今、ターニングポイント!
15周年を締めくくるツアーで何かが起こる!!
安藤裕子インタビュー
デビュー15周年目へと突入した安藤裕子が、3月27日にライブCD『Acoustic Live 2018-19 at Tokyo』をリリースした。同作は昨年11月から今年1月に行われたツアー「ACOUSTIC LIVE 2018-19」の最終公演を収めたもので、その直前には
ぴあ関西版WEBの取材に応じてくれている。そんな彼女が再び、ぴあ関西版WEBに! 今回も新作やツアーのことから、事務所移籍や子育てのことまでトークを展開してくれた。思わずほれぼれしてしまう“安藤裕子劇場”もあるのでお楽しみに!
――「ACOUSTIC LIVE 2018-19」はいかがでしたか? 前回の取材では過去の曲へのスタンスも変わったという話を聞かせていただきましたが。
「前回、休業した話をしたと思うんですけど、休みに入った自分には、今までの暮らしの自分への疑問もあったから、昔の曲を歌うっていうことの距離感が本当につかみきれなくて、(以前と)同じ気持ちで歌えないんですよね。プロのアイドルならいいのかもしれないけど、やっぱりシンガーソングライターがウソばかりついて歌っているのもイヤだなって…(笑)。そういう感覚があったから、ツアーの曲選びは苦労しましたね。このツアーで歌ってもウソがなく、かつ15周年のツアーで各地を回らせてもらう時に、お客さんが聴きたかったっていう曲も入れてっていう曲選びが大変で、本当に(セットリストが)ギリギリになっちゃって、“照明さんが困っちゃうよ”とか“PAさんから連絡きてるよ”とか、そういうのもありつつ“本当にごめんなさい!”って言ってやってました(笑)。で、選択した方法としては新しい曲を多めにして、そして今の自分の精神状態とリンクする昔の曲……昔の曲にその(今の自分の)片鱗を探すっていうのかな、そういう方法を選んだのかなと思います」
――それで『Acoustic Live 2018-19 at Tokyo』には新曲が4曲も。ちなみに、前回の取材で語られた、死生観が中心になってちょっと精神的に辛い時代の曲は避けた感じですか?
「そうですね。さっきほかの取材でもちょうど話してたんですけど、死生観を背負うっていうのはもう卒業。もう“生きる死ぬ”は歌わない!って……(笑)。もうちょっと音楽を楽しんであげないと存在意義がなくなっちゃうなって思ったんですよね。それって戦争を伝える語り部さんみたいな感じになっちゃうけど、私、実際戦争してないしっていう感じ(笑)。私はただ普通に音楽をやるためにこの世界に進んだんだっていうことに立ち返るというか……。だから、もうちょっと音楽家として楽しむ部分を持ちたいなって」
――音楽のハッピーな側面が増えたんですかね?
「増やしたいし、別にそれは(曲が)暗かろうがロックだろうが、何でもいいんですけど、ワクワクすることをもっと探したいなっていうのが一番の希望ですね」
――それはいい年の取り方ですね。
「それが成功すれば……ね。でも引き続き悩んでますよ。今ちょうど切り替わりの時期で、実は2月から、かのホリプロという事務所に入ったんです(笑)。それが決まったのも12月ぐらいで、フラッとホリプロの方に会って“マネージャーがやめちゃったんで、どうしようっかな~”なんて言ってたら、一緒にいた人がホリプロの人に“この人、どうです?”って言って、ホリプロの人も“うち? どうぞどうぞ!”ってなって、私も“え、いいんですか? ほんとっすか? じゃ、お願いします!”って(笑)」
――移籍ってそんな感じなんですか(笑)?
「普通はありえないですね(笑)」
――安藤さん、人徳ですね(笑)。
「人徳……(マネージャーに向けて)かな?」
マネージャー「人徳ですね(笑)」
「あ、心こもってない(笑)」.
