猛者バンドたちの滅多にみられないアコースティックライブ
『となりのバンドマン!!!! ~アコースティック編~』ライブレポート
2013年から続く関西発のイベント『となりのバンドマン』。今年は新型コロナウイルスの影響で、服部緑地野外音楽堂にて『となりのバンドマン!!!! ~アコースティック編~』として有観客で行われた。出演者は綾小路翔&星グランマニエ(氣志團)、猪狩秀平(HEY-SMITH)、SUGA(dustbox)、セイジ(ギターウルフ)、タナカユーキ(SPARK!!SOUND!!SHOW!!)、ヤマサキセイヤ(キュウソネコカミ)、U-tan(GOOD4NOTHING)という個性豊かな面々。滅多に見られないフロントマンたちの貴重なパフォーマンスに、終始会場はハッピームードだった。今回はその様子をレポートしよう。
直前まで台風14号の進路にヒヤヒヤさせられた10月10日(土)。主催者・出演者・観客の願いが通じたのか、台風はまるでUターンするかのように日本列島を外れていった。当日は曇天。開催を喜んだ理由は台風だけではない。コロナ禍のなか、続々と中止になっていった夏フェスイベント。そのなかで初めて有観客で大型フェス『RUSH BALL 2020』を行い、感染者ゼロで成功させたイベンターであり、本イベントの主催者・GREENS。彼らの健闘と挑戦も忘れてはいけない。関西では徐々に、ガイドラインを遵守しながらの有観客ライブイベントが戻ってきつつある。それはGREENSをはじめとする関西イベンター陣が悩みながらも挑み、積み上げた功績が大きいだろう。もちろんこの日も感染拡大防止ガイドラインに沿って、マスク着用、検温、消毒、大阪市コロナ追跡システム登録、客席は前後左右1席ずつ間隔を取って、しっかり感染対策が行われた。
会場がオープンし、続々とオーディエンスが入場。この日は自由席だったため、前の方から順に席が埋まっていく。皆笑顔で、どこかウキウキとした雰囲気。芝生席でゆっくり乾杯する姿もあり、それぞれの楽しみ方で開演を待つ。会場内では「わー! 久しぶりー!」と、友達と再会を喜ぶ人が本当に多く見られた。ライブがなかったということは、これまでライブ会場で定期的に会えていた友達にも会えなかったということだ。やっと会えたね、という嬉しい笑顔がそこらじゅうに咲いていた。
そしてオープン前から、ステージにはMCが登場していた。「皆さんおはようございま〜す!!」と元気に挨拶する男性2人。まるで芸人かな?と思わせるほどのノリと高いテンション、息のあったボケとツッコミ。実はこの2人、HEY-SMITHのマネージャーで、CAFFEINE BOMB RECORDS・マツイ氏と、神戸・太陽と虎のスタッフ・テッペイ氏。急遽MCに決まったそうだ。この日1日、ほとんど出ずっぱりで、出演者とともにイベントを盛り上げてくれた。
トップバッターはタナカユーキ(SPARK!!SOUND!!SHOW!!)。Tシャツにグラサン、50’sの女優のようにスカーフで“真知子巻き”をして登場。「今、この時こそが命。皮膚の下 流れているのメロディーは愛だ」と、アカペラでラップを始める。『声明』に続いて『sunset venice』を歌う。アコースティックと言いつつも、同期を使うのが“スサシらしさ”。ステージを自由に歩いたり座ったり、バンドで歌っている時とはまた違う魅力を見せる。さっきまで晴れていたのに雨が降り出し、「俺が晴らします!」と豪語したユーキの意思に反して強まる雨。8月にリリースされた『スサ死e.p.』から『ゆーれい』を披露した後は、エレキギターを持って『アワーミュージック』、空きっ腹に酒のVo.田中幸輝のソロ、YUKITEROの『夏を待ってる』のカバーをプレイ。結局雨の中でのライブとなったが、ユーキのしっとりとした歌声とエレキギターの音色が心地良く、客席は聴き入っていた。アカペラの『しあわせになる』では「ゆるやかに殺され続けた2020。例年より少し早く咲いた桜はこんな時でも麗らかで、そして俺たちは春を奪われた」と、今年誰もに等しく襲いかかった葛藤や悔しさを代弁してくれているようで、思わず吸い込まれていく。最後に自分に向けて作った曲だという『優気(ゆうき)』で愛を会場に解き放ち、ライブを終えた。ステージを後にするユーキに送られた拍手はいつまでも鳴り止まなかった。
