FERN PLANETの再スタート
『僕らのトロイメライ』に託した夢
SERINA(Vo.&Gt.)と山口メイ子(Ba.&Cho.)からなる、2ピースバンドFERN PLANET。2013年、前身バンドRickRackで活動をスタート。数々のオーディションなどで注目を集めるが、2017年2月に解散。直後に新バンドELFiN PLANETを結成し、3ピースで活動を開始。その後、バンド名を現在のFERN PLANETへと改名。2017年12月には1st ミニアルバム『stardustbox』をリリースするが、翌年2月から5月まで行われたリリースツアー後にドラムが脱退、2人編成となる。2018年11月からはサポートドラムを迎え、現体制での活動をスタート。2019年3月にRickRack時代の楽曲シングル『ソルジャーガールズ』を、さらに7月17日、2nd ミニアルバム『僕らのトロイメライ』をリリースした。メンバーの脱退、改名など、紆余曲折のあったバンドだが、迷いの中も止まることなく活動を続けてきた。その轍が示すように、今作に収録された6曲は全て、幅広いジャンルながらもそれぞれに存在感があり、世界観が音色やSERINAの声色で巧みに表現され、かつ耳馴染みの良い楽曲になっている。彼女たちの2年間の歩み、覚悟、そして希望。今作に込められた思いを聞いた。
メンバー全員が表現者になった
――結成のことを振り返りたいのですが、最初はメイ子さんもRickRackのサポートだったんですよね。
SERINA「元々メイちゃんは裏方の人だったんですよ」
山口「音響やってたんです」
SERINA「最初はお手伝いで入ってくれてたんですけど、やっていくうちにバンド全体が“もうこの子しかないな”という雰囲気になって、正式なメンバーになりました」
――裏方からプレイヤーになろうと思った理由は?
山口「RickRackと出会ったからですね。ほんとに人のご縁で“よかったらやりませんか?”と言ってもらえたので、多分それがなかったらずっと音響をやってたと思います」
――ベースは以前から弾いてらっしゃったんですか?
山口「高校の軽音楽部で弾いてたんですけど、同時に出会った音響に惹かれて。でもベースはずっと弾いてましたね」
――現在のFERN PLANETになるまで紆余曲折あったと思いますが、1度も止まらず続けておられますね。
SERINA「自分はそれしかできないと思いながら生きてるので。生活のすべてが音楽みたいな感じですね」
――曲作りは、SERINAさんを中心にされているんですよね。
SERINA「昔からずっとそうですね」
――メイ子さんは加入後、1stミニアルバム『stardustbox』からしっかり曲作りに携わるようになり、当時の3人で制作をした結果、バンドが大きく成長したという記事を拝見したのですが、今『stardustbox』を作った時のことを振り返ってみるといかがですか?
山口「サポートの時は自信もなくて、自分から意見を言うことはあんまりなかったですね。RickRackで正式にメンバーになって、FERN PLANETになって、3人から2人になって、パワーバランスも変わりました。RickRackの時はSERINAがこうすると決めたものに、“はい、わかりました”みたいな感じやったんですよ」
SERINA「絶対王政的な(笑)」
山口「FERN PLANETの3人の時期もそれぞれのバランスはありましたし、今はほんまに自分たちしかいないから、2人でしかできないバランスになっていったんじゃないかな」
SERINA「昔との差で言ったら、全員が表現者になりましたね。今までは私の理想のものだけを“これやって”みたいな感じで(笑)。強制してるわけではなく、他の2人もあまり自己発信をしないタイプだったので」
――今は2人で意見を出し合いながら曲を作られているんでしょうか。
山口「そうですね。サポートドラムの子も、ドラムのパターンやアイデアを出してくれるので、結構刺激になっていますね」
SERINA「私の伝える抽象的なイメージに沿って“こういう感じですか?”って提案してくれます。作詞作曲は今も私がやってるんですけど、アレンジをメンバーに任せだしたのはFERN PLANETになってからなんですよね。それまでは細かいアレンジも全部1人でやってたんですけど、最近は歌と言葉をスタジオに持っていって、大体のイメージだけ2人に伝えて、その場でそれぞれ感じたアレンジを出してもらう作り方をしてますね」
前身バンドの楽曲をカバーした理由。本当は避けていた部分もあった
――3月に限定シングル『ソルジャーガールズ』を出されています。なぜRickRack時代の曲を再リリースしたんでしょうか?