全員「(笑)」
――既にいいチームワーク(笑)。
「ほんと? 今、ずっと(マネージャーを)いじってるんですよ(笑)。でも本当に私は、デビューしてから社会的にこうやって人とちゃんとしゃべれるような人間に周りに育ててもらって……数えてみれば15年どころじゃない、20年近い時間ですよね。昔のマネージャーさんやディレクターさんたち……何て言うのかな、もう大家族ですよね。お兄ちゃんたちが、私という末っ子の面倒をみてくれたんですよね。で、今、そこから離れて自分の力で社会的に立たなきゃいけない。それが今の位置なのかなって思う。そういう意味でも新しく出会った人を、冗談でずっといじってますけど(笑)、これはこれで情報収集をしていて…。ほら音楽って誰か一人が音を鳴らしたら成立するか?って言うとそうじゃない。例えば、広場でピアノを弾いて歌って、そこに人が集まったらそれはすごくステキなことなんだけど、でもその人の音楽をレコーディングして広げようとするには、ピアノを弾いて歌う人以外の仲間が必要なんですよね。それが東京都の世田谷の公園で歌っていたとして、福岡の博多や大阪の淀川まで(その音楽を)流したい!ってなったら、彼らの心の中に、生活や人生をある程度投げやってでも流したい!っていう熱意がいるし、今、そういう仲間を一から作り直しているということなんで……だから、あまりからかい過ぎて(マネージャーに)嫌われたらどうしよう?って思ってたんです(笑)」
――でも、言葉は悪いですが、安藤さんは“人たらし”の素質がありますよね(笑)。
「人たらし(笑)? ま、それは自分が一人では立てないことがわかっているから、共に立ってくれる人を常に意識してるからだと思います」
――そしてかつての末っ子も今は上の子に…って感じですね。
「そうそう。気がついたら高校球児が自分より年下だった衝撃に近いというか、私が育てる側の人間になってのか?っていうね(笑)。そういう意味でも自分にとってはここ最近はターニングポイントですね。私2月の移籍後に、こんなに休んだことない!ってくらい暇だったんですよ」
――お休みできたんですね。
「いや、精神的に全然休めなかった。病気になるかと思った(笑)。デビュー以来こういう時間の過ごし方ってなかったから。だって、ずっと自分でスケジュール決めたことなかったもん(笑)。組まれる予定の中で“どうやら私、明日休みらしい”っていうような暮らしをしてきたので、いきなりただただ何の予定もない2か月なんて…。最初は風邪ひいてたんで、予定がなくて良かったって思ったんだけど、2週間ぐらい過ぎたら、予定がね~な~ってなって(笑)、子供も小学生になったから帰ってきても“ちょっと出かけてくるっ!”ってなっちゃってるから、もうすごい暇なの。で、レコード会社は決まってないけど、アルバムの制作に入りましょうってサウンドプロデューサーを2人招いて作ることになったんですけど、その2人がちょうどツアー中で土日はずっとツアーだし、なんなら平日もいなくって…。それで一人で夜な夜な曲を作ってたんですよね。前だったらクリックと歌とか簡単な和音と歌とかだったんだけど、暇すぎて普通に打ち込みでアレンジが作れるようになって……(笑)。“あ、だいたいわかってきた! ある程度のことはわかってきたっ!”ってなりました。だから暇過ぎて、今ちょっとスキルアップしてます(笑)」
――2か月間の休みは良かったのか悪かったのか(笑)?
