まるで夜にとけていくような極上のシチュエーション
DENIMSだからこそ実現できた、大阪港クルーズ船上ライブ
『DENIMS CRUISE -FLAKE RECORDS 13th Anniversary-』
ライブレポート
明らかに新鮮で、斬新で、そこかしこに「新しい感じがする」2時間だった。今年、アルバム「makuake」をリリースして以降、活動拠点である大阪のみならず全国各地へ自分たちの音楽を届けに出かけているDENIMS。自主企画イベント『ODD SAFARI』や「makuake」のリリースツアーは軒並みSOLD OUTの文字が並び、ジワジワと“なんかキテる…”と思わせてくれていた中、DENIMSと彼らと旧知の中であるFLAKE RECORDSのDAWAが発表したのが、10月26日に開催された『DENIMS CRUISE』というタイトルの意外なライブイベントだった。大阪港を周遊するクルーズ船の上でのDENIMSのスペシャルライブ。文字にすると単純だが、冒頭に記した通りいろんな意味でライブの既成概念をぶっ壊してくれた2時間だった。このレポートで煌めく夜を追体験してもらえたら、と思う。
「集合時間厳守」。
ライブ数日前からDENIMSメンバーのtwitterにはその言葉が踊った。
この『DENIMS CRUISE – FLAKE RECORDS 13th Anniversary -』は、大阪べイエリアにある天保山ハーバービレッジ・海遊館西はとばを発着地とする大阪港帆船型観光船サンタマリアが舞台となる(ちなみにこの船、関西出身者には小学生の頃に遠足で乗った!という声も多く、知名度は抜群だ)。
通常のライブハウスであれば多少遅刻しても入場も観覧も可能だが、今回の舞台は船の上。
船が出港してしまえば、ライブを見ることができる術は皆無なのだった。
美しい夕陽が沈んで空も海も暗くなった頃、サンタマリアに明かりが灯る。
帆を張る堂々としたサンタマリアの姿は、集合時間に忠実だったお客さんの心をすでに鷲掴みにしていた(ちなみに桟橋に施された電飾は、サンタマリアのスタッフさんたちが前日に取り付けてくれたこの日だけのスペシャルなものだった)。
乗船を待ちながら写真や動画を撮ったり、SNSにアップしたりすでにお客さんも楽しそうだ。
それもそのはず、そのひとつひとつがいつものライブハウスでは見ることができない光景なのだから。
そして18時半、乗船がスタート。
ドリンクを片手に船内を見学する人あり、バンドのセッティングを前にどこから見るのがベストかを探る人あり、すっかり船内でくつろぐ人あり…そうこうしながら乗船は進む。
メンバーの「時間厳守」ツイートも功を奏したのか19時ちょうどに、乗船は完了。
はとばと船を繋ぐ桟橋が外され、出港となった。
海遊館や天保山の大観覧車を横目に、サンタマリアは夜の海を進んでいく。
普段大阪で生活をしていても、ベイエリアの景色を海から見られる機会はそうそうない。
DJによるBGMを楽しみながら阪神高速大阪港線、ユニバーサルシティの姿が見えてきた頃、船がくるりと旋回した。
そして流れてきたSE。いよいよ船上ライブが始まる。
1階の甲板に設けられたステージに、DENIMSのメンバーが登場した。
全員白いシャツに黒い蝶ネクタイで統一した「クルーズスタイル」にお客さんが湧く。
船上ライブの特別感をメンバーの衣装でも演出してくれているのが、なんとも粋だ。
ライブは「わかってるでしょ」で幕を開けた。
幕開け早々、“ものすごくいい意味で”違和感がすごい。
演奏するメンバーの後ろの景色はぐんぐん変わっていくし、気持ちよすぎる夜風が吹き抜けていく。
最前列のお客さんはメンバーのギリギリの近さにいて、ものすごい密集具合になっているし、そんなの関係ねぇ感じでDENIMSはギュンギュンにライブを進めていく。
そんなシチュエーションだけでももう、目がチカチカするような斬新な光景だ。
曲は「INCREDIBLE」、そして「fools」へと続いていく。
ライブ序盤の勢いのよさは、いつものライブハウスで見るDENIMSと変わらない。
「DENIMS CRUISE、楽しんでますか? 僕らもこの最高のロケーションで演奏できて嬉しいです!」とのカマチュー(vo)。
ほんとですね、その「最高のロケーション」という言葉を超える表現があったら教えて欲しいと思うほど最高のロケーションだ。
「fools」のゆるいリズムに合わせて体を揺らす人、彼らのライブをBGMにただ景色を眺める人、楽しみ方がそれぞれなのもなんだか新しい。
実はこの日、FLAKE RECORDSのDAWAらの思いつきにより、船内に10個の宝箱が隠され、そこにはプレゼントが書かれた紙が入れられているというサプライズが行われていた。
見つけた人いる?の声に、ちらほらと手が挙がる。
「すげぇ!当たりや」(おかゆ/g)
「主催のおじさんたちが必死に考えたおちゃめな遊びなんで、みなさん乗ってあげてください(笑)」(カマチュー)
そんなおちゃめ心も、「船で」「クルーズしながら」「ライブを見る」というカードが揃ってこそだ。
「電飾もキラキラしてていい感じにチャラくてバチェラーみたいやんなぁ!そんなパーティーを最後まで楽しんでいきましょう!」(おかゆ)。
