ライブは一瞬一瞬が命
デビュー45周年の集大成となる全国ツアーを開催
日本のロックレジェンド、甲斐よしひろにインタビュー
1974年のデビューから45周年を迎えた甲斐バンド。日本におけるロックバンドのパイオニアとして、奇跡と軌跡を積み上げきた真のレジェンド。180万枚を超える大ヒット曲『HERO(ヒーローになる時、それは今)』をはじめ、記録と記憶に残る数々の代表曲を生み出し、ライブにおいても前例の無い新たな舞台を果敢に開拓してきた。そして、「今回が本当に集大成。これにすべてを賭ける!という思いでやっている」と話す『KAI BAND 45th Anniversary Tour HEROES 2019』が10月26日からスタートしたばかり。同ツアーは10月16日にリリースされた最新リマスター・ベスト盤『KAI BAND HEROES -45th ANNIVERSARY BEST-』と連動し、収録された曲順通りのセットリストで行われる。そんなアニバーサリーイヤーを精力的に動いている甲斐よしひろがこれまでの活動を振り返りつつ、現在の心境を語ってくれた。
1970年代の作品も現代の音として蘇っている
――デビュー45周年のアニバーサリー・ツアーがスタートしました。今回のツアーは10月16日にリリースされた『KAI BAND HEROES -45th ANNIVERSARY BEST-』の曲順通りにセットリストが組まれているんですね。
「“45周年ということで最高のエンタテインメントを見せる!”というのを前提に選曲しているので、10月26日に埼玉の川口総合文化センターからスタートしたツアーは、初日から手ごたえはばっちりでした。ベスト盤で予告をして、実際のライブではどんなステージになるのか、そのワクワク感も感じてほしいという想いもあって同じ曲順にしたわけです。でも実はリハーサルをやり始めたら“この曲順違うな…”とか“これ逆じゃん”とかってなってくることもあるから、リスクが怖くてみんなやらないんでしょうね。僕はとことん考えてやっているんだけど、それでも“ここの曲が繋がりがよくないな”っていうときは、最後の手段としてMCを挟むんです。それで大丈夫」
――今回リリースされた『KAI BAND HEROES -45th ANNIVERSARY BEST-』では、『らせん階段』(CD1 M-4)と『ティーンエイジ・ラスト』(CD2 M-1)がニューレコーディングされ、『三つ数えろ』(CD2 M-2)がリミックスされていて、全22曲が最新リマスタリングされています。
「45年間の音源なので、そういう細やかな作業はしっかりやっています。U2
やレッド・ツェッペリンの作品も手がけているロンドンのジョン・ディヴィスというエンジニアにデジタリング・マスタリングを頼んでいるんです。70年代、80年代の作品も現代の音として蘇っているので、すごくいい仕上がりになっています」
――ニューレコーディングされている曲にはどのようなこだわりが?
「『ティーンエイジ・ラスト』はアンプラグド・アルバムを作ったときに書いた曲なので、今回は45周年に合わせてもうちょっと派手にしたいなと思って。『三つ数えろ』は、中盤の一番いいところで盛り上がるように、間奏で田中一郎のリードギター加えて、エンディングは僕がハープを吹いてリミックスしたんです」
――収録曲の中に『ダイナマイトが150屯』(CD1 M-3)のカバーが入っていますが、原曲とはアレンジやスピード感も違いますね。
「そうそう!重量級のアレンジで、小林旭さんの歌っている原曲と全然違うでしょ」
――そもそもこの曲をカバーしようと思った理由というのは?
「70年代の後半に『破れたハートを売り物に』というアルバムの中でカバーをしたんですけど。僕はそういうのが好きなんですよね。日本の歌謡曲の中にもすごくダイナマイト級の歌があって。古い曲だけど、ちゃんと変えればそういう形に仕上がるんです」
プロフェッショナルでバンドを続けていくっていうことは奇跡
――甲斐バンドは日本のロックバンドのパイオニアとしての歴史を歩んでこられたわけですが。今のロックファンが当たり前のように観たり聴いたり体験しているようなことを、ひとつひとつ開拓してこられたんですよね。
「昔はスタンディングオベーションで席を立つだけで、警備員にガッと抑えられていましたからね」
――そんなに厳しかったんですね!
