“1mmでも1mでも1kmでも、止まらなければ進んでいける”
the band apart主催『SMOOTH LIKE GREENSPIA 2020』
ライブレポート
10月11日(日)、毎年恒例となったthe band apart(以下バンアパ)・GREENS・ぴあ主催のイベント『SMOOTH LIKE GREENSPIA 2020』が服部緑地野外音楽堂で行われた。毎年、the band apartに縁の深いアーティストをゲストに招いていたが、今年はイベント始まって以来のワンマンライブ。新型コロナウイルス感染拡大ガイドラインを遵守のうえ、有観客と配信で開催されることになった。コロナ禍でも止まらずに制作を続け、8月~11月まで4ヶ月連続でEPをリリース中のバンアパ。配信ライブは行っていたものの、有観客ライブは半年以上できなかった。メンバーにとってもようやく訪れた生ライブ。秋の野外にピッタリの、素晴らしいステージとなった。今年の『SMOOTH LIKE GREENSPIA 2020』のレポートをお送りしよう。
数日前まで心配された台風の進路も逸れ、曇り空だがTシャツで過ごせるほどの気温。緑あふれる公園に囲まれたすり鉢状の会場を、涼しい風がすり抜ける。ステージの上には木暮栄一(Dr.)がデザインした、トマトがモチーフのロゴパネルが吊るされていた。この日も検温、消毒、マスク着用、大阪コロナ追跡システム登録、客席は前後左右1席の間隔を空け、しっかりと感染拡大予防対策が行われていた。
会場がオープンし、歴代の『SMOOTH LIKE GREENSPIA』や、バンアパ、ASIAN GOTHIC LABELのTシャツを着たオーディエンスたちが続々と入場してくる。ドリンクやフードを持って席で乾杯したり、芝生席でレジャーシートを広げて自由に過ごしていた。
定刻の16時。メンバーがステージに登場。大きな拍手で迎えられる。
一発目、イントロが聞こえると、客席からはどよめきが起こる。1曲目は『Tears of joy』。音が鳴るや否や、会場は総立ちに。ものすごく嬉しそうな表情を浮かべるメンバー。川崎亘一(Gt.)は頭を振りながら全身でギターを鳴らす。笑顔で客席を見つめる荒井岳史(Vo.&Gt.)。原昌和(Ba.)もニコニコとベースを弾き、木暮もパワフルでタイトなリズムを刻む。思い思いに体を揺らすオーディエンス。生音でやり取りができる喜びを、メンバーも客席側も噛み締めていた。
流れるように『Game,Mom,Erase,Fuck,Sleep』へ。ステップを踏んで、踊るように弾く川崎のギター。足元には大量のエフェクターが置かれている。転調からの連続のキメには思わず鳥肌が立つ。一気に会場の空気がキュッと引き締まった。2度目のキメのあと沸き起こった歓声に、荒井は“キマった!”と言わんばかりにギターをぐるんと振り上げて笑顔を見せる。続く『夜の改札』では川崎のギターテクが光る。徐々にビートが早くなり、木暮のドラムと川崎の歪んだギターに合わせて、自然とクラップが起こる。荒井が“見てろよ!”と言わんばかりに客席を指差す。一気に叩き込んだビートの後、『Eric.W』のイントロが聞こえると、アンセムの投下にオーディエンスから歓喜の空気が沸き立った。なんてカッコ良いアレンジだろう。原のコーラスも映える。原は微笑みながら客席を見回していた。サビでは一斉に手がアップ! 客席のグルーヴはより大きくなり、ヒートアップしていく。“楽しくて仕方ない!”といった様子の荒井。「どうもありがとう!」の声に応えて大きな拍手がステージに降り注ぐ。
そしてMCへ。「今年もやることができるのは最高に嬉しいです。ありがとうございます!」と挨拶した荒井。木暮は「2020年は教科書に載るような年ですけど、我々は意外と忙しくスタジオに通ったり、配信ライブもちょこちょこやってたりして。こだわりがないからこそ状況が変化しても一反木綿のようにニュルリと生きているわけでありますが、そんな中でこうやってたくさんの人々が集まってるのを見ると……1曲目マジで緊張しました!」と告白。それを受けて「1番難しい曲を最初に消化しようっていうね(笑)」と荒井がフォローする場面も。
