BRAHMAN「Tour 2021 -Slow Dance-」
2021.6.24 Zepp Nagoya LIVE report
8月4日(水)大阪延期公演のチケット発売中!
スロウダンスは、本音か、皮肉か。
いずれにしても「Tour 2021 -Slow Dance-」は、BRAHMANにとってかつてない挑戦的なツアーとなった。
ツアー3日目となるZepp Nagoya、ステージには紗幕が張られていた。真ん中に記されているのはツアータイトルを表すロゴ。久々のライブということもあってか、緊張感と期待感が混じった、いつもとは少し違う空気が会場にあった。集まったお客にとっても、この日はただの久々の一夜ではない、そんな緊張と期待だ。
説明するまでもないかもしれないが、念のために前段を。BRAHMANとして3年ぶりとなるこのツアーは、新型コロナ禍以降、初の有観客ライブである。配信イベント出演やOAUとしての活動はあったものの、コロナ禍でライブパフォーマンスに課せられた縛りのなかで、BRAHMANのようなバンドがツアーを開催することは困難だった。逆ギレか、逆境を楽しむタフネスか、業を煮やしたように今年に入り企画されたのが、バンドの裏の側面である“静”の部分に光を当てたツアーである。現場の熱量を重視してきた彼らにとって、もちろん前代未聞の企画。震災以降は歌に焦点を当てた楽曲が増えたとはいえ、どんな内容になるのか想像できない。期待と同時に、「今回は仕方ない」という消化不良に対しての言い訳も考えてしまっていたのが、正直な思いだった。
定刻からわずかに遅れてライブはスタートした。今日は「BRAHMANはじめます」もない。「Kamuy-pirma」のギタ−アルペジオとアイヌ語の響き、そして紗幕に映る4人のシルエットが、会場を独特の空気に包み込んでいく。いつも以上に集中力が必要な一夜になる、そんな予感があった。そのまま紗幕の先で「Fibs in the hand」「空谷の跫音」「終夜」と続いていく。近年はバンドパフォーマンスだけでなく、“歌”に対しても真摯に向き合ってきたTOSHI-LOWの歌声が存分に発揮される。今日はいつもように体を動かせない、声に出せないからこそ、そのカタルシスをTOSHI-LOWに投影してしまう、そんな一体感があった。
4曲が終わったところで、おなじみのオープニングSEが響き渡る。実はツアーの本領はここからだった。「霹靂」へと突入していく。それと同時に紗幕に投影される雨粒、強くなっていく雨脚がバンドを包み込んでいくようでもある。映像との見事なシンクロだ。これまでにないコンセプチュアルなステージをオーディエンスは固唾を飲んで見ている。そして稲妻とともに、紗幕がステージから拭い取られた。バンドとオーディエンスの間の物理的な壁はなくなり、自然と拍手が巻き起こる。思わず立ち上がる姿も見える。MCは一切ない。だが、ときに激しい曲を挟むようなこともなく、静というテーマを、お茶を濁さず丁寧にしっかりとやり切っていく。開始前によぎっていた「消化不良」という言葉を完全に裏切るパフォーマンス。並べて聞くと改めて感じることだが、これは常にバンドを進化させようとしてきた活動の成果だ。欠かさずライブを見てきたわけではないが、年輪の重みを節々に感じとることができる。振り幅がもたらす豊かさは本当に素晴らしい。
ときに使われる映像も効果的だ。「PLASTIC SMILE」では、今では遠い昔のように思えるライブハウスの喧騒が。「ナミノウタゲ」はPVの投影かと思いきや、同じ場所で撮影した新映像が使われる。ツアーの重要な要素であるこれら映像は、TOSHI-LOWが考えたツアーコンセプト、セットリストに沿い、映像スタッフが選曲も含めてともに構成していったものだという。バンドの力だけでなく、スタッフも含めたチームとしてのBRAHMANの力が発揮されたツアーとも言えるだろう。
ライブは「今夜」「PLACEBO」「満月の夕」と畳み掛けるように終盤へ。「鼎の問」が終わると再び紗幕が現れる。そこに映し出されるのは、コロナ下の東京、大阪、名古屋。人気のない街。ILL-BOSSTINOとの日々。札幌。最後には、名古屋テレビ塔の前で映る4人の姿。形容しがたい感情にライブハウスの空気が一層の集中を見せる。
ラストナンバーの「Slow Dance」では、歌詞が次々と紗幕に映し出される。まさに言葉の嵐のなかでパフォーマンスする4人。パフォーマンスと一体化した言葉たちが、見た人それぞれの心へ突き刺さる。「Slow Dance」をツアータイトルにしたのはTOSHI-LOW一流の皮肉なのだ。だが、ただの皮肉で終わらない、これほど聞き手に対してのまっすぐなメッセージに転化してしまうのも、またBRAHMANなのである。結果論かもしれないが、このツアーはBRAHMANのキャリアの成果であり、同時に新しい扉を開いたようにも思う。日常を取り戻したあとにも見たい、そう感じた人は多いはずだ。ダンスはスロウでも、心は激しく揺れ動くことは証明された。
余談だが、ライブ後に「久しぶり」という言葉を多く口にした。この一年でライブの数は激減し、ライブハウスで会っていた人たちと顔を合わす機会が激減したからだろう。それは、この日詰めかけたお客も一緒だったに違いない。そして同じように「久しぶり」と直に挨拶することの贅沢さを、多くの人が噛みしめたはずだ。この場所を作った、ツアーをすることを選んだBRAHMANの覚悟に感謝したい。そして、逆境や困難に対して知恵を振り絞り闘争し続ける姿に、ロックバンド、パンクバンドとしての矜持を改めて見た気がする。
取材・文:阿部慎一郎
撮影:Tsukasa Miyoshi (Showcase)
(2021年7月 8日更新)
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