結成40周年を経て響かせる最新かつ普遍のグッドミュージック
ゴンチチインタビュー
『放課後の音楽室』などきっと誰もが一度は耳にしたことがある優しいギターを鳴らし続け、2018年、ゴンチチは結成40周年、デビュー35周年を迎えた。そしてこの記念すべき年の12月19日(水)には、アルバム「『we are here』-40 years have passed and we are here-」を発表。同作でも変わらず聴く人の耳と心をほぐしてくれるような美しくてみずみずしい音楽を届けてくれた。そこで今回、40年間のこと、記念のアルバムのことについて二人にインタビュー。日本音楽史に残るキャリアを持つ彼らだからこそとも思える音楽への姿勢やライブのエピソードなどは、まさに“さすが!”のひと言だ。
――結成40周年、デビュー35周年。すごいですね! とても長い時間ですが変わったこと変わらないことは何でしょう?
ゴンザレス三上「二人とも根本的に音楽が好きで、音楽を探求したい! 音楽はおもしろい!!っていう姿勢は変わらないですね。変わったことは……どうですかね?」
チチ松村「老けたでしょうね(笑)」
ゴンザレス三上「それは変わったね(笑)」
――ご自身だけでなく(笑)、音楽を取り巻く環境も変わりましたよね。
ゴンザレス三上「デジタルに変わりましたね」
チチ松村「デビューした時はレコードでしたね。CDは存在しなかったですから。CDに変わり今やCDも…。そしてまた今アナログブームが来て、そういう風に媒体は変わっていくね」
――それに合わせて自身の音楽にも変化はありましたか?
ゴンザレス三上「東京にゴンチチハウスという我々が寝泊まりする家がありまして、そこにスタジオもあって、デジタルになってからの二人の音はずっとそこで録っています。それまではスタジオで録ってたんですけど、そこで録るようになってからはギターの音が安定するようになったんですよね」
チチ松村「いつも同じ場所で、普段着のままでリラックスしてギターを弾けるので……それは変わったかもしれないですね」
――ちなみに音楽の聴き方も最近激変していますが、どうですか?
チチ松村「確かに好きな曲だけをダウンロードして聴くスタイルが多いですよね。僕たちは曲順もジャケットもこだわってこだわってやっているので、あまりそこが重要視されないっていうのは、ちょっと辛いところはありますね。やっぱり好きですからね。パッケージとかも」
――やっぱりお家ではアナログレコードを聴かれるんですか?
チチ松村「聴くことはありますけど少ないですね。今のブームみたいにレコードを買い集めたりするのは体力的にしんどくてね(笑)」
――いや、お二人とも絶対お元気です(笑)。40年間続けてこられた秘訣って何でしょう?
ゴンザレス三上「先ほど言いましたように音楽が好きというのが大きな原動力としてありましたけど……でも、たまたまですかね(笑)」
チチ松村「二人の出会いもそんなもんですしね(笑)」
ゴンザレス三上「初めは(ゴンチチを)継続させるつもりもなかったですしね」
チチ松村「楽しいからやってるっていう……今でもそう。だから40年これたんじゃないですかね。例えばグループとして結束を固めてやっていこう!とか、いつも目標を持って生きてないですから(笑)」
ゴンザレス三上「全然ない(笑)」
チチ松村「何にもない(笑)」
――自然体(笑)。ちなみに“もっと売れたい!”とか“ずっと音楽で食べていきたい!”とか悩んでいるミュージシャンやバンドマンは少なくないと思いますが、アドバイスってありますか?
ゴンザレス三上「でも、それはそれですばらしいと思いますけどね。一回だけでも売れてバンッてなったならそれはそれでいい。そしてずっとやってなくてもいいですよね、音楽。自分が楽しいと思えることがあればいいんじゃないかな。僕らはたまたまそういうの(浮き沈み)がなかったから何となく今まで続いてますけど、例えばすごく売れてバンド内でもめて……(解散して)もいいですよね、そういうの。人生の醍醐味ですよ」
チチ松村「そう。打ち上げ花火みたいなもの。バーンッて上がって消えていく…みたいなね(笑)」
ゴンザレス三上「でもね、そういう音楽はみんなにとって必要ですからね。説明できないような一瞬の輝きのある音楽っていうのは、それはそれですばらしいから。ただ我々は自分が音楽を作る時、作ったものを何回でも聴いてほしいっていうちょっと執拗なもの(欲求)があるのでそういう風にはならないですけど、でも勢いで作られた音楽ってすばらしいと思いますね」
――なるほど。では悩んでないで自分の思うようにやったらいいですね(笑)。
ゴンザレス三上「そう。で、儲けていただいて、もし事務所に我々のような年寄りがいたら(事務所を)潤してもらってね……(笑)」
チチ松村「年金みたい。若い人に助けていただくみたいな……(笑)」
――(笑)。さて、ニューアルバム「『we are here』-40 years have passed and we are here-」の話も。“40年を経てここにいる”とタイトルにもあるように、今、2018年の音楽を意識されたのでしょうか?