そして船が大阪の奇怪遺産でもあるフンデルト・ヴァッサーがデザインした舞洲ゴミ処理場のそばを通る頃、「さよなら、おまちかね」が始まった。
ここ最近のライブでも人気の曲とあって、たくさんの人が一緒に口ずさんでいる。
みんな、この曲を待っていたんだろう。
そして、個人的にはこのクルーズに一番バチっとはまっていた「夜にとけて」へと続く。
本当はここに歌詞の全てを記したいが、それをやるとしかるべきところ指導が入るのでやめておく。
是非ネットでこの曲の歌詞を確認して欲しい。
マッチしすぎて、背筋がぞわぞわするというかカユいところに手が届いたというか。
10年後もこのシチュエーションと歌詞を忘れられないままでいるような気がする感じがするというか。
船の外には工場地帯のキリンの群れが見えて、音楽も景色も出来すぎてはしないかとさえ思う。
10月末の海の上の風はめちゃくちゃ気持ちがいいし、お酒はうまいし、なんかもうありがとう、みたいな気持ちで聞いた「夜にとけて」。
この時私と同じ気持ちだった人が絶対にいるはずだと信じている。
「新曲やります」というカマチューの言葉に、観客からは拍手が飛んだ。
サンタマリアのクルーズは、昼は約45分、夜は約60分が通常のコースだ。
それに対して、この日は2時間の特別クルーズ。
船は新曲のタイミングでもくるりと旋回し、大阪のベイエリアを回り続ける。
新曲「Stomp my feet」、そしてDENIMSのライブではみんなで歌える「Goodbye Boredom」へと続いていく。
ラララ、でお客さんも大合唱。今日イチの一体感がやってきた。
ノッてきたカマチューとおかゆが甲板の真ん中へと躍り出る。
あー、船上ライブって自由だなあ。なんでもできるんだなあ。
そこはかとない開放感をバンドとお客さんが共有できる稀有な場所。
なんで今までこんなライブがなかったんだろうか不思議になるほどだった。
「今日の企画は僕らじゃなくて、FLAKEのDAWAさんとか、その周りにいるおもしろいことをやっているおじさんたちがいっぱい手伝ってくれて、こういう日が実現しました。ありがとうございます!自分たちの作る音楽を信じてやってきて、誰もやったことないこんなライブもやれることになって、この後もおもしろい企画も考えてますんで!」とカマチュー。
12月には大阪が誇る“ロック大忘年会”、「RADIO CRAZY」にも出演が決定しているなど、DENIMSはこれからもニュースが続く。
そして口笛の前奏が印象的な「BENNY」が始まる。
実は1階の甲板がメインステージではあったのだが、階段を上がった2階にも上がることができる。
そっと登ってみると、2階からはうまくステージを見下ろすことはできないものの、大阪ベイエリアの景色が一望できる特等席だった。
遮るものはなにもなく、とにかくベイエリアの景色が広がってぐんぐん前へと進んでいく(タイタニックのあの感じをご想像ください)。
しかもそこにはスピーカーが据えられていて、ライブの音はしっかりと聞こえてくるので、お酒と音楽と、特別な景色を贅沢に楽しめる2階もまた特別な空間となっていた。
「DENIMS、あと2曲です!」と「DAME NA OTONA」、「Altanative」のライブ定番曲でメンバーお客さん、全員の大合唱で大団円!で終幕となったのだった(もちろん「元々ヤル気やったし!」とすぐにアンコールに応える形で再登場、「かんぱーい!」の発声で船上全員乾杯を含め再びの大団円!となった)。
ライブ終了後は、クルーズを楽しみながらメンバーと直接話をしたり、写真を撮ったりという時間があったのも、お客さんには素敵な時間になったのではないかと思う。
ライブってこういうのもアリなんだ!と、いうのが率直な感想だった。
主催のFLAKE RECORDSのDAWAに聞いてみたところ、そもそも彼は、weezerがやっていた「The Weezer Cruis」(豪華客船でクルーズとロックフェスを融合させたイベント)のようなイベントをなんとかやれないだろうかとずっと考えていたという。
ずっと企画だけは頭の中にあったものの、はて、どうするか。
今年DENIMSがアルバム「makuake」をリリースして一息ついた頃、やっぱりDENIMSでそんなライブをやれないだろうかとメンバーにも相談したのだそうだ。
DAWAは「めちゃめちゃいい企画になったし今後もやってみたいけど、正直DENIMS以外このシチュエーションでライブがハマるアーティストが思いつかない」と言っていた。
なんだかすごくよくわかる気がする。
DENIMSの音楽だから、彼らだからこそ実現した船上ライブ。
twitterやinstagramにはこの日のお客さんがアップした「#denimscruis」の写真や動画が踊っている(メンバーがアップを推奨しているので)。
わかる!あのクルーズに参加できたこと、あんなライブがあったこと、たくさんの人に知ってほしいですよね。
「夜にとけて」最高でしたよね。
奇しくも10月26日、なんと世間的には「デニムの日」だったと後から知った。
デニムの日に驚くような2時間をありがとう。
自分がよく知るはずの大阪の景色も違って見えるほど、魔法みたいな夜だった。
取材・文/桃井麻依子
写真/河上良
(2019年11月18日更新)
Check