物語が聴こえてくる次世代ギターロック 前作『Ctrl+Z』と繋がる1st EP『Shift』リリース ユアネス、黒川侑司(vo&g)インタビュー&動画コメント
3月に初の全国流通盤となる1stミニアルバム『Ctrl+Z』をリリース。その後、福岡から東京に拠点を移して活動を活発化させている4ピースロックバンド、ユアネス。11月21日にリリースされた1stEP『Shift』は、前作と密接に繋がっており、淡いブルーとピンクが混ざり合う印象的なジャケットや歌詞カードなどのアートワークも含めて、独自のコンセプトで細部まで深く考え抜かれ、緻密に作り上げられた一枚。男女のシンプルな会話がプロローグとなってドラマティックに展開されていく。オルタナティブでポストロック的な嗜好を孕んだバンドアンサンブルにはダイナミズムがあり、ピュアな存在感が光るボーカルに自然と心を掴まれる。今回は、黒川侑司(vo&g)に気になる歌声の秘密や現在の心境、そのポテンシャルを引き出すユアネスの頭脳・古閑翔平(g)のこと、年明けからスタートするツアーに向けての意識を訊いた。
素のまんまで喋ります
普通に自分の言葉で喋った方が伝わりやすいんじゃないかなって
――今年の3月に取材させていただいてから半年余り経ちますが、今年の活動を振り返っていかがですか?
「今年の4月から活動拠点を福岡から東京に移して。北海道とか行ったことがなかったんですけども、そういうところもいけるようになったのと、いろんな方々の協力で今年は夏フェスにもたくさん出させていただきました。実際ライブやっていくうちにどんどん自分たちのことも知ってもらえるようになって、お客さんも増えていっているなと実感しています」
――前回の取材のとき、黒川さんがライブのMCで、だんだん自分の素を出すようになってきたというお話をされていて。
「はいもう、素のまんまで喋ります。結構クールな感じと思われがちなんですけど。たぶん普通に自分の言葉で喋った方が伝わりやすいんじゃないかなっていうのがあるので、そこはあんまり考えすぎず喋っています」
――「人気者になりたい」っていう発言もとても印象的でした。
「そうですね、僕はずっと人気者になりたいと思ってます。僕の取り柄が歌を歌うことしかないので、そこで頑張ろうという気持ちが強いです」
――“人気者になりたい”っていうのは、ユアネスをお茶の間レベルまで浸透させて親近感のある存在になりたいということですか?
「いや、そういうことより、ただ単に“忘れられたくない”っていうのがあるのと、中学高校を卒業して会えなくなった友達とかって、まあ、自分から会おうと思ったらきっと会えるし、連絡取ろうと思ったら取れるんですけど。僕はそういうことを好んでするタイプじゃないので、もう会えない人間になっちゃうんですよね。だけど、音楽をやって、どんどん有名になっていけば、みんなたぶん、“あいつと同級生だったんだ”っていう記憶が残り続けるっていうのと、疎遠になった友達から突然連絡がきたり…そういうのがすごい嬉しいので、そういうのを含め、人気者になりたいっていうのがあります。忘れられたくないです」
――それは今まで出会った人々に?
「そうですね。自分は人のことをよく忘れちゃうんですけど、自分は忘れられたくないって、すごいわがままかもしれないんですけど。ふと、卒業アルバムを見たときに、こんな人いたなとか、僕の事もたぶん覚えていないんだろうなあって思ったときに、有名になったら、また、会える機会があるんじゃないかなあって…」
――今現在も音楽を発信していく中で、新しい人ともどんどん出会っていくわけですけど、そういう人に対して、人気者になりたいという思いは?
「見られ方によると思うんですけど、まあ、単純にすごい奴だって思われていたら嬉しいので、ただ見られていたいです。もともと、目立ちたがりな部分があるので」
昔から聴いてきた歌謡曲は女性の曲が多い
――黒川さんは、自分の声質とか喋り方が男らしくなくて、コンプレックスがあったというお話をされていましたね。でも周りの人が良いって褒めてくれることが自信になって歌えていると。ユアネスではどんなことを意識して歌っているんですか?
「ただ作品をより良いものに作り上げられたらいいなっていうところだけです。ギターの古閑が僕の声が好きと言ってくれて誘ってくれたので、どれだけ彼の理想に近づけるかっていうところだけですね。あとはあんまり考えないようにしています」
――古閑さんは黒川さんのことを、“純粋にただ歌を楽しんでいる感が伝わってきて、自然と耳に浸透する声。純粋な気持ちで聴けるっていうのが一番大きかった”っておっしゃってました。物語性があるユアネスの曲において、黒川さん自身はどのように捉えて歌われていますか?
