「踊れる、叫べるジャズ」に加わった「歌える」というパワーワード 三拍子そろった新たなインストジャズを奏でるTRI4THの今
ジャズをベースにしたインストゥルメンタルバンドとして、個々の圧倒的過ぎる演奏力と「踊れる、叫べるジャズ」がコンセプトの見る者を巻き込んでいくライブパフォーマンスが魅力のバンド・TRI4TH(トライフォース)。昨年秋、メジャー1stアルバム『ANTHOLOGY』をリリースしそのリリースツアーも好評だった彼らから、ツアーの余韻が残る中早くもメジャー2ndアルバム『jack-in-the-box』が到着した。今回のインタビューでは『jack-in-the-box』の制作秘話に迫りつつ、現在のバンドのコンディションについて、今作の制作にあたってこだわった「歌えるジャズ」というコンセプトについてなど、最新のTRI4THにまつわるアレコレをリーダーの伊藤隆郎(ds)に語ってもらった。
メジャー1stをリリースしたことで気づけた自分たちの持ち味
――昨年末から作品のリリースやツアーなど一連のメジャーデビューにまつわるいろいろが落ち着いたところかなと思うんですけど、実際メジャーシーンで活動してみて、どんな感触ですか?
「関わってくれるスタッフの数が格段に増えたのを改めて実感してますね。リリースしたりツアーを回ったりしたことで、ライブや音楽の制作、マネジメントも含めて新しいTRI4THチームができてきたなと思ってます。大きな変化だったのは、僕らのCDを聞いてくれる人がジャズの世界から拡張されて、ロックが好きな人たちにも届くようになったなと感じられたことですね」
――それはリリースツアーで各地に行くことで直接肌で感じられたことですか?
「圧倒的にジャズファン以外のお客さんが増えた!というところまでいってるわけではないんですけど…この間、LOSALIOSとツーマンで各地を回らせていただいたんですね。中村達也さんをはじめとしたロックレジェンドたちが勢ぞろいするバンドと僕たちがツーマンで戦う絵っていうのは、ぼんやり頭に思い描いたとしても、現実のことになるとはインディーズ時代は思いもしませんでした。ある種、異種格闘技戦のような感じでしたね」
――ということは『ANTHOLOGY』を出せたからこそ自分たちの幅を広げることができた、と。
「そうですね。音楽的にはジャズ以外の音楽を聞いている人にも、僕らのジャズを楽しんでもらいたいという意識を持たなくちゃと思って取り組んだのが『ANTHOLOGY』でしたから。それと、僕らの音楽がもっとポピュラリティを持ってもいいんじゃないかとも思いはじめてます。幅を広げるという意味では、これまでもジャズフェスにはたくさん出演してきましたけど、ロックフェスへの出演が急増したのはすごく自分たちにとっては進化と捉えていて。今、新しい勝負ができるようになったのかなと思ってます」
――そんな風に成長の実感がある中で、2枚目のアルバムの制作にあたってどんなことから始めていったんですか?
「実は時期としては『ANTHOLOGY』ツアーの後半から始めてたんですよ」
――アルバムリリースのインターバルとしてはすごく短いですよね。
「この勢いのまま新しい制作もしていこう!って感じだったんです。ツアーファイナルを終える前に同時進行的にスタートしたので、最初は『ANTHOLOGY』でこんな表現をしているという確認から、よりよい表現を探していきました。前作で音源としてトライできたことのひとつは、“シャウトする”ということだったんですね。これまではインストバンドだけど、ライブでアジテートしてリスナーと一体になるためにみんなで声を出すっていうのを持ち味としてきたので、その声やシャウトが入ったものCD作品としても完成させようってできたのが『ANTHOLOGY』で。あのリリースがあって、インストと人の声の配分が自分たちの面白さだと気付いたので、そこは引き続きやりたかったところでした」
――2作目では“シャウトを極める”という方向に行くのかなと思っていたら、“歌える”という新しいコンセプトが加わったのは、正直意外でした。
「よりお客さんと一緒に盛り上がっていくために、シャウトの先の、やってないことにトライしたいっていうのがあったんですね。インストではない…例えばJ-POPの視点から考えてみたときに、“歌う”っていうことがとても自然なことに思えたんです。J-POPであれば、歌う・歌詞があるっていうことは当たり前ですよね。みなさんカラオケにもいくでしょうし、テレビからも邦楽・洋楽問わずいろんな歌詞の音楽が聞こえてきて、ボーカルの曲って普通に聞くと思うんです。でもインストバンドが好きな人からしたら、インスト音楽が好きなわけであって、歌詞のある音楽が好きなわけではないという人もいる。そこに音楽的な垣根があるんじゃないかなと思ったときに、インストバンドである僕らが歌うことで、自分たちの音楽がもっと届くところがあるんじゃないかと。それで思い切って歌うことにしました」