ここからは4ヶ月連続リリースのEPに収録された楽曲が続く。まず『September.e.p.』から2曲を披露。『MTZ』は前半のゆったりとしたテンポから、後半のテンポアップが印象的だ。ドドドッ! というドラムに合わせて照明の光がはじける。さらにロックナンバー『You never know』で会場のテンションをアップ! バンアパらしさ全開の1曲。複雑なアンサンブルを当たり前のようにサラッとやってしまうのが彼らのすごいところだ。フロントマン3人が息のピッタリ合ったフレーズをバシッとキメる。川崎はギターに命を吹き込むように、指先から超絶テクを繰り出す。躍動感のあるグルーヴに思わず体が揺れる。
そして『August e.p.』から2曲。軽快でキャッチーな『9th Grade Bubble Pop』で少しスローダウン。原は持ち込まれたケースに座り、木暮の方に向き合ってベースを奏でる。荒井の丸い歌声と軽やかな優しいサウンドスケープが野音に広がっていく。曲が終わると原は立ち上がり、間髪入れず『AVECOBE』へ。荒井と川崎のツインギターによるハイセンスなテクニックが際立つ、耳だけでなく、目で見ても最高に痺れる楽曲だ。アーバンでメロディアス、かつドラマティックなリフが印象的。低音ベースに体が弾む。
2度目のMCでは「コロナは何も良いこと1つもないけども、それを逆手にとって好転させるのが我々人間の良いところだと思う。俺の前髪(汗で)焼きそばみたいになってると思うけど、それはもういいかなと(笑)」と荒井。ここで喋るよう話を振られた原は「給付金とかで遊び暮らしてる人ばっかりが来てんの?俺らみたいなの楽なもんですよ。社会で働いてる人に比べたら、バンドやってるやつなんて、好きなことやってるだけなんで、今日はそんな道化を見て楽しんでください」と自虐ネタをかましていた。
「後半戦は懐かしいやつを」と、『shine on me』をドロップ。ギターをMosrite MARK-Ⅰに持ち替えた川崎の指先から、高音の繊細なフレーズが紡ぎ出される。原のベースソロに続き、ギターソロでは川崎が前に出て煽る! 客席もハンズアップで応える。曲が終わるや否や、原のベースとコンガのような木暮のバスドラが炸裂し『the noise』、そして代表曲『higher』と続く。この怒涛の展開にオーディエンスも大喜び。サビでは一斉に手が上がり、「1.2!」では小さいながらもマスクの中から掛け声を発する。音のアンサンブルに心地良く身を任せるオーディエンス。全ての音が徐々に川崎のギターに集約されていく。やがて川崎のギターのループから荒井のギターがジョインし、『amplified my sign』へ。この天才的な曲の繋ぎ方に客席からもどよめきが生まれた。展開の素晴らしさにオーディエンスも上下にダンス! オレンジの照明が夕方の野音によく映えて輝いていた。
「いやー、ほんとに気持ち良いですね。昔の曲めちゃくちゃ練習しました(笑)」と満足そうに笑う荒井。今年22年を迎えたバンアパ。「誰かが見てくれるから俺たちは辞めないでいられるんだと思います。今日はほんとにありがとうございます」と改めて感謝を口にし、ラストパートへ。ライブではお馴染みのアンセム『ZION TOWN』で軽快に飛ばしてゆく。野音の屋根に夕陽が差し込む。センチメンタルなメロディーが秋の風に乗って会場中を満たしていく。そして『8月』、『DEKU NO BOY』と、美しいメロディーの楽曲を続けて演奏。ただ心地良く音の波に揺られる幸せを噛みしめる。『DEKU NO BOY』では荒井のギタートラブルもありつつ、力強いリズム隊のビートと安定のギターに支えられて、届けようとする意志の強い歌声と熱が会場の後ろまで伝わってきた。