「それくらい昔の日本ではロックミュージックは特殊な音楽という捉え方をされていたんです。しかし、自分の席は自分で買っているわけだから、自分の席で立つくらいはいいんじゃないかと。席から動いたり走ったりしたらいけないけども。当時は1年に2回ツアーをやっていたので、2年間かけてイベンターと一緒に全国の会場の担当者を説得して、やっと自分の席を立つのはOKになったんです。本当のスタンディングオベーションっていうのは曲を聴いてステージが良かったら立って喝采を送るんですけど。とにかく警備が厳重で立つことすら許されなかった時代だったので、そこから日本流スタンディングオベーションへとちょっとずつ変えてきたっていう感じだよね」
――半世紀近く活動されてきて、さらに50周年も視野に入れていますか?
「今回が本当に集大成で、これにすべてを賭けるという思いでやっているので。次のことを考えるのはこれが終わってからですね。いつも言っているんですけど、ライブは一瞬一瞬が命なので。それをずっと45年も積み重ねてきたんですから」
――まさに『HERO(ヒーローになる時、それは今)』(CD2 M-6))で、“生きるってことは、一夜かぎりのワン・ナイト・ショー”と歌われているように。それぐらい一回一回のライブに全身全霊をかけて。
「そうです。そうやって45年ずっと日本中を旅してきたわけで…。感慨深いですね」
――始めた当初はそんなに先のことまで考えていませんでしたか?
「そうですね、5年先のことも考えてなかったんじゃないかな。プロフェッショナルでバンドを続けていくっていうことは奇跡ですよね。宮大工を45年やっているようなもので…。それくらいやっているロックバンドって数えるくらいしかいないと思うんだよね」
斬新でスリリングなパフォーマンスを見せるために
今日もジムで泳いできました
――今回はどのような演出を考えていますか?
「あれこれ多彩に見えるような仕掛けを考えています。例えば、ドラムも含めてメンバー全員が前に出てきて演奏するというのを2曲でやります。もともと甲斐バンドはカラフルなライティングでドラマティックに魅せるステージですごく有名になったんです。45周年はさらにそれを進化させてやっています。みんながライブにきて楽しんで、ライブを思う存分味わい尽くして帰ってほしいですね」
――関西では大阪フェスティバルホールと神戸国際会館ですね。
「両方ともものすごく音響がいい最高峰の会場なので、最高のショーができると思います」
――甲斐さんの男臭く存在感のあるボーカルは衰え知らずですね。
「いやいや、キーは変わってないですね。基本的に声帯って鍛えられないので、体を作って全身のしなりで(声を)鳴らすっていう感じの作業なんですよね。僕自身は斬新でスリリングなパフォーマンスを見せるために、体も作っています。今日もちゃんとジムで泳いできました」
――現在のファン層はどのように感じていますか?
「親子三代にわたっているような感じですね。7年前に奈良の薬師寺で野外ライブをした時に気づいたんですよ、20代もかなり来てるなって。ありがたいですね。今はネットがあるから情報が早いし、広がりやすいんだと思います」
――『HERO(ヒーローになる時、それは今)』のスペシャルWEBムービーでは、陸上競技山縣亮太選手が出演している映像と楽曲がマッチしていて、とても引き込まれました! 地上波でもぜひ流してほしいですね。来年のオリンピックに向けて気分も高まっていきますね!
「ありがとうございます」
――最後に、まだ甲斐バンドのライブを観たことがないという方にメッセージがあればぜひ!
「今回のホールツアーが僕らの集大成になります。それにすべてを賭けるだけです。だからぜひ若い人も観に来てほしいですね」
――熱いステージをしっかりと目に焼き付けたいと思います。ありがとうございました!
text by エイミー野中
(2019年11月18日更新)
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