“節目の時にどうしてもASPARAGUSとやりたくなる”
盟友同士の珠玉の対バン
the band apart主催『SMOOTH LIKE GREENSPIA 2021』
ライブレポート
2017年から毎年秋に大阪で行われている、the band apart(以下バンアパ)・イベンターGREENS・関西ぴあ主催のイベント『SMOOTH LIKE GREENSPIA』。9月18日(土)、通算5度目の『SMOOTH LIKE GREENSPIA 2021』が服部緑地野外音楽堂で開催された。昨年はコロナ禍の情勢を踏まえて、対バンではなくバンアパのワンマンライブとして有観客+配信で行ったが、今年は対バン形式が復活! 対バン相手は盟友ASPARAGUS。ライブは有観客で、同時に生配信も行われた。お互いのバンドの歴史の中で、筆舌に尽くしがたいほどの存在の2組。ファン心をくすぐる組み合わせで、当日も予想を裏切らない素晴らしいステージングで魅了してくれた。
オープンと同時に、前方からいそいそと席を埋めていくオーディエンス。今日の日が楽しみだったことがそれだけで伝わってくる。2011年に日本武道館で行われたASPARAGUSとのツーマンライブ『SMOOTH LIKE BUTTER』のTシャツを着ている人も散見される。毎年こうして入場の様子を見ていると、つくづくバンアパは長く愛されているバンドだなあと感じる。
今年はアルコールの提供・持ち込みが禁止されていて、ドリンクやフードの販売もなし。昨年同様に大阪コロナ追跡システム登録、検温、消毒、マスク着用、観客自身のチケットもぎり、ひと席開けての着席で、感染拡大予防対策が徹底されていた。
心配されていた台風は夜のうちにすっかり去り、緑に囲まれた秋の服部緑地野音に涼しい風が駆け抜けていく。ステージ上には、毎年恒例のバンアパ・木暮栄一(Dr.)デザインのフラッグが風に揺れる。
先攻はASPARAGUS。SEが流れメンバーが登場すると、客席は早くも総立ちに。渡邊忍(Vo.&Gt.)が拳をあげると、大きな拍手が沸き起こった。1曲目は1stアルバム『Tiger Style』に収録されている『APPROACH ME』。高く伸びる渡邊の歌声が台風一過の空に吸い込まれていく。原直央(Ba.&Vo.)も気持ちよさそうに微笑みながらベースをプレイ。そして続けざまに『SHALL WE DANCE?』を投下。一瀬正和(Dr.&Vo.)の重めのビートがオーディエンスの身体を揺らす。自然にクラップも発生し、会場が心地よい一体感に包まれる。「ASPARAGUSでえす!」と渡邊。さらに爽やかなロックチューン『BE TOGETHER』でボルテージをアップ! 少年のように無邪気な笑顔を浮かべて音を弾き出す3人。ラストは大きくジャンプ!
渡邊が「今日はほんとにありがとうございます! 絶景の感じだね。(客席が)ひな祭りの三段飾りに見えた」と軽いトークを展開。「今回はバンアパとGREENSとぴあの三段飾りの上に僕らが乗らせてもらってるので、本当にありがたいです。毎年やっててさ、俺いいな~ってずーっと思ってたのよ。夢も叶ったし、皆の前でライブもできて、ありがとうございます。生チュー(生中継)あるのかい? 正装で見てるのかい?」と配信組へのアピールも忘れない。
陽気なMCを経て、原のイントロベースが火を吹き、間奏の転調が最高にカッコ良い『FAR AWAY』、そして『I’M OFF NOW』へ。軽快なビートに客席もノリノリ。渡邊がオーディエンスにアイコンタクトし、ハンズアップ! アコギの柔らかさとリズム隊の絶妙なバランス、切なさを孕んだグッドメロディーに心がわし摑みになる。さらに『DIDDY-BOP』で客席を躍らせる! 右に左に、ギターを弾きながら軽やかなステップを踏む渡邊。曲の途中でアコギからエレキに持ち替え、力強いストロークで勢いを加速させ、会場をガンガンに揺らしまくる。3人のコーラスワークがバッチリ決まり、大きな拍手の中、2度目のMCへ。
約1年半ぶりの大阪でのライブに感謝を述べ、「止まない雨はない。みたいに言うじゃない。コロナは思ってたより止まない雨があるなという感覚だなって。でもいつか止むんじゃないかなと思ってます。あとさ、俺毎日“オワタ”って思うんだけど、大体終わってないじゃない。今日もここに立ってるわけだから。意外に終わらないんじゃないか、しかもまだ始まってないんじゃないかって。何回も終わりながら、皆で一緒にまた始めていきましょう」と渡邊。確かにそうだな、とじんわりしていると、「元気でな、あばよ」と中指ならぬ人差し指を立て「息吸い放題気持ちいい~!」とお茶目な一面を見せる。なんてお茶目な大人なんだろう。かと思えばライブはめちゃくちゃにカッコ良い。
