ホーム > インタビュー&レポート > 作曲家、ピアニスト、シンガーソングライターとして 海外にも活動の幅を広げる村松崇継インタビュー&動画コメント
――ものすごくバラエティに富んだアルバムになっていると思います。特に、『カニーニとカニーノ』のメインテーマ曲に歌詞をつけて歌ってらっしゃる「We’ll be together」は、映画の中で流れている曲と同じなのに、全く違った曲に聴こえる不思議な曲でした。なぜ、「We’ll be together」を歌唱曲にされたんでしょうか?
『カニーニとカニーノ』は、カニの兄弟が濁流にのみ込まれたお父さんを探して、生まれて初めて旅をするという、すごくシンプルなストーリーなのですが、楽曲としては、カニの兄弟が成長していく様を壮大に描いているので、そこに詞を乗せて、子供たちのコーラスを入れることによって、親子でこの楽曲を聴いて勇気や希望を持ち、いろんなことにチャレンジしてみようと思ってもらえるようイメージして歌詞を付けました。元々歌おうと思って作っていないので、歌詞をつけていく過程で、早口言葉みたいになってしまうところもあって(笑)、後々歌唱で苦労することはあったのですが、『カニーニとカニーノ』の世界も取り入れつつ、新たな歌として表現できたので、「We’ll be together」は、歌として良いものになったと思っています。
――それは、「We’ll be together」が村松さんにとって特別な曲だったということでしょうか?
この楽曲は、僕が今までに作ったことのない曲なんです。特に、“タラッタッタラ~”のところは、劇伴音楽でも作ったことがなかったんですが、『カニーニとカニーノ』の世界を自分が妄想しているうちに、突如として生まれてきたんです。『カニーニとカニーノ』が完成して、試写を観た時に、この曲を歌唱曲にして、子どもたちのコーラスを入れてみたら、すごく楽しい曲になるんじゃないかと思ったんです。子どもたちと一緒に勇気や希望を感じられる楽曲が出来上がるんじゃないかと思いました。(リード曲である)「We’ll be together」は『カニーニとカニーノ』の映画を観て生まれた曲なので、今回のアルバムのジャケット写真の衣装が、(カニをイメージした)赤なんです(笑)。この曲のミュージックビデオも沢にピアノを持って行って撮影しているんですが、『カニーニとカニーノ』から出来上がった世界観を崩さないように意識したつもりです。
――また、WOWOWで放送されたドラマでありながら、9月27日(金)から劇場公開された『そして、生きる』のメインテーマ曲「そして、生きる」も素晴らしい曲でした。
『そして、生きる』という作品は、お世辞抜きにいい作品なんです。これまでいろいろな作品の劇伴音楽を作ってきたんですが、このタイミングで『そして、生きる』という作品に出会って、その後に僕が『道標』というアルバムを出すことになる、この流れにすごくご縁を感じるんです。だから、アルバムの1曲目を「そして、生きる」にさせていただきました。『道標』というタイトルにも繋がるのですが、東北と東京を舞台に過酷な運命のもとで生きた2人の男女が、自分の個性や考え方、美学を貫く姿がとても印象的で。その姿が、音楽家としてちょうど40歳というターニングポイントを迎えて、41歳で『道標』というアルバムを出すという僕自身の状況にすごくつながっているように感じたんです。音楽家として、シンガーソングライターになったことも自然なことですし、自分の音楽性をもっと高めたい。自分の表現したい音楽を信じ、自分の美学を貫いて活動したい。音楽的にも人生の中でもターニングポイントを迎えた今、『そして、生きる』という作品に出会えたことに、すごく運命的なものを感じました。本当に良い作品なので、是非観ていただきたいです。
――『そして、生きる』の月川翔監督とは、初めてご一緒されたんでしょうか?
