“3回目にして完成形が見えた”
the band apart主催
『SMOOTH LIKE GREENSPIA 2019』ライブレポート
10月5日(土)the band apart(以下、バンアパ)主催のイベント『SMOOTH LIKE GREENSPIA 2019』が服部緑地野外音楽堂で行われた。同会場で行われている本イベントも今年で3回目。昨年はthe band apart20周年イヤーということで、バンアパとゆかりのある多彩なアーティストが駆けつけ、彼らの結成20年を心から祝福した。それから1年。今回は、the telephones、JYOCHO、ものんくる、パスピエ、そしてthe band apartが出演。昨年とはまた違った空気感が流れる、最高の1日になった。今年もイベントの様子をレポートしよう。
すっきりと晴れた素晴らしい天気に恵まれた当日。立っていると、じんわり汗ばむほどの日差し。しかし野音には最高の天気だ。オープン時刻の13:30、入場を待っていた観客が続々と入ってくる。すり鉢状になった客席のセンター、前列から順に埋まっていく。オーディエンスに浮かぶ表情はみな笑顔で、今日の日を楽しみにしていた様子が伝わってくる。昨年のオフィシャルTシャツを着ている人も散見され、なんだか嬉しくなる。
ステージ上には『SMOOTH LIKE GREENSPIA 2019』のロゴと日付、出演者名、日本の国旗と大阪府旗が添えられたボードが吊られ、会場の後方には物販ブースとフードブースが出店され、バンアパの物販ブースには、早くも長蛇の列ができていた。フードとドリンクを提供するのは、大阪・心斎橋のライブハウス Music Club JANUS。炭焼きプルコギドッグとカルビドッグの匂いが食欲をそそる。こちらも盛況で、観客はフードとビールを片手に座席でくつろいだり、芝生エリアでレジャーシートを広げたり、スタートまでの時間を思い思いに過ごしていた。
トップバッターはthe telephones。SEが流れると同時に、会場からは一斉にクラップが巻き起こり、アフロをかぶったメンバーがステージに走り込む。石毛輝(Vo.&Gt.)の「しょっぱなから踊ろうぜ~!!そのまま両手を上げてくれ! 猿のように踊ろうぜ!」から『Monkey Discooooooo』へ! ステージ前のスタンディングエリアは一気にダンスホールに早変わり。続く『electric girl』でもヒートアップ!石毛の 「とびはねろー!」を合図に全員でジャンプ! 岡本伸明(Syn.&Cow.&/Shr.)がのっけからテンション高く暴れまわり、絡まれた長島涼平(Ba.&Cho.)は楽しそうに笑う。『Baby,Baby,Baby』では、岡本が客席に飛び出し、PAブースでヘッドホンをつけたり、オーディエンスのお酒を勝手に飲んだりと、自由に歩き回る。ようやくステージに戻ったと思いきや、袖からバンアパのドラム、木暮栄一を連れてきて、カウベルを叩かせる場面も(笑)。これには会場中が大盛り上がり。MCで石毛は「この曲でノブさんはいろんな人をステージに上げるけど、先輩は初ですな(笑)。今日来た人はめっちゃ得だよ!」と笑顔。ラストは『I Hate DISCOOOOOOO!!!』『Love&DISCO』と、お馴染みのアンセムを立て続けにドロップ。オーディエンスは待ってましたとばかりに大合唱、松本誠治(Dr.)のビートに乗って踊りまくる。まだ真夏のような暑さの中、会場の熱をグッと引き上げたパフォーマンスにはさすがの一言。トップバッターとしての役目をばっちり終えて、ステージを後にした。
転換中、ふと後方の物販テントの横に目をやると人だかりができていた。覗きに行ってみると、バンアパの原(昌和/Ba.&Cho.)とマネージャーの掛川氏がいて、足元にはサイコロとお茶碗。行われていたのは“バンアパヂンチロ”。サイコロをお客さんに振ってもらい、出た目によって景品がもらえるというもの(ちなみに大ハズレは“原のヒゲ”!)。なんと、公式の物販だとのこと(笑)。お客さんは楽しげにサイコロを振っていた。
