――noteで今回のアルバムについて書かれた記事の中に、「…グラスの水が溢れるように、今まで心に溜まっていたものが音楽になって溢れ出した」とありました。前作『AROUND the CORNER』(’15年)から5年の間に書かれていた詞の断片やメロディーのかけらが、いっせいに花開くように曲になっていって『Wild Flowers』ができ上がった?
――さっきの本の話を聞いてなるほどと思ったんですが、今回のアルバムは寺岡さんの持つ女性性の部分がこれまで以上に楽曲ににじみ出ているような気がしたんです。『Woman』(M-10)という曲や、ご自身の結婚をきっかけに生まれた『Table For Two』(M-11)もありますが、その他でも女性ならではのしなやかな感性を感じる部分があって。これまでの作品でも聴けた心地よさに加えて、深い包容力を感じるアルバムだなぁと。
――『Follow The Rainbow』(M-5)も同様で、この曲は気持ちがスーッと洗われるような晴れやかさがあって1日の始まりに聴いたら気持ちのいいスタートが切れるだろうなって。ただ、この曲について書かれているnoteの記事で歌詞の和訳を知ったときは、共感というより思わず涙しそうになってしまって。さわやかなだけじゃなく、いろんな思いを抱えて生きる人の支えになるような、温かく強いメッセージが込められている曲ですね。
「『Follow the Rainbow』は北海道テレビHTBの情報番組『イチオシ!!』の1コーナー『ジブンイロ』のために書き下ろした曲なんですね。いろんな葛藤がある中で自分の道を模索しながら輝く女性を応援する短いドキュメンタリーのコーナーなので、女性の応援歌みたいなニュアンスの曲ができたらいいなと思って。今って生き方も多様化しているし、1つに決めなくていいんじゃないかなって。私も5年前は、自分が今現在の場所にいるとは全然思ってなかったし、誰もが5年後の自分はどこにいて何をしているか見えない時代じゃないですか?そういう多様化した生き方の中で、どんな自分でも、たとえばときには本調子じゃなかったとしても、“それでいいんだ”って肯定できるような応援歌になるといいなと思ったんですね。1つの色に決めなくていいし、何色でもいいじゃないかというところで『虹を追いかけよう』というタイトルにして」
――『Land Of Tomorrow』(M-2)、『Nancy』(M-4)の2曲はトラッドのような親しみやすい雰囲気で、そういう曲もあればミュージックビデオも公開されている『Flower in Anger』(M-3)はガラッと雰囲気の違うジャズテイストの曲。今作を聴いて、寺岡さんの歌声が変わったなぁと思う瞬間が結構ありました。よりしなやかで豊かさが増しているというか。この『Flower In Anger』は特に歌い方や声が他の曲とは違って聴こえました。
「歌い方に関しても、ラジオを始めたことが関係しているんですよ。もともと話す時の声が低いのがずっとコンプレックスだったんですけど、ラジオをやるようになってから、“落ち着いていて聞きやすい声だね”とか声を褒めてもらえることが多くて。これまでは結構ウィスパーに近い歌い方が多かったので、今回は地声に近いレンジで歌ってみるのも面白いかもと思い、声はわりと意識して作ってました。『Flower In Anger』はこれまでのイメージとかなり違うので、驚かれる方も多かったですね」
「そう。他にはないものであり、独特なものなんだなって。それで『Flower in Anger』(=怒りに咲く花)というタイトルで作ろうと。この曲も含めて何曲かドラムの神谷洵平くんのお宅でベーシックのレコーディングをやってるんですけど、神谷くんの自宅にドラムをレコーディングできる環境があって、1stからお世話になっているベースの近藤零さんと、ピアノの柏佐織里さんと4人で神谷くんのお家で相談しながらレコーディングさせてもらって。『Flower In Anger』のドラムに関しては神谷くんが“ちょっといいアイディアがあるから”と送ってくれたドラムパターンが超カッコよくて、“じゃあこれで行きましょう!”って即答で(笑)。もともと最初はエド・シーランの『シェイプ・オブ・ユー』みたいな感じだったんですよ」
――『Table For Two』(M-11)を聴いた時に、それに近いことを感じました。1人の食事も悪くないけど、テーブルの向こうに家族や友人や身近な人がいて、一緒に時間を過ごしたり、同じものを食べたり。そういうところから人と人が繋がれたり、1人じゃないと思える瞬間があることで生まれる感情や成しえることがあるなぁって。
「そうですね。基本的には、人間はすごく孤独だと思っているんですね。自分が感じていることと同じことを他人が100パーセント感じられるわけじゃないし、誰もが最終的には1人なんだと思う。だからこそ、隣にいてくれる人とか一緒に時を過ごしてくれる人との関係性はすごく奇跡的で、文字通り“有り難い”ことだと思うんですね。私は、それを結婚を機に感じたところがあって。愛する人が隣にいることや、その人とただ一緒にご飯を食べること。“一緒にいる”って一見特別じゃないようにも思えるけど、実はすごいことで、そういうのが人生の意味なのかな…とも感じて。『Table For Two』はそういう曲ですね」
Album『Wild Flowers』 発売中 2500円(税別) WFRSM-10002 WILD FLOWER RECORDS
《収録曲》 01. Gift From The Sea 02. Land Of Tomorrow 03. Flower In Anger 04. Nancy 05. Follow The Rainbow 06. Sunday Mooning Birds 07. Black Sheep 08. About Love 09. First Snow (Interlude) 10. Woman 11. Table For Two 12. 夜はやさし
Profile
シュガーミー…シンガー・ソングライター、寺岡歩美のソロプロジェクト。英語、日本語、フランス語を使い分けポップでアコースティックなサウンドと、自在に変化する澄んだボーカルが各方面から好評を得ている。音楽好きな両親の影響で幼い頃からビートルズやマイルス・ディヴィスなど多彩な音楽に親しみ、中学の頃から母親のフォークギターを独学で弾き始める。大学入学とともに地元の北海道より上京し音楽活動を開始。’10年頃よりシンガーソングライターとしての活動を始めRallyeレーベルに所属。‘13年リリースのデビューアルバム『Why White Y?』にはコーネリアスやmilkの梅林太郎が参加。ベルリンでのレコーディングを含む2nd『AROUND the CORNER』(‘15年)に続き翌’16年に発売された関口シンゴ(Ovall)プロデュースによるカバーアルバム『6 femmes』ではルー・リードやジュディ・シル、岸洋子らの曲を聴かせる。tofubeatsやquasimodeの須永和弘ら他アーティストとのコラボも数多く、堀江博久との2マンツアーやRISING SUN ROCK FESTIVAL、FUJI ROCK FESTIVALSへの出演、フランスツアーなどライブ活動も精力的に。他にアニメ『ユーリ!!!on ICE』への楽曲提供や映画出演、モデルなど幅広く活動。‘17~’19年はJ-WAVE『STEP ONE』のアシスタントナビゲーターとして活躍。‘19年春に長野へ移住、自主レーベルWILD FLOWER RECORDSを設立。‘20年8月、COVID-19と闘う医療従事者を応援するプロジェクトとして作曲家のエンドウシンゴと共作したチャリティーソング『STAY WITH ME』をbandcamp限定でリリース。10月8日に5年ぶりとなるフルアルバム『Wild Flowers』が発売。現在、FM長野で放送中の『MAGIC HOUR』木曜日のパーソナリティーを担当。Instagram(IGTV)にて弾き語り動画『Spot Light Sessions』を毎週木曜日更新中。