結成から3年、待望のフィジカルリリース! インディポップグループ・cescoの3人が 初めてのアルバム制作を通して見えてきたもの
cesco(チェスコ)――――大学時代同じ軽音部に所属していたui(Vo&Gt)、桂健太朗(Ba)、矢嶋光(Gt)の3名を中心に大阪で結成されたインディポップグループだ。作曲を行う3名を中心に、楽曲によってサポートメンバーが入れ替わりつつ参加していくというスタイルを採用し、キーボードやホーン、パーカッションなどが加わり最大9名になることもある。そんな彼らは2018年に結成されたものの楽曲リリースをすることもなく、そろそろ大学卒業だしと2020年に自らの手で『A.O.R./Home Alone』を配信するや否や、彼らの元へ大阪のFLAKE RECORDS/FLAKE SOUNDSの和田貴博(DAWA)より突然のメッセージが届いたのだった。「曲があるなら、うちから出す?」ライトな誘われ方ながら、FLAKE RECORDSをよく知っていた桂・矢嶋の男性陣は心が躍ったという。そんなDMが起源となったデビューアルバム『The Natural Diet』が、好評を得ている。「今やりたいことを突き詰めたらポップとは? の答えになった」という12曲に、uiのスモーキーで少し気だるそうな歌声が乗るとグッとcescoの世界に引き込まれていく。現在は全員が社会人となり、大阪―東京に分かれながらもマイペースに活動を続けている彼らとzoomでつないで話を聞いた。
「バンド」と呼ばれることに対する小さな違和感
――今日はアルバム『The Natural Diet』についてはもちろん、cescoとは? みたいなお話も聞けたらと思います。よろしくお願いします。
cesco :よろしくお願いします。
――デビューアルバムリリースから2カ月ほど経ちましたが、反響は?
桂(Ba) :今回「アルバムを作ろう」って始めたわけではなく、大学時代に集まって遊んでいた時につくった5曲ほどを元にレコーディングをしてみようっていうノリでアルバムリリースまでいった感じなので、未だに何が起こったのか理解できていないというか(笑)。
――でも先日のPangeaでのライブ直後、CDがすごく売れていましたね。
ui(Vo&Gt) :CDを出したこと自体が夢みたいだし、今までは自分が買う側だったのに自分のCDを「ください」って言ってくださる人がいるとか、会場で「ライブ良かったです」って買ってもらえたりするのは嬉しかったです。
矢嶋(Gt) :僕は、いい意味で曲を消費されているなというか…。YouTubeで海外の方が反応してくれていたり、ライブに僕らの予想の範囲外のお客さんがたくさんいる印象があって。それも含めて曲が評価されているなという実感はあります。
――うんうん。さて、早速バンドについていろいろ伺っていきたいのですが、そもそもcescoの結成のきっかけっていうのは…?
矢嶋 :cescoは桂のバンドですね。
桂 :私が大学時代に音楽をやりたいって集めたらこうなりました。
矢嶋 :僕ら3人、同じ大学の軽音楽部だったんです。サポートメンバーもそこで出会いました。そのサークルの中でも音楽の趣味が合う人で集まって遊んでいて、僕の下宿先にみんながレコードを持ち寄って聴くっていうのがメインで、当時楽器はほとんど触っていませんでした。
桂 :好きな音楽を共有していただけ(笑)。
矢嶋 :uiは学年がひとつ下なんですけど、サークル内では歌ウマで有名で。
ui :私はいろんな人といろんなジャンルの音楽をやって、歌っていました。初めは矢嶋さんのことを知らなくて、後に桂さんに「すごく音楽に詳しいお兄さんがいるよ」って紹介されたんです。
矢嶋 :僕、サークルに全然行ってなかったので(笑)。サークルの延長みたいな感じで僕ら3人それぞれ音楽をつくりながら集まったりはしていて。その後、サークルは終わってもなんとなく音楽は続けていたんです。そういえば僕はギター、桂はベースが弾けるし、uiがサークル引退した時点で合流しようって話していたら「あれ、これバンドになるな」と思い始めて。集まって泊まり込みで曲をつくったのが始まりです。
――それがcesco結成とされている2018年?
桂 :うん、そうですね。
――その時どういうバンドにしようみたいな話は?
