完全燃焼で作り上げた“聴く映画”を携え久々の東名阪ツアーへ
THREE1989インタビュー&動画コメント
今年1月に配信限定のベスト盤でメジャー進出を果たした3人組・THREE1989が、11月3日、待望のメジャー1stフルアルバム『Director’s Cut』をついにリリース。同作は映画館をテーマに7つのパートで構成する全26曲74分という大作で、川畑要やあっこゴリラなど、以前から交流のあるアーティストとのコラボ楽曲や、初めてのカバー曲も収録し、まさにボリューム満点&聴きどころ満載の仕上がりだ。そんな気になる意欲作についてボーカリスト・Shoheiに話を聞いた。
――アルバム『Director’s Cut』のテーマは映画館ということですが、なぜこのテーマに?
「いつかやりたいなってずっと思ってたんです。バンドを組んで8年、今回ようやく実現しました。『Director’s Cut』を出す前(2020年4月~)に4か月連続でシングルを出したんですよね。それを今回のアルバムに入れようってなった時に、その曲を軸としてその前と後、オープニングとエンディングって考えるとおもしろいストーリーになるんじゃないかなって話から、じゃあ今回は映画館っていうテーマでやれるねってなりました」
――そして今作は全26曲の大作。メジャー1stフルアルバムということでパワー全開という感じだったんでしょうか? 今はインディーもメジャーも変わりないのかもしれないですが。
「もともと僕らは曲を作ることに抵抗がない…と言うとおかしいですけど、よく言われる生みの苦しみみたいなのがあまりなくて、どっちかというと常に曲を作ってるという。なんで(前出の)4か月連続シングルも、(2019年の)10週連続リリースもできたわけです。今回のアルバムに関しても26曲が入ってますけど、実際は60曲以上デモを作って、そこからピックアップした26曲なんですよね。常に燃えている感じだから抵抗はなかったし、むしろやりたいことがやっと全部やれた感じですね」
――燃え尽きることはないですか?
「それで言うと、今回は初めて尽きたかもしれない。やり切ったっていう感覚がありますね。さっきメジャーとインディーの垣根がないって話をされたと思うんですけど、実際インディーでやってるなかでは、やりたいことができないことも結構あったんですよ。予算とか、手助けしてくれる人がいないとか。だから2020年の夏にはクラウドファンディングでレコード作ったり、僕らが監督して長編MVを作ったり。それでも、もっとやりたいことがあったんで、今回それがメジャーにいったからこそできた。だからすごく満足いってますね。今、死んでも後悔ないです(笑)。本当にそれくらい」
――ちなみに今回は北海道で制作合宿もされたんですよね。
「2020年からはリモートで曲を作ってるんですけど、あまり会えないなかで今回のアルバムが6割ぐらいできて、そこまではずっとリモートだったので詰め作業だけは北海道のニセコの大自然の中でやろうよって」
――公式YouTubeチャンネルにはニセコでの様子もアップされていますね。
「Instagramで配信もしてたんです。曲を書くのは楽しいけど、1曲1曲に対する書く衝動を得るための体験っていうのはやっぱりなかなかきつくて。でもそのきつい時に見えたものを僕らが歌にして聴いてもらって、それで少しでも心が晴れたり、楽しい気持ちになったりしてもらえたらうれしいなってさらけ出した部分もあるかな」
――生みの苦しみは少ないと言ってもやはり大変なんですね。そのために大自然が……。
「……必要でしたね(笑)。癒しとか、自由さとか」
――実際に違いって表れるものですか?
「全然違いますよ! 都会でギュッとして作ってもいい歌はできると思うんですけど、今はみんながギュッとなってる世界なんで、今回は大自然のエッセンスや開放感を入れたかったんです。本当に心が解放された状態でアレンジとかを進めていくと、今まで絶対に思い浮かばなかったアイデアが浮かんできて。曲だと、2曲目の『A. me too』とか4曲目の『裸』とかに反映されてますね。本当に環境で変わるんだなって実感しました。実は『A. me too』は、レコーディング時に気持ちにもうちょっと穏やかさとか壮大さが欲しかったんで、ニセコだけじゃなく、愛媛県の石鎚山っていう西日本最高峰に登って、そこで肌で空気を感じて朝日を浴びてから東京に帰ってすぐレコーディングして……僕、山登りとか全然したことなかったのに」
――普段しない山登りをなぜ?
「わからないです(笑)。でも衝動がすごかったです、その時は」
――0から1を生み出す人の衝動はさすがですね。実はSpotifyでShoheiさんの短編小説「みみ騒ぎに恋してる」を聞いたんですが、一つの曲を起点に物語を展開する力と、朗読に感心しました。
「あ、妄想のヤツですね。あれもやっぱり映画をいつか作りたいなっていう夢があって、その練習としてストーリーを1曲からどんどん広げていくっていう。台本をいつか書くかもしれないのでその練習も含めてというか。朗読もあれでいっぱい練習して、今回のアルバムにも初めての朗読を収録しています」
――今作のためにSpotifyを?
