まっつんの未来に幸ばかりが溢れますように! DENIMSからの脱退を決めた松原大地を送り出すラストイベント 『MAT-TUN TO THE FUTURE』ライブレポート
「出会ってくれてありがとうございます」
ライブ後メンバーやスタッフに向かって、DENIMSのベースマン・まっつんこと松原大地がはにかんだ笑顔で言葉を送っていた姿にグッと来てしまった。DENIMS結成から約8年、「松原大地が年内でDENIMSから脱退する」と寝耳に水をぶっかけられた気持ちで聞いたのはこの秋のこと。その時はまだまだ遠い話だと思っていたのに2020年12月27日、驚くほどアッサリとまっつんのラストデーはやって来た。12月に入ってコロナウイルスの猛威が再び大都市を脅かし、中止に追い込まれるライブやイベントもないわけではなかったが、大阪の大バコライブハウス・BIGCATで収容人数をかなり制限した分2公演に分ける徹底ぶりで、ラストライブはメンバー&スタッフの総意として決行された。まっつんの新しい人生への始まりの日であるとともにDENIMSが新しく生まれ変わる日となったこの夜の公演を記しておこう。
当日の話をする前に、まっつんの脱退について少しだけ触れておきたい。
世界が思わぬ混乱に飲み込まれてしまった2020年、DENIMSが企画していたライブは中止や配信へと切り替わり、メンバーが張り切りまくっていたフジロックへの出演もやむなくお預けとなってしまった。そんな中にあって、9月上旬に先行で公開された「I’m」はFM802のヘビーローテーションなど各局でパワープレイを獲得してバンドもうなぎのぼり、直後にミニアルバム『more local』もリリースされて、これからDENIMSは猛ダッシュしていくものだと思っていた矢先、まっつんの脱退は伝えられた。
9月からスタートした『more local』のリリースツアーでまっつんが直接語った言葉は
「音楽ヤクザから、めしカタギになろうと思います」
一瞬お客さんからはなんのこっちゃ? みたいな反応がなかったわけではなかったが、まっつんの見つけた新しい夢、それは食の道だった。
釜中健伍(カマチュー/Vo)、江山真司(えやま/Dr)のふたりに関しては前身バンドのAWAYOKUBAから数えれば10年近くを共にした盟友の新しい夢を、岡本悠亮(おかゆ/Gt)も含めて3人でドカンと背中を押すような希望に満ちたライブが各地で続けられ、これが最後の大阪公演となるだろうと予想された11月の梅田クラブクアトロ公演で、まさかの最終公演が発表された。
それが真のラスト公演となる『MAT-TUN TO THE FUTURE』だった。クアトロに集まったファンは、まだ“まっつんDENIMS”を見る機会があると歓喜するとともに「これが最後ちゃうんかい」とつっこむ人もいたりして、それでもまっつん最後の日はやっぱり来るんだなと思わされた。
やって来た12月27日の大阪は恐ろしく寒く、いかにも年末であることを感じさせた。第一部が終わったであろう時間にDENIMSを検索してみたが、来る第二部へのネタバレが懸念されたのか、感想を発見することはできなかった。
20時オンタイム、いつものSEに乗せてメンバーがステージに登場、AWAYOKUBA時代からの名曲「たりらりら」でラストライブの幕が開き、「NEWTOWN」「Goodbye Boredom」まで一気に3曲、いまやDENIMSのライブ定番曲でもあるが、やたら懐かしさのあるオープニング。4人の演奏をぼんやり眺めながら、彼らは今何を考えているんだろうかということばかりが気になって、なんだかこちらがソワソワしてしまう。
「本当に本当にまっつんが今日ラストなので、DENIMSの歴史が詰め込まれたセットリストになってます」とカマチューの言葉を挟み、始まったのは「EIEIEI」、そしてゴリっと男前な音がグッと迫ってくるまっつんのベースで始まる「DIM」へと続く。その演奏中するっとマッシュアップ的に演奏されたのはsawagiの名曲「Motor Pool Is Not Dead」。気づいたお客さんから大きな手拍子が起こる。数年前にsawagiとツアーを回っていた時にもこういった形でsawagiの曲を演奏していたDENIMSの、文字通り“歴史を詰め込んだ”ニクい演出だ。