矢嶋 :そういえば言われて気づいたけど…全く話したことないですね。
桂 :そもそも僕らがやっていたのは作曲サークルみたいな感じだったので、今も全て曲が主導なんです。見えていたのはそれぐらいですかね。
矢嶋 :作曲サークルとはいえひとりで1曲作り切れるわけでもなく、誰かがつくったフレーズを全員で足していかないと完成しない状態だったんです。誰かの1ループをみんなでああだこうだ作る。今もそのやり方を続けていますが、だからこそcescoの曲は「誰の曲」っていう正解がないんです。
桂 :僕ら3人だけじゃなくサポートメンバーにも考えてもらっているフレーズも山ほどあるので、彼らもいないと成り立たないんですよね。
矢嶋 :本当は僕ら3人とサポートメンバー含めて9人で肩組んでcescoです! ってやりたいんですけど、みんな忙しくて(笑)。だから僕ら3人がcescoの営業部隊みたいなイメージで、バックにもメンバーがいるぞ! と。
――メンバーみんなで曲をつくっているとはいえ、どこか根本には主要3人それぞれのやりたいことだったり音楽遍歴がメロディーや歌詞に反映された音楽になると思うのですが…。
矢嶋 :音楽遍歴的なものは3人違うけど、方向は同じっていうか…。僕はギターを長くやっていて、クラシックギターを習っていました。家で弾いているだけだったので、初ステージは大学の時。ビートルズとかオアシスとかUKロックが大好きです。
桂 :僕は高校の吹奏楽部でコントラバスを弾いたり、大学でもライブをやっていました。中高はメタル、ハードコア、パンクが好きだったし、大学時代はインディポップとか…あと、レッチリ大好きでしたね。
――uiさんは?
ui :私、小さい頃は人一倍童謡愛が強い子でした。
――童謡!?
ui :まだ会話もできないほど小さい時からいつも童謡を楽しく歌っていて、そこから大きくなるとミュージカルをよく見に行くようになって、その後は聖歌隊で讃美歌を歌っていました。聖歌隊にいた時に声の出し方の基礎を学んで、その頃に「歌が好きかも」ってギターで弾き語りも始めました。そして大学ではカントリーとかロックとかポップスとか、とにかくいろんなジャンルで歌うことにトライしていましたね。
――本当に三者三様! 結成から初のリリースまで2年という月日が空いていますけど、その間はひたすらみんなで曲を作っていたんですか。
矢嶋 :そうですね。今回のアルバムは、cesco作品集的な側面があるんです。大学の時の合宿とかその後の2年間で作りためた曲を供養してあげようみたいな感じと言いますか。あ、でもその間に友人にライブ誘われて、出演するのに僕ら名前がないぞって急遽cescoってつけたっていうのはありました。名前を付けたらバンドになっちゃう! ってビビっていたので、僕ら名前がなかったんです
――ビビっていたというと?
矢嶋 :今でもバンドって名乗ることに少し違和感があるというか…。
――だとするとどう呼ばれるのが理想ですか?
矢嶋 :インディポップのグループって言われることがあって、それだなと思います。
桂 :僕もグループとか集団って言われる方がしっくり来ます。
――バンドっていう言葉に対する違和感を言葉にできますか。
桂 :ライブを見に行って、お目当ての4人組バンドのメンバーが1人いなかったとしたら、バンドを見に行ったっていうことになりにくいというか…。ひとり違うだけでも自分が好きなあのバンドと思えない。僕らはこの音楽を一緒にやろうよっていろんなサポートメンバーを自由に誘って演奏しているので、メンバーの加入とか脱退っていう概念がないんですよね。ガチッとメンバーが決まっているわけではないので、バンドではないのかな。
――それこそ大学のサークルってそういう集団ですよね。人が入ってきたりいなくなったりまた増えていたりっていうのが割と自由で。サークルの延長でもあるcescoらしい解釈でもありますね。
矢嶋 :そういえばそうですね。
FLAKE RECORDSから声がかかったのは大きなきっかけ
――結成から音源リリースまで2年、レーベルオーナーの(FLAKE RECORDS/FLAKE SOUNDS)DAWAさんも「彼らはリリースやライブをすることにこだわっている感じではなかった」と言っていました。それは何か理由があったんですか?
