『蘇生』からメジャーファーストシングル『誕生~バースデイ~』、
そして『一匹狼』へ
命を表現するアーティスト、湯木慧インタビュー
1998年6月5日生まれのアーティスト、湯木慧(ユキアキラ)。彼女は小3の時にトランペットで音楽に触れ、11歳からアコースティックギターを独学で開始、12歳の頃より曲を作り始めた。高校在学中に2枚のミニアルバムと1枚のシングルを自主盤でリリース。ツイキャスで200万ビューを獲得するなど注目を集め、2019年6月5日、自身の21歳の誕生日にシングル『誕生~バースデイ~』でメジャーデビューした。彼女の表現方法は音楽だけにとどまらず、イラストやペイント、舞台装飾、MVや衣装の製作など多岐に渡る。力強くも繊細かつ五感に訴えかけるライブパフォーマンスで“生きる”ということを表現している。今作は昨年10月にリリースされた前作のアルバム『蘇生』で過去の自分自身や感情を“蘇生”させ、メジャーのフィールドで新しくスタートするために“誕生”をテーマに制作した1枚。湯木慧の創作はどのようにして生まれるのか。大阪での初インタビューだという貴重な機会にたっぷりと語ってもらった。
生きることには死ぬことがついてくるように、必ず光があって闇が生まれる
――本日はよろしくお願いします。
「大阪でインタビューされるの初めてだから、方言がすごく嬉しいです(笑)。大阪に来た感じがする!」
――そう言っていただけるとこちらも嬉しいです(笑)。湯木さんは12歳の頃から作曲をされていたんですよね。憧れで曲を作っていたのが、高校からは自然に曲を作るようになったと。
「最初は自分が楽しいからとか、“あの人みたいになりたい”という憧れで作っていたんですけど、何かから刺激をいただいて、その状況を作品にしたい、誰かに伝えたいという目的に切り替わったのが高校生の時だったんですね。その意識が芽生えた時から“湯木慧”というアーティストが確立されたんだと思います。だから今高校生よりも前に作ってた曲とか聴くと、ほんとに“えっ”って感じですよ。中身のないような歌詞ばかり書いていて。それは目的や伝えたいことがなかったから」
――曲にしたいと思う原動力はポジティブなものが多いですか?
「いやいや、全然。いろんなものから刺激はもらいます。W杯の試合を見て曲を作る時もあるし、今回の『バースデイ』(M-3)は、誕生日前日に交通事故でお母さんを亡くした少年の話がキッカケで、そういう悲しい出来事からも曲は生まれます。言わば何か事柄が起きて、大きく感情が動いたりする時ですね。人や綺麗なもの、景色、匂い、空間、何かに出会った時」
――表現したいという気持ちが出てくる?
「作りたいという感覚が出てきます。ちっちゃい頃から作品を作っていたので、そこでどうして作品に落とし込みたくなるのかはわからない部分ではあるんですが、なぜかとても創作として残したくなります。でもあまりハッピーなものから曲は生まれません。作品にしたいと思うのは、光よりも影や裏側を目の当たりにした時が多いですね」
――影や裏側。
「光がないと影は生まれない。楽曲の中にも感じてもらえると思うのですが、闇や影だけではなく、光もちゃんと作品に落とし込みます。生きることには死ぬことがついてくるように、必ず光があって闇が生まれることを、割とどの作品でも表してますね」
――『産声』(M-2)でも“暗く辛い世界もあれば、明るい優しい世界もあるよ”と歌っておられて。湯木さんの歌は“1人だけど独りではない”というか、孤独を感じないんですよね。
「孤独って悲しいけど、大勢がいるから感じるんですよね。もちろん1人の時間で感じる孤独もあると思うんですけど、たとえば渋谷の交差点や、家に帰ったら家族がいたり、他者がいるからこそ自分を感じる。光と闇や生と死のように、孤独も1人と大勢、自分と周りという対比で成り立つもの。産まれてへその緒が切れた瞬間から孤独な世界だと思うとともに、あたたかさがあるから孤独を感じることができるという思いが楽曲に出てるのかもしれないです」
『誕生』を作るために、死ななきゃいけなかった
――今作のお話に入る前に前作『蘇生』のお話をお聞きしたいです。『蘇生』は原点回帰の作品ということですが、なぜ原点回帰しようと思われたんですか?
