自身が設立した「DGP RECORDS」の第1弾であり、自身初となるEP『ポラリス』を1月30日にリリースしたBase Ball Bear。今作ではタフな3ピースサウンドが鳴らされているが、そこにはこれまでと異なる制作スタイルや“引き算”の悩みがあったという。そんな興味深い作品の“うしろ側”も聞かせてくれたインタビューをご覧あれ。
――1月30日にEP『ポラリス』が発表されました。今作はどんな点を軸に制作が始まったのでしょうか?
小出「前作のアルバム『光源』(2017年4月リリース)が3ピースとして最初の作品だったんですけど、この作品は音を盛る方向というか、まだ4人の時の作り方とあまり変わってなかったんですよね。それまで使ってなかった同期を使ったりシンセが入ったりとかはあったんですけど、作り方そのものは変わってなかったんです。で、2018年にサポート無しで完全に3ピース体制のツアーをやって、これまでの曲も全部3人で演奏しきって、体質が3ピースになったというか。で、ツアーでの体感から、最小限の材料でどれだけ最大限の効果が出せるかを追求して作ってみたい!というところから制作が始まりました」
――3人でやれる最大の音を!っていう感じですかね?
小出「でも、フル稼働で演奏するというより、どっちかっていうと“抜く”ことを覚えたというか。例えば音を盛り上げるように感じさせたいってなっても、音数が少ないですから、山を盛っていくのにも限界があるんですよね。テンションを上げても、アレンジを変えても。でも逆に言えば、山のいちばん低いところは今までよりも低くなった。すごく低いところから、ある程度高いところまで持っていくっていうのができると、単純に盛り付けていくよりも、盛り上がって聴こえるんですよね。要は緩急……ダイナミクスがどれだけ小から大まで演奏できるかっていうことなんですけど、それができるようになったと思います」
――確かに今作は全曲、物足りなさは皆無です。かつ楽器一つひとつの音がしっかり聴こえました。しかもずっと聴き続けていても耳が疲れず楽でした。
堀之内「それはうれしいですね」
小出「そういう一個一個の音が聴こえるっていう体感がすごく大事で。やっぱり音をたくさん盛っていった時、一個一個の音がちゃんと聴こえているか?というと、実はそうでもない。ミックスでバランスは取っているとは思いますけど、音が溶け合っているところが出てきちゃうんです。今回は音を溶かす方向より、全部の音、ドラム・ベース・ギターがちゃんと聴こえるように入っているという方向を目指しました」
――さらに全4曲、それぞれに個性があって違った響きですよね。一般的にEPとなると一つのカラーが突出する作品も多い気もしますが……。
小出「完全に3ピースになってからのサウンドの1枚目だったので、もともとバリエーションをきかせたいっていうのがあったんです。シングルで表題1曲とc/w1曲みたいな形じゃなく、これだけ満ちあふれているという今の状況を見せたいというか。この4曲の制作のためにアイデアもたくさんあったんですけど、そこからこの(幅のある)4曲だな!っていうものを選んだ感じですね」
――今作の曲に感じる楽しさはそんな充実している状況も背景にあったんですかね。特に楽しさという点では、ベースがガッツリ聴こえてワクワク、ゾクゾクする感じがたまりません。
小出「今回は制作の始め方も今までとちょっと違うんです。昨年僕がマテリアルクラブっていう新しい音楽プロジェクトを始めたんですけど、そっちの制作の終盤と今回の制作のスタートが重なっていて時間がなかったので、先に2人(関根・堀之内)で、ベース・ドラムで何かループを作ってくれと……特に関根さんには4小節ぐらいでいいからベースラインのアイデアを作っておいてって頼んだんですよ。で、その後に僕が合流して一個一個を検証して曲にしていく。いつもは僕が先に詞・曲を作っていて、もう歌がある。ということは、ある程度Aメロ・Bメロ・サビとかの構成もあるということなので、土台となるベースラインもある程度歌に沿ったものになる。でも今回は……特に『PARK』とかはベースとドラムで仕上がっているので、そこに後から歌とギターをのせるっていう作り方ができたんですよね」
――ベース・ドラムが際立って聴こえる理由はそこにあったんですね。ちなみに関根さんは、“先にベースラインを考えて”と言われた時はどうでした?
