メジャー1stアルバム&ツアーのキーワードは「Shout」 TRI4THが目指すインストジャズバンドの“向こう側”とは
一見とっつきにくそうなジャズのインストバンドでありながらその圧倒的な演奏力とライブパフォーマンスで見る者を熱狂の渦へと引きずり込み、ジャズとロックの境界線を縦横無尽に行き来するTRI4TH(トライフォース)。バンドの結成から12年、ついにメジャーデビューへと辿りついた彼らから、メジャー1stアルバム『ANTHOLOGY』が到着した。これまでのライブで定番となっている人気曲のリテイク版と、12年の月日を重ねた今だからこそ完成した新曲で構成されたこの作品は、従来のファンはもちろん、これからTRI4THに触れる人にもぜひオススメしたいインパクト抜群の一枚となった。新作のアルバムに込めた思いと共に、バンドの進化の歴史やTRI4THとしての核、そしてバンドが目指すその先について、バンドのリーダーでもある伊藤隆郎(ds)に話を聞いた。
――まずは年末ということで、今年を振り返ってみてTRI4THにとってはどんな年でしたか?
「結成12年でメジャーデビューできたっていうのは本当に転機になりましたね。とにかくまずメジャーレーベルからCDを出すというということで、名刺がわりになるような一枚を作ることにエネルギーを使って、ワンマンツアーを繰り返しやってきて、本当にあっという間の1年でした」
――そもそもメジャーデビューの話はいつ頃耳に届いたんですか?
「最初にお話を伺ったのは今年の頭ですね。そこからメンバーとのディスカッションを重ねて“よし、やらせてもらおう!”って方向が決まったのが春先ぐらいでした。5人とも“マジか!やったぞ!”っていう感覚で、本当に衝撃的なことでしたね」
――TRI4THを結成した時からメジャーは視野に入れていた感じでした?
「そうですね。どんな風になっていきたいかは5人がそれぞれ描きつつ活動してきたと思うんですけど、なんとなくぼんやりしていたので、メジャーデビューのお話をいただいた時には“まさか!”っていう驚きの方が大きかったですね。メジャーデビューはより多くの人に音楽を届けられるきっかけにもなると思うので、どこかで意識していたことではあったと思います。最初はトランペットとドラムとピアノだけしかいなくて、コンセプトとしては“初めてジャズを演奏するために集まった”バンドだったので、シンプルに続けていきたいという気持ちでスタートしたんですけど、そこからどんどん新しいメンバーが加入して今の形になりました。
――続ける中でバンドの形を模索していったんですね。
「はい。最終的に今の5人になってCDをリリースしていくうちに…僕らはジャズというカテゴライズの中で活動してますけど、この2~3年が自分たちの活動の中で転機だなと思っているところがあったんです。結成からしばらくは、ジャズクラブでのライブが多かったんですね。でも最近は、スタンディングのライブハウスで演奏したり、ワンマンライブを開催することが基本になってきたんですけど、僕らみたいなジャズバンドがロックバンドと同じライブハウスでワンマンをやるっていうのは…結構チャレンジだと思うんです。その中でジャズと言っても“踊れるジャズ”っていうコンセプトを持ちながら、ジャズが好きな人だけじゃなくて、ロックやヒップホップや他の音楽が好きな人にも伝わるようなライブパフォーマンスを表現したいなと思っていて、そこは続ける中で意識的に変わってきたところなのかなと思いますね」
――演奏するライブハウスの変化以外にも、以前はメンバーチェンジも経験されていますよね。メンバーチェンジはバンドにもサウンドにも大きな変化をもたらすと思うんですけど、そこはすんなりと?
