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「楽しい!っていうものがあると明日が来る。
レコーディングはまさにそういう作業でした」
安藤裕子インタビュー&動画コメント

いまだコロナ禍の不安が続く2021年11月、安藤裕子がアルバム『Kongtong Recordings』をリリース。同作に収められたのは、誰もが迷走する“混沌”とした時代のなかで彼女が創出した全12曲だが、それらは時に朗らかで軽快、時に暗くてヘビーだ。そんな一枚で見せた驚くほどに豊かな表現は、いったいどこから湧き出たものなのか?


――ニューアルバム『Kongtong Recordings』はタイトルどおりコロナ禍の“混沌”とした毎日のなかで制作されたものだと思いますが、その間どのようにお過ごしでしたか?
 
「まさにカオスですよね。毎日情勢が変わるし、生活の支柱となるライブが決まるたびに中止になるんですよ。ライブ決定の発表にも至らない。だから本当につかみどころがなかったし、人ってずっと暗闇にいると平衡感覚がなくなって、あややや!ってなったりすると思うんですけど、その感じに近いというか。この2年間は自分がここにいるのを、何をつかんで確認したらいいんだろう?っていう不安定さが終始あったなと思います」
 
――世の中全体もそんな感じでしたね。
 
「そうですか? どうでした?」
 
――不安定ですが、孤独への耐性に関しては個人差があって普段から一人でいるのが平気な人は比較的不安が少なかったのかな?と。
 
「確かに。日々の暮らしでは、コロナ禍前も飲みに行ったり、そんなに外出してないんですよね。だから、実は暮らしでのコミュニケーションという部分では変わらなかったはずなのに、なぜこんなに空虚なのか?っていうと、やっぱり私のコミュニケーションツールが音楽の表現だったんだなって。ライブができないこと、曲が作りたいのにレコーディングができないことがこんなにもストレスなのか!と。私はぼんやり一人で生きているようで、音楽を介して相当多数の方とつながっていることに安心していたんだなって、そして今それを失っているんだなって思いましたね」
 
――そんなストレスフルな状況だと、『Kongtong Recordings』の曲作りは苦しかったのでは?
 
「基本的には結構ずっと作りたいんですよ、何でも(笑)。作ってることで安定するっていう。ただ今回は最初に『進撃の巨人』というアニメのエンディングテーマとして『衝撃』という曲を去年の秋に作ったんです。で、制作するぞ!ってスタートを切り、この『衝撃』のカラー……いわゆるポップスと違う曲の世界観を背負ったアルバムを作るとしたら、もっとサウンドが偏ったダークなものを作ろうって思って、(イタリアのゴシックホラー映画と同じ)『サスペリア』っていうタイトルでデモを作り込んだり、『衝撃』で書き足りなかった『進撃の巨人』の世界の本当のエンディングを『Goodbye Halo』という曲にしたり、ダークな世界を膨らます作業をしていて。でも、だんだん自分の精神がそこでは耐えられなくなってきたというか、もっと明るい曲がやりたいんだ~!ライブさせてくれ~‼みたいな(笑)。そうなってくると、もっと痛快でウキウキするような曲がやりたいってなって、それでプロデューサーとして組んでくれているShigekuni君にお願いしたら、『UtU』(M-3)のオケとメロが来て一緒にプリプロダクションしたり、カーペンターズみたいな曲を作ろう!って『All the little things』(M-1)を作ったり。そうやって徐々にサウンドが開けていくのがだんだん楽しくなって、それを糧に過ごしてたかな」
 

 
――回復したんですね。
 
「回復というか本当に糧かな。私みたいな人間はすぐ灰色になってしまうけど、今これが楽しい!っていうものがあると明日が来る。レコーディングはまさにそういう作業でしたね。どんな曲を作っていたとしてもレコーディングが非常に楽しくて。そのおかげなのか最初はダークで誰も近寄れないものを作ろうぜって言ってたはずなのに、すごくポップな一枚になりました(笑)」
 
――まさに1曲目『All the little things』は散歩に出かけたくなるようなシャッフルビートのナンバー。心躍る幕開けです。
 

 
「ウキウキでお散歩させてくれよ!っていうね(笑)。ミュージカルだね!って言って作っていて、それこそスキップというか、サザエさん的に歩いてほしいというか。リリックビデオのアニメーションも最後に両手を広げてますけど、そういう感じ。舞台の上から祝祭をおくるような。この曲ができてようやくアルバムの構想が見えてきましたね」
 
――さらに続く2曲目はドラマ「うきわ ―友達以上、不倫未満―」のオープニング曲『ReadyReady』。
 
「この曲、難航したんですよ。でもドラマがすっごくおもしろかったからよかった~って。(出演した)森山直太朗君もよくてファンになっちゃった(笑)」
 

 
――まさに(笑)。森山さんをはじめとする登場人物が互いに支え合い生きていく日々を描いたドラマでしたが、『ReadyReady』の持つ芯の強さを感じる音像が物語にぴったりでした。
 