「『誕生~バースデイ~』がリリースされた今だから言えることなんですが、『蘇生』を作る時にはメジャーデビューの話がきていて、私の中でメジャー1作目は『誕生』にしようと決めていたんです。でも、この状態のままメジャーデビューして『誕生』という作品は作れない。このままじゃいけないなと思って、“誕生のために蘇生しよう”というのが1つの理由としてありました」
――このままじゃいけないと思ったのは、何に対して?
「曲が作れないというか、生活自体にマンネリを感じていたんです。私が創作をする大きなキッカケは感情が動くことなんですけど、何も感じなくなってしまっていた時があって。朝起きて、ご飯を食べて、打ち合わせに行って、帰ってきて、歯磨きをして、寝て起きたら朝」
――ルーティンな毎日になっていたと。
「1日をエネルギッシュに生き抜いてる人って、寝て起きたらまた生まれてる感覚があると思うんですよね。生きてる感覚は人それぞれだから、あくまでも個人の意見になるんですが、『蘇生』を作る時の私は死んでなかったんですよね。死にたかったと言うと語弊が生じますが、逆に言うと、生きてもいなかったんだろうなと思って。寝ても起きても、1日の区切れ目も1週間の区切れ目もないような生活をしていて、全く心も動かないのが『蘇生』を作っている時期で、それが1年ぐらい続いていて」
――そうなった原因は何だと思いますか?
「人と出会ってなかったんです。学生時代が終わり、音楽活動を仕事にしようというタイミングだったんですよね。学校に行けば当たり前のように友達に会って先生に挨拶をして、昨日とは違う世界が必ず広がってる。休んでた子が来てたり、挨拶する友達が変わったり、お弁当の種類が違ったり。朝起きて自転車に乗って校門をくぐるだけで違う1日になっていたのが、全く同じような1日を過ごしてる。同じではないんですけど、1日の違いに気付けなかったんですよね。ほんとに曲が作れなくて、死ねない、生きれない、みたいな状態が続いていて。だから“死ななきゃいけない”と思って。死ぬだけではなくて、生まれるところまで決めて作ったのが『蘇生』でした」
――コメントに“なんども蘇生できる”と書いてらっしゃいますね。
「きっとまたマンネリ化する時がくるんですよ。今は初めて大阪でインタビューして頂いて、新鮮な気持ちでいますけど、当たり前になってしまう時がくるかもしれなくて。その時がきても、何度も死ねるし生きれるとわかっていれば、皆がこの『誕生』という作品をちゃんと理解してくれれば大丈夫だなって」
――“なんども蘇生できる”というのは、伝えたいメッセージでもあるんですね。
「多分皆そうなんじゃないかなって。同じような日々を過ごしたり、学生の頃のきらめきや発見がなくなったりするのって。それが当たり前になる人もいれば、私みたいに争ってしまう人もいて。でも、ときめきや光を感じられる感覚はなくならないし、また生まれてくるということを込めた作品になってます」
“産声”はお母さんのものだと思っていた
――それで今作の『誕生~バースデイ~』につながるんですね。『98/06/05 11:40』(M-1)は湯木さんが生まれた時間ですか?
「そうです。私が生まれた時間で、入ってる音源も私が生まれた時の実際の産声です」
――録音されてたんですか!?