「今のピアニストの竹内くんが入ってくれたのが2012年…もう6年前ですね。前のピアニストは僕と同じ大学(愛知県立芸術大学音楽学部)でクラシックピアニストとしての能力に長けていたんですけど、対照的に竹内くんはしっかりとしたジャズピアニストで、僕らよりもジャズにおいてのキャリアが長いミュージシャンなんです。僕らよりジャズのスキルやボキャブラリーがあるミュージシャンだったので、そこが刺激になって追いつこう!みたいな感じになったのは、メンバーチェンジにおけるいい部分でしたね」
――そこでジャズバンドとしてのレベルアップを図ることができたと。
「はい。それが過渡期になって、バンドとしてもサウンドとしてもどんどんブラッシュアップに費やせたというのがあって、いい変化をもたらせてくれたキーパーソンになりましたね」
――いろいろなインタビューで、メンバーチェンジの後に迎えた10周年の頃が転換期だったと語られていましたけど、10周年はバンドにとってどんな年でしたか?
「その年、10周年記念のリリースをタワレコ限定でさせてもらったんです。そういったものの反響も多くいただいて、自分たちが求められてるなってありがたい気持ちもあったんですけど、その反面サウンド的には今に至る改革が始まっている時期だったんです。ロックのスタンディングライブハウスで演奏する試みもその頃には少し始めていて、サウンドも一新して楽曲も過去より今!って感じで、ノれるものができ始めている頃だったんですね。そういう時期にきているだけに、ここでもっといいパフォーマンスができるようにならないと!と追い込まれていたというか。気持ち的には“背水の陣”みたいな感じでした」
――背水の陣?
「ちゃんと覚悟しなきゃいけないなと思ったんです。10年目になる時はいい形で迎えて、メンバーのモチベーションがみんな高くて、ひとつの方向を向いてられるライブができるバンドにならなきゃと思っていたので、そこに向かっていく感じも含めてすごく大事な年でした」
――実際11年目に入った時は思い描いていたバンドの状態になれた手応えはありました?
「バンドのコンセプトは9年目ぐらいの段階で明確になっていたんです。ただ、それに対してより多くの人にライブを体感してもらいたいなっていうのはあったんですね。11年目に入った時にそこの伸び率は劇的な変化ではなかったですけど、音楽性やライブパフォーマンスを磨くっていう方向性は間違っていないと思っていたので、ライブをしていく中で全国に種をまくような気持ちでやっている時期に入っていきましたね」
――その“間違っていない”っていう確信はどこで得られていたんですか?
「ライブに来てくれる人が増えていったのも自信になりました。それと僕らのライブのサウンドの主流になっているのがシャウトしたり、マイクパフォーマンスで煽ってアジテートする部分が大きいんですけど、そこでオーディエンスのレスポンスがすごく顕著に返ってくるというのが実感できたところですかね。自分たちの熱量でお客さんを湧かせられている実感を得られたのは確信になりました」
――確かにお客さんは伊藤さんのアジテートに“巻き込まれに行っている”ところもあるような気がします。
「(笑)。結成初期は、ジャズっていうものを自分たちがしっかり意図を理解しながら表現できるようになるかっていうのがテーマで、技術的にもブラッシュアップしなきゃとか演奏に気持ちを特化させてたんですけど、今そこはメンバーのスキルを信頼してますね。みんなのスキルを十二分に信頼した上で、ライブパフォーマンスでお客さんを湧かせるってことでどうやって表現していくかっていうところに来てるんです。メンバー全員で間違っていないと思いつつライブができて、レスポンスがダイレクトに伝わってくるって実感できているのが、確信になっているなと思いますね」
――10周年の“背水の陣”からメジャーデビューまでの2年の間にそういう確信を重ねてる、と。
「うん、そうですね」
――そもそもメジャーデビューって、単純におめでたい!とか、流通が広がるんだ!とか、そういうことぐらいしか思い浮かばないんですけど、実際のバンド的には変わることややりやすくなること、できるようになることみたいなものはあるんですか。
「やっぱり圧倒的にバンドに関わる人の人数が増えたっていうのが一番の変化ですね。いろんな分野でのスペシャリストのミーティングも増えました。人数はもちろんプロジェクトも細分化されて、今回のCDのジャケットのアートワークや、衣装もステージ衣装しかり、アーティスト写真で身に付けるものもいろんなスペシャリストが入ってくれて変わりました。それぞれの分野のスペシャリストが尽力してくれたっていうのが、アーティストとしても押し上げてもらっているという実感もあります。メジャーデビューはできなかったことを一気に飛び越えて、いろんなことができるようになっているのがバンドにとってすごくメリットになってますね」
――より自分たちは演奏に集中できる環境ができたのもいいことですよね。
「本当にそれが大きいことですね。インディーズ時代は、バンドのHPやSNSに関しても、自分たちで発信しているものが全てオフィシャルになっていくという感じで。そういった発信するところでもいろいろな人に協力してもらって、純粋に自分たちがやりたい音楽の制作だったり、やりたいライブのイメージだったり、実際のパフォーマンスに直結することに力と時間を注げているので、それもとてもいいことだなと思いますね。元々関わってくれているメンバーがいた上で新しいメンバーも関わってくれて、チームが大きくなったっていう印象なんですね」
――メジャーデビューという筋トレで筋肉量が増えたみたいなイメージって言うと、合ってます?
