弾き語りスタイルを用いた2020年型のハッピーとファン!
中島ヒロト主催『第2回!Happy and Fun Music Festival』
ライブレポート
2020年ほど、ハッピーとファンを欲した年があっただろうか。
FM802 DJ・中島ヒロトが自身の50歳を機に、自分の好きなモノ・コト・ヒトをオーガナイズし立ち上げたイベント『Happy and Fun Music Festival』。本来2018年に初開催となる予定だったが、当日関西に接近した台風の影響によりやむなく中止がアナウンスされリベンジは必ず!と、翌年
『第1回!Happy and Fun Music Festival』として無事開催となった。
記念すべき第1回の終了直後、すでに中島は
「来年もやるから! 第2回は弾き語りとかいいな~と思ってるんで!」
と声高に宣言していて、その場にいたアーティストもスタッフも第1回がようやく開催できた安堵と、この調子で第2回も!という士気の高まりで大きな拍手が湧いたことを鮮明に覚えている。その後やってきた2020年、華々しく年が明けたまでは良かったが、その後はみなさんもご承知の通り。春も夏もリアルなライブは開催が難しいまま季節は秋へ。秋といえば『Happy and Fun Music Festival』開催の頃。今年はさすがに…と思っていたが、中島は諦めてはいなかった。第1回はバンドをズラリと揃え、花火を打ち上げるような華々しいフェスとして開催した分、第2回はメリハリも考えて弾き語りでいくというのは想定していたこと。ガイドラインを遵守すれば、動きが少ない弾き語りライブの開催は可能であると判断したというわけだ。
今回の第2回は、『Happy and Fun Music Festival』に際して「ヒロトさん、50歳の記念なんだからなんかやった方が良いですよ!やると一言くれればライブはやりますんで!」とある種の言い出しっぺであり、昨年の第1回では大トリを飾った中島の盟友・シンガーソングライターのKeishi Tanaka、そして2018年の幻となった第1回に出演予定で、2019年の本開催には残念ながら出演できなかった村松拓(Nothing's Carved In Stone / ABSTRACT MASH)が早々に名を連ねた。そしてふたりとのバランスを考慮し、今一番「チームヒロトに加入してほしいと思っていた」というKENNY(SPiCYSOL)を加えた3名での弾き語りナイトとなった。
開催日は12月18日とあって、超控えめながら街はクリスマスムード。Banana Hallがある阪急東通商店街に立つ客引きのサンタの衣装も微笑ましい。開場直前、感慨深げに客席を眺める中島ヒロトは会場の最後列に凛と立っていた。昨年の開場時は「ハラハラしてお客さんの顔が直視できない…」と緊張が感じられたが、今年は余裕ですねと言うと、
「余裕なんて全然ないよ! だって俺、最初に〇〇〇〇するんだぜ!」
と一言(何を言ったかは後述するので伏せておきます)。緊張しているとは言いつつ、ライブが思うように開催できなかった今年、気合い入りまくりの自分のイベントが開場直前まで来れたことは“感慨深い”以外の何者でもなかったのではないだろうか。直後、スタッフの開場します! の声とともに観客が入場し始めた。会場は椅子が配された自由席。ギターと椅子が置かれたステージ中央近くからお客さんが埋まっていく。
開始時刻から少し遅れてステージのライトが光ると、ウクレレを抱えた中島ヒロトが登場した。おもむろにウクレレをポロポロと演奏&歌い始めたのは「きよしこの夜」。1フレーズ弾いて、イベントの開会を高らかに宣言したのちにまた1フレーズ弾く。そしてまた喋る(先ほどの「だって俺も最初に〇〇〇〇するんだぜ!」というのは「弾き語りするんだぜ!」だったのです)。開催できた喜びと感謝を伝える。どうにか演奏し切れた安堵の表情を見せたあと、再び「第2回!Happy and Fun Music Festival supported by Orange、スタートします!」との高らかな宣誓で、いよいよ今年の『HFMF』が始まった。
トップで登場したのは白いセットアップ&白いハットがクリスマス気分を盛り上げてくれたKENNY(SPiCYSOL)。この日、コロナウイルスの流行後初となる有観客ライブとなった彼は、配信ライブは行ってきたものの、数々の規制もあって自由度の高いライブはできなかったという。今回は配信もなかったため、やりたいことができる環境を楽しむかのように「カヴァーもふんだんに盛り込んで今日しかできないライブをしたいと思います!」と一言。その言葉に象徴されるように、この日のKENNYはSPiCYSOLの楽曲を基軸にしながらも、その曲数を凌駕するほどに洋・邦、年代も問わないカヴァーをたっぷりと聞かせてくれた(それぞれ1フレーズ~2フレーズずつではあったけれど)。
