「ジャズ・ピアノトリオの形式を打開するようなアルバムを
作りたかった」
最新8thフルアルバム『DISCOVERY』で“現代版ジャズ・ロック”の
新境地を開拓するfox capture planインタビュー
バンドのオリジナル曲のみならず、これまでに数々のドラマや映画、アニメ作品の楽曲やプロデュースを手掛けて多岐にわたる活動で注目されてきたfox capture plan。“現代版ジャズ・ロック”と形容される音楽性の幅を広げ、ポップかつテクニカルにインストの新たな可能性を提示する8thフルアルバム『DISCOVERY』を11月4日にリリース。今回のリモート・インタビューではチャレンジングな姿勢で完成された最新作『DISCOVERY』への取り組み方や聴きどころを中心に、来年の活動10周年にも意欲的に言及。また、新年初の主催2公演となる京都・磔磔と埼玉・西川口LIVE HOUSE Heartsでの『10th Anniversary Year Kick off Live』、12月14日に開催が迫るZepp Nambaでの『GREENS presents 狐息吹 -KITSUNE NO IBUKI-』(出演:fox capture plan / キツネツキ)に向けての意気込みをメンバー全員に訊いた。
今作でけっこう思い切ってテイストを変えた
その変化に気づいてもえれば嬉しい
――新作は『DISCOVERY』というロマン溢れるタイトルですが、最初からコンセプチュアルに制作されたのですか?
岸本「アルバムのコンセプトはざっくりですけど、なんでもありにしようと。“ジャズ”っていうワードにはあんまりこだわらずに、自分たちの新たなスタイルを探していこうっていうところに向かっていたのでそれがタイトルにつながりました」
――前作のインタビューでそれまでの集大成というようなお話をされていましたが、さらに新たなスタイルを発見するという段階に進んだのですね。
メンバー全員「そうです!」
岸本「(前の)7枚目が完成して、ジャズピアノトリオの形式ではこれ以上の幅はもたせられないかなと思ったので。(今回は)それを打開するようなアルバムを作りたかったんです。それは2年前の前作のツアーが終わった頃から言ってたんですけど。『Stand My Heroes』(M-9)とか『不可思議のカルテ』(M-11)といった劇伴やアニメ関連の音楽づくり、三菱電気DIATONEさんのイメージビデオ用に作った『Spread Out』(M-3)とか、先行シングルの『夜間航路』(M-8)といった曲を自主的に作ったり受動的に作ったりしている中で、アルバムの方向性が見えてきたという感じですね」
――聴き手に対して、今作で新たに発見してほしいことはどんなところですか?
岸本「今まで使わなかった電子楽器や電気楽器、管楽器も入れたりして、ポップな曲調にのせています。今作でけっこう思いきってテイストを変えたつもりなので。その変化に気づいてもらえれば嬉しいです」
カワイ「僕らはインストですけど、インストっていう先入観で音楽を聴かないようにすると新たな発見があるんじゃないかなと思います。楽器が声みたいに感じられるようにいろんな音色を奏でているので」
井上「『不可思議のカルテ』は歌ものの原曲とはリズムがぜんぜん変わっているんですよ」
カワイ「歌ものの曲をインストでやっていて、リズムもすごい変えているので、比較して聴くとすごい面白いかもしれない」
井上「世界観も雰囲気もより大人になった感じなので面白いと思います。」
単純にジャズとロックだけじゃなくて、
ブラックミュージックとかいろんな音楽が凝縮されている
――『Into the Spiral』(M-1)から、3人のアンサンブルが繰り出す見事なスパイラルにのみ込まれてゆくような感覚で、一気に引きこまれていきます。
岸本「そうですね。一曲目は大事かなと思っていて。のっけから勢いをつけたかったんです。曲から連想して、まさに“(音の)渦=スパイラル”みたいなイメージで」
――先行曲もいくつか入っていますが、各楽曲の配置やアルバムの構成はどのように考えて?