――一言で“歌う”といってもそんな意図があったんですね。
「はい。今はもっとたくさんの人に僕らの音楽を聞いてほしい、そういう思いが強くありますね」
――そういう意味で言うと、歌詞があってとてもわかりやすく今のTRI4THの雰囲気を表している曲でもある『Sing Along Tonight』が最後に収録されていて、ちょっと不思議な感じを覚えました。楽しげな曲調であり、お客さんと一緒に歌える部分あり、いわば挨拶がわりになりそうな曲が最後に置かれていることに、なぜ1曲目ではないのだろう?と。
「実はその通りで、『Sing Along Tonight』は今回の収録曲の中で一番歌詞がしっかりあって、一番僕たちが歌うということを打ち出している曲なんですね。実はこの曲が完成した時に、メンバーの中ではこの曲が最後だなっていうのは最初から決まっていました。そこからさらにコンセプトをさらに詰めて、“歌う”ことをしっかり打ち出したうえでしっかりと完結させたいという方向になった時に、やっぱりこの曲は最後でいいと。僕自身、CDはグルグルとリピートして聞く方なので、今回の僕らの意図をしっかりと伝わるようにするために、1曲目にはその『Sing Along Tonight』を彷彿とさせるオーバーチュア(序曲)のような曲にできたらいいという結論になりました」
――確かに『Sing Along Tonight』のメロディーを引用しながら、始まりのファンファーレのようにも聞こえます。
「インスパイアされているのがアイリッシュの感じのビートだったり、わかりやすいキャッチーなメジャーなキーの歌だったりなんですけど、それに加えて男くさい感じでできたらいいなと思って作ったんです。当初はバグパイプみたいな、特徴的な民族楽器を使う感じでこのメロディーをゆったり1曲目に始まる感じにできたら、すごく始まりっぽいよねって言ってたんですけど、そのうちにバグパイプにホーンを乗っけてみようかっていうアイデアもでてきて。そこから最終的には、バグパイプを感じてもらえるようなホーンバンドのアレンジってないのかな?ってなったんです」
――バグパイプそのものは使わない方向で。
「そうなんです。みんなでアイデアを考えていたときにトランペットの大石が、全部多重録音にしてそういった雰囲気のことをやってみようかっていうところから始まったんですね。そういうところも聞いてくださる方に伝わったらうれしいなと思います」
――それに続く2曲目も衝撃的でした。シャウトと歌モノのちょうど中間で、歌詞はタイトルの「ぶちかませ」だけ。ここまで印象的な言葉をこの曲にはめ込んだのはどうしてだったんですか?
「この曲はトランペットの織田が作ったんですけど、最初にデモをもらって音を出す時に、タイトルにもう「ぶちかませ」って書いてあったんですよ。はじめに決めのリズムがあって、最初に「ぶちかませ」って叫んで欲しいんです、って明確な指示があったんですね。いつもだと、ここからメンバーみんなで曲をいじくっていくんですけど、この曲はもうコンセプトがあまりにも明確だった。今の心情とか自分たちがライブで攻めて行く姿勢にもフィットしてるし、なかなか攻めたワードで振り切ってる感じがいいかなと。なのでもう、そのままやろうということになりました」
スカを取り込んでいるのがTRI4THの大事な要素
――意外性ということで言うと、RANCIDのカヴァー(『Time Bomb』)を収録しているのにも驚かされました。これは攻めてるなというか、攻め方がすごいなというか…。
「(笑)!僕たちはずっと踊れるジャズバンドっていうキャッチコピーで活動をしてきたんですけど、ジャズっていうものの解釈を僕たちは雑食的に捉えてると思ってるんです。その中で自分たちの音楽にライブでスカの要素を取り込んで演奏してるのが、バンドを形成している大事な要素かなと」
VIDEO
――スカの要素を取り入れることを大事にしているのは、“踊れる”ということもバンドのコンセプトに掲げているのも理由ですか?
「そうですね。踊れること、スカのビート感、その背景にある音楽的な要素も含めて取り入れていることが自分たちの持ち味になっていると思っているんです。で、今回何かカヴァーをやりたいな…と考えたときに、僕が一番好きなバンドがRANCIDだったんですね。世代もズバリでバンドを始めたきっかけでもあるので、じゃあRANCIDで!となると、やっぱり一番有名でちょっとしかRANCIDを知らない人でもわかる曲は、この「Time Bomb」だなと。スカパンクの曲なんですけど、この曲をジャズバンドが演奏して、さらに歌詞があるものをどんな分量でカヴァーするのか考えるのはすごく面白かったし、挑戦の1曲になったんじゃないかなと思いますね。」
――そういう風に「今だからこそ歌う」とか「今だからこそRANCIDをカヴァー」みたいに、アルバムの制作ってすごく「今の気分」が反映されるものなのかなと最近感じることがあるんです。制作中、伊藤さんとしてはどんな気分で作品に向き合っていたとかありますか?