ゴンザレス三上「そうですね。以前から親交のあるアレンジャーや音楽家とも一緒に仕事をしたんですけど、それ以外にもドリアンさんやRayonsさんなど若い方にアレンジをお願いしたり、mei eharaさんにコーラスで入っていただいたりしましたね。そういう若手の方々は知り合いからのきっかけもあるんですが、YouTubeやTwitterで発見していいなと思ってお願いするという感じ。僕個人としては韓国のヒップホップとかも好きなんですよ。今の若い世代……35歳から下あたりの人たちが作る音楽は、僕が昔聴いていたルーツミュージックとフィットするんですよね。“隔世(遺伝)の世代”なのかな。それまでの時代の音楽……歌ものとかは聴いたことがないし、だから僕らはこういう音楽をやっているんですけど、今の若い世代の歌とかを聴いてみると、歌詞も音の作り方もスッと入ってくるんですよ。その音楽に含まれる要素には、(自分が)小さい頃に聴いていた洋楽と共通するものがベースにある気がするんです。どれもものすごくいい。だから今回ドリアンさんとかも、とても自然に入ってきてもらえて全然違和感がなかったですね。若い人にはとても期待しています。天才も多いし……」
――YouTubeやTwitterで情報収集されているんですね!
ゴンザレス三上「びっくりした(笑)? ものすごく貪欲に見てますよ、若い人たちの音楽。国内外関わらず」
――気になった韓国のヒップホップアーティストは誰ですか?
ゴンザレス三上「名前は忘れましたけど……(笑)。バックトラックを作っている人にすごく興味があって。韓国はレベルが高いんですよ。音が全然違う。音自体が高品質です。機械とかも関係あるみたい。日本でもそういう人は出てきてますから、未来は明るいですよ」
――日本で気になるミュージシャンは?
ゴンザレス三上「僕はずっと折坂悠太くんが好きで。(自分の)ラジオ番組でライブをやってもらったりもしましたね」
――さて、アルバムの話に戻りましていくつか気になった曲の話を。まずは『Beyond the clouds』ですが、80年代のムードですね。
チチ松村「シンセとかね」
ゴンザレス三上「懐かしいって言われますね。この感じは羽毛田さん(アレンジャー)がやったんですけど、僕自身が作ったもともとの打ち込みもそういう感じで渡してますね。たぶん(昔からの自身の打ち込みのテイストに)戻った感じですね」
――そして『Old Movie Theater』はいろいろな楽器の音が入っています。
ゴンザレス三上「ゴージャスな感じね」
――シンプルなギターの音色とのバランスはどのように取るんですか?
チチ松村「それはできた曲を聴いて、アレンジャーの方がストリングを入れた方がいいんじゃないか?とかって決めるんですけど、やっぱりできた曲がそれを呼んでくるという感じだと思います」
――レコーディングは先にギターを録るんですよね?
ゴンザレス三上「ほぼそうですね」
――その時点でアレンジの詳細は見えているんですか?
チチ松村「アレンジャーの人とまずデモを作るんです。だいたいサイズとかを決めて、そこにサイドギターを入れて、さらにリードギターを入れてから、弦などが入っていくパターンが多いですね。だからアレンジャーの人がデモを作った時点で、おおよその感じはわかるんですけど、でも生音を入れるとまた全然変わっていく」
ゴンザレス三上「そうですね。(生音は)音が分厚いのでシンセで入れたのとは違う風になりますね」
――作曲時点ではアレンジのイメージはあるんですか?
チチ松村「三上さんは自分で打ち込みをされるので、大体の形は頭の中にあるね」
ゴンザレス三上「そうですね。だいたいできあがったもののイメージがありますね。ビートとかもほとんど変わらないですね」
チチ松村「僕はないですね。もうお任せ(笑)。作ったものがどんな風になっていくんだろう?っていうので喜んでる。予想と変わったものになればなるほど喜びますね(笑)」
――スタイルが違うんですね。では次は『grassland』について。ずっと響き続ける規則的なサブギターが心地いい。“無”になりそうでした(笑)。
チチ松村「瞑想に入るみたいな感じ? それはおもしろいね」
――でも実際に弾くのは大変そうです(笑)。
チチ松村「あのギターを1曲ずっと持続して生で弾くのは大変ですね(笑)。やろうと思ったらできるんですけど、でもあそこ(音源)までは規則正しくはできないですけどね」
――ライブではどうするんですか?
