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“音は、言語に勝る言語”
揺らぎ・Miracoが伝えたいもの
1stフルアルバム『For you, Adroit it but soft』リリース!

6月30日、滋賀県発のバンド・揺らぎが、1stフルアルバム『For you, Adroit it but soft』をリリースした。前作EP『Still Dreaming, Still Deafening』以来、約3年振りとなる今作は、さまざまなアプローチで楽曲を制作。客演に英国在住日本人ビートプロデューサー・Big Animal Theoryを迎えたり、インディロックバンドのBearwearのボーカル・Kazma Kobanashiや、アメリカ生まれのアーティスト・singular balanceに作詞を依頼したりと、自分たち以外の要素を積極的に取り入れ、コンセプトに縛られない自由な表現を試みている。また、Miraco(Vo.&Gt.&Piano)は自らの体験や昨今の女性を取り巻く状況を歌詞に込めた。このチャレンジは、同世代の女性のみならず、性別や国を超えて多くの人に気付きを与えるだろう(そのことを強く願う)。ぴあ関西版WEB、2度目の登場となる揺らぎ。今回は、新作アルバム制作の裏側を、Miracoに聞いた。

コンセプトを決めず、どこまでリスナーを裏切れるかを模索


――コロナ禍、揺らぎの皆さんはどう過ごされていましたか?
 
「最初の半年くらいはやっぱり全然リアルで集まれなくて、曲作りもパソコンでやろうとするけど、進み具合が遅かったです。夏頃に少しコロナが落ち着いてからは、直接会ってやり取りをして、スタジオに入っていました。ライブは2019年12月から1本もやっていなかったので、コロナの間は制作に集中していた感じでしたね」
 
――今作の制作に入ったのはいつ頃でしたか?
 
「2年ぐらい前から作り始めていて、コロナになって少し止まった時期はあったんですけど、それでも制作は続けていました。メンバーが東京と関西在住で離れてるので、DAWソフトを使ったり、制作方法をいろいろ試してみたんですね。なのでボツになった曲や、最初の原型がないぐらい変更を重ねた曲もすごくあって、かなり長期スパンだったなと思います(笑)」
 
――制作が終わったのはいつ?
 
「全部終わったのは、レコーディングの2〜3週間前ですね。アレンジも含めたらもっとギリギリまでやってました。たとえば1曲目の『While The Sand's Over』は、レコーディングスタジオで直接Kntr(Gt.&Synth.)が考えながら作ったり。なので、本能の赴くままに作った音が入っています」
 
――『While The Sand's Over』の砂の音も、パソコンで作られたんですか?
 
「実はあれは、砂の音じゃないんですよ。マイクのグリルを外して、空調の音を録ったんです。あと、私がレコーディングの直前に買った、喉に直接当てる医療用加湿器が、加湿器としても楽器としても役に立ったという面がありました(笑)」
 
――おもしろい。作曲は、Miracoさんが作ったタネに肉付けしていくスタイルですよね。
 
「はい。そのパターンもありますし、前作と比べて大きく変わったのは、ギターのKntrが曲のタネを出してくれたところ。彼はパソコンで電子音楽を制作できるんですね。彼が個人で作っていた曲を、揺らぎで制作し直したりもしたんです。なので、私のタネからできた曲もあれば、Kntrのタネからできた曲もあって。今回はコンセプトを決めずに、良い意味でどこまでリスナーを裏切れるかどうかを模索していました。“今までの揺らぎではないけど、揺らぎだな”とわかる音楽を目指し続けた結果が、今作のアルバムです」
 
 
 
他人とアイデアを組み合わせて音楽を作る楽しさを、誰よりも知っている
 
 
――今作は共同制作の楽曲がありますね。
 
「『Dark Blue (feat.Big Animal Theory)』(M-4)は、Big Animal Theoryがプロデューサーで、『That Blue, I’ll be coming』(M-3)を元にリミックスみたいな感じで作ってもらいました。一緒に作るというより、素材を渡してほぼ彼に任せたんですけど、新しい共同制作の形ということで模索して出てきたやり方です。だから敢えて、うちのバンドで制作してない曲が入っています」
 
――そういう試みをやりたいという想いは、前からお持ちだったんですか?
 
「そうですね。うちは誰か1人がワンマンで曲を作るバンドじゃなく、他人とアイデアを出し合って作るんですね。だから、他人と意見を組み合わせて音楽を作る楽しさを、誰よりも知ってるバンドだと思うんです。だからこそ、今回の共同制作が実現した感じですね」
 
――実際に曲が完成して、いかがでしたか?
 
