ライブエンタメに光が見えた2021年11月13日
今できうる最大のハッピー&ファンを中島ヒロトが届けた
『第3回! Happy and Fun Music Festival supported by Orange』ライブレポート
FM802 DJの中島ヒロトが2018年に50歳を迎えたことを機に、自分の好きなモノ・コト・ヒトをオーガナイズして立ち上げたイベント『Happy and Fun Music Festival』。毎年秋に開催されてきた『HFMF』も、2018年に台風接近によって中止となった幻の初回、2019年はまるで学祭のごときお祭り騒ぎだった味園ユニバースでの第1回、翌年はコロナ禍ながらアコースティックをテーマにしっぽりといい時間になったBananaHallでの第2回、そして今年BIGCATで3回目の開催となった。夏頃「今年もワガママ言いながら、一生懸命準備してるから」ワハハ~と首謀者本人が笑っていた通り、出演はthe band apart、TOKYO No.1 SOUL SET、Keishi Tanakaと、ラインアップについて語ってもらったら数日かかるほど中島愛ダダ漏れアーティストが勢揃いするスペシャルナイトとなった。その模様を振り返ってみよう。
昨年の『第2回! HFMF』はコロナ禍真っ只中とあって「必要以上の声が出せない」規制があり、ライブはアコースティックがテーマとなった。昨年のイベント終了後、来年はどんな形にできるかなと中島始めスタッフの声を耳にしたけれど、あれから1年。2021年の秋も終わりに近づくと日本のコロナの流行状況は落ち着きを見せ、ライブやイベントの開催数も少しずつ増えてきていた。『第3回! HFMF』の開催日の11月16日もそう。BIGCATのあるアメ村は一時期よりも賑わいを取り戻しつつあるように見えた。
開場直前、BIGCATのバックヤードで中島ヒロトを発見、話が聞けた。一昨年、去年と開場の瞬間まで、そして開場してからもソワソワと落ち着くことができない姿を見ていたのだが、今年はとても落ち着いた様子。3回目ともなると平常心ですか? と尋ねると「そんなわけないじゃん~」と、この日のために作ったイベントグッズのメスティンをずっと握りしめて蓋をしたり外したり。やはりソワソワしているらしい。するとスタッフの「開場します!」の声が響き渡った。
ライブハウスであるBIGCATのフロアに、等間隔で椅子が並べられている。コロナの感染状況が収まってきているとはいえ、エンタメ業界はまだまだ気を抜くわけにはいかない。ここ1 年半ほどですっかり見慣れた景色、気がつけば椅子はほぼ全てお客さんで埋まっていた。会場の照明が落ちると中島がステージへとやって来た。「お集まりいただきましてありがとうございまーす!!」。
「今回BIGCATをお借りすることができて、本当に最高のメンバーに集まってもらうことができて、みなさんゆっくり楽しんでもらいたいと思っています。声を出すのは…NGですが、椅子のある位置で立って見ていただくのは問題ないので、ぜひね」。そして手にしていたメスティンの説明が始まる。
「僕とこのイベントの言い出しっぺでもあるKeishi Tanakaの共通の趣味がキャンプということもありましてね。他のイベントにはないグッズを作りたいとメスティンを作りました。いわゆる飯ごうなんですけど、本屋さんにメスティンレシピとかも置いているぐらい流行っているからね、よかったら。お弁当にも使えるし、この後お弁当で日本一有名な男も出演しますんでね~(笑)。さぁせっかくなので、最初のアーティストを呼び込んで少しお話しようかな。Keishi Tanaka!」。
「田中啓史です、よろしくお願いします!」。中島ヒロトと旧知の中であり、自身のnoteで中島とのコンビでラジオ番組『たまに飲むコーラはうまい』も配信しているのがシンガーソングライターのKeishi Tanakaだ。「ヒロトさん50歳の記念にイベントやったらどうですか?」と中島の背中をドンっと押した張本人としてこのイベントへの出演も3回目、唯一の皆勤アーティストだ。「このメスティン、今まで買わずにキャンプしてきたのはこれためかと思うぐらい、グッズとして嬉しいです」とKeishi。すかさず中島が「僕ら明日一緒にキャンプ行く予定なので、これで何か作ろうかって話したりね」と仲の良さを見せつける。「今回は第3回にして初めて、ダラっとこんなトークから始まるっていうね。じゃあKeishi、ステージお任せします!!」と中島はそでへと進んでいく。さぁ、Keishi Tanakaの弾き語りライブがスタートする。
