「答えが出ないから今でも歌ってる」
昭和の名曲カバーと今でも続くあの頃のワクワク
デビュー40周年のChageが音楽に魅入られ続けた人生を語る
『feedback』インタビュー&動画コメント
タイトル通りの強烈なフィードバックノイズで幕を開けるChageの3年ぶりの新作『feedback』は、UKロックを軸にディキシーランド・ジャズなども取り入れたサウンドに、松井五郎、前野健太らを作詞陣に迎えた新曲に加え、『たどりついたらいつも雨降り』(’74)(モップス)『あの時君は若かった』(’68)(ザ・スパイダース)、『好きさ 好きさ 好きさ』('67)(ザ・カーナビーツ)、『悲しき願い』('64)(尾藤イサオ)といったGS全盛期の楽曲のメドレーに、ピアノと歌で鬼気迫るテイクを収めたキャロルの名バラード『二人だけ』('73)という、昭和の名曲カバーで構成。Chageのルーツを色濃く感じさせる音楽をアップデートし、次世代へとフィードバックする使命感と同時に、今なお音楽が楽しくてしょうがないという少年時代から続く情熱をパッケージしたみずみずしい作品に仕上がった。現在は同作を引っ提げた『Chage Live Tour 2019 feedback』真っ只中、そして今年はデビュー40周年のメモリアルイヤーでもあるChageが、音楽に魅入られ続けた人生を語ったインタビュー。「改めて音楽を辞めないでよかったと思うし、“音楽って深いなぁ〜どこまで行っても答えが出ないもんなんだな”って」と笑うChageの優しい横顔から、あの頃のワクワクが消えていないのが伝わってきた――。
今回はChageのルーツを
何を聴いてこういう男になったのかを分かってもらおうかなって
――去年はソロ20周年×還暦という大きな節目の年で、今回の新作『feedback』にもそのアニバーサリーイヤーで感じたことがやっぱり反映されているのかなと。
「去年は皆さんからお祝いされたんで、アニバーサリーライブが終わったと同時に、“これは来年、お祝い返しをしないといけないな”と構想に入って。そういう意味も含めてコンセプトは何がいいかなと考えて、今回はChageのルーツを、何を聴いてこういう男になったのかを分かってもらおうかなと思って。僕がビートルズが好きなのはだいたい分かっていただけてるんですが、それと同じぐらいの時期って、日本ではちょうどGSブームだったんですよ。要するに、“日本でもビートルズみたいなバンドを作ろう”っていう壮大なプロジェクトが起きていたわけなんですよね」
――GSのシーンには、今聴いてもカッコよく響くバンドがいっぱいいますもんね。
「今回は僕がまだ小学生だった頃にお茶の間を賑わせた音楽を、この歳になってフィルターを通して見てみたいなと思って。それはなぜかと言うと、時代が令和に変わって、昭和がスッと後ろの方に行っちゃった気がしたんですよ。僕が小学生の頃に聴いてワクワクしてた昭和の音楽を、自分なりに令和の世代につなげていくのもまた僕の仕事ではなかろうかと。はじめは『roots』みたいな仮タイトルを付けてたんですけど、そもそも僕はフィードバック奏法がすごく好きで。フィードバック=ハウリングでありノイズですから、本来はあってはならない音じゃないですか」
――言わば、反則技みたいなものですもんね。
「でも、それさえも面白がって、当時のギタリストが奏法に取り入れた素晴らしさ。そこから60年代のあたたかみがあるサウンドで曲を作りつつ、ただカバーをするんじゃなくてメドレーにしてみたらどうだろうと思い付いて。『たどりついたらいつも雨ふり~あの時君は若かった』(M-2)みたいに、キーが全く違う楽曲を“アッポーペーン!”してみて(笑)。そうしたらまた、お互いの曲が引き立つんですよ! これは西川進くんのアレンジ力もあるんですけど」
――冒頭のコーラスワークも新鮮でした。
