「新しい音楽の喜びを知った今、もう怖いものはない」 山崎あおいインタビュー&動画コメント
シンガーソングライター・山崎あおいが、なんと2年10か月ぶりとなるアルバム『FLAT』を2018年12月にリリースした。今作には多彩な全10曲が収録されているが、どうやらその仕上がりには、2年10か月の間に手がけた他アーティストへの楽曲提供などの活動を経て、彼女にもたらされた変化も大きく影響しているようだ。さらにインタビューではちょっと意外な曲の“ネタ元”やMV撮影秘話も明らかに!
――2年10か月ぶりのアルバム『FLAT』はバラエティ豊かな曲がそろっていますね。一枚を通したテーマは何だったのでしょうか?
「楽曲の色はバラバラでもいいかなと思ったんですけど、なるべく自分でちゃんといろいろなことを見て、やりたいなと思ったんです。過去に出したアルバムはアレンジャーさんに任せた部分も多かったりして……もちろんそれはいい経験だったんですけど、せっかくこの2年10か月の間に楽曲提供をするようになって、自分でアレンジもするようになったので、自分の曲もアレンジをしたり、その間の活動で出会ったミュージシャンの方に“この曲を弾いてもらいたい”みたいな感じでお願いをしたりして、自分で“選んで”作りたいなと思いました」
――自身のハンドリングで制作ができたんですね。
「そうですね。常に主導権を持てて楽しかったです(笑)」
――そして、全10曲のうち前半6曲が恋愛に関する曲で、その後は山崎さんの人間性を感じる曲が並びます。この構成は意図的なものですか?
「並べてみたらこうなったっていう感じなんですけど、広く届けばいいなと思う曲を前半に置いて、後半は昔から私を応援してくれる人に向けて歌う曲や、単純にこのタイミングで私が曲にしたかったものを詰め込んだ感じですね。こういうパターンはこれまでもやっていたことではあります」
――とは言え、前半の曲もそれぞれ異なる多彩な恋愛模様が描かれています。自身や自身の周りのことを曲にされたんですか?
「完全に誰かの物語を曲にしたのは『鯖鯖』という曲ですね。そういう書き方をする曲もあれば、『遠距離トレイン』は私の理想の女の子を書いています。こんな子がこんなことを歌ったらステキだなっていう気持ちで、私のなかの思いではあるんですけど、実はテレビのバラエティ番組で遠距離のカップルが出ていて、で、そのカップルの彼女が遠距離恋愛中の彼氏が最近冷たいから、もう黙ってられない!ってなって、だったら私は振られに行きます!っていうのにカメラが密着するのを見たんです。それで、その振られに行く女の子って潔いな!って思って。そういう風になりたいと思ったし、そういう子がどういう曲を歌ったらかわいいかな?って考えて、そんな子の恋愛に似合う曲を書こうという気持ちで作りました」
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――今話に出た『鯖鯖』は、彼にあまり会いたくないから“カレシ、遠洋漁業の人がいい”という女性が主人公。インパクトがあります。
「友達とか本当に私の近くにいる人になればなるほど“あおいらしい曲だね”って言われるんですけど、書いたきっかけとしては、母の友人のひと言です。その方が当時30~40歳だったと思うんですけど“もう面倒くさいから遠洋漁業の人と結婚したい”って言うのを聞いていて……。当時私はまだ幼かったんで“あ、あまり彼氏に会いたくないなら遠洋漁業の人と付き合えばいいんだ”って思って、それがずっと心に残っていたんです」
――そのことはお母さんに話しました?
「直接は話してないんですけど、インタビューとかを見て“あんたよく覚えてたね~、○○ちゃんのことでしょ?”って。母も覚えていたみたいです(笑)」
――まさか何年後かに曲になるとは!という感じですね(笑)。そしてこの曲は言葉遊びが小気味いい。サバサバと鯖鯖、あっさりとアサリ……おもしろいです!