「Big Animal Theoryの特徴も出てるし、揺らぎっぽさも出ててすごく良い。ぶっちゃけ、“自分たちの曲よりめっちゃ良い!”ぐらいの感動がありました(笑)」
 
――Miracoさんもコーラスをされていますよね?
 
「コーラスというよりは、私が歌った『That Blue, I’ll be coming』の声を素材に使って、彼なりの揺らぎを表現してくれました」
 
――『Underneath It All』(M-8)は、Bearwearのボーカル・Kazma Kobayashiさんが作詞されています。
 

 
「彼は帰国子女で、Bearwearも歌詞が情景的で、曖昧なニュアンスを詩的に表現するのがすごく上手なんです。そういう部分が揺らぎとマッチするんじゃないかと思って依頼したんですけど、上がってきた英詞も和訳も思った通りすごくマッチしていて、本当にお願いして正解でした。『While My Waves Wonder』(M-6)も彼が作詞してくれています」
 
――どういったオファーをされたんですか?
 
「“この曲は明るい感じで書いたよ”とか、曲に対してぼんやり抱いているイメージを伝えただけで、コンセプトや歌詞は完全にお任せで、メロディーを共同で制作しました」
 
――曲名も小林さんがつけられたんですか?
 

 
「タイトルは揺らぎでつけてるんですけど、『While My Waves Wonder』は、サビのフレーズがすごく象徴的で、曲のイメージとも合ってるので、そのまま曲名にさせてもらいました」
 

 
女性を取り巻く環境の変化を知ってほしい

 
――今作でMiracoさんが作詞された曲は?
 
「MVになる『That Blue, I’ll be coming』(M-3)です。この曲ができた時、自分の体調面もあって、何となく生理の曲だなぁってぼんやり思ったんですね」
 
――生理の曲。
 
「はい。そう思った理由が体調だけじゃなく、最近女性の置かれる状況を意識したからです。世界中で女性の立場が変わり始めていたり、声を上げる女性がすごく増え始めたなと感じていて。曲を書いた時、私自身の考え方がアップデートしている途中だったんですね。生理はどんな女の子にとっても自分事だし、人類が進化しても、多分ずっと女性の身に起こること。日々感じている、身近なテーマだったんです」
 
――生理中の憂鬱な時を、“Blue”という言葉で表現されたんですか?
 
「私は結構、歌いながら言葉が出てくるタイプで、この曲が生理の曲だなと思う前から、“Blue”という単語は歌詞にあったんですね。何となく憂鬱な、青色の空気の中に自分がいるイメージがあって。出てきた言葉に対して、自分の身体的特徴が重なったのかもしれないです」
 
――歌詞の“But we never notice that fighting invisible  A world without understanding=目に見えない戦いは気付かれない。世界中、誰も分かっていない”の部分は、生理についてなかなか理解されないという意味ですか? 
 
 
「私の場合、理解してくれる人は周りにはいるんですけど、メンバーが私以外全員男性じゃないですか。で、“この曲のテーマを生理にしたい”ってメンバーに言うのに、かなり勇気がいったんですね。私、結構何でもあっけらかんと言う性格なんですけど、意外と勇気が必要で、おちゃらけて伝えてしまったというか。曲の要になる、自分の女性としての部分がどう世界を捉え、どう生きるように迫られてきたか、自分の口からメンバーに伝えることができなかったんです。意味を伝えたいけど、真剣すぎる空気になるのが怖くて言えなかったのと、女性をやたら主張してると思われるのではないかという空気をちょっと感じて。“目に見えない戦い”は、男性に対してというより、実は女性自身が、全世界の女性を取り巻く空気感や、自分の置かれている理不尽な状況に気付いていなかったりすることですね」
 
――特に日本は性教育が男女で分けられていて、生理がタブー視されています。徐々に変わりつつあるけれど、そのことに疑問を持たない女性もまだまだいますもんね。
 
「女性同士で生理マウント取ってくる人もいると思うし。“敵ではないけど理解者じゃない”というのは、性別は関係ないのかな、というのが私の一意見です」
 
――Miracoさんご自身は、生理について理解されない体験をされたことはありますか?
 