「されてたんですよ。お母さん曰く、今はもうないんですけど、地元に愛されてた大分県の産婦人科さんで生まれて、病院の方が録ってたらしくて、カセットテープで残ってて」
――ビデオじゃないんですね。
「音だったんです。音が残ってると知って、“この時からレコーディングしてるわ! 湯木慧は生まれた瞬間から湯木慧だったんだ”と思って、ワントラック目に入れさせてもらいました」
――ご本人の声だったとはビックリです。
「鼻歌は今の自分で歌ったものなんですが、後ろで流れてるものは病院の方々が生まれる瞬間にその場で流してくれたもので」
――めちゃくちゃ粋ですね!
「そうなんですよ。今回の作品にピッタリで、“まさに”と思って入れさせていただきました」
――続く2曲目の『産声』ですが、前作『蘇生』の制作メモには×印がつけられていて“大事な言葉すぎてまだ早い”と書いてありますね。
「よく見てくださってますね! インタビューで初めて言われたかもしれない!」
――だけど、新たなスタートしては使うのはオッケーだと。
「このメモを書いた時はまだ蘇生していなかったので、“産声”という言葉を大事にしすぎて使えなかったんですよね。お母さんの視点で考えていたから、産声はお母さんの声だと思っていて。子供を産んだことのない私が言っちゃいけないんじゃないかとか、こんな重たい言葉は使えないなって、この時はまだ思ってたんですよ」
――なるほど。
「で、『蘇生』のリリースが終わって、『誕生~バースデイ~』に制作が切り替わって資料を集めていく中で、自分の産声のテープが出てきて。それからやっと産声に対する考え方が変わりました。自分自身の第一声って覚えてないから実感が持てなかったけど、知らない記憶の中で皆同じように産声をあげてるんだということに、自分の産声を聴いて初めて気付いて、『産声』という楽曲ができました」
――“何もないときにこそ、生きようと叫ぶだろう 何もないときにこそ、生きてることを”という歌詞が出てきます。何もない日常で生きてることを意識することは少ないというか、災害や身近なところで事件が起こった時に、ようやく自分の命について考えるというのが一般的なのかなと感じたのですが。
「気付かされるキッカケがあって気付くというのは、それはそうだなと思うんですよね。私も災害が起きると“ああ、生きてて良かった”となるんだけど、それ以外のところで、食べたり泣いたり怒ったり、朝起きて一生懸命満員電車に乗って会社に向かったり、当たり前の日常こそ生きてるんじゃないかなって。私がマンネリ化してしまった経験にもつながりますが、考えようと思って考える時ではなく、考えることすらしてない時こそ生きてるんじゃないか、という一節ですね」
――なるほど、本能的に生きている感覚でしょうか。曲を聴いてくれた人に汲み取ってほしいという気持ちもありますか?
「ありますね。でも全部答えを語りたくなくて。これだけ喋った後に言うのもあれですけど(笑)。自分の中での答えはたくさんあるんですけど、聴いた人がこの曲に対してどう思うかは自由で、泣く人がいてもいいし、怒る人がいてもいいと思っています」
誕生日は“真っ直ぐ前を向いて生きてゆく”という決意を伝える日
――リード曲の『バースデイ』は、すごく大切な曲ですよね。
「そうですね。私、作曲する時は1日とか2日でバッとやらないと、その時の感情を忘れちゃうから作れないんですけど、この曲は1年~2年かけて作りました。とある交通事故がキッカケで思うことがあり、誕生日に対しての考え方が変わって生まれた曲ですね」
――先ほどおっしゃっていた、自分の誕生日前日に交通事故でお母さんを亡くした少年のお話ですね。どういう思いを込めたんですか?
「自分自身の決意でもあり、“前を向いていけよ”っていう未来の自分へのエールです。湯木慧は全ての曲を作る時、皆さんに対して届けたいという思いも勿論プラスして、必ず未来の自分に向けて楽曲を作ったり絵を描いたりしているんですね。決意表明でもあり、未来の自分に対して、この曲に立ち返った時に自分自身が何者か思い出して目が覚めるような曲になればと思って作った楽曲です」
――誕生日に対する考え方が変わったというのは?