「心のうきわ(支え)なんですよ。『All the little things』にもそういう部分もあるかもしれない。日々のほんのちょっとしたことが、その人の暮らしの助けになる、支えになる。そういうものを寄せ集めて明日が来るというか。『All the little things』と『ReadyReady』はある意味通じる2曲かもしれないですね」
 
――そんな風にアルバム序盤はポップでアッパーに進みますが、なかでも3曲目の『UtU』は安藤さんの歌声が弾けていてとても楽しい。
 
「これはね、歌いがいがある一曲。キーもいわゆる地声が全開のキー。若い頃は自分のファニーな声が嫌だなって思って、ボーカリゼーションをいろいろ研究して、ファルセットだったりウィスパーだったり、ちょっと大人っぽい声色も頑張ってたんだけど、この曲はまさに鼻声全開で大きな声で歌い切るっていうのが逆にかわいいかなって。歌っていても楽しいんですよね。全部ウワーッて出し切る」
 
――でも歌詞は憂鬱を描いています。
 
「そうなんですよ。暗いことを綴ろうが何をしようが、発散できるものはできる。不思議ですよね。明るい曲も暗い曲も作るけれど、どちらもどこか自分の煮え切らない感情を浄化させるというか。そういうところに助けられているのかなと思います」
 
――ちなみに2016年の活動休止から復帰後、『ITALAN』(2018年6月発表)、『Barometz』(2020年8月発表)ときて、今作で完成形になったというような話をとある記事でされていましたが、その理由は浄化が十分にできたという点ですか?
 
「それは、今作がすごくバランスがよかったからだと思うんです。ただ趣味で自分の好きなことに没頭しているのではなく、それを生業にして生きていくうえで、人が愛でるものを、はい、どうぞ!って提供するだけでは、創造する側としてクリエイティビティみたいなものが削られていく感じがあって。でも、自分が好きなことだけやっていると、何のこっちゃわからんってものばかりになって生きていけなかったり。でも今回は自分が好きなことに割と没頭した時間だったのに、ふたを開けたらちゃんとポップスの市場に差し出せるようなものになっていたなって。自分としてはすごくバランスがよかったなと思って。でも、また偏っちゃったりすると思うんですよね(笑)」
 
――偏った人間としてはそれも楽しみです(笑)。
 
「もう偏った人を相手にやろうかな(笑)? まああれですよ。人気アイドルの方に楽曲を提供して収入を得て、ほかで好きなことをやるっていうのが夢です(笑)。割とポップスの作り方は知ってるんで頑張りますよ!」
 
――今日もリップサービス、ありがとうございます(笑)。そしてアルバムの話に戻ると中盤からトーンが変わり、特に6曲目の『森の子ら』が印象的。これは『進撃の巨人』の同名エピソードから生まれた曲ですね。
 
「そうなんです。人を殺す殺さないということ以上に、親になってもし我が子を殺められたらみたいな目線になった時、きれいごとでは感情が終わらないというか、終えられないんですよね。非常に難しい。この曲を作ってた時はスタジオでも論争が起きて、曲を書いた時と同じくまた号泣するっていう」
 
――『進撃の巨人』はそういった難問を投げかけているんですね。
 
「例えば戦争においては人を殺めるっていうことも正義に変わる。お国のためで英雄だって崇められる。かと言って殺された側や残された家族には蓄積する恨みというか、そういう思いが長年残って……。反日感情とかを過去のことでしょ?って言えないということですよね。100年に満たない時間のなかで、自分の親であり祖父母である世代の話はすぐに流せることではなかったりする。今もなお、みんなが抱えてるはずの根深い話で、もっと近しい話だと、自分の子どもが誰かに殺されたら、犯人を殺す以外に浮かばない。でも法治国家を守るためにはそれでは済まない。私刑を許してしまったらこの社会は守れない。人にはバグがあって、常に間違いを犯し、修正し、やり直すことを許さなければ、この社会はめぐらない。だから法律があって刑罰も決まっていて、それはもう一度やり直すためのものであるっていうのと、いや、そんなもの許すかいな!っていう。『森の子ら』のエピソードでは、受け継がれる恨みを親の世代で止めなければいけないっていう話をするんだけども、それは止められられないでしょう!って思う自分もいる。もう悲しみとかは消えないですよね」
 
――難しい。
 
「今回はなるべく重いものを省いて作っているけど、『進撃の巨人』に関する曲はどうしても深い世界観が入ってくるので、『森の子ら』と『Goodbye Halo』と『衝撃』はぐっとテーマが重くなりますね」
 

 
――『進撃の巨人』に刺激を受けて3曲もできたんですね。
 
「読んでみるまでこんなに壮大な話だと思ってなくて、巨人が暴れまくる話だと思ってたんですけど(笑)、読み始めたら違うんですよね。晴らすことのできない本当に人間の業。それをアニメというエンターテインメントとして描いているけど、今の人間社会で人が人として生きるうえで抱えている矛盾や歪み、すべてが混ざった大きな作品でしたね。1曲で終わらなかった」
 
――そして、そんな『Goodbye Halo』と『衝撃』でアルバムは重厚かつシリアスに幕を下ろします。アルバム一枚が激流ですが、先ほど話に出たように途中から曲の方向性が変わったとしても、この流れはある程度考えていたものですか?
 