矢嶋 :作って、楽しい! 作って、楽しい! の連続で、発信する概念がなかったというか…。
桂 :大学卒業のタイミングで僕らの活動も最後になるかもしれないし、ちょっと出しとこうかっていうノリで、急遽『A.O.R./Home Alone』を配信したんです。
矢嶋 :本当にバタバタと『A.O.R./Home Alone』をApple MusicやYouTubeに出して1ヵ月ぐらい経った頃、「FLAKE RECORDSの和田と申します」っていうDMが突然来たんですよ。
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――おぉっ。
桂 :いきなりで驚きました。
――でもみなさん元々FLAKE RECORDSのお客さんだったんですよね。
ui :あ、実は私だけはDAWAさんのこと知らなかったんです…。すごい人からメール来た! ってふたりは盛り上がっていたんですけど、私は全然わかっていなくて。でもいつもそうなんです。知らないことが多い私に、いつもふたりが教えてくれるっていう。DAWAさんのことも後追いで知りました。
矢嶋 :(笑)。曲があって、やるならうちから出す? みたいなメッセージをいただいた後、僕と桂はDAWAさんと会う機会があって。
桂 :その時にFLAKEのイベントに遊びに行ってましたっていう話をしたりしました。
――いよいよアルバムの軌道が見えてきた感じですね。でもそれまでリリースすることに心動いていなかった3人が、動き出そうと思えたのはなぜだったんでしょう。
矢嶋 :個人的に…DAWAさんから声がかかったからっていうのはありました。
ui :私は事態を把握するのがいつも遅いから、後々すごいことなんだと思いました。そもそも弾き語りを始めた頃は1人でも音楽をやろうと思っていたんですけど、やっぱりひとりでやるには夢で終わるのかなって思っていたので、cescoなら実現できるかもとわかって嬉しかったです。
――作品化が見えてきたわけですもんね。そこからはどうやって制作をスタートさせたんですか? コロナ禍だし、矢嶋さんと桂さんは東京、uiさんは大阪で生活されていますし。
矢嶋 :僕ら合宿とかもしていましたけど、元々それぞれ家に籠って曲をつくっていたんですね。離れて暮らしていても同じやり方でつくっていたので、全く支障はありませんでした。交換ノートを回しているみたいな感じでフレーズをつくっては共有して誰かが足して、3人でメロディーの大筋を固めてサポートメンバーにも展開して。だから特に変わりはなかったかな。
ui :私はひとり置いていかれて寂しかったっていうのが本音です…。
矢嶋 :3人別々かと思いきや、男ふたりは東京で一緒にやったりもしていたので、uiには寂しい思いをさせましたね(笑)。
ui :ちなみに、グループ電話で話しながら録ったりもしましたよ。
矢嶋 :グループ電話で打ち合わせしてフレーズやニュアンスを確認して、よーいドン的に自宅で録ったり。スタジオで録るにしても自分たちで場所を押さえてパソコン持っていってマイク立てて自前でやります。…こういうやり方を選んでいるのが、さっきも話したバンドって名乗りたくないところなのかもしれないですね。
桂 :うん、そうかも。
――というと?
矢嶋 :曲によってはハイハットのマイキングを僕がやって調整も桂がやって「あ、よく録れたな」と思うこともあるんです。でもそれってエンジニアさんにお任せしたりして、本来バンドがやることじゃないんだけど、そういうことも仕事って胸を張って言いたいし、だからこそ“バンド”ではなくて音楽制作をしている“グループ”っていう自負があるのかな。本当に0から100まで自分たちでやっていますね。
桂 :録り方が下手すぎてボツにした曲もあります。
矢嶋 :ただ、自分たちでやるとやり直しができるしこだわることができるんですよね。ボーカルテイクに納得がいかなかったら何度も録ればいいし、行って帰ってを何度もできたなと思います。
桂 :僕は自分でレコーディングできるので、僕だけ大阪に行ってuiとスタジオに入って矢嶋さんに電話を繋ぎつつ「ここの感じもうちょっとこう」って電話で参加してもらうこともしました。
ui :あとは、結構家でも歌を録っていますね。
――家!? 家で歌を録る面白さみたいなところってどういうところなんでしょう?
矢嶋 :僕はuiのボーカルテイクを何百本と聴いてきましたけど、やっぱり念の乗り方が違うなと思いますね。僕ら3人で会っていわゆる公共の場で録ったテイクと、uiがひとり家で録ったテイクは全然違って。家でやっているので生活感が出るというか、生活に近い感じになるんです。電気付ける・ご飯食べる・音楽するっていう中で作られた感じ。逆にスタジオで録るとおでかけっぽくなっちゃうというか。
ui :それはわかる。
矢嶋 :僕も自宅でベロンベロンに酔っ払いながらわ〜って録ったものを使ったり、家だとすごくパーソナルな音になって面白いなと思います。
――その「念が乗る」という言葉にuiさんがめちゃくちゃうなずかれています。
ui :やっぱり気持ち次第なところはすごく大きくて。私は周りの環境にすごく左右されるタイプなので、自分の空想の世界にグッと入り込んで歌えるのは家だし、人の気配を感じないところで歌うっていうのもひとつ録り方としてあるのかな。でもスタジオはスタジオで良さもあります。
――じゃあ今回のアルバムの宅録楽曲をスタジオ収録し直すとしたら、また違う雰囲気に?
