“これからの制作の礎となる1枚になった” ミニアルバム『Faces』 Panorama Panama Townインタビュー
神戸出身のロックバンド・Panorama Panama Town(以下PPT)が、11月24日にミニアルバム『Faces』をリリースした。新生PPTとして4月に出したEP『Rolling』から半年。コンセプトを決めずに自分たちがワクワクする音を作る、と原点回帰した前作を経て、今作は音数を減らすこと、ギターリフ中心の楽曲にすることを一貫した作品。PPTが好きなことが詰め込まれていると言える。7月に配信リリースされたFODオリジナルドラマ『ギヴン』の主題歌『Strange Days』、ドラマ内のバンド・the seasonsが歌う劇中歌『Melody Lane』をPPTらしくリアレンジしたバージョンを含む全7曲を収録。一聴してサウンドのカッコ良さに引き込まれる楽曲群は、リスナーにも新たなインパクトを与えてくれるに違いない。そして岩渕想太(vo&g)が込めた問題提起にも、ぜひ耳を傾けてほしい。今回ぴあ関西版WEBでは、ボーカル・岩渕に今作についての話を聞いた。なお、本作を引っ提げ、12月11日(土)に神戸・クラブ月世界で、来年1月14日(金)には東京・キネマ倶楽部でワンマンライブが行われるので、そちらも要チェックだ。
バンド初の主題歌は、感情移入して制作した
――前作EP『Rolling』以降ですが、『Rolling』の制作後にFODオリジナルドラマ『ギヴン』主題歌のお話がきた感じですか?
「そうですね、『Rolling』を作ってすぐぐらいに『ギヴン』のお話をいただいて。制作は『Rolling』が出る直前辺りから始めてましたね」
――『Strange Days』は、バンド初の主題歌ということです。
「『ギヴン』という作品のために書く曲だったので、漫画を読んだりアニメを見たり、台本を読んで作りました」
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――難しさはありました?
「すごく楽しかったですね。何か主題があって、そこに向かって制作するのは、ほぼやったことがなかったので。高校生がバンドを組むという青春ストーリーなんですけど、そこに自分たちの音楽をどう付けていくかをすごく考えましたね」
――『Strange Days』は、EP『Rolling』に引き続き石毛輝さん(the telephones)プロデュースですね。進行はいかがでしたか?
「石毛さんにお渡しする時は、ある程度曲のデモが構成まで出来た状態だったので、ギターの音作りをどうするか、みたいな話を中心にしましたね。霞がかった青さが滲み出てくる音にしたいというのと、80年代のTHE CUREやThe Smithsの音を参照しながら作っていたので、そこは石毛さん自身の趣味の範疇でもあるからやりやすいんじゃないかなと思って、一緒にやらせていただきました」
――どこかPPT自身にもつながる部分もあるのかなと。
「主題がバンドを組む話だったので、やっぱり自分たちを俯瞰して見てる訳にはいかないなと思って。『Strange Days』に関しては、歌詞はバンドを組んだ頃のことを思い出して書きました。曲自体はロジカルに制作をして。タイアップなんですけど、自分たちのやりたいことをすごく尊重していただけました」
――劇中でthe seasonsが歌う『Melody Lane』(M-7)に関してはいかがですか? 劇中歌とセルフカバーのリアレンジバージョンは全く違いますよね。
「『Melody Lane』の劇中歌は、高校生が演奏するってところに寄せて作りました。音としては本当に、ドラマ内のバンド・the seasonsのために作ったんですよ。リアレンジして自分らの音源に入れようという話になった時に、今回のアルバムでやりたいことが、“音数を減らして余計なものをなくしたい”だったんです。だから今まで当たり前にやってたことも1回疑って曲を作りたいということで、鳴ってるコードを全部分解していって、全体がコードになっているような作り方をしました」
――なるほど。the seasonsはドラマの中のバンドではありますが、後輩のような感じか、プロデュース的なのか、どんな感覚で制作されましたか?