曲は6thデモとしてニコイチで会場限定リリースしたこともある「DAME NA OTONA」から「SUPERSTAR」へ。この辺りでようやく気づいたのだが、この日のライブはやけにまっつんがよく見える。これまでDENIMSを見て来たライブハウスはもう少しコンパクトだったせいもあるかもしれないが、もっとメンバー同志がギュッと寄っていて、なんならカマチューとまっつんはいつもどこかしら姿がかぶっている印象があった(まっつんが控えめな男であることもあると思うが)。この日はステージが広いせいかソーシャルディスタンスの効果かわからないが、まっつんの演奏も、仕草も、ちょっとした表情もめちゃくちゃしっかりと視界に入ってくる。最後だけどまっつん楽しそうだなぁと感じ取ったのは、きっと私だけではなかったはず。
曲は「fools」、「モータウンサイクルダイアリーズ」と感傷に浸る間もなく次々演奏が続く。ここまで読んでお分かりの方もいるかもしれないが、この日のライブはDENIMSのディスコグラフィーを総まくりするようなリリース順ベストアルバム的セレクトで、まっつん自身が練り上げたというセットリストだった。この日を最後にベースを置くまっつんが、最後に弾きたい曲・みんなに聞いてほしい曲なのだと理解すると1曲1曲がより愛おしくなってきちゃうなと思っていたら、まっつんの口笛で始まる「BENNY」へと曲が移り変わった。のんきな雰囲気に拍車をかけるまっつんの口笛と、この曲こそがDENIMSの音楽がメディアから“ユルくて新しい”みたいな書き方をされる所以だろうと思うのだが、改めてまっつん最後の日にカマチューが歌った「BENNY」の歌詞は、ここから別の道へと進もうとしているまっつんへの応援の言葉にしか聞こえなかった。見てる先が真っ暗でも歩こう。今日はステージの4人を見ておこうと思っていたのに、この曲だけはまっつんから目が離れない。この夜、まっつんは上手に口笛を吹くことができたのだろうか。
「あと数十分でまっつんはDENIMSじゃなくなるわけだけど、この際だから秘密にしてたこととか言ったら?」と10曲が終わり、ようやく落ち着いてやって来たMCタイムでおかゆがまっつんに言った。うーん、と一瞬考えたまっつんは「弦の張り方知らんかった。今も合ってるかわからん」とポソっ。すごくない? それ今言う? メンバーも「よう10年やっとったな。それだけ!?」と返す。まあ、そういうユルさもDENIMSらしさ。あとはLINEで言うわ〜と曲は「Marching Band!!!」へ突入していく。カマチューがキーボードを弾く新しいスタイルで、「”I’m”をライブでやるのにキーボード買ったんすよ」と言っていたが、そのおかげでこれまでライブで聞いて来た曲もちょっと新しい感じに聞こえてくる。メンバー紹介を経て「INCREDIBLE」が始まった時、急にハッとした。まっつんがよく見える理由が見えたからだ。それは、照明だった。
フロントで歌うボーカルのカマチューや、ギターソロをギュンギュンにキメるおかゆはステージ前方にいるため、毎度毎度照明もよく当たって目立つ。ところが、ライブ中のMCも言葉少なで音楽の屋台骨をガッシリと支えるベースのまっつん&ドラムのえやまには派手な照明が当たっていないことも多かったように思う。ところがこの日、カマチューが歌っていようがおかゆがギターソロをやろうが、メンバー全員に均等に照明が当てられていて(もちろんごくたまにひとりにピンスポットが当たる瞬間もあったけど)、とにかくDENIMS全員が主役! ということを視覚からビシビシと感じさせてもらうことができた。だからこそ、いつもよりまっつんのことがよくよく見えたのだと理解した。そんなことにうわわわわ〜と感動している間に「さよなら、おまちかね」、「Rocinante」と続き、開始から約1時間で14曲も披露するハイペースぶり。いつもよりMCをグッと削ぎ落とし、とにかく曲をたくさんやりたいという意思が透けて見えてくる。
あともう少しでまっつんのバンド人生が終わるんですけど、まっつんからコメントもらおうかなとカマチューが投げかける。本当にまっつんがDENIMSでいるのはもう少しなのだ。
