シングル『新世界望遠圧縮』で見える世界
関西発ロックバンド、PK shampoo初インタビュー!
2018年大阪・京都を拠点に結成したロックバンド、PK shampooがシングル『新世界望遠圧縮』を4月8日にリリースした。大学の音楽サークルの先輩後輩4人からなる彼らは、前身バンドを経て活動を開始。これまでにミニアルバム1枚とシングルを1枚リリースしている。作詞作曲を手掛けるヤマトパンクス(vo&g)は、バンドマンとしては少々変わり者かもしれない。心底音楽が好きだというわけでもなく、ライブやバンド活動に対する情熱は低めと公言する。身につけたヘッドホンから音楽は鳴らず、単なるファッションだと言う。だが、彼が音楽をやる理由は明確に存在する。彼が作り出す楽曲には不思議な中毒性がある。哲学科出身らしい言葉の言い回しや、ノイジーだがメロディアスでエモーショナルなサウンドにハマる人が続出している。PK shampooとは一体どんなバンドなのか。今回はそのベールを剥がすため、東京・下北沢を拠点にする音楽インディペンデント・レーベルTHISTIME Recordsの龍ノ平氏と、ぴあ東京本社社員の新井がヤマトパンクスにインタビューを敢行。普段から飲みに行く仲で、気心知れた友人関係の3人。だからこそ、結成の経緯から表現方法の根源、バンド活動のスタンス、シングルのことまで、ざっくばらんな話を聞くことができた。PK shampoo、史上初のインタビュー!
“シティポップやらん?”って始まったバンド
新井「初インタビューなので、まずは結成の経緯から教えてください」
ヤマト「結成したのは2年前の3月くらいですね。大学の音楽サークルの文学部の人間が集まって、バンドをやろうじゃないかというところから始まりました」
新井「ブログでは酔った勢いで結成したとありましたが」
ヤマト「それは前身バンドですね。4~5年前にコピーバンドじゃなくて、初めてちゃんと自分で曲を作って、自分でボーカルをとる形でバンドを組んで。それを2~3年やりました」
新井「どんな音楽性だったんですか?」
ヤマト「パンクで、ガーッとがなるようなバンドでした。しんどいからもういいやと思って(笑)」
新井「(笑)」
ヤマト「で、暇やなーと思って、サークルの後輩かき集めて、テンポもBPMも落として、消費カロリーを抑えたバンドをやろうと。特に売れたいわけでもなく、月に1回くらい集まろうよって始まったのがPK shampooですね」
新井「それは大学在学中?」
ヤマト「大学5回生の終わりぐらいです」
新井「もう卒業してるんだっけ?」
ヤマト「今年に7回生で卒業しました(笑)」
新井「なるほど(笑)。メンバーは?」
ヤマト「メンバーは1歳下と2歳下がいて、2個下がまだ大学生です」
新井「ドラゴン(龍ノ平)はPK shampooとはいつ会ったの?」
龍ノ平「居酒屋で会ったのが最初だよね。2018年の12月くらいに永福町の寿司屋で飲んで。ちょうど自分がレーベルをやってるバンドがPK shampooと一緒に出てたんで、フラッと飲みに行った感じですね」
新井「メンバーはどんな人ですか?」
龍ノ平「濃ゆいですよね(笑)。ベースのニシケンは人見知りなのか、仲良くなるまでに時間かかったな。でも“仲間になりたそうにこっちを見ている!”みたいな感じの印象ですね(笑)」
新井「ニシケンさんは年齢的には?」
ヤマト「僕の1個下です」
龍ノ平「前のバンドのギターだよね」
ヤマト「そうです」
新井「関係値は1番長いんだね。ギターからベースに転身したんですか?」
ヤマト「もともとはベーシストだったけど、前身バンドでギタリストがいなかったからギター弾かせて、段々ギター弾けるようになってきたところで解散してベース弾かせるという、迷惑なことをしました(笑)。組みなおす時にはもう一つ下の後輩にギターの上手い奴がいたんで」