「これはもうライブを、何なら照明まで想定して。当時の曲って、どっちかと言うと洋楽のカバーというイメージがすごくあるけど、あのとき先人たちは“和製ロック”をやってたわけですよ。日本人のロックの原型がそこにあったんですよね。『たどりついたらいつも雨降り』は吉田拓郎さんの曲ですけど、拓郎さんってフォークのイメージじゃないですか。でも、モップスに楽曲提供してるこの曲は、詞もメロディもこれ以上ないロックですし、『あの時君は若かった』は、スパイダーズの演奏力といろんな楽器の使い方がすごいんですよ。だけども、フロントのマチャアキ(=堺正章)さんと(井上)順さんがエンタテインメント性を全面に出してるから、それが歌謡曲とはまた違った感覚で子供心にワクワクして。その2曲をくっつけることによって、相乗効果が生まれてよかったなと」
――普通にカバー曲が並んでいても違和感はないですけど、メドレーにしちゃうアイデアはなかなかないですね。
「その後のカーナビーツの『好きさ 好きさ 好きさ』と、尾藤イサオさんの『悲しき願い』は、逆にテンポもキーも一緒なんですよ。あと、カバー曲の全てに言えることなんですけど、先人たちは詞がシンプルでややこしいことを言ってない。それが余計ロックに感じるし。最後はキャロルの『二人だけ』(M-6)で、ジョニー大倉さんの詞の世界と、矢沢(永吉)さんの曲の作り方もシンプルイズベストですよね。キャロルと言えば派手なロックンロールのイメージですけど、この曲はバラードの名曲中の名曲で。僕はリアルタイムでこの曲を、あるときはバイクの後ろにいる女の子、あるときは車の助手席にいる女の子と聴いてましたから(笑)。彼女の部屋、僕の部屋、その片隅で、BGM代わりに流れるのがこの『二人だけ』だった。それを60を超えた男がね、もう1回歌うことによってキュンキュンするという(笑)。だから本当に…今回は僕の中のJ-POPのスタンダードを歌わせてもらったかな」
――Chageさんが楽曲についてまくし立てるこの感じ(笑)。音楽好きですね~やっぱり。
「また好きになっちゃった! だから歌ってて非常に楽しかったし、レコーディングも早かったですね。みんなから、“何か肩の力が抜けていいね”って言われて。それこそ『二人だけ』なんかは、力石理江さんから“この曲は『二人だけ』ていうタイトルじゃない? だから2人だけでやろうよ”って言われて。そうしたらもう、イントロのピアノの音からすごくて! スーッとあの頃に戻れたというか。だから、歌もワンテイクで終わっちゃったんですよ」
――これ、一発録りなんですね。すげぇ〜!
「そもそもピアノの音を録るために、仮歌でブースに入ったらハマっちゃって。曲が終わった後に、みんなが“ピアノも歌もOKじゃないですか?”って(笑)。僕も40年やってきて、こんなことは初めてですよ」
――めちゃくちゃグッときたというか、ヒリヒリと伝わるものがありましたね。そう考えたら、子供の頃にワクワクさせてくれた音楽が、今でもこうやって自分を焚きつけてくれるって、すごいパワーですよね。
「デビューしたときはね、40ぐらいになったら当然引退して、音楽には携わってもステージには立ってないだろうと思ってたけど、違いましたねぇ(笑)。ますます音楽の懐の深さを感じてますよ。それからデカいのは、僕よりひと回り上の先輩たち、(井上)陽水さん、拓郎さん、小田和正さんもそうですし、それこそ矢沢(永吉)さんも、ユーミンさん、中島みゆきさんも、まぁ〜辞めないわ(笑)。だから、永遠の次男坊なんですよ、僕(笑)。先輩たちの背中をずっと見てますから、それを今度は僕が下の世代にまたリレーする。そういう橋渡しをやらせてもらってるんですよね」
音楽を辞めないでよかったと思うし
“音楽って深いなぁ〜どこまで行っても答えが出ないもんなんだな”って
――そして、『feedback』にはもちろん新曲も収録されていて。