「あー、そうですね。本質的には変わらずに…骨はそのままに肉や身になる部分がついたことでより綺麗にも見えるしっていう。それはすごいいい変化なのかなと思います」
――そのより大きなチームと化したバンドのメジャーデビューをアルバムで!というのは、最初から構想としてあったことなんですか?
「一番やりたいこととしてはメジャーデビューの1作目にふさわしいものをやるってなると、ライブをひとつのパッケージにしたような、今のTRI4THのライブがパッケージされたようなものにしたいと思って。それはアルバムがいいなとなりました」
――自分たちの一番の特徴はライブだ!ということを作品に込めようと。
「はい。いつもアルバムを制作する時は曲順も毎回そういうところも意識しながらやってるんですけど、より意識的に。今回の『ANTHOLOGY』に収録した曲に関しては、100%ライブでやる楽曲しか収録していないっていうところで、自信があるんです。たくさんある曲の中でもライブをイメージして、こんな風に盛り上がって、みんなでワーってなってバラードが入って、一旦ゆっくり聞いてもらって、またライブの中盤戦から後半にまたぐーっと盛り上がっていってみたいなことが想像できる曲をピックアップしました。最後の11曲目は新曲でバラードなんですけど、エンドロール的に聞いてもらえたらなとか」
――すごく幕がスーッと降りるような印象を受けた曲でした。
「普段は踊れるジャズとか叫べるジャズって感じで演出してるんですけど、この最後だけは映画の終幕みたいなものを意識しました」
――まるでライブを聞いているような作品を目指した時に、既存のライブの定番曲と新曲のバランスはどういう風に考えたんですか?
「新しいアルバムなので、もちろん新曲を核に考えました。1曲目の『Stompin’ Boogie』と2曲目の『Maximum Shout』がアルバムの構想の中で一番最初にできたんですね。今回“Shout”をコンセプトにライブツアーもしているんですけど、その2曲はバンドとして掛け声やアジテートする部分を強く打ち出している楽曲なんです。僕たち基本的にはインストバンドなんですけど、ひとつそこを飛び越えていけたらと」
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――インストバンドの向こう側…。
「はい。実際ライブでは僕たちからの掛け声があってレスポンスしたりすることが楽しみ方なんだよっていうことを、CDに入れ込んで残したかったんです。これまでCDとして掛け声が入っていたりっていうのをチャレンジはしていなかったんですね」
――掛け声までパッケージ化すると。
「手拍子とかも全部入れる形で、それをちゃんと音源にしてライブをこんな風に楽しんでほしいっていうのを伝えたいと思って。それを強く打ち出せた新曲が頭に2曲あって、その周りをこれまでのライブでは絶対に欠かせなかった曲で補強するみたいに構成して、既存曲にはさらにメジャーデビューならではのアレンジを加えていきました」
――特に5曲目あたりまで、は本当に息のつけない曲展開だなあという感じがしました。
「ホント、それも頭の2曲ありきでしたね。『Stopmpin’ Boogie』はライブの幕開けみたいに1曲目に置きたいっていうのは最初からありました。ライブで試しつつそのイメージが明確になったので、それは結構早い段階で決めました」
――頭2曲のあとの構成はメンバー間ではなにか話し合っていたんですか?