新井「それがカイト(g&cho)さん」
ヤマト「そうです。カイトは今年から6回生です」
新井「確かに上手いよね」
ヤマト「独特なギターを弾くし、人間性もおもしろいなと思ったんで誘いました」
新井「カズキ(ds&cho)さんは?」
ヤマト「一言で説明するのが難しいやつですね(笑)。そういえば京都にカズキの家の別荘があって、ガラス張りの風呂とかエレベーターとかフィンランド式サウナとか、音楽スタジオもついてたりしたんで、僕らも最初はそこで練習したりしてました」
全員「マジで!?」
ヤマト「すごいおもしろいし、メンバーの中で1番ユーモラスで、1番良い奴です。モトリー・クルーとアメリカが大好きですね。おじいちゃんがハーレーに乗ってます(笑)」
新井「ちなみにヤマトパンクスの名前はどこから来たんですか?」
ヤマト「ツイッターの名前からです。本名が前田ヤマトなんですけど、最初は“ヤマト マエダ”から始まって、3~4ヶ月ごとに名前を変えてたんです。NUMBERGIRLの曲名に引っ掛けて“オモイデインマエダヘッド”だったこともあるし、“ヤマトシューゲイズ”、“ヤマメタル”だったこともあります。で、今のバンドがガッツリ始まった時にたまたま“ヤマトパンクス”にしてて、それが継続してます。そんなに思い入れがある名前ではないし、それほどパンクスでもないです」
新井「バンド名の由来は?」
ヤマト「ゲーム『MOTHER』で、主人公のネスが必殺技で“PKファイヤー!”って言うじゃないですか。『MOTHER 2』では“PK”の後を自由に変えられるんですよね。昔僕はなぜか“シャンプー”にしてて、そこから取りました」
新井「そうなんだ! SEがポケモンのバトルの音楽だけど、ゲーム好きなんですか?」
ヤマト「いや、全然好きじゃない(笑)」
新井「(笑)」
ヤマト「小学校くらいまでは人並みにゲームボーイアドバンスとか初代PSはやってて、ノスタルジーを感じるところはあるんで、その時代のものは好きですけど、小3くらいからはほとんど新しいゲームはプレイしてません」
新井「ヤマトくんはめっちゃ音楽好きとかでもないし、他のバンドマンと比べたら情熱もないタイプじゃないですか」
ヤマト「そうですね」
新井「そんなヤマトくんでも聴く音楽は?」
ヤマト「うーん……」
龍ノ平「聴くイメージないな」
ヤマト「あ、槇原敬之ですね」
新井「めっちゃ意外なとこきた!!」
ヤマト「地元同じなんですよ。うちの親が好きで。槇原敬之とaikoかな」
新井「aikoも大阪ですよね」
ヤマト「だから好きってわけじゃないですけど、何か通じるものがあるのかもしれない」
新井「あとYogee New Wavesが好きなんだよね?」
ヤマト「めっちゃ好きです!! PK shampooは元々Yogee New Wavesやろうって始めたバンドなんです。僕以外の三人もYogeeめっちゃ好きで、サークルでコピーバンドやってたりもしたし。今は全然違うことになりましたけど(笑)。ヨギーは憧れという部分ですごく好きなバンドですね」
新井「どういうところが好きなんですか?」
ヤマト「知性を感じる。グランジみたいなガチャガチャしたのは前身バンドと近いジャンルだったんですけど、あんまり好きじゃなくて。シティポップは好きです」
すごく遠い場所が近くに感じた
新井「じゃあシングルの話を聞きましょう」
龍ノ平「『新世界望遠圧縮』(M-1)って、なに?」
ヤマト「ストレートな質問(笑)」
龍ノ平「『夜間通用口』(M-3)しかり、造語好きだよね」
ヤマト「好きですね。漢字いっぱい並んでるのカッコ良いなと思って」
新井「『新世界望遠圧縮』はどうやって作ったの?」