「新曲も最初から60年代のUK辺りの質感でいこうと、『Kitsch Kiss Yeah Yeah』(M-1)ではマージービートも取り入れ、そこにシュープリームスが遊びに来たらどうなるかみたいなことをやりつつ(笑)、仮歌のまま松井五郎くんに歌詞をお願いして。今までは五郎くんとは割と硬いテーマで仕事をしてきたんで、もう40年の付き合いだし、“若い頃みたいに、ちょっとはっちゃけたことをやらない?”って言ったら、“言葉遊びをしていい?”って」
――この歌詞の内容が衝撃というか、不埒というか(笑)。
「そうなんですよ(笑)、60になってこんな歌を。でも、僕の仮歌のイメージを損なわずに言葉にしてくれてる感じもして、とっても嬉しかったですね」
――『Mimosa』(M-3)に関しても、ピアニストの力石さんにアレンジをしていただいて。
「これは元々ファンクラブの応援歌みたいな感じで書いてた曲で、そのときはモロにジャズテイストの4ビートだったんですけど、いざレコーディングというときに、力石さんが“ちょっと遊んでもいいですか? ドクター・ジョンやっていい?”って。この曲はUKからはちょっと離れるんですけど、ディキシーランド・ジャズみたいなものを取り入れて。僕も初めてだったんですけど、まぁこんなに楽しいものかと。ドクター・ジョンが亡くなったとき、葬儀の場でみんなが楽しく演奏してたじゃないですか。あれこそ音楽だなと思ったりして、それも照らし合わせて。あと、“Hey Chappy! Happy! 最近どう?”って歌い出してますけど、“Chappy”というのは僕のファンクラブの方の愛称なんですよ。でも、インスタのハッシュタグを#Chappyにすると、必ず犬の画像が出てきますけどね(笑)」
――『Love Balance』(M-4)もいいバラードですね。
「僕がずっとこの人と一緒に仕事がしたいなと思ってたのが、この曲の詞を書いてくれてる前野健太だったんですよ。マエケンは僕のイベントに出てくれて、お客さんをあんぐりさせた異色のミュージシャンで、詞の世界観がすごいんです。シュールでちょっと文学的でもあるし、それが今回の僕のメロディに合うかなと思って、何も言わずに音だけを渡したらこれを書いてきてくれました。しかも、ただただ苦しく、悶々として終わるのかなと思ったら、“歌でも歌おうか”って、最後のフレーズにちゃんと救いを残してるんですよね。こいつはやっぱり只者じゃないなって」
――これは男の歌だなと思いましたね。マエケンさんとは言ったら世代が違うわけじゃないですか? それでよくイベントに呼ぶまでの交友関係ができましたね。
「マエケンのあのキャラがすごく好きでね。あいつはいまだに究極のアナログ人間ですけど(笑)、これからも何か一緒にやりたいなって思ってるんですけどね」
――そもそもは仙台のラジオ局で初めて出会ったということですけど、マエケンさんもこうやって一緒に曲作りをするような仲になるなんてと思ってるんじゃないですか?
「今回のクレジットを見せて、“マエケン、よく見ろ。作家陣は松井五郎、吉田拓郎さん、矢沢永吉さん、ムッシュかまやつさん、前野健太…って何だこれは!?”、みたいな(笑)。みんなが僕を通して音楽で遊んでくれたというか、肩肘張らずにのびのびとやってくれたのは、総合プロデューサーの僕としてはしてやったりでしたね」
――それは同時に、Chageさん自身に音楽を楽しむ姿勢があって、身を委ねる余裕があるからかなと。
「僕を転がす人たちがいっぱいいるんだなって(笑)。先輩たちがまだガンガンやってるじゃないですか。その人たちを見てると不安がないんですよ。だからこうやって自由にできてるんじゃないかなと思ってね。だって、ポール・マッカートニーだって77歳でワールドツアーをやってるんですから! 40年間この世界にいますけど、改めて音楽を辞めないでよかったと思うし、“音楽って深いなぁ〜どこまで行っても答えが出ないもんなんだな”って。答えが出ないから今でも歌ってるのかなって、おぼろげに分かってきたような」
――分かっちゃったら、もしかしたらね。
「ね。つまんないかもしれないね」
――今作が完成したとき、今までとは違う手応えはありましたか?