矢嶋 :それ、考えたくないですねぇ。絶対に…
桂 :絶対に良くないと思います(笑)。
矢嶋 :やっぱり宅録は雰囲気が乗りやすいっていうのはあるので。僕らのアルバムのレビューで「なにがどういいっていうか、とにかく心地がいい」って書いていただくことが多くて。それは宅録ならではの念やあたたかい感じがうまく伝わっているのかなと思うんです。
桂 :譜面に起こすと、僕らは全然難しいことはやっていないんです。だからこそスタジオだけで録るのは怖いっていうのもありますね。
自分たちの生活に合わせる形でcescoを続けていきたい
――個人的にすごく気になっていたのは、今回のアルバムリリース時に公開された桂さんのコメントで「このアルバムはポップである事を唯一のルールとして作り上げました。ポップであるという事は理想や妄想を具現化する事だと私は考えています」っておっしゃっていて。そのポップであることというのは、どこから導き出されたことだったんでしょうか。
桂 :そのコメントはなんとなく難しいように言った感もあるんですけど…。
矢嶋 :僕と桂で話していたのは、「とにかく好きな音楽を全部やる」っていうことでした。意図的に曲のバリエーションは広げましたけど、みんなで好きな音楽をやれば僕らの思うポップとかポップネスが出るんじゃないかなって。
桂 :できたものが「ポップとは?」ということの答えにはなったのかなと思います。
――先ほどお伺いした三者三様の音楽遍歴を持って、今やりたい音楽を突き詰めたらポップミュージックが集まった作品ができた。
桂 :はい。
――桂さんのコメントが先程の一文の後に「様々な先人たちの音楽と各々の理想や妄想に想いを馳せ、練り合わせたのがこのアルバムです」って続くんですけど、それぞれの音楽的バックボーンを知ったうえでまた曲を聴くと、あのコメントの意図がなんかわかるってなりますね。uiさんの童謡のエピソードとか。
桂 :我々イチ音楽ファンなので、この流れでこの音楽ができたみたいな話をするのが僕と矢嶋は好きで。それと同じで、あのアーティストの音楽があるからcescoが出てきたんだなみたいな話を少しでもしてもらえたら嬉しいなと思ってこのコメントを発表したところもあります。
――そういう考え方って曲づくりにも反映されていますか?
桂 :結構反映していると思います。
矢嶋 :僕と桂が音楽を聴いてする話といえば「これってあのフレーズだよね」とか「これって多分この曲聴いてつくっているよね」っていうことなんです。
――これまでの取材でも男性ミュージシャンの方から同じお話を聞くことも多いのですが、女性ミュージシャンからは聞いたことがないかもしれません。uiさんはどうですか?
桂 :確かにuiがそういうことを言ったことはないかもしれないです。
ui :私、感覚で生きているみたいなところがすごくあって。デモが届いたら、こんな雰囲気の登場人物の感じかなあとかこれ夏かなとか想像するんです。音楽に対してそういう近づき方をするので、聴く時もあんまり頭にある情報は意識しないかな…。
――頭で考える矢嶋さん桂さんと、感性でいくuiさん、対照的でいいバランスですね。
ui :私もふたりと同じ感じだったら多分cescoの音楽はできていないのかな。私だけ外れているところがなきにしもあらずなので。
矢嶋 :いや、往々にあるよ(笑)。
――それがぶつかるポイントになることはないですか?
矢嶋 :ないことはないですけど…僕は違うなと思ったとしても、最終的にcesco感が出ればいいというか。
桂 :誰かがこれめっちゃいいって言っていたら、僕がわかっていないだけでいいんだろうなって思えるぐらいの信頼はありますね。
矢嶋 :僕ら、お互いをプレイヤーとしてすごく尊敬しているんです。それは大きいと思います。
――それは本当に素敵ですね。ちなみに今までお話を聞いてきた曲づくりに対して、歌詞はどうつくるんですか?