ヤマト「『新世界望遠圧縮』は2019年のCRYAMYとのツーマンライブツアーの時にできた曲です。僕たちメンバーすごく仲良くて、機材車であちこち行くのが好きなんです。で、僕が仙台と福岡にわざわざ車で行きたいと言ったんですよ」
新井「車で大阪から仙台は遠いよね~」
ヤマト「でも皆同意してくれて。しんどいけど、皆で入れ替わり立ち代り運転して。僕は免許持ってないから後部座席で寝てたりするんですけど、目が覚めたら仙台や福岡に着いてる。この曲は冒頭、“目を覚ましたら~”から始まるんですけど、その歌詞はそういう、僕という視点からツアーの情景を象徴した言葉です。」
新井「うんうん」
ヤマト「で、“望遠圧縮"は撮影用語なんですよ。望遠レンズをつけて、遠くのものと近くのものを同じくらいの大きさに撮る手法なんです。たとえば飛行機がビルの真上を飛んでたり、自分と富士山が横に並んでるように撮れたり。福岡も仙台も、大阪からすごく遠い場所にあるじゃないですか。でも、そこで出会う人たちはみんな僕らのバンドのTシャツを着てくれていたり、僕らの曲を知っていてくれたりするから、全然違う場所にいるように感じなかった。どこに行ってもみんなが同じように熱く迎え入れてくれることに感動したんです。だからそんな新世界を望遠レンズで圧縮して撮ってる世界観を想像して作りました」
新井「時間軸も朝、夜、夕焼け、いろいろだね」
ヤマト「季節や時間の言葉を使って、距離感と空間的な広がりをもたせてみました」
龍ノ平「ズバリ“新世界”ってなんですか」
ヤマト「大阪の新世界という街と引っ掛けてる部分もあって。遠く離れた福岡や仙台やが僕やバンドにとっての新世界であること、そしてその景色と大阪の新世界が望遠レンズで圧縮して撮られてる、みたいな掛け詞になってます(笑)」
身近なリアリティと、有形ながらも巨大な存在
龍ノ平「2曲目は『3D/Biela』」
新井「テレビの型番っぽいね」
ヤマト「よく言われる。僕はこのシングルだとこの曲が1番気に入ってます。”3D /Biela”は彗星の名前なんですよ」
龍ノ平「すごいなあ(笑)」
ヤマト「“3”番目に見つかった、“今はもう観測できなくなってしまった”“Bielaという名の周期彗星”という意味なんですよ。そういえば何でDって何でDなんだろ。“Disappier”とかかなぁ。まぁいいか。とにかくこの星結構ドラマチックで、地球の周りをぐるぐる回ってたんですけど、ある時2つに別れてどっかいっちゃった星なんですよ」
新井「へえ」
ヤマト「僕、曲の中で“女の子に振られた!”とか“友達と離別した!”という話ばかりするんですけど、今まではそれを表現するときにいつも“さよなら”みたいな直接的な表現を使ってたんです。でもこの曲では別れを匂わせないように歌っておいて、タイトルの意味を調べた時に別れの曲なんだってわかるっていう構造にしたかった。仲のいい友達とか、恋人との関係って、お互いに良好な感情を持ってる間はその関係の終焉なんて全く想像もつかないほど楽しくて幸せなのに、実際に別れが訪れてしまえば“あんなやつとは離れて正解だった!”と180度逆の思い出に変わったりする性質があると思うので、別れの歌というのは、この曲みたいに、“一見するとラブソングなんだけど、一歩引いて全体を見てみると破綻した形をしている”という形式がむしろ妥当な気がします。今までは、“離別を引きずっている自我”を表現するためにアウトロを長々と作ったりしてたんですけど、この曲では敢えてスパッと終わってるのも特徴です。めちゃくちゃ好きなやつだったけど、嫌いになったからもうお前は無理、みたいな。僕の中ではやってることの核になってる部分は同じなんですけど曲の作り方を再定義した感じです」
新井「最初は純粋なラブソングなのかなって思った」
ヤマト「そう思ってもらうように作ってます。エフェクターで声にコーラスをかけてるんですけど、その旋律を微妙にズラしてみたり、音像も割と考えました」