ASPARAGUSの巧みなテクニカルを存分に発揮した『gn8』から『小さな一歩』の繋ぎでは、まだギターのエフェクターが鳴る中でリズム隊がカットイン、思いがけない視点と衝撃を感じながら、ラストの『FALLIN’ DOWN』へ。客席からものすごく熱のこもったクラップが巻き起こり、サビでは一斉に手が挙がる。会場中を一体感の渦に巻き込んでライブは終了。本人たちが音楽を心底楽しんでいる、ということが純粋に伝わる、楽しさとカッコ良さが同居した最高のステージだった。余談だが、GREENSのYouTubeチャンネルで見られるコメント動画で、バンアパの荒井岳史(Vo.&Gt.)がASPARAGUSの“3人はキャッキャしている”と言っていたが、渡邊と一瀬が少しじゃれながらステージを後にする姿を見て、思わず笑みをこぼしてしまった。
そしてSEなしでバンアパが登場。総立ちの客席から大きな拍手で迎えられるメンバー。なんと木暮が坊主頭!(理由は後ほど明かされる)。お待ちかねのライブは名曲『Eric.W』からスタート。4人のアンサンブルのカッコ良さにビリビリと鳥肌が立った。生音が好きだと思うのはこんな時だ。続いて川崎亘一(Gt.)の超絶テクが光りまくる『AVECOBE』へ。早くも頭を振りまくって顔が一切見えない川崎の横では、原昌和(Ba.)がニコニコと笑顔でベースを弾く。ベースが印象的な『KIDS』では、勝手に身体が揺らされる。彼らの妙技に見とれていると、あっという間に1曲が終わってしまった。
MCでは「『SMOOTH LIKE GREENSPIA 2021』来てくれてありがとうございます」と嬉しそうに荒井が挨拶。「今年もできました、おかげ様でね。ここは大人気すぎて毎年抽選をしないと取れない会場なんですよ。激戦区を勝ち抜いて去年のコロナ禍もできて、今もコロナ禍ですけど続けてやれて。節目の5回目です。俺たち節目の時にどうしてもASPARAGUSに頼るというか。もちろん今まで出てくれた人たちも一緒にやりたいからやらせてもらってたんだけど、ASPARAGUSとやりたいなってなるんだよね。ASPARAGUSのいる安心感。盟友という言い方をさせてもらいましたけど、本当にASPARAGUSが出てくれてさらに今日が良いイベントになったと思います。ありがとうございます」と、来年20周年を迎えるASPARAGUSへの感謝を述べる。
続いてライブ初披露の『O.Bong』をプレイ。川崎の高音ギターが耳に涼やかで、荒井の優しい歌声が丸く響いたと思いきや、日本的な要素も垣間見えるバリバリのロックチューンだ。何だかライブのアンセムになりそうな予感。続いて渡邊が好きだという『ANARQ』、「皆が大好きな曲」と紹介した『DEKU NO BOY』を続けざまにプレイ。陽の落ちかけた服部緑地によく似合う、メロウな雰囲気に会場全体が酔いしれる。
「去年も配信をやって、忍さんの後にあれ以上面白いこと言うってのは俺にはできないから、真面目な感じになってんのかも(笑)」と荒井。「今回は結構懐かしい曲をやろうと、皆で練習して。俺ほんとに忘れっぽくなってて、CD聴いてもよくわかんないから、しまいにはYouTubeで調べて、どっかの誰かがコピーしたやつを見る。しかも弾いてて、“ここはちょっと間違ってるけどね”とか言って、1番ダサい(笑)。さっきやった『ANARQ』は全然わかんなかった」と話す荒井。ここから『ANARQ』のタイトルについて話題が発展し、いつものように原が照れ隠しからの悪態をつきつつも、ほっこりとした空気でMCを終えたのだが、事実、この日はいつもよりも若い客層が多かった。彼らの生み出す音楽に憧れるバンドキッズたちが、生でその演奏を見ようと足を運んだのか。世代を超えて音楽が引き継がれる喜びを感じずにはいられなかった。
続くパートは少しムーディーな楽曲を披露。まずは2002年の2ndシングルに収録された初期の楽曲。「懐かしい曲。俺、ド緊張してるから」と口にした荒井のギターリフから始まる『Take a Shit』では、一音ずつ大切に奏でる。続き、川崎がギターを持ち替えて、夜の入り口にぴったりの『8月』を披露。夏の終わりの風がさーっと頬を撫でる。荒井の伸びやかな歌声と原の丸いコーラスにゆったりと身を任せるオーディエンス。ブルーの照明がアダルトな演出で始まった『MTZ』では、メリハリのきいた転調と4人の複雑アンサンブルで、大人の魅力とスキルの高さを鮮やかに見せつけた。
