「聴いてくれる人をもっと幸せにしたい!」
ましのみインタビュー&動画コメント
2018年2月、1stアルバム『ぺっとぼとリテラシー』でメジャーデビューを果たしたましのみが、ニューアルバム『ぺっとぼとレセプション』を2月20日にリリース! 個性豊かな全13曲が収められた今作は前作とひと味違う仕上りだが、その要因にはデビューから1年の間に起こった自身の変化があるようだ。今回はそんな変化や、逆に変わることのない彼女のパーソナリティも包み隠さずに話してもらった。
――ニューアルバム『ぺっとぼとレセプション』は“受け手に寄り沿ってエスコートする”というテーマで作られたということですが、そうなった理由とは何ですか?
「1年前にアルバム『ぺっとぼとリテラシー』でメジャーデビューしたんですけど、それが初の全国流通だったんです。それまでは世間……これからCDを聴いてくれる人に対してあまり具体的なイメージがない状態だったので、世間ってゴジラみたいにでっかい怪物みたいな感じがしてて(笑)。だから『ぺっとぼとリテラシー』は、そこに向かって私の持っているトゲを尖らせて、ハングリー精神とか負けん気で頑張ろう!って感じだったんですね。でも拠点の東京以外でもライブをするようになって、お客さんの顔を見て歌ううちに“あ、こういう人がこういう所で聴いてくれてるんだ”っていうのがわかって、だんだん温かいものが負けん気にのっかって、ファンへの愛情とかやさしさとかも生まれてきたんです。私の曲を聴いてくれている人にもっと幸せになってほしいって心から思うようになった。それで、すでに私の音楽を聴いてくれている人もこれから聴いてくれる人も、私の音楽の世界へ私がエスコートできたらいいなと思って作り始めました」
――世間=ゴジラではなくなったんですね(笑)。
「まだゴジラではあります(笑)。ただ、ハングリー精神っていうのは結構原動力になっているから、以前はそれを失うのが怖くて自分の温かい気持ちを排除していた部分があったんです。でもこの1年で私が持っている“戦うよ!”っていう気持ちはそう簡単になくなるものじゃない……意外と根強いものなんだって気づいたので、やさしくもなれたし、安心して心を開いてみんなに寄り沿いたいって思えたんですよね」
――そして、今作には幅広い楽曲が収められていますが、それはいろいろな人に聴いてほしい!という気持ちの表れですか?
「はじめの方に作った曲は、言葉もメロディもスッと入ってくるものにしようと思って作ったんですけど、半分ぐらい作り終わったら超自由に遊びまくる曲を作りたいっていう反動が生まれて、今まで以上に振り切れたものができたんです。でも、これは自分の気持ちに従うべきだなって思って。なので、寄り沿うっていうテーマにしたがゆえに、振り切れた曲も入ったっていう感じです」
――あと気になったのは、『’s』、『Q.E.D.』、『凸凹』といった曲名や『コピペライター』の詞にあるn>1など、記号が多いこと。これはなぜですか?
「確かに。なんちゃって理系なんですよね、私(笑)。大学は文系に進んだんですけど、高校の頃は数学が好きで、大学では理系に行きたいなって思ってて。その名残で使いたがっちゃうんですよ」
――理系……きっとロジカルな人なんですね。でも、今作にある恋愛の曲はハッピーなのかハッピーじゃないのかっていう微妙な状況が多いような気がします。割り切れない感じがするので、ちょっと裏腹ですね(笑)。
「私の性格上、論理的な時もあれば感情に流されまくっている時もあるので、完全にどっちとも言えないというか…。ただ完全にブルーで救いのない曲はあまりないですね。基本的にどういう状況にある人が聴いても心が上向きになるような曲にしたいなって思っているので、まったく全部がマイナスっていうのはないです。でも、幸せか幸せじゃないか? どっちなんだ?っていう点で言うと、私自身が今まで本当に本当に幸せな瞬間もないし、でも不幸でもないしっていうところを漂いながら生きてきているので……ま、私が理解しきれてないだけなのかもしれないですけど、その感じをそのまま表現した方がリアルだなって思って書いてます」
――曖昧な方が、リアリティがあると。そう言えば、恋愛の曲の詞には“身近感”がありますね。ご自身の出来事を反映していますか?
「あ、それよく聞かれるんです(笑)。自分に起こったこともあるけど、人と会ってできる曲も多くて、友達との会話で出てきた話題とかワードから詞が生まれたりもします。でもその現実をそのまま書くことはなくて、妄想の世界で自分の楽しいように行ったり来たりさせながら書くのが好きですね。だからまったく嘘でもないし本当でもないです」
――ネタは日常から探しているんですか?
