『ソロデビュー20周年特別公演 上妻宏光 ―伝統と革新―』開催!
“伝統と革新”を掲げて世界的に活躍する三味線プレイヤー
上妻宏光インタビュー
ジャンルや国境を超えて、津軽三味線の新たな可能性を追求し続けている上妻宏光。2000年から本格的にソロ活動を開始して昨年20周年を迎えた。2020年3月にリリースされたソロデビュー20周年記念アルバム『TSUGARU』は自身の原点である津軽五大民謡で魅せる津軽三味線の決定盤となる渾身の一枚に!そしてこの秋、『ソロデビュー20周年特別公演 上妻宏光 ー伝統と革新ー』がいよいよ開催される! 今回のインタビューでは国内外で精力的に活動してきた20年の歩みを振り返りつつ、“津軽三味線の伝統と革新”を体現する集大成的なアルバム『TSUGARU』に込められた揺るぎない信念とソロデビュー20周年特別公演に向けての意気込みを語ってくれた。
三味線の良さをもっと幅広い年代の人や
いろんな国の人に知ってもらいたい!という思いでやってきた
――ソロデビュー20周年おめでとうございます!
「ありがとうございます! もう21年になってますけどね。(昨年予定されていた)20周年特別公演はまだやれてないので、とりあえずそれは遂行しようと思っています」
――この20年の間には多方面で多彩なご活躍をされています。その中で、上妻さんご自身が特にここが重要だったなと思われるポイントは?
「まず、2001年に発売した1枚目のアルバム『AGATSUMA』ですね。それまで(洋楽的な)シャッフルのリズムに乗せたクールでカッコイイ三味線の音楽は無いなと思ってたので、1枚目のアルバムではそういうカッコイイ曲を作れたらいいなと思って作りました。リリースしてから、同じ三味線奏者や演歌の人にも大きな反響があって、業界内に自分のスタイルが広く知れ渡ったということがとても嬉しかったですね。それ以降、国内でもジャズのミュージシャンの方からゲストに呼ばれたりして、一緒にセッションをしようという誘いもすごく増えました」
――さらに、2003年には全米デビューして、ハービー・ハンコック、マーカス・ミラーといった海外の超大物ジャズミュージシャンとも共演されています。
「はい、第一線でやっている一流の方の凄さを実感しましたね。なんといっても(ライブの)ステージの中の音を聴けたというのが素晴らしいことで、すごく勉強になりました。そこはすごくラッキーだったなと思います。一緒にバンドをやっていた方にもよく言われました。ピアノやギターがちょっと上手いだけではなかなか共演できるものではないので…、三味線という楽器だからこそ共演できたのかなと思いますね」
――純邦楽の世界で三味線を演奏されている方でも、上妻さんのように他のジャンルのミュージシャンと共演される方は少ないように思います。
「普通はできないですよね。(純邦楽の枠を超えて)違う活動をすると師匠や先生に怒られたりすることもあるので。また、ジャズのアンサンブルをするというのは、いくら古典の演奏がうまいからと言ってできるものでもないんです。ある程度音楽のコード進行を知らないと合わせられないようなところもあって…。ただ、手法が違ってもベーシックとなる音楽の歌心、音楽家としての会話というものは世界共通だと思います。悲しければ悲しいし、楽しければ楽しいわけで、人間としての感情は同じなんです」
――異ジャンルのミュージシャンとも精力的に交流されている上妻さんの原動力というのは?