続いてステージに登場したのは京都を拠点に活動する5人組バンドJYOCHO。リハから猫田ねたこ(Vo.&Key.)の高らかな歌声がのびやかに届き、吹き抜ける風とともに心地良さを感じさせる。sindee(Ba.)が「こんにちはー! 今日は呼んでくれてありがとうございます!」、だいじろー(Gt.)が「僕らノリノリな曲はあんまりないんですけど、カッコ良い曲はいっぱいあるんで、それぞれの楽しみ方で楽しんでください!」と挨拶。1曲目は『Lucky Mother』。高らかなピアノと、はち(Fl.)のフルートが耳を涼やかにさせる。軽やかさの中に壮大な生命力を感じる演奏。だいじろーの華麗な指弾きに思わず見とれる。曲が終わると大きな拍手が起こった。ゆったりと音の波に身を任せようとしたところで、急にリズムがテンポアップし、猫田が「この曲は皆さんのサポートが必要です!」と手拍子を煽る。すかさずsindeeが「まだ伺ってるでしょ。でも皆the telephonesで踊ってたの僕見てましたもん。そしたらうちのよくわからへん変拍子でも踊れるんちゃいますか!」と、人懐っこいMCで客席との距離を縮める。激しかったりゆるやかだったり、掴み所がなく、ころころと拍子が変わる構成、静と動、情熱と冷静が入り混ざる楽曲たち。JYOCHOの音楽は、ただ感情の赴くままに身を委ねて楽しむのが正解な気がする。『pure circle』『sugoi kawaii JYOCHO』『family』と続き、ラストは『太陽と暮らしてきた』。情緒豊かなハーモニーに身体が揺さぶられる。ニコニコと嬉しそうに笑顔を浮かべるメンバーは、丁寧にお辞儀をしてステージを後にした。
ものんくる
西陽が傾き、ようやく客席にも影が落ちてきた頃に登場したのは、角田隆太(Ba.)と吉田沙良(Vo.)からなる2人ユニット、ものんくる。この日はサポートメンバーを迎えてのステージング。聴こえてきたのは『RELOADING CITY』。気持ちよさそうにグルーヴに身体を揺らすオーディエンス。吉田の色っぽくも伸びやかな歌声に引き寄せられて、後方エリアからも人が集まってくる。続いて、ポルノグラフィティのカバー『アポロ』を披露。メロウでHIPHOP要素も感じられるアレンジが新鮮だ。MCでは個人的にバンアパの大ファンだという角田が「ライブにも結構行ってるんで、(この中のお客さんにも)肩とか触れあった人いますよ(笑)。そんな人たちの前で音を出せることが本当に嬉しいです」と話すと、会場からは大きな拍手が送られた。『空想飛行』『ここにしかないって言って〜HOT CV』とプレイし、吉田が、自分たちはロックとは違うけど、角田がバンアパに内包されるジャズに影響を受けたことがキッカケでものんくるが始まった、とこれまでに至る思いを語る。「今日ここに呼んでくださったことで、音楽にジャンルは関係ないと思いました!」と喜びを露わに。ラストの『優しさを重ねること』で、その感情を思い切り演奏にぶつける。客席を見渡し、コンタクトをとる。コール&レスポンスも心地よく決まり、緩急のある力強くグルーヴィーなパフォーマンスで会場を魅了した。
パスピエ
すっかり日が落ちて過ごしやすくなる。トリ前はパスピエ。リハから既に大勢の手が上がり、期待値の高さを感じさせる。SEと客席からの手拍子をバックにステージに登場したメンバー。代表曲『トキノワ』でライブは幕を開ける。大胡田なつき(Vo.)が両手を広げて動くたび、透け感のある衣装がふわりと羽のように舞う様子が印象的だった。アッパーな『グラフィティー』に続いて、MCではバンアパとの出会いを語り「バンアパ前にもうひと盛り上がりしていこうと思います。最後までよろしくー」と、『つくり囃子』へ。和の要素を感じるメロディーとリズムに体が勝手に動き、サビでは一斉に上がった手が左右に揺れる。間奏では三澤勝洸(Gt.)の超絶テクが爆発、露崎義邦(Ba.)のソロが光る。1人1人にしっかり見せ場があり、バンドの放つ躍動感に包み込まれていく。紅一点・大胡田の色気と妖艶さが際立つ『ONE』、成田ハネダ(Key.)が奏でるイントロから80’s感が香る『オレンジ』と続き、ラストはアンセム『MATATABISTEP』。クラップが自然発生し、会場の一体感は最高潮に。大トリのバンアパへと最高のバトンをつないだのだった。
the band apart
いよいよトリはthe band apart。この時を待っていました! と言わんばかりに期待に胸を膨らませるオーディエンス。スタンディングエリアはパンパンだ。リハでも感じる安定感のあるサウンド。見守る客席からも喜びが見てとれる。「やりますか」という木暮の言葉で、会場は総立ちに。川崎亘一のギターリフが宵の野音に伸びていく。ドラムがジョインし、一気に4人の音が揃う。1曲目は『light in the city』。グッと高まる会場の熱。サビ終わりではクラップが自然に起こる。連続するキメをいとも簡単に決めてしまうテクニックの高さに目が奪われる。曲が終わると大きな拍手と歓声が巻き起こった。「the band apartです。よろしくお願いします!」との荒井岳史(Vo.)の言葉に続いて聴こえた『higher』のイントロにオーディエンスは大歓声。思わず鳥肌が立つ。名曲に心地良く身体を揺らし、この瞬間の喜びを噛み締める。高まった一体感を持って次の曲へ。ループする川崎のギターから始まったのは『Castaway』。荒井の歌声、原のコーラスに呼応するように、会場全体が一斉に手を上げる。圧巻のその景色は、完全に服部緑地野外音楽堂が、バンアパのホームであることを示していた。