「ありがとうございました! 僕はステージに立つことはなくなるんですけど、僕もみんなと一緒にDENIMSを楽しむ側にまわるので仲良くしてください」との言葉に会場中から温かい拍手が降り注ぐ。そしてこの1年を振り返り、こんな状況になってみてわかった周りの人の大切さ、自分を大切にすることの重要性、なにより元気でまた会いましょうという言葉もまっつんらしすぎるメッセージだった。
拍手の中、カマチューのキーボードの音で始まった「I’m」。今までギターを握って来たカマチューがピアノに向き合ったり、英語詩にチャレンジしたり、今年DENIMSが明らかな変化を得たと感じさせてくれたきっかけとなったこの曲。「いろいろあったけど、結局自分を愛することにしたよって自分を認める歌詞が書けた」とカマチューは言っていたけど、もしかしたらまっつんが新しい夢を見つけたという出来事も自分を認めることの大事さを教えてくれたのかもしれないなと思えてくる。そして曲は「CRYBABY」へ。「CRYBABY」なんてかわいい曲なのに。全然悲しい系の曲じゃないのに、ヤバい、なんかちょっと寂しくなってきた。それでもメンバー4人の表情は、いつもと変わらない。
もう次はあの曲だ、とわかった。「そばにいてほしい」だ。
「まっつんが辞めたいと言い出したのは去年の今頃だったんですけど、辞めると決めてからそこから1年DENIMSを、このコロナ禍で続けてくれて。実は今年1年めちゃくちゃツアーとかリリースとかやっていて、それをやってくれたんです。AWAYOKUBAから10年ぐらい、本当にありがとうございました。まっつんが辞めるって言い出してから、まっつんをイメージして作った曲を2つやって終わりたいと思います」とカマチューが言う。ハッピーに送り出したい、みたいなことを言っていたが、MCの口調全然ハッピーちゃうぞ!泣きそうやん!と思わず声が出そうになった。ここで書くと怒られるかもしれないが、以前カマチューに「“そばにいてほしい”は、まっつんの歌なんです」と聞いたことがあった。それはもうまっつんの脱退が公になった頃だったが、女性ファッション誌の『MORE』で、某アイドルが最近よく聞いている音楽として「そばにいてほしい」をピックアップして、こんな恋をした気がすると紹介していた。すごいね、紹介されてたねと言うと「あれ、実はまっつんに向けて書いた曲なんです」と返された。私もその某アイドル同様、ラブソングだと捉えて聞いていたこともあって、えらく驚いた。誰かをイメージして曲など書いたことがなかったというカマチューが、まっつんを想って書いた歌。長年一緒にやって来たメンバーが新しい夢を見つけたのは嬉しいけれど、自分たちから離れていってしまう寂しさを飲み込んで応援できるまでに消化するには、カマチューもおかゆもえやまもそれぞれの葛藤があったに違いない。でもこんな曲が出来ちゃうほどまっつんのこと大好きなんか…と思ったら、いいバンドだなぁと笑えてきた。そしてその気持ちは、まっつんの脱退超直前だと言うのに12月に入ってからリリース(DENIMSはまっつんをギリギリまで働かせます。ブラック企業なのでとことあるごとに言っていた通り)された「LAST DANCE」でも溢れまくってどうしましょうという感じだった。全曲もちろん大切な曲だろうけど、まっつんが新しい道で困難に出会った時、この2曲がお守りみたいな存在になっていくんだろう。
本編全18曲。最後の4曲はDENIMSのオフィシャルインスタアカウントから急遽ライブ配信され、当日会場へ駆けつけられなかったけれど、それぞれの場所から参加できた人もいたかもしれない。この日2公演を駆け抜けたまっつんは最後までステージに残り、大きく手を振って客席を見回し、また手を大きく振って、ペコリとお辞儀をした。そしてまたまた大きく手を振ってステージを後にした。
もちろん客席から巻き起こった大きな手拍子にすぐ応える形で、メンバーがステージに戻る。アンコールが始まってしまえば、今度こそまっつんDENIMSの終わりが近い。
「まっつんはご飯系の仕事をするんですが、僕たちは僕たちで来年動いていこうと思ってます」とカマチュー。3月にはドミコとの東名阪ツアーをやりますとの言葉の後に続いたのは、2021年から一緒にやる新メンバーと一緒に曲をやってもいいでしょうかという一言だった。
