「ポジティヴに楽しめる環境をチーム一丸となって作っている。 本当に安心してライブに来てほしい!」 今年、記念すべき結成15周年を迎えて、通算10枚目の オリジナルアルバム『FRONTIER』をリリース&ツアーを開催! Hilcrhyme、TOCインタビュー
新潟を拠点に活動し、今年結成から15周年を迎えたHilcrhyme。2009年『春夏秋冬』の大ヒットで一躍全国区となるも、成功の後に大きな挫折も経験。2018年からは中心人物、TOCのソロプロジェクトとして再出発した。9月29日にリリースされた通算10枚目のオリジナルアルバム『FRONTIER』は“未開拓の分野を自らのラップで開拓していき、自分にしか作れない轍を残したい”との思いを込めて制作。表題曲『FRONTIER』で発する力強い決意表明、2曲目で相川七瀬の大ヒット曲をマッシュアップしたカバー曲『夢見る少女じゃいられない ~夢見ル少年~』が飛び出してくるなど、聴きどころ満載だ。圧倒的かつ心の影の部分にも手を差し伸べる優しさが感じられる。今回は新潟在住のTOCに大阪からオンラインインタビューを行った。柔らかい物腰で赤裸々に語り、15年のキャリアで培われた確固たる自信と内側に沸る熱い思いがしっかりと伝わってきた。
Hilcrhymeを25歳で結成
この15年に人生の大事なことが凝縮
――結成15周年おめでとうございます!
「ありがとうございます! メジャーデビューしてヒット曲が出た後は安定したんですが、一回チームがストップする出来事もあり、また再始動して今に至るわけで…、激動でしたが非常に刺激的な15年間でした。今年で40歳になったんですけど、Hilcrhymeを25歳で結成してから、この15年に人生の大事なことがギュッと凝縮された感じです」
――TOCさんにとって音楽活動を続ける一番の原動力は何だと思いますか?
「うーん…、やはり音楽を作る意欲ですかね。音楽を作ってない人生が嫌だなと思って、23歳の時に脱サラをしたので。音楽を作る環境にいられることがすごく幸せなんです。そんな自分の熱意に応えてくれた周りの人の力も大きいですね」
――“音楽を作る”という中に歌うことも含まれていますか?
「そうですね。もしかしたら、一番は歌うことかもしれないですね。ライブが好きで、ライブのために必要な曲を作るという感覚なので。まずライブ、次に制作という序列かもしれないですね」
――ライブでメッセージを届けたいという思いも?
「Hilcrhymeで最初から掲げているテーマが“ラップで万人の共感を得る”ということで、そこはずっと大事にしています。それで最初からラップをJ-POPにしたかったんです。当時はまだ(ラップは)アンダーグラウンドなものだったので、それをもっとオーバーグラウンドに持っていきたいという感覚でやっていました」
――2ndシングル『春夏秋冬』の大ヒットでHilcrhymeの名前が知れ渡り、TOCさんのラップや歌声がリスナーに浸透したわけですよね。今でも聴けばすぐわかります!
「はい、あれで一つ自分の願っていたことが形になりました。あの曲が自分たちの名刺になったのは間違いなくて、チームにとってすごくありがたい一曲でした。でも、そこからが難しかったですね(苦笑)。僕はいまだに自分のことを一発屋だと思っているんです。そうなりたくないと思っている時期はあったんですけど、あれ(『春夏秋冬』)は絶対越えられないので…。本当にたくさんの人の思いというか、レコード会社だけでなく、いろんな媒体さんも含めて、いろんなパワーがそこに結集されてできたことだから。そういうことにしばらくしてから気づいて、そこから一発屋という言葉に抵抗がなくなったというか、すげー一発だったな…と思うぐらいになりましたね」
――結成当初は二人で始めたHilcrhymeが、2018年から心機一転、TOCさんお一人で活動していくようになりました。ここも一つの大きなターニングポイントでしょうか?