「曲作りを始めた時はそうでした。最近は常日頃から曲にするとかは関係無しに思ったことを何でもメモをするのがクセですね。曲を作るためにメモをし出したけど、今は日常のいろんなことに好奇心を持てるようになって、それがクセになって……っていう風になりました。ワクワクする脳みそを手に入れた感じです」
――ワクワクする脳みそ、いいですね! で、恋愛の曲に話を戻すと、主人公に“面倒くさい女”が多いのも気になりました(笑)。
「私、結構そっちなんですよね(笑)。だから価値観は完全に私なんです。例えば、友達から“こんなことがあったよ”って話を聞いて、それで友達の気持ちになりきるのは偽善的というか……その人の気持ちって絶対わかんないから、それって失礼だなって思うんです。それで、書く時は恋愛だろうが恋愛じゃなかろうが、完全に私の価値観。それがめちゃ反映されていると思います(笑)」
――あと、詞の文字数が多いのもご自身を反映していますか? ましのみさん、早口ですよね(笑)。
「しゃべる時、早口なんですよね(笑)。詰め込みたくなっちゃう。でも今回、私史上、一番すき間があると思います(笑)。『美化されちゃって大変です』や『ゼログラビティのキス』や『タイムリー』とかは言葉を少なめにしたんですよ。前作ではもっと多い曲もあって。ただ、もともと早口で話す時の気持ちいい感じが好きなので、それを曲にした“タカタカタカタカ”って感じが好きなんです」
――その“タカタカタカタカ”があるから(笑)、面倒くさい女を描いていても突き抜けて楽しく終わる気がします。
「それが理想ですね。マイナスな感情って代弁してほしいけど、代弁されて暗く歌われちゃうとそのまま負のループでどんどん暗くなっちゃう。曲を聴いてまた暗くなって、それでまた暗い曲を聴いてって…。でも私は、最終的に清々しくなれたらいいなって意識しているので、マイナスなことはワーッて誇張してわかりやすく言っちゃった方がすっきりしていいなって思ってそうしてますね。歌ならちょっとドラマチックでもいいかなって」
――でも……。1曲1曲はすっきりして終わるものの、1枚を通して聴いたあとに、ちょっと暗さに気がつくような感じもあります(笑)。
「え! 本当ですか? 前作よりだいぶ明るくなってますよ(笑)」
――1枚からにじみ出る感じが、最初に話に出た“トゲ”とか“ハングリー精神”なのかな?と。
「あ、でもハングリー精神みたいなものは、曲に反映されるというよりは、どういう曲を書くかっていう選択とか、もっとましのみというもの全体に影響してくることですね。曲自体は自由に、考え込んで決め込むっていうのじゃなく、単純に私の価値観を通せば何でも書いてもいいと思ってるので」
――じゃ、にじみ出ていたのは……。
「……純粋に私の性格ですね(笑)」
――あと、ボーナストラック『夢ノート』のことも教えてください。なぜ今回ボーナストラックを?
「『夢ノート』は4年前ぐらいに作った初めての曲です。三田祭という私の通う大学の学園祭があるんですけど、1年生の時、そのテーマソングに選んでもらって学園祭のステージで歌ったんです。それはファンの方の投票で決定するもので、音楽コンテストでグランプリを獲る前のできごとだったのですごく記憶に残っていて。今、私は4年生なんですけど、実は昨年もう一回、三田祭の舞台に立てることになったので、あの時の感謝を伝えたいと思って、2番の歌詞を書き変えてアレンジも変えて、再録したものをリリックムービーにして見に来てくれた人に配布したんです。でも、来てくれた人にしか渡せないし、盤として残しておきたいなってことでボーナストラックとして入れました」
――原点のような曲なんですね。でもこの曲だけちょっとテイストが違いますね。
「そうなんです。私、生きていくなかで価値観とかが変わるのにつれて、作る曲も変わっていくタイプなんです。なので、前の曲が嫌だった時期もあって……なかったことにしたいくらい(笑)。でも、この曲があったから今の曲が作れるようにもなったし、やっぱり入れておきたいなって思ったんですよね」
――いい卒業記念になりましたね。では最後に3月にあるワンマンライブのことも。ましのみさんのライブでは、紙芝居や寸劇があるとお聞きしました。
「あ~(笑)。ま、ライブによって違いますね。いつも私がライブの構成を作るんですけど、ストーリー性を持たせたい時にスクリーンで紙芝居みたいなことも……」
――絵も描くんですか?
「すごくへたなのですけどね(笑)。ゆるいやつ。アニメーションのつもりで描いたら、みんなに紙芝居って言われたんです(笑)」
――本当はアニメーションなんですね(笑)。
「いえ、紙芝居……なんて表現したらいいんでしょう(笑)。一人遊びの寸劇の延長みたいな感じです。ほかにもラップみたいなのをしたり、ダンサーを入れたりした時もありました。楽しませるのがすごく好きなので、ワクワクする飽きないライブがいいなって考えて、いろいろ工夫してやってきてます。でも『ぺっとぼとレセプション』は今までで一番達成感がある作品なんですよ。人間的にこの1年ですごく変わったし。ま、これからも変わるんだとは思うんですけど、その1年が全部つながってできた作品で、幅も広がってこれまでにない側面とかも出せた。この作品の曲を歌うだけで、新鮮なましのみを聴いていただけると思うんです。だからライブはシンプルにしようって考えてます。曲を活かそうって。それにレセプションする……エスコートするようなCDができたので、せっかくなら、ちゃんとお客さんの顔を見てエスコートしたいですね。ワンマンだから長尺だし、私自身がすごく楽しみにしています」
text by 服田昌子
(2019年2月28日更新)
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