そして紹介されたのが、新メンバーとなる土井徳人だ。DENIMSとも縁の深いSpecial Favorite Musicのベースとしても活動している彼が、なんとDENIMSも兼任する形で正式メンバーとして活動していくという。客席からの大きな拍手とともに新体制での「swing swing」を披露。まっつんだけでなく、カマチュー、おかゆ、えやまも、そして新メンバーであるノリトも自分の道をきちんと歩いていく選択をしてるんだなと感じさせてくれた。曲が終わると再びまっつんがステージに姿を現し、ノリトに近づくとノリトは演奏していたベースをまっつんに返した。そしてノリトがペコリとお辞儀をすると、まっつんが笑顔で彼の頭をガシガシと撫でた姿を見たところで、今日イチ、グッと来てしまった。
そしてまっつん、カマチュー、おかゆ、えやまで、AWAYOKUBA時代からの名曲「ティーンエイジ」、ライブでの超定番曲「Alternative」まで演奏しきって、まっつんも大きく手を振り大団円! …かと思ったら、まだ続きがあった。
「すみません、ちょっとまだ付き合ってください」とカマチューが言う。そしておかゆも話し出す。「まっつん、1年お疲れ様でした! まっつんのフューチャーに役立つものをプレゼントします!」と手渡されたのは、料理人の必須アイテムである包丁セット(ちなみに、おかゆがこの日道具屋筋まで買いに走ったそう)。うれしそうで照れ臭そうなまっつんを横目に、カマチューが突然手紙を朗読し始めた。
「まっつんへ。20代から30代の人生で一番青春している時期をDENIMSに捧げてくれてありがとう。去年辞めたいと言い出してから、コロナ禍の1年間もツアーやリリースなどを嫌な顔をせず4人でしっかり演奏してくれて、本当にありがとう。こんなに円満な脱退は、あまりないと思います。まっつんは感情や意見をあまり表に出さないように見えますが、実は人一倍我を通すし、しっかりポリシーのある人だと思います。そのポリシーを通すために裏でたくさん努力もしてきただろうし、ベースプレイも本当に天才だと思います。惜しい気持ちもあるし、寂しい気持ちもあるけど、僕達は僕達で新しい未来を切り開いていくので、まっつんもめしカタギとして思いっきり進んでいってください。ODD SAFARIや僕たちのイベントでフード出店として呼ぶと思うので、僕たちのライブの時は最前列でライブを見てください。今までありがとうございました」
これが、全文。カマチューの愛です。せっかくなので残しておきます。
そしてサプライズ返し…とまっつんからもひとつ。お守り的にずっと持ち歩いていたデニムの切れ端。これを先ほど渡されたナイフを使って4等分して、メンバーにプレゼント。4つでひとつということを示す契りとして「あげる」と託された。
最後の最後、カマチューがまっつんベース弾かんでいいから、歌って! とノリトをまたステージに戻す形で演奏されたのは「わかってるでしょ」。今までベースを弾きながらコーラスをしていたまっつんが、ベースの代わりにマイクを持ってステージのセンターで歌う姿は、本当にハッピーな終わりの始まりだった。声を出せないお客さんは手をグッと挙げてまっつんに盛り上がりと祝福を伝える。ラストステージ、目に焼き付いたのは華麗なステップでベースを弾くまっつん…ではなく、マイクを握りしめて歌いまくった挙句、最後の最後に花束を抱えて登場したFM802 DJのばんちゃん(板東さえか)にビンタされる姿だった(それについてはぜひこちらを最後までどうぞ)。
VIDEO
「まっつん、本当にナイスDENIMSでした!」
きっとあの場にいた誰もがそう思ってるに違いない。
ずっといい音楽を、いいライブを届けてくれてありがとう。
新しく始まる道が、希望に満ちた健やかなものでありますように。
そうそう。えやまがライブ終わりで言ってたよ。
「俺よく泣かんとできたと思うわ〜。一部二部も泣きそうやったわ〜」って。
2021年、新生DENIMSにも大いなる期待を寄せて。
取材・文/桃井麻依子
写真/河上 良、小川星奈
(2021年1月 4日更新)
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