関根「もともと制作の時に役立てようと思って、自分でベースのフレーズをネタ帳的にたくさん録りだめていたんです。だから今回は、それを土台に曲を作ってみるっていう……自分のベースから曲が成り立っていく感じがすごくうれしかったですね。さっき(小出が)言ってたように、いつもは詞・曲があるところにベースラインを考えるので、やっぱり曲が呼んでる方向にベースフレーズを考えたりするんですけど、今回のようにベースフレーズから作るってなると、まず何も考えず自由に作っていいわけなので、今までうちのバンドになかったコード進行にしてみよう!とか、どういうリズムだったらちょっと新鮮な曲ができるかな?とか、そういうことを考えて作りましたね」
――この制作手順の変化に伴って、ほかにも変化したことはありますか?
小出「僕はドラムとベースで歌えるくらいの感じが一番理想的だなって思ってたんです。自分が好きなファンクとかヒップホップでいえば、“上もの”がどうこうって話じゃないというか、リズムとベースだけでだいたい出来上がってるんですよね。ギターは最小限の味付け。今回はリズムが強いので初めてそういうアプローチをすることが出来ました」
――では今回、小出さんはゆとりを持って作れたんですね。
小出「いやでも、結構悩みましたね、ギター。“引き算”の悩み。うるさいと思っちゃうんですよね。今まで散々ダビングで音を重ねてきたのに。『試される』とかも最初テーマリフの後ろにバッキングが入っていて……普通はだいたいそうなんですけど、でも今回は後ろでコードを弾いているのも、もううるさいって感じるようになって。最後まで、音を活かしてはミュートし、活かしてはミュートしを繰り返してたんです。でも最終的にファイナルミックスまで進んだら、いらないか!みたいな(笑)」
――そんな“引き算”のおかげで3つの楽器の絡みが会話するように聴こえて楽しい感じがするんですね。
堀之内「そうですね。まさに楽しい感じでやっていたので(笑)。レコーディング自体がこれだけ健康的に楽しくできたのは、昨年3人で回ったツアーから、3人での演奏に深みがあるなって思えて、単純に楽しいって感じてて、早くレコーディングで音に残したいっていうモードになっていたからで。今回そういう楽しさが出ていればいいなって思ってましたね」
――では曲ごとの話も。まず1曲目の『試される』ですが、そもそも“試される”ってワードがすごいなと思いました。
小出「“試される”っていうワードは先にあったんですよね。制作中は適当な仮歌詞で歌ってるんですけど、サビはずっとこれで歌ってて。あとから別の言葉に差し替える可能性もあるなって思いながらだったんですけど、“試される”っていうのに慣れちゃって、これ以上の文字って出てくるかな?って」
堀之内「うん。あまり想像できなかったね」
小出「自分でも“試される”って何だ?って思いながらだったんです(笑)。で、すごく悩んだんですけど、“試される”なのか“試されている”なのか。これって結構ニュアンスが違うなって思って。最初は“試されている”の感じで詞の内容を考えていたんですけど、“試されている”だと、私は今試されています!っていうニュアンスですけど、それよりも“試される”はもっと全体にかかってくる感じがしますよね。自分だけじゃなくて、誰しもっていうのが含まれるので、それをうまく拾わないとダメだなって考えていったら、こういう内容になってきました」
――謎めいた感じの詞ですよね(笑)。でもどこから“試される”という言葉は出てきたんでしょう?