カワイ「最初と最後はこの曲かなと決めていて、あとはストーリー性があって流れが良い感じにしました」
岸本「『Discovery the New World』(M-4)と『Sprinter』(M-5)は電子音やポップス要素が強かったのであえて並べました。『Narrow Edge』(M-6)と『NEW ERA』(M-7)は独特の緊張感があるので、これもあえて並べました。特に『NEW ERA』は盛り上がりがすごいあるので、ピークに差しかかる中盤の山場みたいなところに置きました。特に4、5(『Discovery the New World』『Sprinter』)と6、7(『Narrow Edge』『NEW ERA』)の対比がすごいね」
井上「今回、聴いてくれた人からも、曲順がスゲー絶妙な感じに並べられてるという反響が届いていて。6、7(『Narrow Edge』と『NEW ERA』)はアルバムのハイライト感が気持ち良いし、最後は『不可思議のカルテ』で終わるというストーリー性がある流れがちゃんと聴いてくれている人にも伝わっているなと」
――ちなみに、『夜間航路』(M-8)は何にインスパイアされて生まれた曲なのでしょうか?
岸本「近年のシティポップリバイバルに対する自分たちなりの回答みたいなイメージで書いた曲です。インストゥルメンタルのピアノ曲で勢いのある曲が日本で流行っていたりするので、それの真逆の表現ですね。みんながやっていることに、ちょっと逆流するのも好きなんで(笑)。インストのシーンから歌もののシーンに介入することもできるし、逆にインストのシーンでこういうやり方もあることを表現したかったんです。曲自体は落ち着いてますけど、メッセージ性としては割と尖ってるイメージで書いた曲です」
――そうなんですね。もうひとつ気になったのがカバー曲です。これまでもアルバムでカバー曲は収録されていましがた、今回はなぜLINKIN PARKの『Numb』(M-10)をカバーしようと思ったのですか?
岸本「いつかやろうと思ってたし、ゼロ年代の洋楽ロックのなかではトップレベルで有名な曲なので。アルバムのコンセプトにもふさわしいかなと。インパクトを出したいアルバムだったので。それに自分たちのベーシックにはジャズがあって、ジャズは同じ曲を違う人が演奏をするカバー文化の音楽ジャンルなので、オリジナル曲だけよりも、メンバー以外のひとが書いた有名な曲が入ってきても面白いかなと。あまり内向的にならずに外に発信したかったので」
――これまでの“ジャズロック”という枠に限定されていない感じですね。
岸本「単純にジャズとロックだけじゃなくて、ブラックミュージックとかいろんな音楽が凝縮されているので、どういうアーティストのルーツがいて、こういう曲調になっているのか、そういうことも想像してもらいながら聴くと面白いと思います」
――マニアックな要素もあるけど、メロディーが親しみやすいし、曲によっていろんな間口が感じられます。
岸本「歌もの以上にインストの曲では一曲一曲印象的にしていかないといけないのかなって。そこは意識しています」
井上「このアルバムはあんまり難しいことを意識せずに聴くのがいいかもしれない」
――今の時代のリスナーはアルバムとしてじっくり聴くことが減っているように思いますが、この『DISCOVERY』のような作品は、アルバム一枚通して音楽が生み出す世界観を体感してほしいですね。
カワイ「まさにその通りですね」
岸本「そうですね。今回は僕とカワイくんの曲からメンバー名義の曲、カバー曲といろいろ入っています。ソングライターはひとりだけじゃないけれども、一枚のアルバムとしてきれいに流れができているので。個人的にはすごく面白いなと。聴き込むにつれて、作曲のテイストの違いを意識して聴いてみるのも面白いと思います」
今作の『DISCOVERY』で結果的になりたかったバンド像になれた
――今作を聴いていると、コロナ禍の混沌とした状況から新しいところに突き抜けられるような感覚も味わえました。
岸本「嬉しいですね。作ってるときはこうなると思ってなかったんですけどね。メインのレコーディングは2月の26日からで、レコーディングの初日に大規模イベントの自粛要請が発表されたんです。でも、レコーディングに集中していたので、そっちを考える余裕がなかったんですけどね。そこでポジティブな気持ちが(曲に)のったのかなと」
――来年、10周年を迎えることは制作しているときに意識していましたか?
