あらゆる世代に向けて日本の名曲を歌う
『Heart to Heart 2020~Covers~』
「今だからこそできることを、みんなで精一杯やっている」
中島卓偉インタビュー&動画コメント
2019年にデビュー20周年を迎えた中島卓偉。キャリア21年目に入った今年3月4日にベストアルバム『BEST YOURS II 2010-2020 Double Decade』をリリース。新型コロナウィルスの影響で2月以降、有観客ライブは中止を余儀なくされていたため、9月20日には初めてのオンラインライブを開催。また、9月27日から開催されている『Heart to Heart 2020~Covers~』に出演。同イベントは“Covers”とタイトルされている通り、出演アーティストが日本の名曲(歌謡曲やJ-POPなど)をカバーするというコンセプトで展開されており、ここでしか聴けない貴重な内容となっている。感染予防対策を徹底し、着席での鑑賞だからこそじっくりと聴ける日本の名曲の数々を堪能してほしい。今回のインタビューでは、2020年のこれまでの活動を振り返りつつ、『Heart to Heart 2020~Covers~』への意気込み、ベストアルバムに込められた思いなど、大いに語ってくれた。
ベストアルバムのツアーは中止になったので
また取り返したい!
――今年3月にリリースされた2枚目のベストアルバム『BEST YOURS Ⅱ 2010-2020 Double Decade』には卓偉さんの人生が凝縮されているような印象でした。
「ありがとうございます! ベストアルバムのツアーは(コロナの影響で)中止になったので、また取り返したいと思っています!ベストアルバム自体は2枚目で、1枚目のベストは20代の曲を収録していましたが、今回は30代の人気曲を入れました。詩は20代からずっと大事にしてきたんですけど、30代になってよっぽど大事に感じてて。30代で父親になったこともあって、子供が“親父がんばってたんだな”って、思ってもらえる歌詞じゃないといけないなと。そういうことまで考えていました。生半可なことはもう歌えないという気持ちになったし、自分が今まで乗り越えてきたことを、歌にすべきだなと。もっと長いスパンで考えたときに、30代で歌ってた歌を、死ぬまで一番メインにできたらいいなと思ってたんです。“30代でちゃんと立てたかどうかというのが、すごく重要になるよ”と20代の終わりに言われることがあったんです。今、40代になって、その通りだったなと思います」
――ベストに収録されている中で、『我が子に捧げる PUNK SONG』という曲もとてもインパクトが強かったです。
「パンクだとか、ロックンロールだということ言うことは簡単なんですけど。メッセージするとしたら、よっぽど歌詞が男らしくなけりゃいけないとか、突き詰めてなきゃいけないということを責任として感じていたんです。それを打ち出すための活動であり、ベストアルバムだったなという感じですね」
――それだけ強い思いを込めている歌詞を説得力を持って伝えるためのボーカルの声量にも圧倒されます。
「無駄に声がでかいんですね(笑)」
――ロックンロールとパンクのスピリットが感じられて、ハードでワイルドというイメージを抱きがちですが、それだけではない深みも感じられました。
「パーティーロックは嫌いなんですよ。やっぱり内面から湧き上がってくるものというか、そういう歌詞や曲に10代の頃から心が打たれてきたんです。すごく簡単に見えて、よく読むとすごく深い歌詞ってあるじゃないですか。文学が好きだから、読んで自分で世界を膨らませるものが好きなんです。そういうものを凝縮させたものが作詞なのかなと。それを歌うシンガーでありたいなとずっと思っています」
とにかくずっとSOULな曲を中心に書いて、デモを録っていました
――今年、ライブができない期間はどのように過ごしていたのですか?
「2月の終わりから一切できない状態になったんですけど、中島卓偉の活動を止めるわけにはいかないので、とにかくずっとSOULな曲を中心に曲を書いて、デモを録っていました。そういう作業をしていたので、9月の配信ライブで新曲をたくさんやることができました。自分は(コロナ禍でも停滞することなく)先に進んでいるんですよ!ということを伝えたくて。ミュージシャンである以上、曲を書いて初めて前に進めるといいますか。そうやって、21年間やってきたので。あと、ずっと体を鍛えていました。ロックはスタイリッシュであるべきで、亡くなったけどデヴィッド・ボウイをはじめ、僕が好きなミュージシャンはずっと鍛えられてたし。自分もデビューしてから22年、体重は1キロも増えてないです」
――すごいですね!確かに卓偉さんはストイックなロックミュージシャンというイメージが強いです。
「ホントですか?タバコも酒もやらないし、自分が一番神経使うのは声帯なんです。いかにこの声を持続させていくかということに命かけていて、責任感が強くあります。私生活で食べることや鍛えることを続けていかないと、維持できないので」
――ちなみに、オンラインライブは9月20日にされたのが初めてなんですか?
「そうなんですよ。(その前から)インスタグラムを始めたんですけどね。それは事務所の大会議室で、スタッフ1名だけ手伝ってもらって、アコギと歌だけのシンプルなスタイルで第3弾ぐらいまでやっています。なにもしないわけにはいかないし、歌の力がちょっとでも伝わればいいなと思って」
こういう状況だからこそできるツアーになっています
歌っている僕自身もすごく新鮮です
――今回出演される『Heart to Heart 2020~Covers~』は今年が初めて開催されんですよね?
「そうです。こういう状況だからこそできるツアーになっています。歌っている僕自身もすごく新鮮です」
――演目はオリジナル曲ではなく、あえてカバー曲で構成されていますが、これはどういったきっかけで?