新井「今回のシングル3曲に関わらず、天体に関するフレーズが多いですよね」
ヤマト「僕は物事を表現する方法ってざっくり2つあると思っていて。そのうち1つが、ものすごく身近なものに例えてリアリティを求める方法。たとえば(目の前のペットボトルを取り上げて)“ペットボトルのキャップって俺みたいだな”って言ってみるとか。もう1つは、海とか星、銀河、彗星、雨、自然みたいに形があるけどないもの、手の中にはおさまらないぐらい大きなものに自分を投影する方法。僕はこの2つを同時に使うのが好きなんです。片方の視点しかないと平面の風景画になってしまうけど、両方の視点を入れると作品の空間が一気に三次元的な広がりを持つようになる気がする。レイヤーを作るのが好きというか。自分の手に負えないほど大きなものが好きで、その一端が銀河だったり星だったり空だったり夏だったり、そういうことですね。別に天体マニアとかではないです」
新井「なるほど」
ヤマト「一方で意外と身近なこと言ってたりもしますけどね」
新井「ちなみに今回のツアーのタイトルが『銀河巡礼』だけど、シングルタイトルから取らなかったのはなぜ?」
ヤマト「単純にウルマス・シサスクという作曲家のピアノ曲からの引用です。元々その人の曲が好きで、もちろん銀河巡礼という言葉の響きの美しさもありますし、『3D/Biela』の曲中にも出てくる言葉なんで。僕としてはシングルの表題曲は『3D/Biela』が良かったんですけど、周りに反対されてできなかったんで、この曲をバンドとしてのリード曲にできなかったことも含めてのささやかな抵抗というか(笑)。本当に好きなのはこっちだよと言いたかったわけでもないですけど『新世界望遠圧縮』は僕の中で前のツアーの曲なので、もう過去というか、あんまり情熱はないんです」
『夜間通用口』は好きじゃないし、納得いってない
龍ノ平「3曲目の『夜間通用口』は、前のバンドの時からあった曲だよね」
ヤマト「人生で3番目ぐらいに作った曲ですね」
新井「今のPK shampooのライブではキラーチューンだけど、ヤマトの中の評価と世の中の評価があまりマッチしてないと言ってたよね」
ヤマト「僕、曲は家の中やスタジオで作ってるんですけど、『夜間通用口』だけ外で作ったんですよね。ちょっとセンチメンタルな気分になってみようかと思って、夜中に河川敷だか近所の公園だかにギター1本持っていって。その時確か満月だったんですよ。で、その満月が、自分の行きたい場所“X”に行くために空にぽっかり空いた出入口のように見えて『夜間通用口』というタイトルになって、そこから歌詞とメロディを組み立てていきました」
新井「うんうん」
ヤマト「だから衝動で作った曲でも頭で考えて作った曲でもなくて、自己陶酔の末に出来上がった曲なので、そこが自分としては単純にキモい」
新井「(笑)!」
ヤマト「音像もちょっと歪みすぎてて、あんまりやりたいことじゃないんですよ。歪んでるのが嫌いなわけじゃないんですけど、ヨギーになりたかったんで僕らは(笑)」
新井「想像つかない(笑)」
ヤマト「でもメンバーも演奏してて1番楽しいと言ってくれるし、『夜間通用口』をやってる時はフロアを見てても反応が良い。お客さんがこっちを熱狂的に見てくれる自覚もある。だからだんだん嫌いでなくなってはきてるんですけど。このシングルの中で音源としては1番出来が良いと思います。前のバンドからほぼアレンジ変えずにやってるんで、回数こなしてるぶん音もまとまってるし、迫真の演奏ができてる気もする。僕、この曲結構歌詞飛ぶんですけど、作った時期とか作った時の自分の心境を思い出したくないから脳が無意識に記憶ブロックしてるんですよ(笑)」
新井「なるほどね」
ヤマト「ナルシズムを思い出してしまって気持ち悪くなるのと、もう少し全体的な表現で、出来ることがあったんじゃないかと思ってしまったりするんです」