「ありますね。ツアーとかで、大阪から東京まで運転する時に、“生理中でちょっと体調悪い”って言うと、メンバーは“まあいいよ”って言ってくれてるけど、ちょっと“えー”みたいな空気を出されたことは、本当に昔はありました。でも、伝えないと理解してもらえないので、もう6年くらい一緒にいるんですけど、少しずつ伝えていって。かつ、こんな世の中だから、メンバーも徐々に知識がアップデートされているので、理解してくれるようになりました」
 
――生理についての話題も、ニュースやメディアで取り上げられるようになってきました。
 
「これまで女性は、生理でもしんどいと言っていいことに気付かなかったんですよね。黙って我慢してる。だけど、“私たち生理と戦ってます”と、大手を振って主張することがおこがましいという違和感もあって。それは多分、男性から見た時に、生理が女性の特権として扱われたりすることがあるから。これはメンバーの話ではないんですけど、生理と言えるようになってからも、うっとおしそうな顔をされたり、“女は休めていいよな”、みたいに言われたりもありますね」
 
――なるほど。
 
「あと、女性の自衛の話で、めっちゃ細い歩道で向こうから男性が歩いてきたら、車道側に降りてすれ違うのは女性側なんですよね。立場が平等ではない。女性が遠慮して健気でいることを強制されている空気がすごく見える感じがしますよね」
 
――日本はジェンダーギャップ指数が低くて、156カ国中120位(2021年度)なんですよね。そして、一歩下がって慎ましく男を立てなければいけないという風潮や、出る杭を叩く風潮もあります。
 
「女性だけじゃなく、男性も泣いちゃいけないとか、男らしくいなきゃいけないとか、日本には性別で決められている価値観が多いなと気付いたんです。すごく苦しそう。世界規模で考えるには、私はもっと勉強しないといけないし、意見を言うのは難しいんですけど、周りの人達とより良い関係を築くための手段の1つになればいいなと思って、この曲を作りました」
 
――この曲を通して女性、男性、全ての人にジェンダー平等が届いてほしいと。
 
「本当に。女性だけの曲ではないですね。皆のための曲だなと思います」
 
 
 
“このメンバーで作る音を純粋にどうしたいか”は、不変のスタンス
 
 
――弾き語りの『The Memorable Track』(M-7)は、どなたが作詞作曲をされたのですか?
 
「これは私とかんちゃん(Kntr)で作りました。東京でスタジオ入ってて、まだ曲数足りてないから作ろうかとなって、かんちゃんがコードを適当に引き始めて、私が適当に歌をつけて完成しました(笑)。揺らぎはそういうのが結構あります」
 
――歌詞が、その、まあまあ……。
 
「暗いですよね(笑)。歌詞は私が書いたんですけど、最初歌ってる時に、両親や親戚の顔が浮かんできて。うちの実家が居酒屋をやってたんで、子供の時は祖父母やおばさん、親以外の人がすごく面倒を見てくれたんですよ。今私は25歳で、だんだん大人になって、親たちの気持ちがわかるようになったというか、親も人間だったんだなと。この曲は、親以外に面倒を見てくれた人への贖いというか、子供の自分が感じていた罪悪感を表した曲です」
 
――それは、ご両親以外の人がMiracoさんの面倒見てくれたことに対しての罪悪感?
 
「そうです。私結構生意気な子供だったんで、面倒を見てもらってるのに、すごく反抗して。それでも実の娘じゃないのに、親以上の愛情を注いでもらったんです。それを反省した時に、“私は川に沈んでしまいたい”という表現が出てきたんです(笑)」
 
――なかなかヘビーですね(笑)。相当な罪悪感だったんでしょうか。
 
「でも今はやっぱりすごく感謝してるから。自分が元気に生きて夢を叶えたり、生きてる姿を見せることが大事だと思いました。で、この曲がラストの『I Want You By My Side』(M-9)の歌詞に繋がってるんですね。これはsingular balanceが書いてくれたんですけど、“小さい頃、親や周りの人に大事にされて遊んだ何気ない風景がすごく心に残ってて、それが今でも私を支えてくれてるんだ”ということを彼に伝えて、その心情をもとに作詞をしてもらいました」
 
――そうなんですね。“沈む”と正反対の意味の“Floating”が『I Want You By My Side』の歌詞に出てきて、救われた気持ちになりました。罪悪感も解消された?
 
「私はあまり甘えられる子供じゃなくて。だから罪悪感の方が先に出てきたのかなと、今ちょっと思いました(笑)。この曲によって昇華されて、ある意味大人になった自分を発見できました」
 
――『Sunlight’s Everywhere』(M-2)の歌詞にも“Floating”が出てきますね。
 
「これもsingular balanceの作詞です。だんだん明るく広がる曲なので、子供から大人になっていくイメージもあるかもしれない。迷っている自分が、迷いから抜け出せたというイメージの曲です」
 
――“I won't give it up”という力強い言葉から始まるし、没入感があって、希望を感じる曲だなと思いました。
 
「私、音は最強の言語だと思っているので、いつもメンバーには曲のイメージや想いを言えてなくて(笑)。純粋に自分たちの音を求めるバンドだと思ってるからこそ、言わなくても伝わると信じてます」
 
――そのスタンスはずっと変わらない。
 
「そうですね。別にリスナーを意識したこともないし、何かになりたいとも思ったことはなくて。ただ純粋にこのメンバーで作る音をどうしたいか、どう突き詰めるかというのは、もうずっと変わらないスタンスで、これからも変わらないと思っています」
 
――アルバムタイトルの意味は?
 