転換中に雨が止み、続いてはU-tan(GOOD4NOTHING)。「やっぱり目の前に皆がおれへんと穴が空いてる。皆も多分どっか心に穴空いてるんちゃうかなと思って、その穴ちょっとでも埋めれたらいいなと思って」と、力強いメッセージとともにアコギを軽快に鳴らし『It’s My Paradise』からスタート。手拍子に乗せて体を揺らす客席。まっすぐ後ろまで届く伸びやかなU-tanの歌声が、シンプルに生音を楽しむ素晴らしさを思い出させてくれる。GOOD4NOTHINGの曲を2曲続け、斉藤和義の『空に星が綺麗』と、Green Dayの『Good Riddance』をカバー。1曲終わるごとに「気持ちええわ! ありがとー!」と笑顔を見せ、客席に話しかけるようにMCを挟む。半年以上ライブができなかったのは22年のバンド活動で初めてだと語り、「改めてライブの大事さを経験した。これは必要やったんやって来年また言えるように、そういう時間を過ごせればと思っております。ライブハウスがいつも通り始まったら、また来てくださいね」との言葉には大きな拍手が。最後に“人生の歌”『One Day I Just』を心底気持ち良さそうに歌い上げた。客席も拳を前に突き上げて応える。快晴の秋空のような、本当に軽やかで和やかな弾き語りだった。
3番手はヤマサキセイヤ(キュウソネコカミ)。スニーカーを脱ぎ捨て、椅子の上であぐらをかき、まるで自宅のようにリラックスした格好で座る。しかし緊張していたようで、しきりに「緊張する。死にかけのETぐらい手が震える」と言っていた。「キュウソで弾き語りに適した曲がほんまにないので、偉大なバンドの曲をバンバンやって帰ります!」と言い、andymoriの『すごい速さ』をかき鳴らす。フジファブリックの『赤黄色の金木犀』の前には「金木犀のお香持ってきました!」と、ステージ上でお香を焚き始めたセイヤ(笑)。ボケを挟みつつも、キメるところはしっかりキメる。気持ち良く通る声に聴き入る客席。キュウソの『怪獣のバラード』に続いて、この日初披露だという新曲『ヌイペニ』を演奏。恋した男の切ない歌を、熱く熱を込めて歌い上げる。最後は銀杏BOYZの『骨』。“あむあむしたい”という歌詞を『ハッピーポンコツ』の“ハムハムしたい”でオマージュするほど影響を受けていると初めて暴露。キュウソネコカミのライブとは全く違うものの、全力で声を張り上げ、ギターを奏でるスタイルは変わらない。笑いあり、情熱あり、全力投球のレアなライブを見れたこの日の観客はとてもラッキーだった。
セイジ(ギターウルフ)は伝説的なライブを投下していった。Ramonsの『Cretin Hop』をSEに、革ジャン&革パンで走り込む。エレキギターを轟音でたっぷり響かせ、ビールを一気飲み! 缶を投げ捨て「イエ〜! エビバーデー!! ようこそ大阪へ! 時代を超えろ、ロックンロール!!」と叫び、『メソポタミアロンリー』『幽霊ユー』『フーチークーチースペースマン』『宇宙戦艦ラブ』と、最初から最後までノンストップで音が途切れることなくエレキギターをかき鳴らし、叫ぶように歌い続けた。思わず高まったファンがステージに駆け寄る場面もみられた。とにかくリフを弾きまくり、ギターソロで魅せる。この日の出演者で最年長者のセイジ。まさにレジェンドだ。ステージから目が離せない。しばらく思考が停止してしまうほどに、うねるエレキギターと咆哮にも似た歌声をただ受け止める。その存在感と音圧にただ圧倒された。ステージ袖ではU-tanとセイヤがじっと見つめていた。最後は『I LOVE YOU OK』を全力で歌い上げ、ギターの音が鳴るなかでシールドをブツッと抜き、余韻と投げキッスを残し、ギターを持って去っていった。嵐のようなライブだったが、最高にカッコ良かった。
