「苦しい時に救ってくれて、迷った時に指標になる音楽を目指す」 2ndミニアルバム『The Places』をリリースした 神戸発の4人組、The Songbardsにインタビュー
2枚目のミニアルバム『The Places』を10月10日にリリースした、The Songbards。ツインギターボーカルでコーラスワークにもこだわったUKロック系譜の音楽は時代に左右されないエヴァーグリーンな魅力を湛えている。今年は夏に渡英して、リバプールとロンドンで12本のライブを行った。バンドのロールモデルは4人の個性が際立つビートルズということだが、'94年生まれの彼らが作り出す楽曲から伝わってくるのは、今を生きるピュアな感性と等身大の想い。関西版ぴあWEB初登場となる今回は、バンドの成り立ちからメンバーの音楽的なルーツやバックボーン、新作のポイントについて、上野皓平(vo&g)と松原有志(g&vo)に訊いた。爽やかな表情の奥に、確固たる信念や情熱が感じられ、知性漂う物腰が印象的な二人だった。
――2017年の3月からThe Songbardsとして、地元・神戸を中心に活動を始めたそうですが、まずはメンバー同士のつながりから教えてください。
松原有志(g&vo) 「僕と(上野)皓平が大学の一回生の時に出会って、前身バンドのAnt Lillyというバンドをやっていたんです。その時はベースとドラムは今と違うメンバーだったんですけど、彼(ベースの柴田)と皓平は中学の時の同級生で、ドラムは紹介してもらって岩田が入りました。その4人が揃ったタイミングで、Ant LillyからThe Songbardsに改名してやっていくことにしたんです」
――全員1994年生まれということで、ちょうどブリットポップの全盛の頃だと思いますが。このバンドの音楽的なルーツはUKロックなんですよね。どういう経緯でUKロックに親しむようになったんですか?
松原 「小学校の頃は家族が聴いていたクイーンやアバが耳に入ってきていて、中学校になると自分でマイケル・ジャクソンを聴くようになりました。ギターを弾くようになったのは高2の終わりぐらいで、そこから、ハードロックが好きになったんです。ハードロックの人もビートルズがルーツにあったし、マイケル・ジャクソンもビートルズをカバーしてたり、ポール・マッカートニーとコラボしてたし。自分が好きになった人がみんなビートルズ好きだなって気づいて。大学でバンドしようと思った時に、モデルにしたのがビートルズなんです。僕らはストリーミング世代なので、昔の音楽も新譜も並列で聴けるから、文脈も関係なく単純に良いものは良いって思えるんです。YouTubeで改めてビートルズの映像も見てみるとカッコイイ!と衝撃を受けました。僕はそこからビートルズが好きになって、影響を受けている他のUKのアーティストも好きになっていったんです」
――バンドを始めたのは大学になってからですか?
松原 「そうですね。ギターを本気でやりだしたのも大学になってからです。それまでは野球一筋だったんで(笑)」
上野皓平(vo&g) 「僕は小学校からずっとサッカーをしてたんですけど、サッカーの試合に行く時、友達のお父さんが車の中で聞いていたビートルズを耳にして、カッコイイなあと思って。そこから、ビートルズを認識してましたね。中学校になってから斉藤和義がすごい好きになって、自分でアコースティックギターを買ってコピーしたりしてたんです。斉藤和義の曲名にもビートルズが出てくるから、改めてビートルズを聴くようになって。その後、クイーンやレディオヘッドが好きになり、オアシスにはまって気付くと好きになるものはイギリスのバンドが多くなりました」
――実際にバンドをやり始めた時は、どんな夢や野望がありましたか?