「今後のことを考えると良かった(笑)。でも、こんなに暇な2か月なら、何か習いごとすれば良かったなって思って…。週5でレッスンできたじゃん!って(笑)」
――確かに(笑)。さて「ACOUSTIC LIVE2018-19」のことに話を戻しますが、『Acoustic Live 2018-19 at Tokyo』には、同ツアーの東京ファイナル公演の模様を収録。ツアーは初日と最終日ではずいぶん曲の印象が変わったとか。
「悪い言い方だとこなれたかな。やっぱり初日の長崎の爆発力は……乱れ過ぎでしたね。緊張感がすご過ぎて1曲目から大号泣。ワッシャーッ!って(笑)」
――1曲目は新曲の『nontitle』ですね。
「この曲を歌いながら号泣したからお客さんは驚きですよね(笑)。実は長崎っていうのは私の思い出の地(ライブシリーズ『ACOUSTIC LIVE』を始めるきっかけとなった地)で、自分の人生を再スタートさせるなら長崎がいい!っていう話をずっとしていたんですよ。で、プロモーターの担当の方が長崎出身で、一生懸命いろんな方に連絡をしてくれて、長崎でライブできることになって。地方に行くのって私のような都市に特化したミュージシャンにとって難しいんですよね。東京の世田谷区あたりなら大丈夫だけど、地方だとアナウンサー(の安藤優子)さんかな?みたいな……(笑)」
――いやいやいや(笑)。
「でも本当に地方でお客さんにライブに来てもらうのは大変なことなんです。で、私はこの3年間ぐらい沼に……マンホールの奥にもぐり込んでいたから、久しぶりに地方を回って、みなさんに“歌を歌っています、安藤裕子と申します”っていうのだから、とにかく長崎から始めたいって言って、ほかの公演につなげていける方法を探ってもらってツアーが始まって、長崎で乱れて大号泣して、そしてだんだん育っていったから、表現が難しいけど東京になった時はちょっと落ち着いたっていう面があったんですよね。でも録音するにはちょうど良かった。たぶんストーリーが完成したところがあったのかもしれない。でも、私がすごく難しいなって思うのは、要は(ライブは)舞台演劇でもあるから、舞台上で初めて弾ける事件はスパイスでもあって、何の事件も起きないで進んでいくのはロングランの舞台ではいいかもしれないけど、ちょっともの寂しさも感じるんですよね。だからもっと乱れても良かったのかもって……(笑)」
――安藤さん、どんどんタフになっている感じが(笑)。
「そうかもね。だってもう半分生きたもん(笑)!」
――そう言えば、以前インタビューで子育てについて話していらっしゃいましたが、お母さんって大変だしパワフルだなと思ったんですよね。
「何しゃべってたかな? 適当なこと言ってるかもしれない(笑)!?」
――え(笑)? 化粧水つける時間もないとかいう話でしたよ。
「あ、そんな時間はない。今こんなに適当にベラベラしゃべってますけど(笑)、家のことはちゃんとしてますから。(子どもを)お風呂に入れて“歯ブラシしなさいー! ◎△*$♪×\○&%#?!;$※♂(まくしたてている)!!”って…。で、寝かせないといけないんだけど、本を1冊読まないと寝てくれなかったりして、でも遅い時間だと“本は?”って言われても“もう遅いから読めん! はい電気消すよっ、はい寝るよっ”って一緒にお布団入ると、こっちは歯磨きも化粧水もしてないのに、びしょ濡れのままで寝ちゃって、朝起きて“あ、口が気持ち悪い”みたいな…(笑)」
――そんな姿、想像つかないです(笑)。でも、そんなお母さんが夜中に一人で爆発しちゃった感じなのが『nontitle』の曲の世界かな?と…。
「この曲はそういう母性的なものはないかもしれない。これはお母さんとしてよりは、私が仕事を休もうって本気で考えてた時に、抱えていたことだと思う。気がついたら自分への興味がまったくなかったっていう…。ここまで自分への興味を失って生きている意味があんのかな?って思ってた時期があって、何て言うのかな、悲しくも楽しくもないんですよ。何もない。それって、昼間はニコニコ笑っていても忙殺されていつの間にか自分の顔を忘れちゃったっていうのに近いかな。みんな社会的なお面って持ってるでしょ? この会社に行ったらこういう表情でこういうしゃべり方をします。こういうキャラクターです。でもお家に帰ったらこういうキャラです。でも恋人にはこういうキャラで接しますっていうのを持ってる。でも、どのお面が本当の自分なのかを見失ったということかな」
――だから曲は、誰の心にも刺さりそうですよね。では別の新曲『少女小咄』はどうですか? ゆで卵が出てくるあたりの詞はお母さんっぽいのかな?と思いました。
「これは休みの初期に作った曲ですね。お母さんの立ち位置に近いかもしれない。これね、それこそ、50代とか60代とかの女性に聴いてほしい。もちろん30代でも40代でもいいんだけど、自分が女性だったかどうかわかんなくなった人に聴いてほしい」
――と言うと……?