「いや、そのためじゃないですけど(笑)、でもそこの経験がいきてよかったなと。無駄なことは一つもないなって思ってます」
――その「みみ騒ぎに恋してる」では、おっしゃったように妄想で物語を紡いでいきますが、曲に関しては実体験から発せられる言葉が多いように感じました。実際、作詞はどのようにされているのですか?
「どうやってるのかな? でも純粋にやりたいようにやってるって感じですかね。その代わり、人からどう思われるとか、いろいろと顧みずやってますよ。今はそれよりも突き進む方が大事かなって。もちろんわがままではなく、ちゃんと何かのためにとか、そういう大きい愛のもとに突き進むっていうのが絶対大事だと思うんですけどね。それは今年1年間ずっと考えてテーマとしてやってきたことかもしれないですね」
――そういう思いは以前から?
「いや、変わりましたね。コロナがあって人とあまり関わらなくなって、ライブもできなくなって、自分と向き合う時間が多かったので、そのなかで見えてきたことだと思います。人と会えていた時…今までの自分は結構、流されてきたと思うんですよね。例えば野球をしたくなくても親の意見とかで野球部に入ったり、音楽がやりたかったけどできなかったり。そういうものを捨てていったら、今の自分がこうなったって感じかもしれないです。それの究極なのがコロナ禍だったなって。自分のことがクリアに見えてきて、周りの目も気にならなくなってきたっていうのがありますね」
――さて話を『Director’s Cut』に戻すと、随所に入るインタールードやスキットも秀逸。細部までこだわって作るとなると、アルバム全体の構成は初期段階から詳細にできていたんですか?
「マジで最初は何もなかったです。作りながら、どうする?ってディスカッションを繰り返して今の形になりました」
――だから逆にインタールードの遊びが必要だったんですかね。
「そうですね、やっぱりバラバラのストーリーなんで。作ってる時には気づかなかったけど、あれ、つながってない?っていうのがあとから見えてきたって感じです」
――個人的にはあっこゴリラさんとケンチンミンさんが参加したスキット「S.O.S -Skit」から次の曲「SAKASAMAの世界feat.あっこゴリラ, ケンチンミン」への流れがいいなと。少ししょんぼりする詞をメロディやトラックがカラッとさせてくれます。
「(詞に書かれているのは)きつかった時代……ま、今思えばきつかったんですけどね。当時の自分はそんなこと思ってなかったと思うんですけど、そういう時代と今が実は似てるなっていうので『SAKASAMAの世界feat.あっこゴリラ, ケンチンミン』ができたんです」
――でも仕上がりはライト。全体的にもそうですよね。
「ああ、重過ぎずとか…そこは意識してるかもしれないですね。ブルースってもともと奴隷社会の黒人の方たちがきつい労働があるなかで、つらいことも楽しく歌おう!と、足に鎖が繋がれているけど頑張ろう!みたいな精神があるというか。僕らも(それに通じる)ブラックコンテポラリーミュージックを今風にやっているんで、そういう根本的なブルースマナーみたいなところを入れていこうって感じです。10曲目の『夏ぼうけ』も、コロナ禍で結局何もできなくて“夏ぼうけ”しちゃったみたいな、結構マイナスな言葉の連ね方をしてるんですよ。運転免許も甲子園球児も後回し、とか。でも楽しいトラックとメロディで歌うことで、そういう気持ちが成仏するじゃないですけど、悲しみ過ぎず楽しくしていこう!って。僕自身、アップダウンが激しいんですけど、曲で昇華してるところもあるかもしれないです。あと、ライブしたらすごくデトックスされて気持ちが晴れやかになったりすることも多いですね」
――そんな心が晴れやかになるライブが間もなく。東名阪を巡る今作のリリースツアーが11月に控えています。
「3月のツアーでは大阪と名古屋は中止になってしまったんで、東京以外を回れるのは久しぶりですね。東京公演はワンマンなのでアルバムの(コンセプトである)“聴く映画”をちゃんと肌で感じてもらいたいですね。大阪と名古屋はツーマンライブで、大阪はNeighbors Complain、名古屋はOrlandがゲストです。Neighbors Complain は2018年に一度対バンしてて、同世代だしお互いのライブに遊びに行ったりして親交を深めてきて、久々に本当の意味での対バンって感じですごく楽しみ。Orlandは、2016年に僕らがTHREE1989に改名した頃、イベントに招かれて初めて名古屋でライブをした時に出会って……。彼らのライブを見た時、こういうライブをしたいなって思えたんですよね。僕らの目標の人たちなので、胸を借りるつもりでやりたいです」
――あと、アルバムテーマが映画館だけに演出にも期待が高まります。
「ワクワクしますよね。そこは今からもうちょっと考えようかなと。演出もなんですけど、今回はグッズとかも映画館に行ったらあるようなモノをと。映画館で食べるモノと言えば?とか。そんなのもあるので楽しみにしてもらえればと思います」
Text by 服田昌子
(2021年11月 4日更新)
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