌な生活の中でも、ひとつ好きなものが見つけられたら随分違うと思うんです。それを見つけるヒントになる曲たちなんじゃないかなと思っています。
――その『Love This Moment』を制作するにあたって、バンドとして挑戦したことはありましたか?
阿坂 :アレンジのバランスはすごく考えました。アルバム全体で聴いてもらった時に激しすぎたりダークすぎたりしないように、できるだけ暗い気持ちにならないように。バラードや踊れる曲もしっかり盛り込んで、何回フルで聴いても飽きないようなバラエティに富んだアレンジを心がけましたね。
――それはライブを見越してのことですか。
阿坂 :いえ、ライブのための曲作りはしていないですね。特にコロナ禍を経て、イヤホンから音楽が届く環境にいることが多くなったと思うんです。だからライブで成り立つものというより、ちゃんと音源として成り立つものを意識して作りましたね。
――ライブの話でいうと、バンドの公式Twitterの自己紹介欄には「7年後でかいフェスの大トリを受け持つバンドです」って書いていますよね。その大トリを務めるために必要なことってなんだと思いますか?
稲生 :………やっぱり集客?
阿坂 :リアルな話、集客大事!
稲生 :あと、ただただいい曲を書き続けるしかないとは思いますね。
――なるほど。そのために手に入れておきたいスキルはありますか?
阿坂 :圧倒的な演奏技術が欲しいですね。今は頑張ってメンバー全員レッスンに行きながらバンド力を上げている途中なので、これから7年を短縮していけたらいいと思いますけど、しっかりと時間をかけてバンドとして成長できればいいなとも思います。バンドとしてのどデカいオーラも欲しいなぁ。
稲生 :ライブっていうよりエンターテインメントとしての派手な見せ方ができるようになりたいなとも思いますね。
――例えば今、Mr.ふぉるてがフェスの大トリに指名されたとして、どんな曲で始めてどんな曲で終わりたいとかイメージはできますか?
稲生 :うわ〜…どの曲で始めるんだろう。でも最後の曲は決まってるんですよ。
2人 :「幸せでいてくれよ」!
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稲生 :なんかみんなでシンガロングできるところがあったり一番お客さんと一体になれる曲だと思っていて、曲調的にもラストソングに相応しいなと思います。これがライブのシメの曲っていうのがメンバーの中で暗黙の了解みたいになってきていますね。
阿坂 :「幸せでいてくれよ」でシメるなら、「エンジェルラダー」が1曲目でもいいかもしれないですね。アルペジオで始まって、ダークめな感じもするけど。この間初めてライブで「エンジェルラダー」をやって、ステージで演奏するとこういう印象なんだって自分でも改めて気づいたんです。サウンドもオーバーでダイナミックな楽曲だし、セットリストのどこに入れても映える曲なんだなって。だからこそフェスの1曲目もいいなと思います。
――いろんなことが落ち着いて、2022年こそ夏にフェスがたくさん開催される世の中であって欲しいですよね。ちなみに目標にしているフェスとかありますか?
稲生 :特にコレ! っていう訳ではなく、たくさんフェスに出演したいですよね。でもあの「7年後でかいフェスの大トリを受け持つバンドです」っていうのも亮平くんが勝手に書いたんですよ? 10年後にって書いたのが始まりで、ちゃんと1年ごとに数字を減らしていて。
――それはなんのタイミングで数字が減らされるんですか?
稲生 :結成日ですね、3月30日。
――アルバムのリリースが3月初旬だから、アルバムが出てしばらくしたら7年後が6年後に変わると。
阿坂 :そうなんです。もう6年しかなくなります。結構焦っちゃいますね。遠いようで近いというか。
稲生 :本当にがんばらないとって思います。まずは2022年、大阪で開催されるフェスにも出たいですね。
Text by 桃井麻依子
(2022年1月 7日更新)
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