お仕事でご一緒するのは初めてだったんですが、僕は月川監督の『君の膵臓を食べたい』という作品が大好きで、月川監督の演出やカメラワーク、光の使い方がすごく美しいな、アート的だなと思っていたんです。主人公の魅せ方やロケ地ひとつをとっても、すごくセンスがある監督だなと、ずっと気になっていて。その月川監督とご一緒できるというのも運命を感じましたし、初対面だと思えないぐらい感性が合ったんです。そのシーンにこの曲を使ってくれましたか! というような曲の使い方、合わせ方もそうですし、同じ感性で仕事ができる方なので、月川監督と出会えたことにも運命を感じました。「そして、生きる」という作品が出来上がったと同時に、『道標』というアルバムを作ろう、そしてそのアルバムの中のリード曲にしようと思ったんです。それぐらい、僕にとって『そして、生きる』という作品に出会えたことは、すごくご縁を感じました。
――第二次世界大戦末期に、東京の保母たちが園児たちと集団で疎開して大空襲の戦火を逃れた“疎開保育園”の実話を映画化した『あの日のオルガン』の劇伴音楽「一条の光」も、映画に寄り添うような本当に優しい曲でした。
『あの日のオルガン』は、題材としては、戦争中の疎開保育園の保母さんと子どもたちのお話なので、暗い話ではあるのですが、それを暗く見せたくないと思ったんです。どんなに暗い状況下でも、彼女たちの笑顔が子どもたちを明るくしていて、どんなにつらい状況でも決して園児たちの前では涙を見せない、保母さんたちの強さが、僕にはすごく胸に染みました。彼女たちの強さや明るく振る舞うところに希望を込めて、あえて暗い曲をほとんど作らず、明るく演出するような希望に満ちた曲を、後ろで薄くかけるようなイメージで作りました。とても優しい映画だと思いますし、題材としてはあんなに暗いのに、そういう風に見せない平松監督の演出も素敵だなと思いました。そして最後にアン・サリーさんの歌が流れることに、すごくセンスを感じました。
――村松さんは、今までたくさんの劇伴音楽を手掛けてらっしゃいます。村松さんが音楽を担当した作品は、話題になることが多いですが、劇伴音楽を作る時に大切にしてらっしゃることは何ですか?
劇伴音楽は、やはりバランスが大切なんです。最終的に作品は演出家のものなので、演出家の感性に寄り添うものなのですが、たとえば『あの日のオルガン』は、最後の戸田恵梨香さんのお芝居が素晴らしいので、本当は音なんて要らないんです。だから、そこにそっと寄り添う音楽で、演技を邪魔しないものを作りました。特に『あの日のオルガン』は、どのシーンをとっても、役者さんたちの微妙な表情の変化やしぐさがすごく繊細だったので、それを踏まえた上で作りました。お客さんを泣かせたい時に、泣かせるような音楽をつける時もありますが、『あの日のオルガン』は、演技を邪魔しないように、そこに優しく寄り添うような音の付け方をしました。『カニーニとカニーノ』のように幼いカニの兄弟がお父さんを見つけ出すシーンだと、アクションシーンをアクションの音楽で盛り立てる、いわゆる効果音的な形に変わる音楽を作るのも、ひとつの劇伴音楽の在り方です。つまり、作品によって自分の音楽の在り方が少しずつ変わってくるんです。とにかく、持ち場をわきまえるということを常に考えて作っています。映画館やテレビで観た時に音が自然でないとだめなので、いかに自然であるかというところを劇伴作家として意識しています。
――10月16日にリリースされる『道標』は、すごくバラエティに富んだアルバムになっていると思うのですが、それぞれの曲でチェロや尺八など、様々な楽器を取り入れてらっしゃいます。その楽器のアイデアはどのように生まれるのでしょうか?
劇伴音楽に関しては、脚本を読ませていただいたり、監督と相談したり、映像ができている場合は映像を見せていただいて、この作品にはこういう編成だなと思い描いていく感覚です。「We’ll be together」だと、水中のシーンが多かったので、いかに水中感を出すかを考えて、スティールパンという楽器を使ったり、口笛奏者の方に入っていただいたりしました。とにかく、水中の世界にいる感覚をどうしたら音で表現できるのかを考えましたし、時と場合によってアレンジも変えています。
――常日頃から色んな楽器の情報収集をされているということでしょうか?
そうですね。旅行に行くと必ず、その土地の民族音楽を聴くようにしています。たとえば、奄美に行ったら民謡を聞きますし、各国の古典楽器に触れるようにしています。そうすることによって、南国感ってこういう楽器で出せるんだとか、寒い地方と暖かい地方では、作られている楽器のルーツも違うので、ルーツを知ることによって、風土感を出すことができるんです。
――落語のドラマ「昭和元禄落語心中」の音楽に尺八を使われたのも、その考え方から生まれたということでしょうか?