SERINA「やっぱり前のバンドという意識もあったし、今の自分たちを見てほしいと思っていたので、避けてた部分もあったんです」
山口「“新しいものを出したい、RickRackを超えていきたい”と思ってたんですけど……」
SERINA「周りから“『ソルジャーガールズ』はもうやらないんですか?やってほしいです”という声が結構あって。それは真摯にありがたいと受け止めました。あと『ソルジャーガールズ』を作った時は初期衝動というか、怖いもの知らずで何も考えずに作った強い気持ちの込もった曲なので、その気持ちをずっと覚えておくためにも、思い出すためにも、アレンジを少し変えてセルフカバーしました」
――歌詞は変わってないですよね。
SERINA「変わってないです。逆に今の私では書けない歌詞なので、それを歌うことにも意味があると思いました」
山口「ほんとにやりたいことは何なのか、1年ぐらい悩んでた時期があったんですけど、やっぱりあの曲は強いんやなと改めて思いました。ライブでも自分たちが1番感情を前に出せる大事な曲やと再確認できたし、次に生まれる曲も良いものが増えて、今回良いアルバムが出来た。だからカバーしてすごく良かったと思います」
SERINA「『ソルジャーガールズ』をやることで、より今が活きてきたかな」
――前身バンドの曲を出すことに、抵抗はなかったですか?
SERINA「全くなかったと言えば嘘になるんですけど、“ポジティブにやってみたら?”と背中を押してくれる人がいたので。何よりファンの方が好きと言ってくれたことがとても有難かったので、それに応えたのも大きいですね」
自己満足の音楽じゃなく、共感して歌いたい
――そして2nd ミニアルバム『僕らのトロイメライ』がリリースされました。聴いているとやはり、お2人がこれまで辿ってきた道があっての今作だと感じました。深読みですが、『絶対相対』(M-4)もRickRack時代からの現在を表しているのかなと。
SERINA「合ってます。感じ取ってもらえたなら、すごく有難いです」
――実質的に2人での初めての作品になりますね。
SERINA「周りから見たらメンバーが1人減ったのはマイナスイメージかもしれないんですけど、私は逆に強みになっていくんじゃないかという気はしてて。今までは3人で荒削りな音楽をやってて、これからもそういう音楽がいいなとは思ってるんですけど、2人だから広がるものもあるんじゃないかなと。それこそ今回メイちゃんがメインボーカルを努める部分もあったり、前のアルバムにはない音色がいっぱい入ってたり」
山口「今まで固定概念があったんですね。3人で持ってる楽器だけで表現しなきゃいけないとか。それはそれで良かったんですけど。今回はアイデアをくれる人も周りに出てきたので、“こんなんもできるんや”っていう発見があって、曲も表現方法もすごく広がりました」
――コンセプトは決めて作られたんですか?
SERINA「アルバムに対するコンセプトはいつも決めずに、その時々に思った感情をそのまま曲に詰め込んでるので、その時期をあとから客観的に振り返って見た時に、アルバムのコンセプトが決まります」
――タイトルもそこから決められるんですか?
SERINA「はい。アルバムタイトルも曲のタイトルも、最後に決めることが多いですね」
――“トロイメライ”は“夢・夢想”という意味ですよね。タイトルに“夢”とつけられた理由は?
SERINA「ただ“何かになりたい”という夢じゃなく、もっと子供の頃に思い浮かべていた、素朴で純粋な将来への期待や希望を忘れたくないという気持ちでつけました」
――では1曲ずつのお話を聞いていきたいと思います。リード曲の『イルシオン』(M-1)は、SERINAさんのお祖父さんへの追悼歌なんですよね。
SERINA「よく失恋の曲と言われますね。そう思って聴いてもらっても全然いいんですけど、私個人としては、ほんとに大きな存在だった祖父が亡くなったことをキッカケに出来た曲です。悲しみに暮れながら生きるよりは、その人が残してくれた思いを忘れずに糧にしていく、ぐらいの強い思いで書きました。何か大切なものを失った人が、この曲を聴いて少しでも前に進めるなら良いなと思います」
――力強い曲ですね。
SERINA「追悼歌と聞くと、暗くて静かなイメージを思い浮かべると思うんですけど、私はそういう気分になってほしくはなかったので。これから強く生きていくぞって自分に言い聞かせながら、皆にもそう思ってもらえるように。強さや疾走感を感じてもらいたくて、こういう曲調にしました」
――個人的に2曲目の『摩天楼』(M-2)の構成がとてもカッコ良いなと思いました。
SERINA「ありがとうございます。気持ち悪い曲にしようと作りました(笑)」
山口「作る時、テーマじゃないけど思い描いてるものはいっぱいあるので、路線がズレないように、客観的に見ながら修正していくんです。たとえば『イルシオン』はライブで伝わりやすいように、歌詞が綺麗に見えるように。で、『摩天楼』は“気持ち悪くしよう”って(笑)。1回何も考えんと、やりたいことやろうって。“テンポ速くしたらカッコ良いんじゃね?”って、速くした(笑)」
SERINA「私たちの好みが詰め込まれた曲です(笑)」
――歌詞の話になるのですが、『摩天楼』と『ともだちロボット報告書』(M-3)で、“欲望まみれ 文明おばけ”という言葉がどちらの曲にも出てきていますよね。そして『摩天楼』では“ゼロに戻せよ”、『ともだちロボット報告書』には“リセットしてくれ”と、同じ意味の表現があります。
SERINA「すごくよく読んでくださってますね(笑)。その2曲は完全に繋がってます。簡単に言えば『ともだちロボット報告書』が、機械やAI側から人間を客観的に冷たい目で見ていて、『摩天楼』は人間側から見た近未来への不安。人間の“このままでいいのか?”という感情ですね」
――現代社会のAIに対する気持ちのような。
SERINA「未来のことを想像したりするのが好きなんです。『ともだちロボット報告書』は歌詞の中で、少しずつ感情を覚えて崩壊していくロボットが描かれていますが、それを表現するため、最後のサビでは完全にボイスエフェクトが外れてたりします」
――なるほど!