荒井が「今日このイベントができるのはGREENSさんとぴあさんのおかげです。大阪は『RUSH BALL 2020』とか大きなフェスを成功させたり、すごくチャレンジしてクリアして乗り越えていってる、そんな印象です。プロたちが集まって我々の今日のイベントを成立させていただいたこと心から感謝します」と何度も感謝を述べる。
続いて「何十年もやってきたことだけど、トラブルがあっても進んでいくのがライブだったんだということを久々に思い出しました。2020年は本当に大変な年になって、まだまだいろいろあると思うんですけど、我々がこうやって止まらなければ進んでいける。それが1mmでも1mでも1kmでもいいんだと思います。三歩進んで二歩下がるという言葉もありますけど、ジタバタしながら皆でたまには集まって、お互い元気かどうか確認して、元気じゃない人には声をかけて、皆で引き続きやっていければいいかなと思います。皆の近くからでも遠くからでも、我々が力になれることがあれば、あったとしたらこれ(音楽)なんですけど、我々なりに続けていきたいと思いますので、引き続きthe band apart、『SMOOTH LIKE GREENSPIA』よろしくお願いします!」と顔を輝かせて語る荒井に、今日1番の大きな拍手が贈られた。
ふと木暮が「次の曲へいって綺麗に終わらないのがthe band apartというバンドです。……体が攣るんですよね。攣りながら演奏なんて、ドラムでやるとこんな感じです」とフレーズを叩く。荒井が「いけそう?攣ってるのは誰?」と問いかけると、「あ、僕」と原。機材車にずっと積みっぱなしだった、いつどこで買ったかわからないピクルス(原以外の人は臭いと感じたらしい)を食べたらしく、「ピクルスがきいちゃって。覚醒作用があるのかな。頭の中のテンションだけは高い」と話す原。荒井は「やばいね(笑)。いけそう?久々の有観客ライブでこういうことやっちゃうのが俺らだよね」とゆるいMCを挟みつつ、本編最後の曲『夜の向こうへ』をプレイ。暗くなり始めた空にイントロのギターリフが溶けていく。荒井のやわらかい歌声とアンサンブルが本当に心地良い。自然と客席からクラップが起こり、サビの“イエイ イエイ イエイ”では手が上がる。久々の生ライブになった人も多かっただろう。楽しくて幸せな時間はこんなにもあっという間なのだ。鳴り止まない拍手に「ありがとう!!!」と言い、一旦ステージを去るメンバー。
拍手はすぐさまアンコールクラップへ変化。少し経ち、先に荒井が登場。新作Tシャツのデザイン紹介をしつつ、「5月から1人で配信始めて、2時間PCに向かって喋り続けてるんで、人前でやるってやっぱ気持ちがいいね。すごく楽しいです。楽しい時間をありがとうございました」とのMCの後、『K. and his bike』を披露。この曲はバンアパ20周年で行われた『SMOOTH LIKE GREENSPIA 2018』でもアンコールで演奏された。優しいギターの音が迫力を帯びて勢いを増し、また優しくなる……緩急つけてグルーヴを生み出す。体が攣っていると言っていた原も、思い切りベースをかき鳴らす。熱が高まった4人のエモーショナルなセッションと一体化するように、オーディエンスも一緒に大きく頭を振る。虫の声が聞こえる秋の自然の中で、素晴らしいライブは大団円を迎えた。
「今日は夏の終わり感があって、すごく良い思い出を皆さんありがとう」と木暮。最後に全員で記念写真を撮影して、今年の『SMOOTH LIKE GREENSPIA 2020』は幕を閉じた。まだまだ収束が見えないwithコロナ時代。来年はどんな年になるのだろう。だけど「来年もきっとやるでしょう!」との荒井の言葉を信じ、また会える日までお互いの日々を歩んでいこう、そう思えた最高のライブだった。
Text by ERI KUBOTA
Photo by 米田真也
(2020年10月23日更新)
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