「もう“自分がそこに居るなら”という気持ちで作りましたね。『Melody Lane』は、漫画でもアニメでも、主人公の佐藤真冬くんが歌うということで、すごくキーになる曲だったんです。その曲が完成するまでが物語になっているから、できるだけ感情移入して作りました。アレンジもドラマのキャラクターに合ったものになっていると思います。パワーコードをジャーンと弾いて歌う、みたいなのは自分らはあんまりやらないんですけど、敢えてやってみました」
――自分の曲を他の人が歌うのはどうでしたか。
「初めてだったのですごく新鮮でした。逆に自分のクセがわかりましたね。メロディーとして良いものと自分が歌うから良いものは違うと思うんですけど、今回は自分が歌わないから、自分の手グセで成立してたものじゃなくて、そもそもメロディーが良くないといけない。そこをすごく考えるキッカケになりました」
――今後の活動に良い影響を与えてくれそうですか。
「そうですね、すごくありがたい経験でした」
誰かの“目”や決めつけは必要ない
――この2曲が完成してから今作『Faces』の制作を始めたんですか?
「順番としては、劇中歌の『Melody Lane』を作って、『Strange Days』を作って、そこから『Faces』の曲をいっぱい作っていって、制作の終盤ぐらいに『Melody Lane』のリアレンジをしました」
――さきほど“今作は音数を減らしたアルバム”だと仰っていましたが、コンセプトや方向性はどういうふうに決まっていきましたか。
「ギターの浪越(康平)と家が近いので、自分の家で2人でずっと考えてたんですけど、コンセプトは作りながら決まっていきました。『Strange Days』ができて、次に『Algorithm』(M-6)ができた時、このアルバムでは全体としてコードが少ない曲にすること、1個のリフを最初から最後まで貫くことをやりたいと決めました」
――どの曲もイントロから惹き込まれますね。
「そうですね、ギターリフが主役に立ってる曲ばかりです」
――1曲目の『King’s Eyes』は、2曲のデモが1曲になったとか。
「もともと僕が2曲デモを作っていて、両方良いけど押しが弱かったんです。で、片方のデモに今の『King’s Eyes』のメインになってるリフが使われていて、もう片方にAメロの途中、裏のギターで鳴ってる16分のリフがあったんですけど、“ドゥンドゥドゥンドゥドゥドゥ”みたいな(笑)。その2つを一緒にして、リズムも結構大胆にアレンジして、今の形になりました」
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――“King’s Eyes”は直訳すると“王の目”です。どんな意味があるか教えていただけますか。
「自分の中に、偉い人の目というか、自分より上の立場の人の目、権力、いろんなものを“目”として入れちゃってて、それゆえ動きにくい、みたいなことがいっぱいあるなと思って。コロナ禍になってすぐの頃、バンドが止まって、何が良いか悪いかの線引きも取れない状況があって。その時、皆で足並みを揃えて動き出すのがなかなか難しかった。自分たちは結構、自分より大きいバンドや行政、誰かが動かないと動けないみたいな状況になっていたんです。それはあって然るべきだと思うんですけど、全員で足並みを揃えていかなきゃいけない時に、常に誰かを伺いながら活動している感覚が、すごく気持ち悪かったんですよ。この曲ではそういうことを歌ってます」
――他のバンドの動向を見ながらの活動になっていたと。他人軸というか人の目を気にしてしまう感覚。すごくわかります。
「何かを良いと言うことに対しても、誰かの目が作用しすぎてる世の中のような気がしてて。このアルバムも、誰かが良いと言わなくても、良いと思う人はいっぱいいると思うけど、それが多数の大きな目の審査によって決まることが、面白くないなと思ってます」
――確かに。日本には自分が良いと思ったことを声高に主張しにくい風潮がありますもんね。あと個人的に『Faceless』(M-4)が刺さりました。音もカッコ良いのですが、“決めつけや枠に嵌められることは必要ない”と歌っていて、すごく共感しました。何よりも決めつけられることを嫌っているのに、自ら枠に嵌めてしまうこともある矛盾というか、そんなことを思いながら聴いてました。