松原 「ビートルズが初来日した時に初めて音楽のコンサート会場となったのが日本武道館なので、そこでライブがしたいなっていう野望は持ってます。ビートルズというのは自分たちのロールモデルではあったけど、ビートルズの時代の曲をまんまやりたかったわけではなくて。ビートルズは4人共ちゃんと個性が立っているところに憧れました。あんな風にツインボーカルで歌ったり、メンバー全員でも歌えたり、さらに全員が作詞作曲できるバンドって、なかなかいないから。自分たちがそうなれたらおもしろいんじゃないかと…」
――それは、日本の音楽シーンを変えていきたいというような思いもあって?
松原 「僕らが好きなものは、その瞬間だけ楽しめばいいっていうものを目指してはないんです。僕らの曲がいつかは歴史に残っていけるような曲ものを作りたいなと思っていて…。人生っていろいろあって、楽しい時もあれば苦しい時もある。その苦しい時に救ってくれるものや、迷った時に指標になる音楽っていうものが僕らの心にはグッときてたから。自分たちもそうなれるようにと…」
――今の時代、そういう音楽が少なくなっているなと感じてたから?
松原 「いろんな時代の音楽を聴いてると、どの時代にも良いものはあって。良いものは後の時代になっても聴き続けられるというか…。人が普遍的に必要としているものがきっとあると思うんです。音楽はその表現や手助けができる。そういう琴線に触れられる音楽や芸術が僕らはいいと思ってきたからです」
上野 「その時々に自分たちが何をしたいかを見定めて、その方向に向かっていけたらいいなと思ってやってます」
――曲作りというのはどのようにされていますか?
上野 「僕は、生きて行く上で道しるべになるような考えを自分の中に落とし込むために曲を作りたいと思っているんです。自分が思い悩んだり行き詰まったりした時は、本を読んだり、人と話したりするし、その中でヒントを得たりします。そこから、その状況を打開できた時に高揚感が生まれて、曲を作りたいなっていう意欲が湧き上がってくるんです。そのメッセージを自分の中で反芻するために記録的に書き留めることが多いですね」
――それはまずご自身のために?
上野 「そうですね。ただ、最初は自分自身のために作ってたんですけど。同じような境遇にいる人の手助けになれるっていうことも経験して、曲を作って発信して行く上で重要な部分だなと思うようになって。そういうことも徐々に意識して曲を作るように変化してきています」
――上野さんは仏教に興味があって、インドにも一人旅されたそうですね。
上野 「そうですね。大学に進学して自由な時間が増えたので、アルバイトして自分の欲しいものを買ったり、自分が好きな状況に欲望のまま身を置いている生活が、逆に虚無感を覚えるようになって…。その時にたまたま本屋で手にした仏教の本を読んだら、何か心が楽になって。腑に落ちることがあったんです。宗教的にというより学問として、生活して行く中で知恵になることがあるなと思って興味を持ったんです。それで、徐々にインドに行ってみたいなっていう気持ちが沸き起こって、ついに今年の春に行ってきました」
――その時に体験したことが、今作にも活かされているんですか?
上野 「インドから帰って来た時、見て体験したことを曲として書きたいなという気持ちが沸いてきたので、自然と作っていきました。『Time or Money?』(M-1)と『斜陽』(M-3)が、インドの経験が含まれてるかなと思います。『斜陽』はインドで感動した情景のみにフォーカスして、それを純粋に伝えたいなと思って作った曲ですね」
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――“斜陽”っていうと、太宰治の小説を思い出したり、ネガティヴなイメージもありますが…。
上野 「実はこのタイトルをつけたのはドラムの岩田なんです。太宰治は関係なくて、“斜陽”の元々の意味は、シンプルに『夕日』ということらしくて。この曲は僕がガンジス川で見たお祈りの情景の美しさをありのまま伝えたいと思って書いたんです。諸行無常とか輪廻とか、夕日は落ちていくけど、また昇っていくっていう繰り返しも意識して書いています」
――『Time or Money?』は?