ここで木暮の坊主の理由が明らかに。「本日に向けて気合を入れ、髪の毛を剃りあげた男が新曲でどでかいミスをしまして、誠に不甲斐ない! だけど実際は気合を入れて剃りあげたわけではございません。2台後ろにパトカーがいることに気づかず、オレンジ線を車線変更し、長年、無事故・無違反を続けてきた証のゴールド免許が普通の免許に格下げ。自分を許せず髪の毛を剃った次第でございます」と告白。「(ミスを)大丈夫だよ」とフォローする荒井と、原と木暮が新曲でのミスを指摘しあうという流れから、いきなり話を振られた川崎は“こくん”と頷き、原が「全員のことを愛してる」……という一連のやりとりを、ルールを遵守し静かに見守った客席に原が放った「こういう状況下でも皆さんを心の底から笑わせたい。その一心でやってきましたけども、ここまでシカトされたら、もう拗ねて曲やりますよ」との言葉から、いよいよライブは最後のパートへ。
アンセム『ZION TOWN』に続き、アーバンな『Waiting』ではキメをバッチリ披露。客席の頭上に両手が上がり、クラップが起こると嬉しそうに笑顔を浮かべる荒井。髪を振り乱しながら全身でしなやかにギターを弾く川崎。木暮のシンバルから荒井のギターがジョインし『夜の向こうへ』をプレイ。“イエイ イエイ イエイ”では、言わずもがな客席の手が一斉に上がる。鳴り止まない大きな拍手が贈られ、「最後の1曲やります。今日はほんとにありがとうございました」との荒井の挨拶を経て『38月62日』へ。曲の最後、セッションは熱を帯び、メンバーが一心不乱にそれぞれの楽器をかき鳴らす。客席も大きく身体を揺らし、双方がこの時を愛おしむ。笑顔で「ありがとうございました!!」と挨拶し、一旦ステージを去るメンバー。
アンコールでは、先に荒井と木暮が登場。「つらい時代と言われますけども、いつ生きててもつらいっちゃつらいし、楽しいこともあるっちゃあるし、腐らずやっていきたいと思います。音楽が何かに作用することはないですけど、この3時間ぐらいの間、“なんかやなこと一瞬でも忘れたな”、でいいと思います。それが次につながればいいなと思って今年も終わりたいと思います。今日は本当に集まってくれてありがとうございました」と荒井。そして、「大阪大好きだよ、またよろしく」と原がポツリと呟く。
客席から贈られた優しい拍手の後、奏でられたアンコールの1曲は、『SMOOTH LIKE GREENSPIA』のアンコールの定番と言ってもいいであろう『K. and his bike』。客席も大喜びで曲を享受する。荒井が“アーッ!!”と大きく雄叫びをあげたラストパートでは、4人のカラーを表すように赤・青・緑・黄色の照明がステージを照らす。最高潮に達したエモーショナルを携えて、ライブは終了。「ありがとうございました、また来年よろしくお願いします」と荒井が一言放ち、最後は木暮と原がそれぞれ客席にドラムスティックを投げ込むサービス。そして、木暮が両手を広げ、全員で一本締め!
こうして『SMOOTH LIKE GREENSPIA 2021』は幕を閉じた。もちろんこのイベントはGREENSとぴあの尽力、ルールをしっかり守る観客のモラルや協力があってこそ成り立っているが、まるで映画のような出来事が襲ってきても、決して歩みを止めずに進み続け、変わらず最高の音楽と時間をもたらしてくれるバンアパの姿に、どれだけの勇気をもらっただろうか。「来年もやるつもりでおります!」と宣言してくれた荒井の言葉。来年のことなんて正直誰もわからない。だけど“『SMOOTH LIKE GREENSPIA』があるから頑張ろう”、そう思う人も大勢いるはずだ。『SMOOTH LIKE GREENSPIA』は、間違いなく誰かの希望と糧になっている。いつもの場所でいつもの時期に。恒例となりつつある本イベントの行く先の道が、また新たに見えたような気がした。
Text by ERI KUBOTA
Photo by 渡邉一生/ヨシモリユウナ/nana.y(Greens)
(2021年10月 1日更新)
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