「女であることを長く意識し続けるのって難しいんですよね。(20代のぴあ関西版女性スタッフに向けて)10代や20代は意識せずとも女の子でしょ? 恋とかに正直な世代かな?」
スタッフ「いえ、全然……(笑)」
「え、全然(彼が)いないんですか? 高校生の時は? え、今は? 何もない? 好きな人も?」
全員「(笑)」
「じゃ、そういう恋って何だろう?ってなった人にも聴いてほしい。ドラマでしか恋愛なんて起きてないんじゃないんだろうか?そんなもの現実に存在してました?くらいの人に聴いてほしい。それでこの曲を聴いて、恋したいって思ってほしい」
――意外と世の中にそういう女性は多いかもしれないですね。
「例えば、恋を忘れずにいて恋をしたいけど、いざ誰かちょっと気になる人ができたとする。この人いい感じ。で、ご飯に行くことになった。(芝居風に)あれ、なんかドキドキすんな~。え、2人でお酒とか飲むんすか? えっ~、どうしようかな。キレイな下着を着ておこうかな? いや、それはおかしいかな?」
――……(笑)。
「で、ちょっとドギマギする食事会があるとしよう。で、それに行っても、パッと鏡を見た時に“恋するキャラじゃないだろう~”って鏡が言うわけ。“今さら恋なんて”って思ってる自分が、その人をめっちゃ好きになっちゃって……。で、どうしよう? あれ、恋ってどうやってやるんだっけ?っていうところで、でもどう考えても、どう自分を褒め称えても恋に値しないんですよ。なんだ!この出っ張った腹とそれよりちっちゃい胸は!!って……」
――歌詞にも出てきますね。
「そういう、好きだ!っていうのをどう想像しても、自分の顔がその絵にはめられないっていう悲しさと、でも本当にもし相手が好きだって言ってくれた時に“何かの勘違いしてんじゃないの、この人?”って思っちゃうみたいな人に……(聴いてほしい)。だって、この前、食事して楽しかったね!ってなって、次に会って2人でしゃべってる時……」
――あ、続きですね(笑)。
「で、その時、何話したらいいんだっけ? あ~何か気のきいたこと言わなきゃ! あれ、ヤバイ。この人ボッとしてる。もしかして私、つまんないと思われてる? ヤバイなこれ。あ~かれこれもう1週間連絡ない! あ、そっかあれは幻だったのかも?……っていうのを繰り返しているような人に聴いてほしい(笑)!」
――お芝居がすご過ぎる(笑)!
「私、ホリプロの人に“脚本家になりたいんですよ”って言ってるんですよね(笑)」
――なれると思います! いつまでも見ていたい……が、そろそろ時間みたいです(笑)。
「つい……ごめんなさい! あ、それで『箱庭』(別の新曲)は、恋をもう一度始めた時の曲です(笑)」
――読んでいる方には、ぜひ『Acoustic Live 2018-19 at Tokyo』を聴いてその詳細を確かめてほしいですね(笑)。では最後に6月22日(土)に大阪から始まる「安藤裕子 Zepp Tour 2019 ~雨街交差点~」のことを…。
「そう! ツアーに来てほしい!!」
――今回は新しいバンドメンバーとのツアーになるんですよね。
「これはね、旧態依然の安藤裕子の再構築。スタートの場所だから、そこに居合わせてほしい。敢えて今までのバンマスのもっさん(山本隆二)にも離れてもらって、これまで安藤裕子というサウンドを鳴らした人がいない環境でわざとやります。ここで新たな化学反応を起こしたうえで、また来年以降、もっさんも戻って来ると思うし……ってか、勝手に戻すつもりでいるけど(笑)、とにかく今回は何が起きるか私もわかってない。エクスプロージョンというか、何かが起きるはずなんですよ。それを見届けてほしいなっていうのが今回のZeppツアーなんで、用があったとしてもそれを断ってでも来てほしい(笑)。こういうライブは、今後ないです!」
text by 服田昌子
(2019年5月17日更新)
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