「ヒロトさん1曲目ぐらいソデで聴いて欲しいな~」と投げかけた後、せっかくなのでヒロトさんが大好きな曲からやりますねと歌い始めたのは、サザンオールスターズの「真夏の果実」だった。実はこの曲、Keishiの演奏で中島が歌うというのがお約束になっていて、これまではイベントのオーラスで「サライ」的役割を果してきたのだが、今回は冒頭に持ってくる斬新な演出(この日のKeishi Tanakaのセットリストに「真夏の果実」の表記はなく、完全なるサプライズだった)。一旦は引っ込んだものの、ステージに引っ張り出され困惑しながらノーリハーサルで「真夏の果実」を歌う中島。
「このままやりますね」とKeishi Tnakaのライブが始まってゆく。昨年の第2回『HFMF』に続き、この秋ギター1本弾き語りで全国を回った彼らしさが光るアコースティックステージだ。LEARNERSとのコラボソング「Just A Side Of Love」(沙羅マリーのボーカルパートは、第1回同様the band apartの荒井岳史が歌いあげる一幕も)、「This Feelin’ Only Knows」など、ライブで定番的に盛り上がる2曲だ。「コロナになってから僕は弾き語りを中心に活動しています。静かにでも楽しめる音楽はあると思うので」と話し、3曲目には共に弾き語りイベントも行っている村松 拓率いるNothing's Carved In Stoneの「Red Light」カヴァーを披露。そこからは「One Love」「Breath」「I’m With You」まで愛と、祈りと、これからの未来に思いをはせた楽曲が続く。これだけ巨大なBIGCATの舞台でステージにたったひとり、Keishi Tanakaという人の全てが光の下に晒されるようなライブだったように思う。 でも彼と彼の歌は本当にブレずにどこまでも広がっていく。会場中に響き渡る歌声の中にいると、こうやってライブができることや歌えることの喜びが声に乗っているようでとてもふわふわとした時間を堪能できた。12月12日(日)、本当に久しぶりとなるバンドセットを率いて大阪でライブをするKeishi Tanaka。そちらにも期待したくなる、そんなアコースティックライブだった。
続いてステージに登場したのはTOKYO No.1 SOUL SET。彼らを呼び込んだ中島が語ったのは「30年ほど前に地元の熊本でイベントの制作を手伝っていた時に、どうしてもソウルセットを呼びたいってそれが叶ったのが僕もソウルセットのみんなも20代の頃でした。そして何年も経って、自分のステージに出てもらえるなんて…」というエピソード。語り続けかけたがハッとして、長くなるんでみんなライブ見たいよね? と投げかけると会場から拍手が飛ぶ。2020年のコロナ禍で、結成30周年を迎えたTOKYO No.1 SOUL SET。大阪でのライブは久々とあって渡辺俊美のギターが鳴り始めた途端、お客さんがチラホラと席を立ってノリ始める。そしてDJの川辺ヒロシが作り出す圧倒的なグルーヴとサウンドが体にゴンゴン響き、BIKKEのボーカルが聞こえた途端に思った。コレコレコレコレ~!!!! と。立ち上がったお客さんはビートに合わせて手拍子する人、手を振って喜びを表現する人、体を小さく揺らして踊る人、みんな私と同じことを思った人たちだと思う。「RISING SUN」に始まり(ぜひここ2年ほど窮屈な思いをしていた人は歌詞をチェックして欲しい。元気出ます)、「JIVE MY REVOLVER」、「SUNDAY」、「黄昏20~太陽の季節」、「STAND UP」と、多くを語らず見ている者の熱をただただ上昇させてくれる曲が続く。
この数年足りていなかったのはコレだったとソウルセットのライブを見ながら何度思ったことだろう。エンターテインメント、ことライブ・クラブシーンに投げかけられたさまざまな課題によって、個人的にコロナ以降遠ざかっていたのが「ビリビリ来るビートを浴びるようなライブ」であり、「クラブで音を浴びているようなライブ」だった。あー今、音浴びてんな~と実感する瞬間がずっと続いていくライブ。男らしさ満点で、アダルトでオシャレでエネルギッシュでしかない3人が作り出すグルーヴにどっぷり浸かりながら、こういうライブがもっと体感できる日常になれと願う。私自身ライブを文字にして伝えることを生業にしておきながら、ソウルセット3人のライブ中メモしていたのは「かっけぇ」という言葉を無意識的に17個(もちろんいろいろ他にもメモしていましたが!)。きっと20代でイベント出演のラブコールを送った中島青年も同じ気持ちだったんだろうなぁ。あぁ気持ちよかった。そして「本当のかっこいい」を見た。