新井「僕が初めてPK shampooのライブを見たのは2019年の年末の新代田FEVERで、イベント自体すごく良かったんだけど、1番グサッときたのがPK shampooのライブで『夜間通用口』だったんですよ。カイトくんのギターリフがめっちゃ好きで」
ヤマト「あれは前身バンドの時にニシケンが考えたリフです。弾き方は個性が出ると思いますけど、この曲を作った時点ではニシケンが弾いてました」
新井「めっちゃエモくて良いリフだよね」
ヤマト「変にてらってなくてシンプルな良いフレーズだと思います。実際はただ下手だっただけですけど。曲全体としても、全員がそんなに難しいことができない時期に作ったのでかなりストレートで、その真っ直ぐさがある意味わかりやすく人の胸を打つんだと思います」
龍ノ平「俺『夜間通用口』好きなんだよな。ヤマトと飲んでる時に“夜間好きなんだよね”って言ったら、“いや、俺嫌いなんですよね”って(笑)。でも最近よく1曲目に『夜間通用口』をやってるから、“何で1曲目なの?”って聞いたら、”ピーマン先に食べる感覚”って」
全員「(笑)」
ヤマト「嫌なことは先に終わらせる。でも意外性あっていいかなって」
新井「うん、もはやそのスタイルをお客さんも求めてるのかな」
龍ノ平「ライブの頭にくると一気に会場が持ってかれる感じはあるよね」
新井「お客さんは求めてるからね。MVも作ったんだよね?」
ヤマト「友達がやってる映像制作のチームに作ってもらいました。今まではMVも自分で作ってたんですよ。それはもちろんお金もツテもなかったからだけど、映像としてのクオリティは低くても、「なんだこれ」って思われてもいいから、自分が納得できるものとか、好きなものとか、プロだと逆に作れない独特なものを作ろうと思って。でもさっきも言ったように『夜間通用口』は自分としてはそんなに好きな曲じゃないし、納得してないけど、周りからはやたら「いいね!」って言われる曲なんで、これは敢えて外部に投げてみようと思ったところもあります」
新井「なるほどね!」
ヤマト「『夜間通用口』を良いと言ってくれる監督さんがいて、すごく良い人だし腕もセンスも良いから、この人だったらと思って。自分で作るとなると、何回も聴かないといけないから、その度にキモいナルシズムを思い出して嫌だ(笑)。人に丸投げしてもいいかなと思えた曲は初めてだし、そういう人に出会えたのも初めてですね。なんか僕、ひねくれててずっとこういう感じなんで変な風に聞こえるかもしれないけど、ありがたい話です。今回の新井さんを初め、いろんな人がこの曲から入ってくれることが多いんで。皆でもっと大きなストーリーを作る、船のような曲になればいいかなと思ってます」
生まれて初めて自主的にスタートさせたのがバンドだった
新井「シングルが完成して、率直にどう思っていますか?」
ヤマト「僕の周りの友達のバンドは、音源できたら“聴いてね”って結構送ってくれたりするんですよ。すごくありがたいしもちろん聴くんですけど。Twitterとか見てても、“レコーディング終わった! 早く皆に聴かせたい!”とか言うじゃないですか。すごく美しいし、それを責めるわけじゃないんですけど、僕は全然そういう感情が湧かなくて。完成したらしたで、戸棚の中に閉まっててもいい」
新井「聴いてほしいとは思わない?」
ヤマト「僕は作ることが目的というか。こういう景色を見て、こういう出来事があって、こういう気持ちになった、というのを形にしないと収まらなかっただけで、完成したものを過度に美化したくないんです。僕の中では熱狂とか好きとか嫌いとかじゃなくて、水を飲んだらトイレに行かなきゃいけないように、やらざるを得ないことなんです。そうしないとバンドも続かないし、お金も稼げない。でもその動機はすごく薄いんですよね。“曲を聴いてほしい”とか“ライブがしたい”という気持ちも薄い。だからシンプルに“できたなー”って感じですね。日記を読み返す感覚。自分の中からコロンと出てきた感じ。これをどこかに投げつけようとか、神棚に飾ろうとは思わない」