「収録曲に関しては結構満場一致で決まっていきましたね。まず1・2曲目が新曲なので、3曲目には既存曲を持ってこないとと。それもあって3曲目に置いた『Sand Castle』は劇的なアレンジを加えました。今までライブでやっていたビートからグルーヴのノリを変えたというか。そこで踊れるジャズのビートを感じて欲しかったので、もともとスウィング調だったものをスカのビートにガラッと変えて3曲目に持ってきているので、そこで新しい風を感じてもらえるんじゃないかと思います」
――既存曲も新しい目線で見直すことで、意外な発見がありそうですよね。
「そうですね。でも元々既存曲に関してはライブをやっていく中で進化してきているので、今回はそれがうまく表現できたなと思います。ライブで進化した部分を今回は取り入れて、ニューバージョンというか生まれ変わった形で投入できました」
――へー!じゃあ最初に録音したままの形で今もライブでやっている曲っていうのはないっていう感じですか?
「原曲通りは…ないのかもしれないですね。昔はライブをやりながらアドリブ的に変わってくみたいなことがあったんですけど、どちらかというと最近は、よりわかりやすくしたいなというのが強くて。『Maximum Shout』が説明しやすいんですけど、ホーンはアドリブのソロをそんなに入れずに、割と決まった演奏をしてるんです。そういったところでジャズの即効性の面白さのウェイトと、J-POPやロックの決まったギターソロで湧くみたいなその良さをどうやって同居させるかみたいなものは、今回注目してもらえると面白いのかな」
――そういう工夫も、やっぱりもっとジャズを聞いてほしいからですよね。
「はい。やっぱりジャズって敷居が高いとか難しいものって思われてると思うんですよね。それを壊していきたいんです。自分たちのジャズのコンセプトをブレずに持ちつつ、TRI4THを知らない人がジャズって思わずに聞いてもらって構わないなと思ってるんです。“TRI4THっていうもの”として、単純にそこを入り口に楽しんでもらえる楽曲であればいいのかなと」
――PE’ZやSOIL&“PIMP”SESSIONS以降を知っている世代には、もしかしたらジャズもそこまで難しいものでもなくなっている気もしますよね。
「特にPE’ZやSOILは全く同じ編成の大先輩で、そういうところから僕たちもすごく刺激を受けて、どうやって追いつこう追い抜こうって考えてます。でも今回のアルバムが完成して、ようやく自分たちらしいTRI4THの道みたいなものは見つかったのかなと思ってます。なんとなく」
――そのなんとなく見つかったものを言葉にできますか?
「叫べる…アジテートするっていうのはSOILの社長もされてますけど、しっかりジャズの中にがっつり合いの手的な叫び声が入ってるっていうのはなかなかないと思うんですよ。それが歌ものでもないっていうのが今回絶妙だったのかなと思っていて、曲の中でシャウトしてるっていうのが自分たちのこれまでの音楽性――ロックだったりスカのルードな…悪いけどかっこいい危ういところみたいなものを崩すことなく、よりポップに表現できたような気がしているんです」
――ツアータイトルにも入るぐらい“Shout”は重要なものになったんですね。
「はい。ホーン隊は吹いている時に言葉を発することはできないんですけど、唯一僕はドラムでそういったことができるポジションだし、煽っていくことがお客さんの熱狂する瞬間に直結しているっていうのは、僕らもう何年も前から気づいていたことでした。それなら自分がもっとライブのイニシアチブをとっていけるようになって、ホーン隊のパフォーマンスを後押しできるようになっていけば、自分たちしか持ってないスタイルになるんじゃないかなとは思っていたんですね。まずそれがひとつ実現できたことで、TRI4THも完成に一歩近づいたなとは思ってます」
text by 桃井麻依子
(2018年12月28日更新)
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