「各楽曲に、それぞれの主人公がいると思うんですけど、それが誰なのか、決めつけるようなことは特にはしていなくて。誰が聴いても自分のことのように感じられることもあれば、いろんな捉え方ができるような表現の仕方をしていて。僕の場合は自分と重なる場合は自分と重ねて、男女が出てくる曲だったら、それを僕が客観的に見て感じた感情を歌にしています。その時と場合によるんですけど…」
――黒川さんの歌声は、どこかアンドロジナスのような性質も感じられて…、独特の響きが耳に残ります。
「昔から聴いてきた曲は歌謡曲でも女性の曲が多くて。まあ自分の声がそんなに男らしい声をしていないっていうのはわかっていたのと、男性の曲よりも女性の曲の方が歌いやすいっていう…。男性の発声の仕方と女性の発声の仕方って、力強さとかが違うって自分なりには解釈していて。女性はちょっと丸いイメージがあるんですよね。で、僕はそこがすごい歌いやすいなあって感じているので、だからそういう風に感じるのかもしれないですね」
――そういう黒川さんの感性とロックサウンドの合わさり具合が新鮮なんですよね。
「作曲の古閑も、男性ボーカルより女性ボーカルの曲ばっかり聴くタイプなんですよ。だからなのか、女性的なメロディラインになってたりして、デモの時から歌のキーがすごく高い場合があるんです。そこは僕が弾き語りでカバーする時のように、キーをちょっと自分の方にずらしたりして歌っています」
1stミニアルバム『Ctrl+Z』と1st EP『Shift』はふたつでひとつ
――11月にリリースされた1stEP『Shift』は前作『Ctrl+Z』と密接に繋がっているということですが、収録されている6曲が作られたのはいつですか?
「2曲目の『凩』だけ結成当初くらいからある曲で、あとは前作以降にできた曲ですね」
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――この2作は、当初から関連づけて制作しようと考えていたのですか?
「そうですね。『Ctrl+Z』を作っている段階から、すでに『Shift』っていう作品は頭の中にありました。パソコンのショートカットコマンドで、“Ctrl+Z”は間違えた作業を元に戻すっていうキーなんですけど、“Ctrl+Z”に“Shift”キーを追加することによって、一度元に戻したものをもう一度出すことができるんですよ。なので“Ctrl+Z”が過去を振り返るっていう意味を持っていて、“Shift”を付け足すことで、もう一度を前を向き直すっていう意味になるんです。『Shift』は前を向くっていうテーマの作品なので、どこか前に歩もうとしている描写が多いですね。『Ctrl+Z』と『Shift』という、ふたつでひとつっていうコンセプトではあるんですけど。捉え方は本当に人それぞれなので、聴いた人によって感じが全然違ってきたりもすると思うけど、そのどれもが正解だと思っています」
――ジャケットのイラストも同じ方が描かれているんですね。
「はい。イラストレーターのしらこさんです。『Ctrl+Z』は女の子がパッて振り返っていて、バックにちょっとだけピンク色が広がっているんですよ。そこに今作の『Shift』を背景に入れてもらうとバッて広がったようになるっていう。それは前を向くことによって過去がバッて広がったっていうイメージがあるんです。YouTubeのアカウントのアイコンはそれが重なった状態の画像になっています」
――そういった作品のコンセプトは全て古閑さんが考案しているんですか?
「そうですね。基本的に彼がそういうジャケットや歌詞カードの展開も考えています」
――古閑さんってすごい作家であり、マルチクリエイターですよね。
「マルチクリエイターぶりたいんですかね(笑)。そういう物語、映画監督みたいな感覚もあるんだと思うんですよ。ミュージックビデオのディレクションとかも全部やったりするので…」
――黒川さんのポテンシャルをいち早く見抜いて、才能の引き出し方もすごく考えていますよね。
「そうですね。僕がどういう人間かっていうのもわかっていると思うので。レコーディング中も僕が歌っているときに、気持ちを奮い立たせてくれるような言葉をかけてくれるんですよ。ちゃんと深く深く、自分の中で黙々と考える真面目な人ですね。ほかのメンバーも演奏技術があって、彼(古閑)の無茶ぶりにも対応できるので、バランスはすごくいいと思いますね」
――年明けには新たなツアーもスタートしますね。
「『Shift Tour 2019』っていうことで、1st EP『Shift』の良さをちゃんと出せるようなライブにしたいと思っているんですけど。1stミニアルバム『Ctrl+Z』と1st EP『Shift』のふたつでひとつというところがあるので。『Ctrl+Z』の曲もちゃんと活かせるようなライブ展開にしたいと思っています。音源は音源としての楽しみ方があり、ライブはライブでの楽しみ方があると思うので。ライブなりの良さも出せるようにしたいです。『Shift』からユアネスを知りましたっていう方もいると思うので、自分たちらしさをしっかり出せればいいかなと思っております!」
――2019年はどういう年にしたいですか?
「大きな目標とかって特にないんですけど、バンドサウンドも新しいものに挑戦出来たらいいなって思っていますし、行けるとこまで行きたいなと思っています!」
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text by エイミー野中
(2018年12月27日更新)
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