このドラマは、落語が題材なんですが、すごくスリリングなシーンもあるんです。そこでスピード感を出そうと思ったんですが、落語の世界だし、落語を知らない若者が見ても落語って面白いなと思わせたいなど、色々なことを考えた結果、尺八や篠笛をこういうジャンルに合致させて劇伴音楽にしたら面白いなと思い生まれた曲もありますし、その物語の情景や背景をどうやったら演出できるかを常に考えていますね。
――常日頃からアイデアを貯めてらっしゃるんですね。
ジャンル関係なくいろんなライブに行ったり、クラシックでもいろんなコンサートに行ったりしています。全然違うジャンルのものに足を運ぶことによって、色んな音楽を吸収できるんです。特にジャンルにこだわっていないので、その時に自分が表現したい音楽がポップな時もあるし、クラシックテイストな時もあるし、ジャズっぽい時もあるということなんです。自分の中で全くジャンル分けをしていないんです。
――だから、シンガーソングライターとして歌われるようになったんですね。
音楽家として、自分自身の音楽の幅を広げたいという気持ちもありましたし、自分で詞を書き、歌うということも、音楽性を広げることにつながる。シンガーソングライターとして活動することで、作曲家としてもピアニストとしても、成長できているように思います。
――作詞に取り組むようになったのはここ1、2年ということですよね?
作詞は作曲と全然違うので、僕にとって作詞はとても大変です。言葉の引き出しを増やさないといけないので、そこが一番苦労しています。自分の中で表現したいことは決まっていて、音はすぐ生まれるのですが、言葉になるとこれをどう言葉で表現したらいいのだろうと思ってしまって、ぴったりのワードがすぐに思い浮かばないんです。もっと語彙力をつけて、もっといろんな人と話をしてたくさんの世界に触れたいと常に思っています。
――今後もシンガーソングライターとして活動されるんでしょうか?
それはまだ、わからないですね。表現したい音楽によって、インストゥルメンタルであったり、僕が歌ったり、誰かに歌ってもらったりすると思います。僕が歌いたい曲ができれば、次のアルバムでも歌っていると思います。
取材・文/華崎陽子
(2019年10月 7日更新)
『道標』
10月16日(水)発売 2130円(税別)
CLRS-1112
<収録曲>
01. そして、生きる
※WOWOW 連続ドラマW「そして、生きる」より
02. Road Trip
03. 天命を待つ
※NHKドラマ10「昭和元禄落語心中」より
04. 一条の光
※映画『あの日のオルガン』より
05. We’ll be together
06. 落語心中
※NHKドラマ10「昭和元禄落語心中」より
07. 長安十二時辰
※優酷(Youku)ドラマ「長安十二時辰」より
むらまつ・たかつぐ●1978年、静岡県生まれ。高校在学中にオリジナルのピアノソロアルバムでデビュー。国立音楽大学作曲学科卒業。NHK連続テレビ小説「天花」の音楽をNHK歴代最年少で務め、映画『64-ロクヨン-前編』、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』では日本アカデミー賞優秀音楽賞を2年連続受賞。これまでに50を超える映画、ドラマ、舞台等の音楽を手掛ける。国内外問わず様々なアーティストに楽曲提供を行う傍ら、2018年6月には、作詞を竹内まりやがMiyabi名義で担当し、村松が作曲を手掛けた「いのちの歌」を自ら歌い、テレビ東京系ドラマ「ラストチャンス再生請負人」では、主題歌「Starting over」を含め、ドラマ内すべての音楽を担当するなど劇伴作家としてはもちろん、シンガーソングライターとしても活動の幅を広げている。2019年は、Billboard Live TOKYOにて行ってきた定期単独公演の会場をホール規模に移し、10月5日に東京・イイノホール、10月12日に大阪・ザ・フェニックスホール公演を行うなど、作曲家、ピアニスト、シンガーソングライターとして多岐に渡る音楽活動を勢力的に展開中。
村松崇継オフィシャルサイト
http://www.muramatsu-t.net/
▼10月12日(土) 17:00 開演(16:30 開場)
あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール
全席指定-5400円
※未就学児童は入場不可。公演当日、学生の方は学生証提示もしくは証明書提示で\1000キャッシュバック。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888
Pコード:152-913