「それはないですね。最後に並べてみたらこうなったっていう。だから最初、これは曲順を考えるのが無理じゃないかなって。でもいよいよ並べ始めたら意外とまとまったから、絶対に無理だと思ってた!ってShigekuni君に言ったら、いや、俺は絶対まとまると思ってたよって(笑)」
 
――頼れますね(笑)。さて、アルバムの世界を楽しめるリリースツアーが間もなく!
 
「こんなご時世ですし、来てくれるかな~お客さん?……と思います(笑)。あと、私、2時間も歌えるかなって」
 
――久々のツアーですもんね。
 
「コロナ禍でほぼほぼライブをやってないうえに、やったライブはだいたいアコースティックみたいな感じで、おしゃべりするように歌うっていうのに慣れてるから……。しかも、私はバンドでのライブって演劇的な部分があるかもって思うタイプなんですけど、そのスイッチの切り替えができるかなって。リラックスしてゆるくハハハってわけにはいかないというか、いわゆるちゃんと舞台に立つっていうのを叶えたいですね」
 
――今回はバンド編成なんですね。そして緊張感が漂いそう。
 
「たぶん相当、緊張してると思いますよ。倒れるかもしれない(笑)」
 
――久々のツアーに観客も緊張して波長が合うのでは(笑)?
 
「気の交換ですよね、ああいう場所って。だってMCはあるにせよ、本当の意味での会話をするわけではないから。魂をお互いに……どちらかが揺らした何かが伝わってくるかどうか?っていう。私もお客様から受け取るし、そこを楽しみにしています」

Text by 服田昌子



(2021年12月27日更新)


Check

Movie

Release

Album『Kongtong Recordings』
発売中 3300円(税込)
PCCA-6075

《収録曲》
01. All the little things
02. ReadyReady
03. UtU
04. Babyface
05. 恋を守って
06. 森の子ら
07. 少女小咄
08. Toiki
09. 僕を打つ雨
10. teatime
11. Goodbye Halo
12. 衝撃(album ver.)

Profile

あんどうゆうこ…1977年生まれ。シンガーソングライター。2003年ミニアルバム「サリー」でデビュー。2005年、月桂冠のテレビCMに「のうぜんかつら(リプライズ)」が起用され、大きな話題となる。類い稀なソングライティング能力を持ち、独特の感性で選んだ言葉たちを、囁くように、叫ぶように、熱量の高い歌に乗せる姿は聴き手の心を強く揺さぶり、オーディエンスに感情の渦を巻き起こす。物語に対する的確な心情描写が高く評価され、多くの映画・ドラマの主題歌も手がけている。CDジャケットやグッズのデザイン、メイクやスタイリングまでを全て自身でこなし、時にはミュージックビデオの監督まで手がける多彩さも注目を集め、2014年には、大泉洋主演の映画「ぶどうのなみだ」でヒロイン役に抜擢され、デビュー後初めての本格的演技にもチャレンジした。2018年にデビュー15周年を迎え、初のセルフプロデュースとなるアルバム「ITALAN」を発売。2019年6月には、15周年を締めくくる全国4か所のZeppツアーを開催。2020年8月26日にはアルバム「Barometz」をリリースし、収録曲「一日の終わりに」のMVは監督・斎藤工、出演・門脇麦、宮沢氷魚を迎え大きな話題を呼び、後に映画『ATEOTD』として全国公開された。そして、2020年12月7日にアニメ「進撃の巨人」The Final Seasonのテーマ曲「衝撃」をリリース。国内はもちろん海外からの反響も大きく、YouTubeのMV再生回数は250万回を超え、ストリーミンング再生も2400万回再生を記録し今尚増え続けている。2021年8月、テレビ東京系ドラマ「うきわ ―友達以上、不倫未満―」オープニングテーマに抜擢された「ReadyReady」を配信リリースし、11月には同曲を含む待望のニューアルバム「Kontong Recordings」をリリースした。

安藤裕子 オフィシャルサイト
https://www.ando-yuko.com/


Live

安藤裕子 LIVE 2022 Kongtong Recordings

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中
Pコード:206-938
▼1月16日(日) 17:00
COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
全席指定-8500円
※3歳以上はチケット必要。開場開演時間が変更になる場合がございます。客席を含む会場内の映像・写真が公開されることがあります。本公演は政府および開催地自治体の定める新型コロナウイルス感染対策の方針に従い対策を徹底し開催いたします。政府および関係機関のガイドラインの変更により対策内容や注意事項等、情報を更新する場合がございます。
※販売期間中はインターネット販売のみ。1人2枚まで。チケットの発券は2022/1/9(日)昼12:00以降となります。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888

【東京公演】
チケット発売中 Pコード:208-978
▼1月22日(土) 18:00
中野サンプラザ
指定席-8500円
※3歳以上はチケット必要。開場・開演時間は予定のため変更の可能性あり。客席を含む会場内の映像・写真が公開されることがあります。
※チケットは、インターネットでのみ販売。店頭、電話での受付はなし。1人2枚まで。
[問]ディスクガレージ■050-5533-0888

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