小出「口をついて出たってことは無意識にストックされていたんだとは思うんですけどね。いや~、わかんないな~。どこで聞いたのかも何で思ったのかも覚えてない」
堀之内「普段、言ってるイメージもないしね」
――そこも謎ということですね(笑)。そして3曲目の『PARK』ですが、これはレーベル名の「DGP RECORDS(正式名称Drum Gorilla Park Records)」とリンクしているんですか? 詞にもレーベル名にもパークと動物名が出てきます。
小出「先にレーベル名が決まっていたんですけどリンクさせたわけじゃないです。もともと動物を比喩に使った曲を作りたいなって考えていて、で、歌詞を書くとしたら(動物名を)羅列しなきゃうまくいかない。すると文字数も多くないとできないなって思って。それと、動物比喩の曲と言えばECHOESの『ZOO~愛をください~』があるじゃないですか。あれとかぶっちゃいけないなとも思っていて」
――文字数が多いという意味でも、『ZOO~愛をください~』とも違うという意味でも、ラップがぴったりだったんですね。
小出「あと、最近、動物メタファーの映画がいくつかあって。それはいろいろな人種や属性を動物に置き換えて描いているわけですけど、そういうのを自分でやってみたいなって思ったんです」
――そして、ラップの攻撃的なイメージが動物のかわいらしさで中和される感じもします。
小出「でもラップって攻撃だけのためにあるわけではなくて、セルフボースト(自己賛美・自己自慢)や、もっとレベルミュージック(権力への反抗の音楽)的な側面とかがある。最初の最初はただのパーティ(の音楽)ですけど……そういう言葉を武器にするための音楽にもなっていったっていう部分も僕は好きなので、こういう歌詞になりましたね」
――確かに詞は社会に牙をむいていますね。一方4曲目の『ポラリス』の詞はバンド愛があふれる内容ですよね。関根さんと堀之内さんの好きなモノが詰め込まれているという。
小出「3人でソロ回しをして、ボーカルも3人で取るっていうアイデアから膨らませていきました。曲ができて、じゃ何を歌うのか?ってなった時、あまり意味を持たせ過ぎると気持ち悪いなって思って(笑)。例えばアイドルソングにはメンバー紹介曲もあったりするんですけど、それをバンドでやるってなると……」
――ちょっと気恥ずかしい感じも……!?
小出「それで、ストーリーを考えるかってなったんですけど、3人で1つのストーリーを考えるのも、それはそれで気持ち悪いなと。で、“意味はないけど意味がある”みたいな方向に向かっていって、数字の3縛りにしたんですよ」
――3人の3ですね。詞には3が付くワードがたくさん出てきます。
小出「だから、めちゃめちゃ考えるのが大変でした」
――関根さんと堀之内さんは歌詞を知ってどうでしたか?
堀之内「最高だね!みたいな感じでしたね。これはおもしろいわ!ってすぐに思いました。だいたい僕が歌うパートや関根さんが歌うパートは決まっていたので、“あ、(この詞は)ここだろうな”っていう。あと、単純に今までリードで僕が歌うことがなかったから、テンション上がったわ!っていう(笑)」
――さらにそこで自分の好きなものを叫べると……(笑)。
堀之内「ま、そこは“してやったり感”なんでしょうね(笑)」
――メンバーのモチベーションアップも考えて……なんですね。
堀之内「そういうこともあったんじゃないですかね?」
小出「あまり歌の経験がない人に、情緒のあるフレーズを渡しちゃうと、どう歌っていいかわかんないかなと思ったんですよ。だから歌心をどうこうしてもらうというよりは、キャラが出た方がいいかなって。元気に明るく歌ってもらえればいいかなと。意味はないけど、一番本人が好きなものをっていう」
――関根さんどうでした?
関根「おもしろいなって思ったし、バンドのことを歌うにも力具合というか言葉のチョイスがやっぱりいいなと思いました。恥ずかしくないし、なんかうまくいったなって。バンドのことを歌ってるロックバンドは結構いると思うんですけど、自分たちなりのバンドの歌ができたのがうれしかったですね」
――では、最後に「LIVE IN LIVE~17才から17年やってますツアー~」についてお願いします。ちなみに『ポラリス』は2枚組で、DISC2には代表曲『17才』を新たにレコーディングした『17才(17th Ver.)』が収められていますね。
小出「今回もコンセプトがあるツアーです。『~17才から17年やってますツアー~』っていうタイトルにしたのは、バンドが結成17周年を迎えたことと、『十七歳』(2007年12月リリース)というアルバムを出した時のツアー『17才からやってますツアー』に引っ掛けてます。なので、アルバム『十七歳』のなかから結構多めに演奏しようかなと思っています。『ポラリス』と『十七歳』を掛け合わせた内容になりますね。DISC2も聴いて、3ピースの演奏を想像しながら、観に来てほしいです」