「分かりやすいのは、過去40年間で一番聴いてますね! 自分のファンじゃないかと思うぐらい(笑)。プレイヤーもそう、エンジニアもそう、スタッフもみんなそう。『feedback』に関わった人たちが楽しんでくれているのが伝わるから、何回も聴きたくなるんですよね」
“楽しかったね〜! また明日から頑張ろう”って
思ってもらえたら、それでいい
――そして、Chageさんの音楽人生も昭和、平成、令和と三代またいで。
「僕は昭和33年生まれなんで、昭和を30年生きて、平成も30年でしょ? 令和も30年生きれば90歳…さすがにそこまではやってねぇかな?(笑)」
――でも、先輩たちが生き続けてたらやってるかもしれない(笑)。今作のカバー曲しかり、昔はちゃんと大人がカッコよくて、それに憧れられたというか。今の世の中を見てると、カッコ悪い大人もチラホラ目に入ってきますよね。
「ね。嘘をつく男もいっぱいいるからね。何だか威厳もないし。あと、僕の場合はレコードの時代も経験してるじゃないですか。レコードって大切に扱わないと音が聴こえなくなっちゃったりするので。今はストリーミング時代で、携帯でパパッと音が出てくるけど、僕にとって音楽は本当に大切なもので、レコードの針をゆっくり落とすあの感じ、A面からB面にするタイム感もとても大切だし…そういうアナログ感を、今こそ1回体験してほしいなって。平成はもう完全にデジタルの時代でしたからね。カメラが一番いい例で、レコーディング機材とかもそうなんですけど、使う機材はデジタルでも、目指してる質感はアナログなんですよ」
――やっぱり得も言われぬ魅力があるという。
「そうそう。不便だった楽しさも味わいたいし、味わってほしいなって。ライブなんかは一番分かりやすくて、お客さんが来ないと始まらないし、僕らも会場に行かないと歌えない。究極のアナログ体験ですから」
――改めて歌うのが楽しくなってきてる今、ライブも当然楽しいですよね。
「楽しいですね~! 今はもう歌いたくてしょうがない感じ。今年でデビュー40周年なんで、ツアーでは『feedback』を中心としつつ、この40年の楽曲も散りばめて。お客さんが最後にニコーッと笑って、“気持ちよかった〜!”って言いながら帰っていただけるようなライブにしたいですね。感動というのは僕には無理ですから(笑)」
――いやいやいや(笑)。
「何だか恥ずかしいじゃないですか(笑)。だから、“楽しかったね〜! また明日から頑張ろう”って思ってもらえたら、それでいいかなって。日々みんな頑張ってるから、ご褒美で遊びに来てもらえればと思って」
――でも、今でもそうやって音楽にワクワクできるなら、いい人生ですよね。
「本当ですよね。僕も今回の作品は等身大でいいと思ったら、何だか自分が小学生の頃に歌ってたような楽しさがボーカルから伝わってきて、それが録れてますからね」
――ツアーの大阪公演はZepp Osaka Baysideで、しかもファイナルということで。
「ツアーファイナルですから多分…とんでもないことになると思うんですよ(笑)。大阪のお客さんはもう、パワーがすごいですから。もし僕が歌詞を間違ったら、“おい!”って全員からツッコまれますよ(笑)。今回の『feedback』はジャケットにも統一感を出して、全てにおいて“The Chage”と呼んでいいものが、言わばセルフタイトルができたぐらいの気持ちなので、それを聴いてやっぱりライブで体感してほしいんですよね。そういう作品が出来上がったのは初めてじゃないかとも思うぐらいなので」
――40年かけてついに。自分のピークって、どこでくるか分からないものですね。
「分からないですよね~。でも、まだまだヒヨッコだと思いますよ、本当に。やればやるほど、“あれ? まだこんなところまで行けるんだ”と思っちゃうからね」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2019年9月11日更新)
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