「日本語の多様性や響きを音楽とリズムに変えていけるのは面白い」
冨田ラボ、KASHIF、WONK江﨑文武、ものんくる角田隆太らも参加
20周年を飾るアルバム『波形』を携えビルボードライブ大阪へ!
birdインタビュー&動画コメント
前作『Lush』(‘15)では、冨田ラボこと冨田恵一とのコラボによってハイエイタス・カイヨーテらに通じるフューチャーソウル的な新境地を示し、洋邦の音楽ファンから改めて注目を集めたbird。ジャケットのアートワークも大胆な約4年ぶりの新作『波形』は、再び冨田をプロデューサーに迎えた前作の発展形を示しつつも、日本語の響きやリズムに強くこだわった歌詞先行の曲作りで、デビュー20周年にしてまた新たな扉を切り開いている。作曲陣に、ものんくるの角田隆太やWONKの江﨑文武、KASHIF(PPP=PanPacificPlaya)といった気鋭の新世代も参加した同作を携え、5月2日(木・祝)にはビルボードライブ大阪に登場する彼女に、その新たな到達点を語ってもらった。
今回は“言葉とリズム”にフォーカスして
――前作『Lush』はハイエイタス・カイヨーテやロバート・グラスパー以降のヒップホップやR&Bを通過した現代ジャズに通じる音にアプローチし、“さすが!”と思うとともに驚きもありました。
「私もハイエイタス・カイヨーテはライブを観に行ってカッコいいと思っていましたし、冨田さんもそういうライブを観に行ったりされていたんです。ちょっと訛ったリズムというか、『Lush』という曲を初めて聴いたときは、冨田さんからそういう感じの音がくるとは思っていなかったので、最初はビックリしたんですけどめちゃくちゃカッコよくて、グルーヴも後ろにタメてレイドバックした感じで」
――密室的なフューチャーソウルといった趣だった『Lush』は、かなり挑戦的な作品だったと思いますが。
「あのアルバムに関しては、とにかく冨田さんと2人だけで作りたかったので。全曲の歌と歌詞は自分、作曲とアレンジは全て冨田さんというところで、密室感というかギュッと凝縮された感じはより強く出ていた感じはしますね」
――最新作の『波形』は、『Lush』の発展形でありながらまた違ったタッチの作品になりました。
「『Lush』を作り終えたときに、冨田さんともう1枚作りたいなと早い段階で思っていて。今回は“言葉とリズム”にフォーカスして、言葉の響きとかそれで乗せていくグルーヴの楽しさというか、語るような歌うようなところに焦点を当ててアルバムを作りたいという話を最初に冨田さんにしたら、“じゃあ、まず歌詞を1曲分書いてください”と言われて。それを念頭に置きながら一番最初に書いたのが『波形』(M-1)という曲だったんです」
――歌詞先行だった、というのが今回の大きなポイントだったのかなと。
「冨田さんも言っていたんですけど、“言葉と響きとリズム”というところで、私から先に発信した方が“こういうことがやりたいのかな?”という一番分かりやすいヒントになるということで作っていきましたね。ものんくるの角田隆太さんに曲を書いてもらった『Know Don’t Know』(M-4)も、角田さんから先に歌詞をくださいと言われて進めていったので。普通なら曲をいただいてそこに歌詞をハメていくんですけど、字数もあまり気にせずに好きな言葉を自由に使って書いて、そこにメロディを乗せていただくというのは、いつもと違って面白かったですね」
――言葉主体で表現できることへの可能性みたいなものを、何か強く感じていたんでしょうか?