「遠洋漁業の人と付き合いたいっていうテーマだったので、そういう漁業的なものと魚を掛け合わせたらおもしろいかなって思ったんです。ま、実際サバは遠洋漁業ではないんですけど(笑)、書いてるうちに、鯖、アサリ……なんかいいかも!って。それで、これをどういうメロディで歌おうかな?っていろいろと考えたところ、2000年代に流行した着メロ・着うたあたりの、ちょっと切ないあの感じのサウンドにのせようかなと…。ああいう曲ってほぼ“会いたい”って歌ってるじゃないですか。だからそうじゃない逆の話に結びつけたら、笑うに笑えないシュールな感じになるのかなって思ったんですよね。本当に遊び心から作った曲で、最初はファンクラブ限定でリリースする曲にしようと思っていたんです。表には出さないけどファンクラブの人は聴いてね……くらいの気持ちで書いた曲でした」
――だからあそこまで振り切れたんですかね。MVもおもしろかったです!
「撮影も楽しかったです(笑)」
――波が打ちつける岩場でサバのぬいぐるみを抱えてたたずんでいましたね(笑)。
「“絶対に笑わないで!”って言われたんで、ずっとアンニュイな顔してました(笑)」
――ちょっと演歌のMVのよう(笑)。
「いい感じで波がバンッてなって……恵まれた撮影でした(笑)。あのサバのぬいぐるみはネットで買いました(笑)。本当に楽しくて何も悩まなかったというか…。こうしたらおもしろいんじゃないか、ああしたらおもしろいんじゃないかっていうのがどんどん出てきて、MVもほかの楽曲では監督と打ち合わせをして“アイデア、出ないですね~”って煮詰まったんですけど、『鯖鯖』だけは無限にアイデアが出てきましたね」
――聴く方も楽しませていただきました! そんなユーモアたっぷりの『鯖鯖』と、さっき話に出た『遠距離トレイン』やせつない失恋の曲『缶コーヒー』などの間には落差が…。ご自身の性格にもありそうですか、落差(笑)?
「感情の落差は全然ない人間だと思うんですけど、でも楽しいことがすごく好きで、曲作り……なんて言うんだろう……例えばシンガーソングライターとして自分の生活を切り売りして“魂の歌を作る”っていうタイプではなく、気持ち的には遊びの延長で曲作りをしてる部分もあるので、中学・高校の時も友達と集まって、じゃ変な曲書こう!って、ちょっとふざけた曲は書いてはいたんです。ただそれは全然世に出てないんですけどね」
――ついに形になって世に出たのが『鯖鯖』だったんですね。では今後、この感じの曲は増えそうですか?
「そうですね。今回、書いてもいいんだってことがわかったので(笑)」
――楽しみです。そして後半には『ナニモシラナイ』や『アイソレイト』といった詞に怒りも感じる曲を収録。でも山崎さんの歌声がソフトなので聴く人に嫌な感じの怒りを伝播させないですね。
「昔からいろんな曲を書きたいと思っているんですけど、結局私が歌うと、あまり重い感じに聴こえないというか…。例えば、本当に例えばですけど“殺すぞ”っていう歌を私が歌ってもそんなに怖くないと思うんですよね。ちょっとポップな“殺すぞ”になる。何を歌っても軽く聴こえるなって思って、昔はそれがちょっと嫌だったんですけど、最近はもっと刺々しい言葉を使ってもポップな感じになるならと思って、あまり言葉選びに躊躇しなくなりました。(提供する楽曲を除く)自分の曲に関しては……ですけど」
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――ソフトな響きなのに辛辣というのがいいですよね。『ナニモシラナイ』や『アイソレイト』もまさにそれ。でも、尖った言葉が出てくるきっかけ……イライラするようなことがあったんですか?
「2~3年前まではあまり怒ることもなく、怒りより悲しいっていう感情が一番先に出てたんです。それは、友達に“悲しみは1次感情で、怒りは2次感情。怒りをたどると悲しみがあるから、怒った時は何が悲しいのかを考えた方がいい”って言われて、それをずっと実践していたら怒ることがなくなっちゃって、ずっと悲しいな……みたいな感じになってたんですよ。でもそれは実はよくないかも?って思って、肉を食べて(笑)、私は野獣だ!みたいなモードに戻していったのがここ1年ぐらい。となると、今度は怒ることがいっぱいあったわ!みたいな感じで、怒るようになっちゃって(笑)。『ナニモシラナイ』や『アイソレイト』に関しては、そのやり場のない気持ちを曲にした結果ですね」
――怒ることあった!と思えたきっかけは?