チチ松村「ま……やらないでしょうね(笑)。いや、やるかもしれない、いずれは……ね」
――そして、そんなサブギターだからメロディの美しさが際立ちますね。
チチ松村「そうですね。これは(サブギターの)アルペジオがきれいな並びだなって思って、そこにメロディをつけていった感じですね。メロディはあとから。真ん中のあたりとかにはハープとピアノとカルテット……でしたっけ?」
ゴンザレス三上「三弦ですね。トリオが入って……」
チチ松村「なかなかおもしろい組み合わせで、菅谷昌弘さんという以前からゴンチチの曲のアレンジをやってもらってる人なんですけど、現代音楽の要素がある方で、その菅谷さんの世界がすごく入っている曲なんです。僕はできた曲を聴いてすごい芸術だなっていう感じがしました。だから瞑想するように聴いてもらえたら余計にうれしいですね(笑)」
――こんな言い方はよくないのかもしれないですが、ずっと流していると集中して仕事がはかどる一枚です(笑)。
ゴンザレス三上「やっぱり何回も聴いてほしいっていうのはありますよね」
――でも仕事しながら聴かれるのは嫌じゃないですか? もっと曲に向き合ってガッツリと聴いてほしい!と思ったことはないですか??
チチ松村「ないですね~(笑)。好きなように聴いてもらうのがいいです。でも、こう聴いてほしい!っていうことはないけど、よ~く聴いたらいろんなものが入ってるっていうのはありますね」
ゴンザレス三上「僕は自分が聴く音楽は、自分の作った音楽のことが一番多いので、それに飽きたくないなっていうのがありますね。例えばズバッとくる(インパクトの強い)音楽は飽きるのも早いのが問題。あ、自分のなかで……です。自分の音楽は長い間、愛したい。もちろんいろいろな音楽が好きで、ほかの人の音楽を愛してないわけじゃないですけど、だんだん愛しなくなりますからね。“もういいわ”ってなりたくないなって思います。ほらヒット曲って、その時はすごく聴くけど、1週間も経ったら聴かなくなる場合がありますよね。それはそれでいいんですけどね。ただ、自分が作るのはそうじゃない方がいいなって」
――それは40年変わらない思いですね。そして、2019年1月からはツアーが始まります。ちなみに40年間で印象深いライブは?
チチ松村「奈良の大仏様の前でのライブはおもしろかったですね。それはバンド形式だったんですけど、うしろに大仏様がいて顔がのぞいていてすごかったです。実はその日は雨やったんですよ。だから中止かな?と思っていたら、お寺のお坊様が、雨を止まします!って言って拝んだら止んだんですよ(笑)。それで演奏もよくてね」
――いろいろなところでライブされているんですね(笑)。
チチ松村「お寺でも神社でも教会でもやりましたね。もう宗教を超えてますね(笑)」
――ほかに思い出深い場所はありますか?
チチ松村「海遊館(大阪にある水族館)のイルカの前でもやりましたね」
――イルカは反応しましたか(笑)?
ゴンザレス三上「すっごかった(笑)。攻撃されてるようなところもちょっとありましたね」
チチ松村「喜んでるのかな?と思ったら怒ってるのかも?って…。どっちかわからん(笑)」
ゴンザレス三上「すごく寄ってきて、声を……超音波を発して(笑)」
チチ松村「あと、北海道の山がうしろにある所でやったら、始まった途端に牛がバーッと集まってきましたね。うれしかったですね。人間より牛がちゃんと聴いてくれたっていうね(笑)」
――さすが動物好きなお二人! 今度のツアーは人間だけですが(笑)、どんなライブになりそうでしょうか?
チチ松村「ニューアルバムからもちょっとだけ生ギターにアレンジしたものをやろうかなと……。それから今回バイオリンとチェロの方が東名阪の公演でいらっしゃいますので、より音楽的になるのは間違いないですね。そして今まであまりやってなかった昔の曲もちょっとやろうと思っていますね。それがわりといいんで自分たちでも楽しみです」
ゴンザレス三上「今までと違う側面が楽しめると思います」
text by 服田昌子
(2019年1月 9日更新)
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