上野 「これは、インドのことを具体的に書いてるわけではないんですけど。インドに行って、今まで日本に育って形成されてきた自分の価値観っていうのを見つめ直すきっかけになって作った曲です。“Time is Money=時は金なり”っていうのが僕らの世界では常識になってるけど、本当の幸せって何かな?って思い返した時に作りました」
――この曲は90年代のブラーを思い出すような、攻撃的にも聞こえるギターサウンドが特徴的ですね。
松原 「そうですね、元からこの曲は90年代のブリットポップを意識してます。ブラーやオアシス、レディオヘッド、ストーンローゼズもそうだし。今までの僕らの曲には、バッキングギターがしっかりとなっている曲があまりなくて。もうちょっと隙間のあるサウンドだったんですけど、今回はちょっと(ブリットポップを意識して)やってみました。1番のサビ終わりまでは皓平が作って、お互いにアイデアを投げあいながら作っていったんです」
――他にも、今作はいろんなタイプの曲が楽しめます。『ローズ』(M-2)はちょっとモータウン調ですね。
松原 「モータウンを意識して作ったわけではないんですけど。ベースの柴田がモータウン系のものをよく聴いていたので、ベースのフレーズにモータウンやファンクの要素が入っているのでそれが関係してるのかな。1stミニアルバムに『ハングオーバー』っていう曲があって、それもリズム的には似ていて、前作からの延長線上で成長させた曲ですね」
――『21』(M-4)はシニカルなリリックで、ノリよく掛け合うようなツインボーカルが聞けます。“21”という数字は何を指しているんですか?
松原 「『21』は、21世紀を生きる僕ら世代が思っていること、悩んでいることやもやもやした感情、このままでいいのかっていうようなことを思って作ったんです。特に解決策を言ってるわけじゃないけど…」
――個人的には、『Inner Lights』(M-5)が一番ウルッと涙腺にきました。トラッドやフォーク的なものを思い出させるメロディーラインに郷愁感をかき立てられます。
上野 「これは最初弾き語りでコードを弾きながらメロディーを適当に歌っていったので、自然と今まで触れてきた音楽が出てきたのかなと」
松原 「僕らは歌謡曲とか、チューリップやはっぴいえんどなんかも好きなんです」
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――軽やかなビートに揺られながら、天に想いを放つような高音域のボーカルの響きがとても美しいです。
松原 「それは皓平の声ですね。この曲は歌い出しからサビまでは皓平が歌って、2番は僕に入れ替わっています。歌詞もそれぞれが持ち寄って、Cメロは二人で一緒に作ったメロディーと歌詞で、大サビは二人の歌詞が混ざってます」
――聴き終わった後、闇に光が差し込むような何とも言えない気持ちになりました。これからこのバンドに出会う人に向けて、何かメッセージはありますか?
上野 「僕は自分が経験して為になったことや、幸せに生きるということは何か純粋に探し続けながら、その中で生まれる曲、メッセージを伝えていきたいと思ってます。僕自身もそういう人たちが生み出してきた芸術に触れて、感じるものがあったので。そうやって、生きていく中で気付いたことは発信し続けたいですね。そこに、自分の探してるものがあるかもしれないと思って聴いてくれると嬉しいです」
松原 「世の中にはいっぱい音楽があるから、みんな自由に好きなものを選びとっていけば、それでいいなと思うんですけど。僕らは僕らが聴いてきた音楽、経験してきたこと、学んできたことを元に表現しているので。そこに何かしらのきっかけになることが一つでもあれば、それで嬉しい。もし、そういうものが感じ取ってもらえたら、今後もちょっと僕らのことを気にかけてほしいなと思ってます」
――ライブに関しては、どんな風にやっていこうと思っていますか?
松原 「割と自然体でやっている方だと思います。ですが、音源よりもパワフルなライブは目指してます。僕らはツインボーカル、ツインギター、4人全員が歌やコーラスの面でも参加しているバンドなので、それは僕らだけの面白さじゃないかなと思っています。その部分はライブで際立たせようとしているので、ぜひ一度見に来てほしいですね」
text by エイミー野中
(2018年12月18日更新)
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