そしていよいよラスト、the band apartへとバトンが渡される。ステージに登場した中島が「ボーカルの荒井くんはこのイベントの幻になった1回目もゲスト出演予定だったんです。そして実現できた第1回でもKeishiのライブにゲストで出てくれて、早くバンドとして呼びたいなぁと思っていたんですね。今回はBIGCATで開催できると決まった時にバンアパに出て欲しいって声をかけたら快諾してくれて、本当に嬉しく思っています。ラストはthe band apartです!」と荒井岳史(Vo&Gt)、川崎亘一(Gt)、原 昌和(Ba)、木暮栄一(Dr)4人を呼び込み、ステージが幕を開ける。
木暮のリードで4人が一斉に音を出した途端、会場の多くの人がその場で立ち上がる。バンアパのライブに対する期待度が簡単に可視化できた瞬間だ。「rain dance」に始まり、荒井&木暮がプロデュースしたFRONTIER BACKYARDへの提供曲「夜の改札」、「Eric.W」まで一気に3曲。息をつくことを許さない怒涛のパフォーマンスだ。
「ついにthe band apartで出演できることを嬉しく思います。Keishiのゲストで出た時は気楽でいいな~って思っていたけど、やっぱりバンドで出るとなると緊張感が違って胃がキリキリして(笑)。でもKeishiと『真夏の果実』をやるっていうのがあったからそっちの方が胃が痛かったですね~」と荒井が語ると、会場からクスクスという声と拍手が起こる。そして続けて原が「今日は記念すべき日でもあるというか、ソウルセットと一緒のイベントに出られて」と言うと、木暮も「長年ファンだったしね」と笑う。そこからは「雨上がりのミラージュ」、「School」、「Taipei」まで、アーバンでメロディアスなサウンドが会場に満ちてゆく。
バンアパの音楽を体感していると、4人それぞれが激しく独立した音を奏でながらもそれが複雑に絡まり合ってひとつになっている印象を強く受ける。頭に浮かぶのは「超複雑な四重奏」という言葉。この日ももちろんそうだった。前出の2組からの流れを見ても、本当に今年の『HFMF』のライブは音楽もそのスタイルも含めて三者三様だ。
そして共演の嬉しさに高まりまくったという荒井の“5年ぐらい着倒してそもそもヨレヨレなソウルセットのTシャツを着ようと引っ張り出したら、うっかり太っていてパツパツのシルエットになったためみっともないから泣く泣く諦めた”というエピソードに会場が和む。そこからは、今の状況に歌詞が刺さりまくる「夜の向こうへ」、「Waiting」、そしてアンコール曲の「DEKU NO BOY」まで全9曲。見る者全てを圧倒しながら駆け抜けていくようなステージは、どこからどう切り取ってもBIGCATで見る意味と価値のあるものに思えた。そして終盤に語られた荒井の言葉がとても心に残ったので最後にぜひお伝えしておきたい。「今世の中が一旦いい感じになってきていますよね。かつての感じを思い起こさせるような。まだ椅子があって思うようには動けないと思うけど、どうか希望を捨てずにみんなでやっていけたらなと。そのお手伝いというか、音楽がそんな存在になればいいなと思います」。
終演後中島に、今日はどうでしたか? と聞いてみた。「まずKeishiにサプライズ仕掛けられて、荒井くんまで一緒にやんのかい! って思ったけど、あれをやってもらったところから感動しちゃったね」。手前味噌だけど…と前置きして話してくれたのは(ちなみにこのイベントについて語る時、必ずこの言葉を前置きして語り始める)、第1回から3回まで出演してくれたアーティストがみんな、空気がよかったと言ってくれたという。コツコツと積み上げたこれまでの3回を経て、どんなスタイルのライブになっても、そしてどこのライブハウスが会場になったとしても、『HFMF』的空気感が出来上がったということなのではないだろうか。「みんながいいって言ってくれた空気を大事に、来年に向けてまた準備できたらいいなって決意を固めたよ」。ということで、みなさんまた来年のハッピーとファンの祭典でお会いしましょう!
取材・文/桃井麻依子
写真/小川星奈
(2021年12月17日更新)
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