SERINA「いつも歌詞が先行で、歌詞が完成しないまま作り進めようとすると、大体失敗するんです(笑)。『イルシオン』でも、“針は進んでいく”という部分で、時計の秒針音をドラムのリムショットで表現したり、歌詞にリンクした音になってます」
――4曲目の『絶対相対』は先ほど少しお話が出ましたが、RickRackのことや過去のこと、これからの希望を感じる曲です。音的にも大人っぽいですよね。歌い方も優しくて、心地良くて。
SERINA「“旅”や“旅人”という言葉が出てきてると思うんですけど、私は生きることやバンド活動を旅にたとえることが多くて。FERN PLANETの語源になった“Fernweh(フェルンヴェー)”というドイツ語の単語も“どこか遠くへ行きたいと思う気持ち”という意味なんです。もっと知らない場所へ行きたいと思った感情からバンドが進んでいってるので、そういう意味でもバンドは旅で、私たちは旅人というのが根底にある。だからそういう雰囲気の歌詞になってますね」
――『自己愛ism-ジコアイズム-』(M-5)は一見ナルシストの歌っぽいですが、そうではなく、自己肯定の歌ですよね。
SERINA「そうです。実は仮タイトルは“ナルシスト”だったんです(笑)。それではちょっと伝わりにくいので変えたんですけど。自分を否定する気持ちが強い人に向けた応援ソングです。私自身がそうなので(笑)」
――そうなんですか。
SERINA「はい。結構そういう人多いんじゃないかなと思って書いた曲です。自己否定しても良いことないんで」
――誰かを愛するにはまず自分を愛そうと言いますが、“足りないものがないと愛せやしないから”という部分からも、好きになることへの本質が描かれていると思いました。
SERINA「この曲は特にシンプルに作ってますね。簡単に口ずさんでもらえるメロディーというのも前提にあって、自分を愛する気持ちを皆にも歌ってほしくて。ずっと歌い続けていきたい曲です」
――『横顔』(M-6)は恋愛ソングですか?
SERINA「めちゃくちゃシンプルな恋愛の曲ですね。気恥ずかしいというか恋愛偏差値が低いので、あんまり書かないんですけど(笑)。ただ、当たり前に過ぎ去りがちな感情を形にして残しておくことも大事だなと思って、今回最後に入れさせてもらいました」
――恋愛の曲自体は書くこともあるんですか?
SERINA「RickRackの時は恋愛のバラードも入ってたんですけど、前のベースの子が作詞した曲で、私ではないんです。初めて恋愛感情にちゃんと向き合った曲です(笑)」
――改めて今作は、どんな1枚になりましたか。
SERINA「良い意味で前回との変化を楽しんでもらいたいです。音楽もだし、歌詞を読んで心情の変化も感じ取ってもらえたら。前回よりも受け取ってもらいやすいものになったんじゃないかな。自己満足の音楽じゃなくて、同じ感情を共有して歌いたい、そこまで思ってもらえるものにしたい。その理想には近づいていってる気はします」
――メイ子さんはいかがでしょう。
山口「やりたいことを自分たちだけで考えていくと、深くなっちゃうというか、周りから見たら伝わらへんねんなって、最近わかったんです(笑)。だから1歩後ろに引いて全体を見て、ライブで演奏した時にどう見えるのか、音源として聴いた時にどう伝わるのか、ちゃんと見ながら最終的にどこに向かいたいかを考えながら作っていきました。それが前と違うかな。ほんまに新しくなったなと思います」
――“トロイメライ”になぞらえてお聞きしたいのですが、今のお2人の夢は何ですか?
山口「表現するのには技術がいるし、もっと伝わってほしいので、技術をつけたいですね。ライブで伝えるにも普段出来てないとパフォーマンスが下がっちゃうんで。クオリティも上げたいし、もっと思考を柔らかくして、2人だからこそ、いろんなことが出来るようになりたいと思ってます」
SERINA「私は自分と全然違う生き方をしてきた人、年齢も性別も違う、全ての層に届くような音楽を作ることが、一貫しての夢ですね」
――レコ発ツアーが8月から行われますが、どんなライブになりそうですか?
山口「今までお世話になったライブハウスに行きたいですね。新しいFERN PLANETを見てもらいたいです」
SERINA「まだまだ迷いの中にはいるんですけど、その中でも今は真っ直ぐ進めてますね」
text by ERI KUBOTA
(2019年9月 6日更新)
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