特にDREAMS COME TRUEの「大阪LOVER」、SPiCYSOL「Blue Moon」、そしてAimer「カタオモイ」、瑛人「香水」、小沢健二 featuringスチャダラパー「今夜はブギーバック」、そして上田正樹の「悲しい色やね」までを歌いつないだ場面は特に圧倒的だった。ギターでは一定のコードを奏で続けているのに、歌う曲が次々と変わっていく不思議。あれは…どんな魔法だったんでしょうか。のちに登場したKeishi Tanakaは「あんなのズルいでしょ。あれ、上手い人にしかできないからね」とMCで話したこともすごく印象的だった。
ステージではKENNY自身のギターテクニックも光ったが、個人的に感動したのは「#goodday」や「Mellow Yellow」、「SOLO」、人気曲「Coral」などSPiCYSOLの楽曲を通して痛いほど感じさせてくれたKENNYの“愛情溢れまくる優男感”。こんな愛ある優しいギターと歌あります?と思わせてくれるほど、柔らかな優しい光に手をかざすようなステージだった。どんな風に過ごしていたのか記憶も曖昧な2020年の終わりに、心を慰めてもらったようなイメージを私は彼のステージから受け取ったけれど、あの場にいた観客の皆さんはどうだっただろうか。ちなみにKENNYがさらりとカヴァーした2020年の超代表曲・瑛人の「香水」。この曲がこの日の意外なカギソングとなることを、この時はまだ知る由もなかった。
そして2番手は、このイベントの“裏発起人”Keishi Tanaka。極寒だったこの日、思わず二度見するほど軽やかなTシャツ姿でステージに登場した。冬の歌を…とアコースティックではキリリとした印象が際立った「冬の青」に始まり、ヒロトさんになんかリクエストあるか聞いたら、やっぱりこの曲かなと言われたのでという2015年3月のFM802ヘビーローテーション曲「Floatin’ Groove」、誰が沙羅マリーパートを歌うか毎度期待させてくれる「Just A Side Of Love」(この日は村松拓が沙羅マリー化したもののあまりにキーが高かったため、会場の一番後ろにいた中島は大爆笑していた)、「One Love」など、Keishi Tanakaを代表するようなセットリスト。
途中ではKENNYからのバトンをつなぐように瑛人の「香水」を歌ったり、ストレイテナー×秦基博の「灯り」のカヴァーを挟んだりとこちらも自由度の高い構成。昨年はゲストにthe band apartの荒井岳史を迎えホーン隊も含めたバンドセットでの豪華なステージとなったが、今年ひとりで演奏し歌うシンプルなステージ。
この1年を通して時々の状況で自分の歌を届けるベストな形を模索し続けていたのがKeishi Tanakaだったし、彼がギターを片手に歌う姿をよく見かけた2020年だった。この日語った「弾き語れてよかった」という言葉は、心の奥底を覗いた気すらした。この日の弾き語りで再認識したのは、彼の類稀なる歌唱力と歌声に見える表現力。こういうシンプルなステージでこそ、Keishi Tanakaの歌の凄さは怖いほど際立つ。別のライブレポートでも書いたことがあるのだが、この日のライブでも私が感じたのはKeishi Tanakaのしなやかさ。どこまでも伸びていく歌声も、そのマインドもとにかくしなやかであることは、この時代を生き抜いていく見本みたいだなぁとぼんやり考えた。愛の優男・KENNYからしなやかな男・Keishi Tanakaへのナイスリレー。最後の村松拓のステージでは、どんなコントラストを感じられるのかが楽しみになる。
「第2回は、拓ちゃんに出てもらうことだけは譲れないの」とずっと中島が言っていた夢が叶う瞬間がやってきた。村松拓もKeishi Tanaka同様、真冬のTシャツスタイルでステージに登場。前述した通り、幻となった2018年の『Happy and Fun Music Festival』に出演予定だったアーティストたちはほぼ翌年の本開催にスライドで登場したのだが、どうしてもスケジュールが合わなかった村松はその場に顔を揃えることが叶わなかった。