「多分、あの事故のことを知らなかったら“お母さんありがとう”とか、“今まで支えてくれた人ありがとう。21歳になったよ”という曲を作ってたと思うんですね。でも、違うなって。誕生日はありがとうを伝えるのではなく、“自分がどう生きていくか、どうぞ安心して見守ってください”と言えること。それを伝えたいなと思いました」
――歌詞も時間をかけて考えられたんですか?
「最初、事故のお話を知って曲を作った時は全然歌詞が違って、“正しさだけが溢れる世界じゃないから、あなたは真っ直ぐ前を向いていくのよ”という、お母さん目線の歌詞だったんです。きっと残してしまった少年に対してそういう思いだったんだろうなって。でも、少年の思いなんて絶対にわからないんですよね。お母さんの気持ちなんて計り知れないし、それこそ産声という言葉のとおりで、絶対私が語っちゃいけない。だけどそこから得たエネルギーは作品にしたかった。その3ヶ月後くらいに自分の誕生日を迎えて、誕生日がハッピーバースデーではない人もいる中で、自分は何を伝えたいのかと思い、この歌詞になりました」
――苦しみや優しさを食べるという表現が印象的でした。
「生きて月日が流れるということは何に置き換えられるだろう、何を歌えばより生きてることを感じてもらえるだろうと考えた時に、食事は必ずする行為で、食べる物や飲む物は人生の中でどんどん変わっていくので、成長とうまくマッチングしそうだなと思って。MVにも繋がりますが、作ってもらった食事からだんだん自分で作るものになったり、出されない時があったり。裏話的には“感情を食べる=感情を知ること”と表現した歌詞だったりします」
人は生まれた瞬間から死に向かっていく
――『極彩』(M-4)は不穏な感じも漂っていて、1曲だけ雰囲気が違いますが、シングルに彩りを与えているんではないかと感じました。
「『誕生』のシングルなんだけど、『極彩』の最後には“燃えて、灰になるのだろう”と歌っているんです。生きることは死がセットになっていて、生まれた瞬間から死に向かっていく。誕生だからといって、産声だ、バースデーだ、ということだけを表すのは違うなと思って。ちゃんと死んで燃えて灰になるところまでが生きるということ。そこまで言いたかった作品になっています」
――そこからつながる、8月発売の2ndシングル『一匹狼』ですが、今の段階で話せることはありますか?
「『蘇生』から『誕生』のように、『誕生』から『一匹狼』もつながっています。人間は1人ではこの世には生まれることができない。お父さんとお母さんがいて、取り上げてへその緒を切ってくれる人がいないと、個としては成り立たない。へその緒がつながってる段階では、神経や感覚、記憶もお母さんとつながってると思うんですね。へその緒が切れた瞬間から、自我や意識が個になる。でも先ほどおっしゃってくださったように、誕生は1人ではないという部分、皆同じだという部分、逆に誕生したからには絶対1人だというところも表したくて、次に『一匹狼』を置いています」
――人間の成長物語のようですね。『一匹狼』がリリースされた後、8月18日に大阪梅田・Shangri-La、8月24日に東京・キネマ倶楽部でワンマンライブがあります。どんなライブになりそうですか?
「メジャーファーストシングル『誕生~バースデイ~』をリリースした私の誕生日に『誕生~始まりの心実~』というタイトルのライブをしたんですけど、今回は『繋がりの心実』なんですね。その部分を表せたらなと思っております」
――演出面での構想はありますか?
「6月の時は幕を張ったり音を使って“誕生”を表現したんですけど、今回は会場が大きくなって、セットにもおもしろみをつけられたらなと思っていますね」
――最後に今作がどういう人に届いてほしいか教えてください。
「湯木慧の楽曲には、恋愛や男女間がテーマの曲はあんまりないんですよね。今はとても命に魅力を感じていて、人間や生きることに対して曲を作ることが多いんです。だから、命に向き合って日々を生きてる人には聴いてほしい作品です」
text by ERI KUBOTA
(2019年7月23日更新)
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