「本当に今回は自分たちの中で、タイトルの『jack-in-the-box』が日本語で言うと「びっくり箱」なんですけど、自分たちの今までなかった側面というか、歌うこともRANCIDのカヴァーもびっくり箱的な感じを見せたいなという気分ではありました。例えばジャズが好きなリスナーだったら、RANCIDを知らない人も多いと思うんですよ。僕らと同世代なら知ってる人も多いだろうけど、意外と僕たちの音楽を聞いてくれているリスナーはわからない人も多かったり、20代前半の世代は知らないと思うんですよね。だからこそ僕たちの時代に好きだったものを僕たちがカヴァーして演奏するのは、すごく面白いんじゃないかなと思うんです。自分たちのルーツを探っていってもらうことで、RANCIDを聞くようになってもらったり、そこから掘っていっていろんな音楽にたどり着くきっかけにもなるだろうし。それがいろんな音楽のジャンルの垣根を越えていくことにもつながったらいいなと思いますね」
――確かに世代が違ったり、ジャズをずっと好きで聞いてきた人にとっては、TRI4THというフィルターを通すだけで新鮮なことも多いですよね。前作のツアーを行ったライブハウスのShangri-Laでは「ライブハウスに来たのが初めて」という話をしている方もたくさん見かけました。
「それと同じように、僕らのカヴァーで聞くのが初めてのRANCIDになってもらえたらうれしいですよね」
結成以降、一番バンドのモチベーションが高いとき
――それはそうと、今年デビュー10周年の記念の年なんですよね?
「実はそうなんです。デビュー10周年にして新しいことにトライしてます!って感じですね。バンドの結成から数えるともうちょっと経ってるんですけど」
――デビュー10周年、節目となったメジャーデビューからも9カ月近く経って、今のバンドの状態はどんな感じですか?
「バンドに対して向かっていくモチベーションは今が一番上がっているし、一番いい状態ですね」
――そう思える理由は心当たりがありますか?
「基本的にジャズって即興性がある音楽なので、ジャズに精通していけば精通していくほど…ちょっと言い方に語弊があるかもしれないんですけど、リハーサルを避ける傾向にあるかなと思ってるんです。メンバーでもピアノの竹内とベースの関谷が最初からジャズに精通してたこともあって、彼らが加わった頃はリハーサルを入念にするっていう概念があんまりなかったんですね」
――ステージで出たとこ勝負的なパフォーマンスを見せるのが醍醐味?
「はい。もちろん曲の練習は何度もしますけど、構成をどうのこうのっていうことはそう何度もしなかったんです。でも今はアプローチしていくフィールドが広がったり、まだ出会ってない人に音楽を聞いて欲しいっていう欲求がすごく高まっていて。ロックリスナーやJ-POPリスナーにも僕たちのエンタテインメントを見て楽しいなと思って欲しいというかね。僕らの演奏やパフォーマンスのクオリティのレベルをもっともっと更新していかないとダメだっていうのが僕の中の意識として芽生えて。ライブで動ける魅せるってところでは動き回れるのはホーンセクションふたりなんですけど、音源を超えていく感じで息づかいだったり、メンバーは5人しかいないんだけど僕らのライブが生き物みたいに見えたらいいなっていう思いがあるんです。」
――動きのあるライブ。
「そうです。それが何度もリハーサルを重ねていくうちに自分たちの体に染み込んでいって、ひとつひとつのライブで面白いことが起こっていくっていうのを付加価値として考えているので、逆にリハーサルの回数がものすごく増えたんです。モチベーションが高いからこそ、1回のライブに対してリハーサルが多くなったり、レコーディングにしてもライブをすごく意識してレコーディングするので、何度もリハーサルをしてアレンジも作っては壊してを繰り返してます。モチベーションが高いからこそ、メンバーが集まる機会も結成以降一番多いし、そこは変わった所だなと思いますね」
――その新しい動きは、いろんなロックバンドとの対バンも起爆剤になってますか?
「もちろんそれもありますね。今まで以上にロックやポップスが好きな人にもわかるようにという尺度で曲を作ってはいるんですけど、そんな風にポップな部分が出れば出るほど、即興性が出た時にそれが爆発力になると思ってるんです。ポップだと思ってたところに爆弾が落ちる感じというか。ワンマンライブだとそういう仕掛けも披露できると思うんで、即興の時間を長めにとったりはしてるので、そこは今の所うまく操作できてるなと思いますね」
――TRI4THの音楽は、やっぱりライブに巻き込まれに行ってこそ!と感じているんですが、自分たちのライブでここを見て欲しいってうポイントはありますか。
「ひとつどこ?って言われると難しいですね…。僕が思うのは、例えばボーカルがいて歌詞があるバンドだと、歌詞を知ってたら楽しめると思うんです。インストバンドでも曲を知ってたら楽しめるっていうのはもちろんあるんですけど、僕たちの場合はその大前提がなくても楽しめるバンドだと思うんです。来てさえもらえればその世界に浸れるように誘導できると思ってます。とにかくまず飛び込みに来てください!」
取材・文/桃井麻依子
(2019年8月19日更新)
Check