「実は小学校の頃は自分が三味線をやっているということを自慢できないというか、胸を張って言えなかったんです。当時は年配の方がやる楽器のイメージだったので。その状況を変えたかったんです。そうしないと古典の世界も先細りになると思ったので、三味線の良さというものをもっと幅広い年代の人やいろんな国の人にも知ってもらいたいという思いがありました。それで早くから海外の音楽も聴くようになって、自分で三味線を合わせて弾いたりしていたんです。そこは努力というより、好きだからやりたい!という思いが人一倍あったと思います。(異ジャンルの音楽と)日本の古典楽器との化学反応というのはやっていて楽しいし、新たな可能性を感じて音楽の世界の広がりをすごく実感できることが自分の原動力にもなっていると思います」
ちゃんと古典に根ざした演奏家だということを表現したかった
――昨年、20周年記念作品としてアルバム『TSUGARU』をリリースされました。遡ると、2010年の10周年の時は『十季』というアルバムの中で『津軽じょんから節』をはじめとした古典楽曲を演奏されていますが、今作では上妻さんの原点である津軽五大民謡に焦点を絞っていますね。
「そうですね、ちゃんと古典に根ざした演奏家だというものの証明というか、それを表現したかったんです。周年というのは一つの節目になるので、原点を見つめ直したいというのは、多分10周年の時も言っていると思いますが、20周年を迎えてキャリアを重ねることで音楽というものはより変化しているのかなと思いますね。今回、10周年の時と同じ曲も入れているんですけど、やっぱり年齢とともに違う音の深みであったり、自分がやってきたことの集大成とも言える生きた証がすごく記録されると思います。そういう自分の生き様を皆様にも聴いていただきたいという思いもありました。今回のアルバムでは、もともとの三味線の立ち位置の伴奏のテイクも取りました。よく革新的なことをやっていると、古典の世界を疎かにしたり、ちょっと疎遠になっている人が多いんですけど、自分の場合はずっとそういう人との関わりも持ってきたし、親しい先輩方が発表するときに伴奏で参加させてもらってずっとやり続けてきたんです。そういう(三味線の)ベーシックな歌の伴奏力というものも聴いてもらいたいと思って収録しました」
――ソロの演奏だけではなく、民謡界の重鎮を迎えて共演している曲も圧巻です。
「『津軽じょんから節(旧節~中節~新節)』(M-7)で津軽三味線の名人の澤田勝秋さんと共演しました。新旧腕比べというか、同じ演奏家のせめぎあいを聴いてもらいたいですね。『南風ーHAIYAー』(M-5)では細い方の三味線の本條(秀太郎)さんと共演しています。これは古典のアルバムの中では一つの新しい試みであり、それも一つの目玉だと思います。普通は業界の先輩と一緒にやることはなかなかないんですが、そういう方が(三味線の歴史を)繋いできてくれたからこそ、今の自分たちもあるんだなという敬意を込めています」
――日常的に、こういう日本のルーツミュージックとなる古典民謡に触れることがない人にも聴いてほしいですね。
「そうですね、そのためのきっかけとしていろんなアーティストの方とも共演をしてますし、そこで知った方も上妻の原点ってなんだろうな?と思って、(今作を)聴いてもらいたいですね。三味線というのは色合いを変えることが難しいので、初めて聴いた人には同じように聞こえるかもしれませんが、一曲でも集中して聴いてもらって、興味を持ってもらえたら、何かしら感じるものがあると思うので」
――昨年から続いている新型コロナのパンデミックで大変な状況ですが、上妻さんの鋭くて深みのある三味線を聴いているとコロナ禍の世の中に漂う邪気を払ってくれるような気がします。
「それを払えるのであれば、毎日どっかで弾いてますけどね(笑)。でも、こればっかりはね…、自然というのは人間が叶うものじゃないので。こういう状況の中で音楽家としてどうやって生きていこうかな、何かできるのかなと、究極に考えますよね。なんとか終息してほしいと切に願うばかりですね」
ソロデビュー20周年特別公演は3組の豪華ゲストが登場!
――10月には『ソロデビュー20周年特別公演 上妻宏光 ー伝統と革新ー』が開催されます。今回の兵庫公演では、佐藤竹善、TSUKEMEN、宮沢和史という3組の豪華ゲストが参加されますね。
「これまでステージでも何度も共演を重ねてきた方々ですが、この組み合わせは初めてとなる豪華なゲストが一堂に会する貴重な機会となりますのでぜひ観ていただければと。ライブは第一部が自分たちのオリジナル曲で、第二部にゲストの方に来ていただくという構成になると思います。自分の方はバンド(パーカッション、ピアノ、ベース、DJ)がサポートしてくれます」
――この日は特別公演ならではのプログラムがご用意されているのですね。
「そうですね。今までのアルバムからの曲もありますし、ライブでしかやったことがない曲もやります。今回の公演用に新たにアレンジを加えているので、従来の曲を聞いたことがある方たちも喜んでもらえるようなものにしたいなと思っています。ソロで演奏する古典の曲からオリジナル曲、ゲストの方と共演する曲までバラエティに富んだ内容で、自分の集大成として伝統的かつ革新的な三味線の幅を聴いていただけるコンサートになるので、どうぞご期待ください!」
Text by エイミー野中
(2021年9月27日更新)
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