MCでは改めて荒井が「『SMOOTH LIKE GREENSPIA 2019』、皆来てくれてありがとう!」と挨拶。「今年で3回目、毎年と言えるぐらいの回数になってきました。GREENSの皆さんと関西ぴあの皆さん、そして来てくれる皆さんありがとうございます!」と感謝の気持ちを述べる。昨年は結成20周年ということもあり、良い緊張感とお祝いムードに包まれていたが、今年はどちらかというと柔らかい空気感が満ちていた。この場所にいるだけで安心する感覚。荒井も「今年のこの感じは非常に我々らしいというか、まさにこれこそGREENSぴあらしい、というメンツで。あくまで個人の意見だけど、3回目にして完成形が見えたような気持ちになっておりました。今年も素晴らしいイベントありがとうございます」と述べる。次いで原が口を開いた。「物販に革命を起こしていこうと、大チンチロリン大会を開催しました。楽しめましたか?」と、転換中に行われていた“バンアパヂンチロ”に言及。客席は大爆笑で盛り上がった。
新しい曲を、と披露されたのは、10月2日にリリースされたばかりの新作EP『POOL e.p.』から『夢の中だけで』と『DEKU NO BOY』。ゆらゆらと心地よい音の波と情緒あふれる躍動感が会場を包み込む。『Taipei』では川崎の巧妙ギターテクが炸裂。タイトに刻む木暮のビートが腹に響く。「1.2.3.4!」の木暮のカウントで『coral reef』へ。大歓声の中、会場はダンスフロアへと変化する。サビでは一斉に手が上がり、間奏ではこれまでにない一体感でクラップが起こる。その様子を見て、荒井と原が嬉しそうに笑顔を浮かべる。
楽しい時間は早いもので、まもなく終わりが見えてくる。荒井から『POOL e.p.』のリリースツアーファイナルが12月14日に大阪BIG CATで行われることがアナウンスされた。これにはオーディエンスも大喜び。そして「ほんとに言えることは5文字で“ありがとう”。これだけです」と、男らしい感謝の言葉で締める。原は「僕からは、メンバー3人にありがとうと。こんなどうしようもない俺に生きる道を与えてくれてありがとう。よし! ぶっぱなすぞ!!」と、ライブ定番曲の『Eric.W』をプレイ。踊り残しがないように、といった様子でオーディエンスは思い切りダンス! ラストは『夜の向こうへ』。荒井が前に出てきて、客席のクラップと木暮のシンバルに合わせてイントロのギターを奏でる。歓喜の声を上げたオーディエンス。会場は言わずもがなの一体感。ラストに向かう僅かな時間を噛みしめるように、一音一音を堪能した。
すぐさま起こったアンコールに応えて出てくるメンバー。「恥ずかしいけど言います。今日はありがとう」という原の感謝の言葉を合図に、披露されたのは、ベースのイントロから始まる『beautiful vanity』。四つ打ちビートに自然と身体が揺れる。途中、突然演奏が止まり戸惑う会場。そんなオーディエンスたちに荒井がジェスチャーで煽る煽る! リズム隊の合図で再び演奏が始まる。盛り上がりは最高潮に達し、満足そうに笑顔を浮かべる荒井。熱を帯びて一心不乱に演奏を続けるメンバー。あまりにも情熱的でエモーショナルな演出に、会場は大興奮! 圧倒的なパフォーマンスに、20年のキャリアと存在感の強さをしっかりと見せつけた。感極まったのか川崎は客席にダイブ! 照明も相まって、ステージ全体が黄金色に輝く。「またお会いしましょう!!」と、最高の余韻を残してステージを後にした。
昨年の多幸感とはまた違う、シンプルに音楽で身体を揺らすことの気持ち良さや喜び。音を楽しむ原点を思い出させてくれる夜だった。帰り支度をする観客の満足気な表情がそれを物語っているように思えた。来年も『SMOOTH LIKE GREENSPIA』が開催されることを願ってやまない。昨年のMCで荒井が言った「その時までどうか皆元気で」という言葉が頭をかすめた。また服部緑地野外音楽堂で会えるように。日々を生きていこう。
text by ERI KUBOTA
(2019年10月18日更新)
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