「そうですね。2017年の12月に(元メンバーの)不祥事があって、次の年の3月に(元のメンバーが)脱退して、9月2日に日比谷野外音楽堂で再始動ライブを行ってそこからもう一度動き出したんです。ただ、楽曲の配信や販売は自粛していて、今回の10thアルバムのリリースタイミングでようやく全ての作品を再び配信/販売できるようになりました。ここからがまた一つの人生の再スタートだなと思っています。基本的にひとりになって変わったのは、自分がトータルプロデュースをするようになったことなので。自分が陣頭指揮を執ってトラックを作ったり、アレンジを誰かに頼んだり、そういうことを全部やっています」
日本でもラップが主流になりつつある現在
自分の存在証明となる曲を作ることが大命題
――新作の『FRONTIER』はどのような構想で作って行かれたのでしょうか?
「『FRONTIER』を聴いて、こういう方向で行くんだということがファンの人に伝わればという思いで作りました。あとは切り開いていくのみなんだなと、自分はそう思っているし、ファンの方にはそれをしっかり見せていきたいし、ワクワクさせていきたいと思っています! 新潟県在住で、大規模な全国ツアーをして第一線でやれてる人って本当に少ないと思います。ラップというカテゴリーではもしかしたら自分だけかもしれないので。自分が前例となる轍を作って行く、という意識をちゃんと持つようにしています。それは未開拓の地を耕していく作業だなと思って、この『FRONTIER』というタイトルにしました」
――確かに! 今作の一曲目となる表題曲の『FRONTIER』のリリックから力強い決意表明が感じられます。
「これはアルバムのタイトルを決めた次の日に書きました。6月ぐらいだったと思います。やっぱりテーマがバチっと決まるとペンは勝手に進みます」
――この曲はTOCさんからファンの人やリスナーに向けて発したいメッセージとして書かれたのですか?
「リスナーというよりは演者さん、俺以外のラップをしてる人たちに向けて歌ってる感覚ですね。だから、“調子はどう?俺意外”からスタートしてるんです」
――そうなんですね。サビで連呼される“未知なる道開こう 切り開こう 道なき道を行こう here we go”というリフレーンにはとても焚き付けられます!
「嬉しいです! 今は(音楽シーンで)ラップが主流になりつつあるから、こういう曲でも一般の人、特に若い人たちはちゃんと聞き取れる土壌が出来上がっていると思います。アメリカの音楽シーンでは数年前にヒップホップの売り上げが初めてロックを抜いて一位になりましたよね。きっと日本も同じ流れで、来年とか再来年にはもっとわかりやすい状況になると思うんです。そこで自分の存在を証明する曲を作るということが、ものすごい大命題として自分の中にあります」
国民的名曲『夢見る少女じゃいられない』をカバー
Hilcrhymeとしてのスタンスを明確にする自信作
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――今作では、相川七瀬さんの大ヒット曲をカバーした『夢見る少女じゃいられない~夢見ル少年~』(M-2)も目を引きます!
「『夢見る少女じゃいられない』という国民的名曲のカバーを『FRONTIER』のすぐ後の2曲目に入れたのは、Hilcrhymeとしてのスタンスを明確にして、(周りに)やれるものならやってみろ!的な感覚で入れました。それぐらい自信があります。一つの曲を全く別のものにしてしまう。このマッシュアップという作業はとても自信があったので、ちゃんとHilcrhymeの曲として成り立っていると思います」
――この曲を選んだのはTOCさんご自身のルーツが90年代のJ-POPにあるということも大きいのですか?
「その通りですね。多感な時期に聴いていた曲を自分なりに今の形に変えるというのは、やっていて楽しいですね。ずっとJ-POPをラップでカバーしたかったんですけど、メジャーでは著作権の関係でなかなかできなかったので。今回は絶対やりたいなと思ってやらせていただきました」
――これは全編歌詞は書き下ろされていますね?