カワイ「今作を作ってる時は考えてなかったんですけど、録り終わってから、来年10周年どうしようかみたいなことを、夏ぐらいにはメンバーで話し始めてましたね。その構想は最近なんとなく固まってきた感じです」
岸本「でも今回の『DISCOVERY』で結果的になりたかったバンド像になれたというか。これが次の9枚目、10枚目とつながっていくので。(来年の)10周年イヤーはアルバム出すことが必須と思っているので。そういう意味では『DISCOVERY』はすごく良い出し方ができたと思います。ライブでは前の7枚目までのアコースティックなピアノトリオのスタイルがやっぱ核になってくる部分だと思うんですけど。そうじゃない部分をバンドとして(今作で)引き出せたかなと。アコースティック・ジャズ・ピアノトリオをぜんぜん感じさせない曲もあるので」
――なるほどね。ライブにおいてはアコースティックな音にこだわりつつ、レコーディング作品においては、その形にこだわることなく、電子音やその他の楽器を入れていって。
岸本「逆にいうと、ライブでもそういう音を導入しようと思っていろいろ試しているところです」
――レコーディング作品とライブを分けるのではなく、今作で新発見した楽曲のスタイルをライブでも反映していこうと?
岸本「はい、そうですね。今まであえて避けていたことに挑戦していきたいですね。僕がシンセサイザーやキーボードを弾いたりして」
カワイ「去年のビルボードのツアーの時に『NEW ERA』や『夜間航路』をやっていて、それがきっかけにもなっています」
井上「その時は10人編成ぐらいでストリングスもホーンもいたんですけど」
岸本「それも『DISCOVERY』にすごくつながっている部分もあります。『Into the Spiral』とか『不可思議のカルテ』はライブで10編成でやってみた経験が、今回のアルバムのアレンジにつながっているので」
『GREENS presents 狐息吹 -KITSUNE NO IBUKI-』は
いろいろと企てていて、特別なステージにしようと思ってます!
――ライブは、『10th Anniversary Year Kick off Live』と題して、年明けに新年初の主催2公演が決定していますね。
岸本「そうなんです。『DISCOVERY』のアルバムツアーという形では全国をまわらないので、リリースからあまり間をおかずに年明け早々に東西でライブをやりたいなと。実質的には『DISCOVERY』のリリースツアーという気持ちで臨みます」
――どういった内容になりそうですか?
岸本「3人以外の音やメロディーのパートをどう表現しようかなと。音源のイメージから離れずに3人でも表現できるように考えていますが…」
――アルバムの曲もライブのアレンジで演奏されてるのですか?
岸本「ああ、それも大いにありますし、そんなに変わってない曲もあるし…」
カワイ「ライブの方がジャズ的な要素は強いかもしれない」
――コロナの感染拡大防止対策で制限されていることもあると思いますが、今までのライブと比べてどうですか?
岸本「ああ、でも一時はどうなるかと思いましたが、とりあえずライブができる状況になってきたので、ステージに立って演奏できるというのは喜ばしいことですね」
カワイ「京都も西川口(埼玉)も対バンがいて、対バンライブも久しぶりなので、こういう状況の中でも以前のようなテンションで臨みたいなと。お客さんは声を出して騒げないと思いますが、心の中でノリノリにノッテもらえれば(笑)」
岸本「関西で有観客ライブはほんとにやってなかったので、地元の京都でライブができるのは非常に楽しみですし、オープニングアクトは京都で活動している若手バンド(colspan)なんですけど。すばらしいバンドです!」
井上「京都でライブが始まるのは来年で3年連続なんですよ。来年10周年の年の一発目で特別なライブになると思うので楽しみにしてほしいですね」
――その前に、12月14日にZepp Nambaで開催される『GREENS presents 狐息吹 -KITSUNE NO IBUKI-』(出演:fox capture plan / キツネツキ)に出演されますね。
カワイ「キツネツキとのツーマンです」
岸本「いろいろと企てていて特別なステージにしようと思ってますので、面白くなると思います!」
――楽しみにしています!ありがとうございました。
ライブ写真:11月19日(木)東京国際フォーラム ホールC公演より
Text by エイミー野中
(2020年12月10日更新)
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