トレードマークのリーゼントと担当カラーの作業着で「唄ってポン!」のSEにのせてコミカルに踊りながら登場したのは、氣志團の綾小路 翔&星グランマニエ(ランマ)。のっけから『One Night Carnival』で会場を盛り上げる。もともと同じライブハウススタジオのアルバイト仲間で早番を担当していたという2人。ユニット名は「早番です♪」と自己紹介。ランマが辞めた後に連れてきたのが、フジファブリックの志村正彦だったそうだ。「ちょっと(曲)やってみる?」と、歌詞をスマホで表示しながら、志村がバイト先のスタジオで初めてレコーディングしたという『茜色の夕日』を即興でカバー。なんとも言えない感情がこみ上げる。客席からは大きな拍手が贈られた。続くザ・クロマニヨンズの『ルーレット』では、なんとハーモニカを吹きながら早乙女 光(Dance.&Scream)が登場。これには会場も大喜び。デビュー当時の思い出が詰まったThe ピーズの『どっかにいこー』を情緒感たっぷりに演奏し、MCへ。「8ヶ月ぶりに皆の前で演奏できて、しかもこんな出で立ちで、ちょっとドキドキしてるけど(笑)、本当に嬉しく思ってます。またできれば早く、皆と青空の下で会えればいいなと思ってます」と、アカペラで始まった『落陽』を夕方の空に響かせる。最後は石野卓球から譲り受けた、ZIN-SÄY!の『オールナイトロング』で元気に終了。再び登場時と同じSEで踊りながらステージを後にした。太陽みたいに朗らで、元気がもらえる最高のパフォーマンスだった。
続いては猪狩秀平(HEY-SMITH)。「やっほー! 元気ですか?猪狩秀平、8ヶ月ぶりの人前でございます。しかもアコースティックて。イメージないやろ」と挨拶。『Don’t Worry My Friend』『Sunday Morning』をプレイすると、明るい空気が会場中に満ちていく。会場が位置する豊中市出身の猪狩。まるで近所のお兄ちゃんとダベっているような感覚で、客席と久々のやり取りを楽しむ。『Before We Leave』をしっとり歌い上げた後は「聴きたい曲ありますか?」とリクエストを募る。ゆる〜いMCで軽口を叩きながらも、サラリと伸びやかな歌声を披露するギャップがズルい。『California』のサビでは自然と客席の手が上がり、満足そうに笑顔を浮かべる。と、ここでサプライズゲスト! 登場したのはYUJI(Ba.&Vo.)。「なんか照れるっすね(笑)」と笑いながら『I'm In Dream』をツインボーカルで披露。声質の違う2人のハーモニーにしばし酔いしれる。「自分たちはライブハウスに帰りたいし、今危機的な状況のライブハウスを助けたい」と語る猪狩。ラストはリクエストに応えて『Summer Breeze』。多くの人にとって静かだった夏を取り戻すかのように、爽やかな声を風に乗せて届けてくれた。
いい感じに陽が落ち、トリはSUGA(dustbox)。「皆の手拍子が僕のバンドになるんで」と、いきなり手拍子を煽る。1曲目は『Sun which never sets』。歌い終えて「こうやって皆で会えるのは嬉しいね」と久しぶりの有観客ライブを喜ぶ。こちらも心底同じ気持ちだ。『Bird of Passage』『You Are My Light』『Still Believing』を野音の空に高らかに響かせ、「いや〜、楽しいな〜!」と笑顔。MCではライブができなくなって一時落ち込んだが、落ち込んでても仕方ない、と何故か脱毛をして、おならを数えてみたという話に(笑)。この力の抜き具合がたまらない。そしてX JAPANの『Endless Rain』をカバー。再現率の高さに客席も大喜び。“この状況を皆で乗り越えていきたい”との想いが込められた『Hand in Hand』は、未来を明るく照らしてくれているようでとても眩しかった。ラストソングは『Love』。力強く優しく、逞しくアコギを奏でる。最後はジャーン! とギターに合わせてジャンプ! 大きくお辞儀をしてステージを後にした。名残惜しいけれど、ライブはこれで終幕だ。
1日中会場を盛り上げていたMC・テッペイマツイがステージに現れ、帰路につくオーディエンスをテンション高く見送る。と、そこに猪狩が登場。松山千春の『大空と大地の間で』をカラオケで熱唱するという展開に。残っていたラッキーなオーディエンスは猪狩の歌唱を見守り、大団円を迎えた。最後までハッピーな空気が流れた『となりのバンドマン!!!! 〜アコースティック編〜』。個性豊かで、明るく最高のパフォーマンスを見せてくれた出演者に感謝を言いたい。心にポッと希望の光を灯してくれた1日だった。来年の開催も楽しみにしていよう。そして願わくば、ギュウギュウのライブハウスで『となりのバンドマンツアー』ができることを。
Text by ERI KUBOTA
Photo by 米田真也
(2020年10月23日更新)
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