「アルバムタイトルはKntrがつけてくれたんです。直訳すると“あなたのためにそれを優しく取り除く”みたいな意味とも取れるんですけど、意味はあんまりないんです(笑)。私的な解釈では、今の現代って、自分の周りに取り巻くものが意外と多いと思うんですね。このアルバムを聴いてる人が少しでも癒されて、誰かのお守りになってくれたらいいなと思います」
 
――改めて今作、どんな1枚になりましたか?
 
「個人としては、歌い方や表現方法が前のアルバムと全然違うことに、録ってから気付きました(笑)。1年半ボイトレに通ったり、表現方法を自分なりに学んだり、技量的に自分と向き合った部分があったんですね。そういう意味では成長したし、このアルバムができてびっくりました(笑)。全体で言うと、コンセプトを立てずに作ったのに、こんなに純粋なものが自分たちから出てくるのかと。それこそ言語に勝る言語が完成したと感じました」
 
――言語に勝る言語。ちなみにMiracoさんは、どういうところが変わりましたか?
 
「前は意図せずウィスパーボイスにこだわってた部分があったんですけど、力強く歌ったり、伸びのある表現をしたり、ウィスパーだけにこだわらなくなったところが1番の変化だと思います。もっと頑張らないと、という部分はあったんですけど、新たな自分の一面としてワンステップ成長できたと感じています。あと10ステップは成長できるよう、次のアルバムも頑張ります(笑)」
 
――次のバンドの動きは?
 
「8月21日(土)に名古屋stiffslackでレコ発のワンマンライブをやります。その次は10月2日(土)にFLAKEの15周年のイベントがあって、それを関西のレコ発代わりにやろうと思っています」
 
――楽しみにしています!

Text by ERI KUBOTA 



(2021年7月 5日更新)


Check

Release

1stフルアルバム発売!

『For you, Adroit it but soft』
発売中 2530円(税込)
FLAKES-246

《収録曲》
01. While The Sand's Over
02. Sunlight’s Everywhere
03. That Blue, I’ll be coming
04. Dark Blue (feat.Big Animal Theory)
05. An Atrium
06. While My Waves Wonder 
07. The Memorable Track
08. Underneath It All
09. I Want You By My Side

Profile

2015年結成。1st Single『bedside』、1st EP『nightlife EP』を発売したのち、2018年8月、FLAKE SOUNDSより初の全国流通EP『Still Dreaming, Still Deafening』をリリース。映像ディレクターPennackyのディレクションの元、収録曲から「Unreachable」のMVを公開した。2019年2月、羊文学、No Busesの2組を迎え、自主企画”Wearing The Inside Out”を開催。2019年7月、FUJI ROCK FESTIVAL’19 ROOKIE A GO-GO出演。同年12月、初のリミックスEP『Still Dreaming, Still Deafening Remixes & Rarities』をリリース。リミキサーとして、ミニ・アルバム『feel a faint your mind』を発表した新鋭エレクトロ・ポップ・バンド sayonarablueから9:en、InstupendoのリミックスやPhoraのプロデュース、Lontaliusとの共作で知られるsingular balance、LORD APEXやRalphをゲストに迎え最新作『However Well Known, Always Anonymous』をリリースしたBig Animal Theory、Ryan Hemsworth主催レーベル"Secret Songs"所属カナダ在住プロデューサーのKogane、数々のWebCMの楽曲を手掛ける同バンドギタリストKntrの5名が参加した。これまでに、Turnover, Japanese Breakfast, Nothing, I Mean Us, Tigers Jaw等多くの海外アーティストのゲストアクトに抜擢され、今後も国内外での活躍が期待される。2021年6月30日に1st Full Album“For you, Adroit it but soft”をリリースすることが決定。同年、7月17日には渋谷WWWにて揺らぎ初のワンマンライブとなるリリースイベントが予定されている。

揺らぎ オフィシャルサイト
https://yuragi.org/


Live

“For you, Adroit it but soft” Release Event

【東京公演】
▼7月17日(土) Shibuya WWW
【愛知公演】
▼8月21日(土) Nagoya stiffslack
【大阪公演】
▼10月2日(土) Shinsaibashi JANUS