この日彼が着ていたTシャツは、幻となった2018年に着用するはずだったもので「ヒロトさんから送られてきてずっとタンスで眠っていたTシャツで、大切に袋に入れて保管してたんですよ。ふたつ夏を超えてようやく着れました」というのも、いい話。ステージではソロのアコースティック盤としてリリースされた「アスピリ」やNothing's Carved In Stoneの「Isolation」、「きらめきの花」、「Shimmer Song」などを披露。軽やかギターの音に、よく響く心地いい低音と少し鼻にかかったような声、掠れた声など、声の表情ひとつひとつからワイルドな男らしさを感させてくれて、すでに出演を終えたふたりとはまた違った趣の弾き語り。途中演奏されたOasisのカヴァー「Don't Look Back In Anger」では、会場の最後列にいた中島が大きく手を右に左に振って楽しんでいる姿も心願成就のうれしさを感じさせたし、KENNY~Keishi Tanakaが歌ってきた瑛人の「香水」を村松もバッチリ聞かせてくれる一幕もあった(ちなみにこの「香水」は、この日の楽屋が初めましてとなった3人がギターを抱えてワイワイやっているうちに演奏できるのでは…? ということになったそう。KENNYがふたりにレクチャーしてみんなで弾いてみたところ、これいい歌だなぁと再確認。うっかり1番手のKENNYが披露したことで、まさか全員が歌うことになったのだった)。
ライブももちろん素晴らしかったのだが、印象的だったのは彼の言葉。「思ってみればこれまでも思い通りになることなんてほとんどなくて、その中でどう生きていくかじゃないですか。だから少し背中を押せるような存在であれたらと思っています」。音楽はエンターテインメントでもあるけれど、人を奮い立たせたり、人に寄り添ったり、人を慰めたり、そして人の背中を押したりしてくれるものであることを、この状況が、そして村松が教えてくれた。彼が歌った「Adventures」の歌詞のように、そして優しく強い彼の声のように、大切な人をちゃんと大切にしながら人生をサバイブしていく時代がリアルに来ているんだ。そう強く思った。
観客からのアンコールに応えてステージに戻ったのは村松拓。そして村松の呼び込みでKeishi Tanakaがやってきた。プライベートでも交流のあるふたりによるアンコールは、再びの「香水」で幕開け、そしてNothing's Carved In Stone「Red Light」が披露された。アコースティック2マンライブも行っているふたりならではの息のあったステージ。
そこにKENNYが呼び込まれて「3人でやっちゃおう」と始まったのはサザンオールスターズ「真夏の果実」だった。昨年このイベントを目撃されていたらご存じだろうが、この曲は“中島ヒロトを歌わせるための曲”。あれ? 入ってこないなと思っていたら、マイクを握りしめた中島が最後の一節だけ歌詞を噛み倒しながら乱入、会場内から笑いが起こる。やっぱり『HFMF』はこうでなくちゃ。
Keishi Tanakaの「ヒロトさん、瑛人さんと仕事してたでしょ? 歌っとく?」とついには中島まで「香水」を歌い上げてしまった(Keishi Tanakaが「お客さんが帰り道でこの日香水しか記憶に残らんかったな~って言ってたらどうしようと思っている」と言っていたが、案の定お客さんが「今日は香水の日やったな」と言っていました…)。そして最後4人で披露されたのは松田聖子のカヴァー「SWEET MEMORIES」。たどたどしい中島聖子に始まり、村松、Keishi、KENNYと歌いつないでいく。なにこの豪華な歌リレー。この日は弾き語りとあって3人のステージはしっとりとした雰囲気だった。ラストの「SWEET MEMORIES」でも曲こそ切なげだったけど、この日この場所でしか奏でられない歌と、お客さんの笑顔と、中島ヒロト流の松田聖子と、その歌声に笑うしかない3人のミュージシャン。この状況下で、イベントが開催できたことこそがハッピーでファンなことなんだなとステージの4人が教えてくれた気がする。
…ちなみにトップを飾ったKENNYがこの日一番に歌ったのはThe Black Eyed Peasの「I Gotta Feeling」だった。歌った部分を和訳すると、“予感がするんだ 今夜は楽しい夜になるって”。粋なチョイスだなと思っていたが、会場にいた皆さんの夜は楽しいものになっただろうか。
終演後、中島に「今日どうでした?」と聞いてみた。
や~俺、去年もだったけど必ずなんか間違うよね。去年はファンファーレのトロンボーン吹き間違えたし、今年はたった2行の歌詞が出てこなかったし。歌詞のコピーをもらったから、自分が歌う2行だけちぎって持ってステージに出たのに、見えないの! 忘れてたの、老眼だってこと! わははは~。や、でもKENNYもKeishiも拓ちゃんもみんな終わった後の楽しかった感がすごい出てて、最高だったねマジで!
主催した本人が何よりハッピーでファンだったこともお伝えしておきたい。
「頑張って来年も開催したいね」と帰り際に言っていた中島ヒロト。
2021年も、また健やかに『Happy and Fun Music Festival』の会場で会えることを祈って。
取材・文/桃井麻依子
写真/河上良
(2021年1月20日更新)
Check