矢嶋 :歌詞は自分だけ英語を話せるので、僕に決定権があります。曲のアレンジや印象が大体固まった状態で、歌詞は最後に書くんです。ありがたいことにuiは歌詞がなくても歌えるシンガーで、デモを録る時点でなんとなく歌になっているんですよ。歌に聞こえるというか。そのタイミングで僕がみんなにインタビューします。どういう印象だった? とか、どういう気持ちで歌った? とか。曲に対しての感想やイメージを日本語で書いてもらって机の上に並べて、そこから英語詞にしていきます。
ui :私はメロディーをつくったり曲を聴いた時に浮かんでくる情景を頭の中で短編映画のように組み立てて、そこから無意識的な感じでデモを録るとなんとなく曲になっていることが多いんです。その情景から見えるストーリーも含めて矢嶋さんと話すことは多いですね。
――そんな手法初めて聞きました。アーティスティックなやり方!
矢嶋 :ただ曲の方はやっぱりみんなでつくるっていう感じです。
――だからこそ3人揃っているのがベストだし、周りにサポートメンバーがいることもベストっていうことなんですね。…ということはアルバムつくるからこのテーマにして曲をつくってっていうのではなくて、自由にメンバーで曲をつくって曲のイメージに合う歌詞をつけた12曲を集めたらこの作品になった、と。
矢嶋 :うん、その通りです。だからこそイメージは「作品集」なんです。
ui :cescoは100%明るい歌詞はなくて、どこか影があるというか…自分たちもそんなに明るくないですし。
矢嶋 :どんなにカラッとした日本語が僕のところに来ても、ぼやかします。それは個人的にちょっと恥ずかしいとか評価されることへの怖さもありますね。でも『The Natural Diet』がいい反響をいただけたことで「これでいいんだ」っていう気持ちにもなってきているので、これから変わっていく予感もありますね。あと、タイトルはあまり意味を持たない言葉を付けたくて僕が提案したものが採用されています。
桂 :自由につくった12曲を集めているので、タイトルに意味ありげな言葉を使うとそれがアルバムテーマのように見えてしまう。テーマを設けていない作品だからこそ意味を持たない言葉がよかったので、矢嶋さんが出したタイトルに「あ、いいんじゃない?」って。
――非常に自然な流れというか。ちなみにジャケットもセルフプロデュースということですが、ジャケットについては…?
矢嶋 :これも意味はあまりなくて。僕ら、いつもジャケットはメンバーや友達に「ナイスな写真ちょうだい」って声をかけて集めた中から選ぶんです。今回の写真はサポートメンバーが短期で滞在していた部屋なんですが、これ、男の人の部屋にも見えるし女の人の部屋にも見える。明け方なのかも夕方なのかもわからない。ずっと住んでいる部屋か放置されていた部屋かもわからない。そういう曖昧な感じがよくて、これだ! って。僕らサブスク世代なので音楽を聴く時は必ずジャケットがついて回るんです。アルバムの全曲を通してジャケットがいわゆる曲の挿絵になるので、どの曲にもハマる写真を選びました。
――cescoとは? を詰め込んだ作品をリリースできたことで、次にやりたいことは見えてきましたか?
矢嶋 :cescoに対して腰を据えてやろうっていう思いは芽生えましたね。今回はデトックス的に学生時代につくった曲とかキラキラしたものを出し切った感じがしているんです。だからこそ次はまた面白いものが出てくる確信はあります。
桂 :今回の収録曲は2年前ぐらいから構想があった曲が多いんですが、僕はモードが切り替わりやすいので今のモードで曲を書いたら違うものができると思いますね。でも今なら僕の曲に限らずどう転んでも新しくなるかな。
ui :私は…いい意味で大きく変わったりせず、落ち着いてなが〜く好きな音楽と関わりたいなって思います。ずっと音楽が好きっていう状態でやっていきたいなと思っていて、そこに対しては私たちはみんな働きながら活動しているので音楽も生活の一部としてバランスが大事だと思うし、東京のふたりも体壊さないでって思います。体が資本! 心も体も健やかに長く音楽を続けるのが一番大事!
矢嶋 ・ 桂 :はーい(笑)。
ui :ふふふ。さっきも言いましたけど、やっぱりちょっとどこか生活感がある音楽っていうのが個人的にはすごく落ち着くし作品にそういうところは滲み出るんです。落ち込んでいたらそれが出るし、楽しければそれが出たらいいし、自分たちの生活に合わせてやっていけたらなと思いますね。
Text by 桃井麻依子
(2021年11月15日更新)
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