新井「ツアーが始まりますけど、あんまりないだろうとは思いつつも、意気込みはあるんですか?普段のヤマトのツイートとか見てても、ライブでテンション上がるとかなさそうじゃないですか」
ヤマト「ないですね」
新井「2月の渋谷クアトロのイベント(『One Night Stand -EXTRA-』)でトリやった時、“初めてに近いレベルで良かったと思えた”って言ってたじゃん。あれは何が刺さってそう思えたの?」
ヤマト「僕にとってバンドって、生まれて初めて、“誰に強制されるでもなく自分で自主的に始めたこと”なんですよ。僕は中学帰宅部で、高校は軽音部の幽霊部員で、大学は軽音サークルでしたけど、めちゃくちゃ楽器の練習頑張ったとかもなくて。昔からとにかく無気力だったので」
龍ノ平「そうなんだ」
ヤマト「小さい時から習い事をさせられても1日でやめたり、塾も行かなくなったり。進学にもスポーツにも、何も興味がなかった。たとえば野球部に入ってた人とかだと、これまでの人生で、毎日一生懸命練習したり、大会に向けて皆で泣いたり笑ったりしながら過ごす時間があったと思うんですよ。僕にはそういう経験がないんで、人間として欠落してるなと思うんですけど。それがクアトロの時は、大先輩も友達のバンドもいっぱい出てて、楽屋裏ではうちのカイトが昔から大ファンのircleのボーカルの人に握手求めて音源渡して、向こうもデモくれて、みたいな。そういうやりとりを裏で見てて、やってきたことに意味が生まれたというか。『ROOKIES』みたいな感じですよね(笑)」
新井「なるほどね!」
ヤマト「やることがなくてブラブラしてたチンピラみたいな奴らが何となくバンド始めててみたら意外とこういうのもいいじゃんって。僕たちにとって最大キャパの渋谷クアトロという場所がパンパンになってて、友達がステージの横からバンバン飛んで」
新井「すごかった。ドラゴンも飛んでたもんね」
龍ノ平「飛んでましたね(笑)」
ヤマト「今までただ飲んでた友達やスタッフとこの空間を作り上げたんだなあって実感があって、音楽そのものというよりはそういう人間的な部分に感動した。そういう現象が目の前に可視化されたのが自分の人生で初めてだったという感じです」
新井「そういうの経験して、前よりバンドに対するモチベーションとかは上がってきたりはしてるんですか?」
ヤマト「いや、しないですね」
龍ノ平「しろや!(笑)」
ヤマト「なんか情熱がないとやっちゃいけない空気感がウザいなと思って。ステージで“俺はこれに賭けてて!”とか言ってる奴らが、居酒屋で"スタジオめんどくせー!"とか言ってるの目前にしてるし(笑)。どこまで本心で言ってるのかわからないですけど、そういう人は結構いる。すごいナルシストな言い方になりますけど、僕は本当にバンドが向いてるからやってるだけで、ライブは面倒臭いし、スタジオも行きたくない。メンバーは黙々と練習してくれるんですけど(笑)。僕は最初からそのスタンスだから、記念日的なライブとか、思い入れ深いライブだったら何か言うかもしんないけど、バンドに対しての熱意を言うことはない。まあ照れ屋さんだし、打ち上げが楽しいだけなんで」
新井・龍ノ平「(笑)」
ヤマト「これは本心なんで言いますけど、バンドやってて良かったなと思えるような新しい世界を、新世界ツアーで見つけたいですね!」
text by ERI KUBOTA
(2020年4月20日更新)
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