「(感染防止対策によって)今はライブで騒げないし、お客さんは声も出せない。それを考えたときに、静かに聴いてもらうためにもバラードを歌おうと思いました。ホントは、自分の持ち歌のバラードでもよかったんだけど、そうなるとまたファンの皆さんがわーっと盛り上がってしまうので。今は、そういった高揚はさせずに、本当に歌を聴いてもらうだけにしたほうがいいだろうと。そこに一回戻って、(出演者)全員がカバー曲を歌うことにしました。せっかくだから日本の名曲をあらゆる世代に向けて、あらためて聴いてもらう、知ってもらう良いきっかけになるだろうなということで決めたんです」
――卓偉さんほか2組の共演で、それぞれがソロのブロックに分かれて歌い、最後は一緒に歌うという構成なんですね。
「はい。松原健之とPINK CRES.は場所によって入れ替わっています。Bitter & Sweetはツアーの前半で終了しましたが、僕と(鈴木)愛理はずっと共演しています。演奏はピアノだけで、オケもいっさい使わずに、歌とピアノしか鳴ってないので、ごまかしがきかないし、非常にやりがいがあります。歌を聴かすときって余計な音が鳴ってないほうが心の中に入ってきます。たとえお客さんがクラップができなくても、シンガーの歌い方やもっていき方でリズムを感じられるんです」
――同イベントは1日昼と夜の2公演されていますが、全部セットリストは違うんですか?
「僕は昼公演と夜公演で曲が被らないようにしています。昼夜、両方来てくれるお客さんも楽しんでいただきたいので。一曲でも多く伝えたいと思って」
――披露するカバー曲は日本の名曲ということですが、どのような年代からセレクトされていますか?
「一番古い曲は1960年代の小室等さんの『雨が空から降れば』という曲で、1996年の藤井フミヤさんの『Another Orion』が時代としては一番新しいですね。鈴木愛理が2000年代以降の曲の中から選んできてくれたんで。僕は2000年代の曲は選ばなかったんです」
――カバーされる曲は中島さん自身も思い入れがある曲ですか?
「正直、自分は歌謡曲をぜんぜん聴いてこなかったんですよ。親父の影響で、ソウルやジャズといった黒人音楽が好きだったので。とはいえ、自分がまだ幼かった1980年代初頭の大ヒット曲というのは、自然に耳に入ってきてたんですよね。その中に、親父が好きだったSOULな曲って実はいっぱいあるので、僕はそれをチョイスしました。ジャパニーズR&Bじゃなくて、本物のR&B(リズム・アンド・ブルース)ですね。尾崎紀世彦さんの『また逢う日まで』とか、上田正樹さんの『悲しい色やね』とか。うちの親父はソウルがすごく好きだったので、ラジオで日本の歌がかかると(チューニングを)変えてたんですけど、あの歌が流れたときは変えなかったんです。親父にはソウルミュージックだというのがわかったんだと思います。そういう曲こそ、今40代になった自分が歌うと似合うかもしれないなと。あれは本当に素晴らしい曲なんですよということを、今、自分のファンに伝える良い機会かなという思いで歌っています」
“バラードを歌う中島卓偉、最高だね!”って
思ってもらえるようにやっている自信もあります
――オフィシャルのライブレポによると。女性アーティストの曲も歌われているようですが、女性の方の曲を歌うのも初めてですか?
「はい。20代の時は歌えなかったと思いますが、35歳ぐらいになって、女性の曲を歌ってる男性シンガーを見て、なんてセクシーなんだろうと。気持ちが変わってきた時期がありまして。自分も女性の歌詞を歌うのもありだなと。それで、自分の曲でも女性の言葉の歌詞の曲をレコーディングするようになったんです。そういうこともあったので、今回の『Heart to Heart 2020~Covers~』で選ぶ曲の中に女性の歌詞の曲も入れようと、自然に思うようになりました」
――ハードで熱く盛り上がるようなライブとは違って、座ってじっくりと歌に耳を傾けられるスタイルで。卓偉さんの新たな一面が観られる貴重なライブですね。
「それが伝わるといいですね。“バラードを歌う中島卓偉、最高だね!”って思ってもらえるようにやっている自信もあります。僕は1stアルバムのときからバラードも歌ってきたんですよ。激しい曲もバラードもちゃんと歌える人をロックシンガーだと思っているんです。だから、初期の頃からアコースティックギターで歌うライブもやってきましたし、バラードしかやらないツアーもやってきたんです。アコギが中心になっているアルバムも何枚か出させてもらっているんで。自分のバラードを聴きたいっていうファンの方も多いんですよ。そのどっちも出せて初めて、ロックシンガー、ソウルシンガーだと言えると思います」
――最後にお客さまに向けてメッセージをお願いします。
「感染防止対策を徹底してやっています。やるなら感染者は絶対出さない!というプライドでスタッフも我々もやるということが大前提だったんです。とはいえ、実際会場に来てみると今までとは違ってクラップはできないし、拍手しかできない。(出演者の)名前も呼べない。バラードだけのカバー曲でどうなるんだろう?って思われるかもしれませんが、終わった後にはみんな“来てよかった”と言っていただけます。絶対に、“明日からまたがんばろう!”という気持ちにさせたいなと思ってやっています。だから、不安な人にも安心して来てください!と強くいいたいです。歌のパワーとかエンターテイメントのパワーってすごくあると思います。今だからこそできることを、みんなで精一杯やっているし、そういうことができるから人生を楽しめると思うんです。だからいつまでもテンション低めでがまんするより、気持ちが沈んでるならば、むしろライブに来ていただいて、我々が自信を持って届ける日本の名曲を再確認できる良い機会になると思います」
Text by エイミー野中
(2020年11月20日更新)
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