「そうですね。元曲のフレーズを使わせていただいている部分もありますが、ほとんど(新たに変えて)書いています」
――歌詞の中には尾崎豊さんのオマージュのようなリリックも入っていますね。
「そうですね。25年ぐらい前の体験なんですけど(笑)、自分が15の時に剣道部の部活で寮生活を送っていて厳しい環境にいたんです。剣道部の世界ってすごい厳しい世界で、本当に辛くて。3年間で必ず一回は脱走者が出るんですけど、もう二度とここには戻ってこない!というぐらいの決意で脱走するんです。そういう当時の自分の心境が、尾崎豊さんの『15の夜』にぴったりハマるなと思って。そこからちょっと引用しました」
――それは、今の厳しい時代を生きる人にもきっと響くものがあると思います。
「そうですね。時代を問わず、閉塞感を感じてる人というのは多いと思いますし、今は特に閉塞感にまみれていると思います。そこから自由を求めて抜け出すというのは一つのメッセージではあります」
世の中が激動している中でどうあるべきか
『唯一無二』で投げかけている
――ラストの『夜光性』(M-10)はちょっと異色な雰囲気ですね。孤独で、弱さを抱えて生きている人に向けて歌いかけてくれているような印象ですが、この曲ができたきっかけは?
「実は、コロナ禍の中で自分が体調を崩してちょっと不眠症になった時に書いた曲なんです。不眠症は治ったんですけどね。寝れないというのは結構しんどくて…。多分、それは(パンデミックが続く)不安な毎日が精神面に影響してると思うので、若い子でもそういう状態で悩んでいる子はいるのかなと。僕の姉が看護師なんですけど、実際こういう子が多いみたいです。この曲では、寝られないなら、いっそ夜更かししようよと歌って、寝れないことをポジティブに捉えています」
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――ご自身の辛い体験があったからこそできた曲なんですね。
「そうですね。誰かにそう言ってほしかったというのを歌詞にした感じです」
――『唯一無二』(M-8)はご自身が唯一無二の存在になるんだ!という思いもあるかと思いますが、聴き手に向けても問いかけてる感じがしました。唯一無二になるとはどういうことなのか?と。
「その通りです。代わりのきかない人になろうというテーマで、一曲書きました。何が正しいかと言ったらやっぱ自分の道を追求して行くことだと思うので。ちょっと皮肉めいたことも歌詞の中では言ってるんですけど。昔の映画スターが喫煙所で愚痴をぼやいてるとか、TVスターは過去のものとなり、今は16:9の(スマホの)画面の中でユーチューバーたちが何百万人というフォロワーを集めたりしている。本当に激動している中で、自分がどうあるべきなのか、あなたはどうあるべきなのか、ということを投げかけています」
――聴いていると考えさせられたり、胸に刺さってきたりするリリックですが、自分ならこうしようって行動を起こしたくなる一曲かもしれない。
「そうですね。この歌詞は15年前の自分では絶対に書けなかったと思います。自分の成功体験もひっくるめて書いているので。成功して日の目を見て、その後どう過ごすかということが本当に課題の14年だったので。それは(40歳になった)今の歳じゃないと説得力を持たないだろうし、自分ならではの歌詞が書けたと思います。(自分と)同じ世代の人たちの中で同じ悩みを抱えている人もいると思うし、そういう人たちが聴いて、“あ、この曲何?”って思ってくれたら最高ですね」
『FRONTIER』を中心に過去の曲も
非日常な爆音でいっぱい曲を歌いたい
――この新作を引っ提げて展開される全国ツアーはどのようなステージになりますか?
「今回は最少人数に絞っているので、ステージに立つのは僕一人だけです。自分で音をミックスしていって、DJがミックスしているような演出をしています。Hilcrhymeのスタイルは変えたくないので。あくまでクラブミュージックを基盤にしてやっているというのをしっかり見せたいですね。『FRONTIER』を中心に過去の曲も入れて、非日常の爆音でとにかくたくさん曲を聴ける2時間にしたいと思っています」
――では最後にお客様に向けてメッセージをお願いします!
「関西のみんなには1年振りに会えるので本当に楽しみです! ライブハウスでやる楽しさを改めて見せたい。ネガティヴにならず、ポジティヴに楽しめる環境をチーム一丸となって作っているので本当に安心してライブに来てほしいです!」
Text by エイミー野中
(2021年10月21日更新)
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