「ありがとうございます。今言っていただいたことが割と僕の本心というか、想いを込めた部分だったので、そうやって読み取ってくれて嬉しいです」
――コロナ禍で感じられたことだったんですか。
「もともと感じていたことが、コロナ禍で強く感じるようになった部分はあります。対面して話せないから、人をじっくり見る時間が少なくなってると思うし、バンドをやってると“バンドマン”と括られて、批判されることもある。そういう冷たい枠組みをコロナ禍で強く感じるようにもなりました。だから本当に思うことを歌にしましたね」
――この曲は歌詞が特徴的ですね。
「『Faceless』に関しては途上の言葉と言うか、言い切らないことを積み上げて歌詞にしたくて。でかいメッセージの曲って、それだけですごく強い意味を持つけど、ある意味それしかない弱さもあるなと思っていて。この曲はそうやって消費されたくなかったので、歌詞を積み上げていく書き方をしました」
――SNSで書かれていましたが、この曲には愛が込められているんですね。
「人を消費しないことって愛だなと思っていて。自分の中の何にも嵌めずにその人を見ること、話すこと。それが愛だな。そういう曲だと思うんですよ」
――“括るべき愛はない”というフレーズがありますが、受け入れるということ、ですね。
「そうですね」
――これまでのPPTにも、愛を込めた曲は多いように思います。
「結構、愛かなって気がしますね(照)。形を変えて愛を歌っている気がします」
曲で疑問符を投げかけたい
――『Algorithm』(M-6)に関してはいかがですか?
「『Algorithm』に関しては、“選んだように選ばされてること”がすごく多いなと。Spotifyで音楽を聴いてて、曲がランダムにかかってて、その中で良い曲を見つけたとして、自分で見つけ出したと思っていても、それって結局Spotifyがおすすめしてるアルゴリズムに則っているものだったりするじゃないですか。でもそこを全て退けて、自分で何かを選んでいく行為は今の時代すごく難しい。選ばされる方が楽ではある。ということを善悪にせずに歌いたいなと思ったんですよね。選ばされることが悪いと言うんじゃなくて、それも分かるし、それが楽だし。自分がピュアに選べているものって、もしかしたら1つもないのかもしれない」
――アルゴリズムは便利ではありますよね。でもレコードを掘ったり、本屋さんでたまたま引き寄せられて見つけたり、自分で探し出す達成感や喜びは減っているのかなと思います。岩渕さんは批判をしたい訳ではないんですね。
「うん。今回は全曲、自分的にはそんなに批判をしてないつもりでいるんです。どの曲も“こうじゃない?”ぐらいの疑問符を打ちたいなと思って。“何を選んでる?何を選んでる?”という歌詞も、反復することで意味が出てくるんじゃないかなと。最近の作詞ではそこを心がけています」
――最後に向けて高まっていく熱さと、“白い光が見えた気がした”という歌詞には、希望も感じる楽曲です。
「全体的にジョージ・オーウェルの『1984』をイメージしています。全てが監視されている世の中で、統制がすごく取れていて、悪いことをした瞬間にすぐ見張られて、その世界の秘密を解き明かすことすらできない。永遠にその仕組みの中にいるディストピア的な世界を書いたイギリスの小説なんですけど、その小説で草原に逃げ出すシーンがあって、そのシーンがめっちゃ好きなんですけど、白い光はそのイメージですね」
――小説はそこで終わるんですか?
「それで終わればいいんですけど、結局回収されていくんです」
――ああ、そうなんですね……。読みやすいですか?
「読みやすいですけど、めちゃ長いです。世界観の作り込まれ方がすごくて、その国の憲法までちゃんと書いてあるからSFとしては細かすぎて。めっちゃ面白いですよ」
最初に決めたことを最後まで守った、筋の通ったアルバム
――『Seagull Weather』(M-5)と『100yen coffee』(M-3)に関しては、日常に寄り添っている、情景が浮かぶ曲だと思います。
「確かにプライベート寄りの歌詞ではありますね。『100yen coffee』は、自分たち的にはすごくよく出来た曲だなと。デモでリフを思いついてから結構すんなり出来たんですけど、そこからベースがリフを続けていく展開だったり、メインリフの裏で弾いてるブリッジミュートのリフを浪越が思いついたり、アレンジでどんどん良くなっていった曲ですね」
――レコーディングはスタジオで一緒に合わせていった感じですか?