「やっぱり長くやってきて、日本語という言葉の多様性だったり響きをいい感じに音楽とリズムに変えていける可能性というのは面白いなと思っていて。そこを今回は集中してやってみたいと」
――こういうサウンドアプローチだとアレンジなどに耳を奪われがちなのですが、『波形』は歌のメロディやリズムが際立っているのが特徴的だなと思います。
「冨田さんの方からも、リズムとメロディとの兼ね合いで、最初に書いた歌詞から“ここはちょっと変えた方がいいかも”とか、“この響きはここに合わせて考え直した方がいいかも”とかアドバイスをもらいながら、言葉によって冨田さんがメロディを変えたり、行ったり来たりのやりとりも今回は多かったですね。今までだと、冨田さんなどから送られてきたカチッと完成された曲に対して言葉をハメていくという作り方だったんですけど」
――言葉に導かれて出てきたような、独特なメロディの曲も多いですね。
「今回は“語るように、歌うように”というところもあったので、メロディがあまり動かないで言葉のリズムだけで持っていくようなアプローチの曲もあるんです。『記憶のソリテュード』(M-3)とかもそうですけど、この曲は冨田さん曰く私の声のレンジで一番よく響くところだけを使って作られていたりするので、音域があまり上下せずにシンプルに感じられたりもする気がします」
――冨田さんの曲は広いレンジを駆使した凝った展開が多い印象ですが、今回はむしろ逆なのも面白いですね。
「私もそこは珍しいなと思いました。冨田さんの曲はレンジが広いから、歌い手として毎回チャレンジングな曲が多くて、だからこそカッコいい部分もあるんですが、今回はそういうところではないアプローチが多かったのかなと」
何のジャンルか決められない音になっているのも
歌いながら面白いと思っていました
――歌詞にザーザーとかカタカタカタとか、擬音が多く使われている点も言葉のリズムを増幅させ耳に残ります。
「日本語には擬音がいっぱいあって今までも書いてきたんですけど、そういう言葉って海外の人たちから“これってどういう意味なの?”と聞かれることが多かったんです。昔、ベイカー・ブラザーズというバンドの作品に1曲参加したときも響きが面白かったみたいで、いろんな意味に取れる表現も日本語には多くて。例えば、1曲目の『波形』の“ああ はあ さあ”でも、どんな“ああ”なんだろうかとか。ザーザーにしても雨なのか雑音なのかシチュエーションによって何通りにも取れるし、そういう面白さのある言葉をたくさん使うようにしたところもありました」
――洋楽的なメロディに乗せるとか、ラップなどとは異なる日本語のグルーヴ追求はまだまだ方法がありそうです。
「ずっと日本語で歌詞を書いてきて、英語などの他の言語とは違う発音の面白さというか、どちらかと言うとカクカクしていたりパタパタしていたりして、英語みたいに横にうねっていくような言葉ではない中で音楽としてグルーヴを出していくにはどうすればいいのかということは、歌い方も含めて常に考えていますね」
――そういうことにトライするには、最近のフューチャーソウルやビートミュージックなどの変則的なビートは、自由度が高くて合っている気もします。
「そうですね。それはアッパーな曲はもちろんスローな曲でもあるべきで、歌い方のアプローチや楽曲とのコンビネーションに注意しながら進めていきました」
――アレンジ面では、ブラジルやラテン系のリズムや打楽器が多く使われている点も、前作とは違った点かなと。
「今回はパーカッションなどの印象が強い曲があったり、ジャズっぽいアプローチのものもあって、1曲の中にいろんなジャンルの要素が加わっていて、何のジャンルか決められない音になっているのも、歌いながら面白いと思っていました。これまでに冨田さんと作ってきたいろんな要素が、このアルバムに絶妙に組み込まれている気もします」
――そんな言葉の面でもサウンド面でも新鮮なグルーヴに満ちた『波形』を携えて、元号が令和に変わった翌日の5月2日(木・祝)にはビルボードライブ大阪にてライブが行われます。
「もちろん『波形』を中心に選曲しようと思っていますし、『Lush』発売後のライブと同様にどこか差し迫る感じというか(笑)。冨田さんの作る曲は決して“イェ~イ!”という感じでイケるタイプではないので、心地よい緊張感がありつつも、カチッと作られた世界にみんなで向かっていくライブになると思います。自分たちでも楽しみですね」
(2019年4月25日更新)
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