「音楽をやるのはすごく好きだし、音楽業界の人たちに怒ったこともあまりなくて “私のためにありがとうございます!”って感じだったんで、ずっと居心地が良かったし東京も好きだったし…。でも、とある女子会に参加した時に異業種の人たちが集まっていて、そこに居心地の悪さを久々に感じたんです。そこからずっと怒ってます(笑)」
――居心地悪さの理由とは?
「音楽をやってる友達と一緒にいると、変わってるねっていうのは褒め言葉で、普通だよねっていうのが悪口っていうか……高校生ぐらいからずっとそういう環境だったので、その感覚に慣れていて、それが居心地いいなって思ってたんですけど、現実はそうじゃないコミュニティの方が圧倒的多数だったなってその時に思い出したんです。で、大学の友達も変な人が多くて、いざ社会に出た時に同じことを感じるって言ってる人がたくさんいて……それがなんかムカつくなって思って『アイソレイト』を書きました」
――なるほど。でもこの曲はポップでキャッチーな仕上がりで、“怒り”を全面に出した曲調ではないですよね。
「たぶん、『ナニモシラナイ』や『アイソレイト』で言ってることに関しては、怒ってるけど、そこまでではないというか、ちょっと怒りつつもどこかでは小バカにしているような感じがあるのかもしれないです。もっと本当にズタボロにやられた時は、そういう曲を歌いたくなるかもしれないですけど(笑)、まだ、鼻で笑ってやる!くらいの感じがあるのかもしれないですね」
――まだまだ元気に怒れそうですね(笑)。そして、“No Sing No Life”と歌うアルバムラストの『Singing Life』は、山崎さんの決意表明とも取れるナンバーですね。
「この曲に関してはこの曲の存在が特別っていうより、この曲の中で歌われていることが大切なのかなって思ってます。18歳でデビューした頃は自分を消耗して歌っている感じがとてもあったんですね。青春時代を思い出して曲にして、だんだん(曲の元となるものが)出なくなっていき、いつかこのモヤモヤとか思春期特有の悩みとかがなくなったタイミングでまったく曲を作れなくなるんだろうな、いつか歌わなくなるんだろうなって思って、それまでにどう燃え尽きようかな?って考えてずっとやってきたんですけど、2年10か月アルバムを出していない間にいろいろ考え方が変わって、ここからは積み重ねていくイメージになったというか、何かを消耗していくというより、その時その時で見えたものを捕まえて曲にして、その曲たちを財産にしていくイメージに変わったんです」
――大きな変化ですね。
「前は自分の体験が入っていれば入っているほど、曲に気持ちがこもるしレコーディング過程とかでも気合いが入るしっていう、そこが一番の音楽の喜びだったんですけど、最近は楽曲提供をし始めたこともあって、ここのコード進行がすごくうまくできたとか、一度書いてみたかった曲が作れたみたいなことに喜びを覚えるようになって徐々に変わっていきましたね。その喜びは衝動から生まれるものでもないし、今後消えていくものでもないから、この先、こういう音で作りたいとか、こういう機材で作りたいとか、その都度楽しみも喜びもわいてくるんだろうなって…。そう思った時、もう怖くなくなったんですよね」
――一生シンガーソングライターとして生きていけるってことですよね。では、そろそろ3月15日(金)から始まるツアーの話も聞かせてください。
「今回は久々にアルバムを引っ提げて新曲だらけでやるので、私も新鮮な気持ちで歌えるのが楽しみですし、ライブで初めてやる曲もたくさんあるので、より作った時に近い気持ちで歌えるんじゃないかなと思います」
――大阪公演は3月23日(土)ですね。大阪……どうですか(笑)?
「結構、大阪には来てるんですよね。いつもライブで来るんですけど、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン™以外の楽しみ方をまだ知らなくて、どうやって空いた時間を過ごしていいのか……。だいたいヨドバシカメラとかビックカメラとかに行って終っちゃうんです(笑)」
――東京にもありますよね(笑)。
「東京よりも大きいじゃないですか? フロアが多いし広いし。東京だとギターを持ってたら、“すみません。すみません”って感じなっちゃうんです。家電好きなんで、いつも大阪ではそうやって過ごすんですけど、そろそろそれだけじゃなって……。新たな大阪の楽しみ方を知りたいです。大阪のみなさん、教えてください(笑)」
text by 服田昌子
(2019年2月 6日更新)
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