「サポートドラムも含めて、ほとんど僕の家に集まって4人で集まって話しながら順番に打ち込んで作る感じでしたね」
――前はリモートで作った部分もあったとおっしゃっていましたが、今回は集まって。
「やっぱり話さないと意味がないなって。結構雑談が多かったんですけど、“この頃何がカッコ良いと思う?みたいな話とか、“このバンドのここが良い”みたいな話を散々して、それだけで終わる日もあったんですけど、そんなのがすごく活きてると思います」
――具体的には?
「The Strokesが大好きなんですけど、“The Strokesって何でカッコ良いのか”みたいな話をして。これは全部でコードになってるんだとか、2個しかコードがない楽勝の曲っぽいのに、1つずつ考えていくとすごく複雑な作りになってるんだとか。そんな話は、結構今回の音の置き方に影響してると思います。あとは自分たちの過去の音源について話したり。昔から同じリフをずっと繰り返すのが好きだなと思った時に、“何でこれがいいんだろう?”と理由を深掘りしました。結果、リフだけを貫き続けて、他の要素が上がったり下がったり、変わったりするのが好きだし、それが自分たちの肌に合うんだなと実感して。全部メンバー同士で話してて気づきましたね」
――今作は『Rolling』から引き続き、やりたいことを詰め込めた1枚になったと。
「前作よりはコンセプチュアルに、最初に決めたことを最後まで守ったアルバムです。7曲とも違う顔があるけど、全曲で筋が通っている部分があると思うので。ここから作っていくものの礎になる作品になったと思います」
――どういうふうに聴いてもらいたいですか?
「アレンジや音作りをこだわって、時間をかけて作ったので、細かく聴いても面白いと思うけど、夜ふらっと散歩しながら聴くのにちょうど良いアルバムだと思うんですよね。高速走ってる時とか、夜の街がすごく合うなって」
――12月11日(土)に地元神戸のクラブ月世界と、1月14日(金)に東京・キネマ倶楽部でワンマンライブがあります。この2箇所を選んだ理由はありますか?
「どっちも元キャバレーで、シンプルにずっとやりたかった2会場です。あとこのアルバムの空気感に合う会場だなと。普通のライブハウスよりも歴史があって、いろんな人の血が通ってきた場所。そこでやるのは意味があるんじゃないかなと思いましたね」
――どんなライブにしたいと思われますか?
「最近4人で演奏するのがすごく楽しいし、バンドでワクワクできるものを作るのは『Rolling』から変わっていなくて。この楽しさを1人ずつにでも広げたいと思います。だから全員が同じノリ方をしなくてもいいし、目に見える大盛り上がりがなくても今は全然いい。それよりももっと、内なるテンションが上がる感じとか、マスクの下で見えないけどめっちゃ楽しいんやろなこの人、みたいな感じの方がアガるし、そういう多様な場にしたいですね。曲が1番幸せな時って、お客さんが“これめっちゃアガるけど、どうノったらいいんやろう”となってる時だと思うんですよ。“これはこう”という答えがあるよりも面白いんじゃないかな」
――有観客ライブがだいぶできるようになってきて、この環境下のライブに慣れてきたお客さんもいると思いますが、アーティスト側から見たらどんな感じですか?
「最初はちょっと異質な感じだったんですけど、確かに最近はちゃんと順応して、コミュニケーションが取れてる感じがしますね」
――なるほど。ワンマンライブも楽しみです。ちなみに次はこういうものを作りたい、と考えていることはありますか。
「今、結構いろいろ悩んでますね(笑)。悩んでるけど『Faces』の延長にはなると思います。制作意欲もすごく高まっているので、しっかり形にしたいと思います」
Text by ERI KUBOTA
(2021年12月 7日更新)
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