“私は音楽の力を信じている
このアルバムがいろんな人の親友になればいい”
Nao Kawamura、初のフルアルバムにして集大成
『Kvarda』ツアー大阪公演ライブレポート
Nao KawamuraはR&Bやポップス、ジャズをルーツに持ち、ジャンルにとらわれない独自の表情を見せる、今注目のシンガーだ。2016年にフジロックのROOKIE A GO-GOに出演、翌年にはEP『Cue』、『RESCUE』をリリース。今年3月には1stフルアルバム『Kvarda』を完成させた。現在は澤近立景をプロデューサーに迎え、活動を行っている。また、ソロ活動と並行しながらSuchmosのサンプリングコーラスやWONKのライブコーラス、SANABAGAN.のレコーディングコーラスなど、コーラスワークにも数多く参加。幅広いアーティストからその歌声を求められている。去る11月29日、アルバム『Kvarda』をひっさげたツアーとして、自主企画ライブが心斎橋CONPASSで行われた。ゲストに大阪のバンドWOMANを迎えてのツーマンライブ。Nao Kawamuraを初めて見た人も多かったと思うが、彼女の醸し出す雰囲気と、ソウルフルかつダイナミックな歌声、そしてお茶目な人柄に魅了された一夜となった。そんな大阪でのライブの模様をレポートする。なお、12月14日(金)には 渋谷WWWでのライブが控えている。気になった人は、是非マストで足を運んでほしい。
大阪のバンドWOMANのドープなライブであたたまり、隙間なく埋め尽くされたフロアにSEが流れる。『Kvarda』の1曲目に収録されている『Intro-1-』だ。0から生まれたはじまりの曲。まるで心臓の鼓動のようだ、とよぎった感覚を頭の片隅に留める。ギター、ベース、キーボード、ドラムという編成のバンドメンバーが登場、続いてNao Kawamuraがステージに現れ、深々とお辞儀をしたあと後ろを向く。
1曲目は『One more dose』。イントロと同時にNaoがこちらを振り向き「大阪の皆来てくれてありがとう! 今日は最後まで楽しんでってね!」と挨拶。スラッとした体と1つに束ねた長い髪を揺らしながら、目元に手をあてたり、真剣な表情で、言葉ひとつひとつを丁寧に歌い上げる。時折、髪を巻いたシルバーのアクセがキラキラと光る。心斎橋CONPASSにグルーヴがゆらめき始める。
続く『Awake』ではトランペットが登場。この曲はNao自身が作詞作曲を手がけた彼女の代表曲だ。明るくなる照明、高くのびやかな声。まるで太陽の光を浴びるように、優しい微笑みを浮かべて心地よさそうに歌う。サビでは“Wake Up”という歌詞にあわせてさらに高く遠く、音が伸びていく。歌い終わると「ありがと」とニコッと少女のような笑顔を見せた。一見ミステリアスな印象を受けるが、この後何度か挟まれるMCからも伺えるように、その実とても表情豊かでお喋りだ。すでに彼女のことをもっと知りたくなっていることに気がついた。
ここで1回目のMC。「『Kvarda』2018ツアー大阪CONPASSへようこそ! 正直初の主催ライブなので、こんなにたくさんのお客さんが来てくれると思ってなかったので嬉しいです」と話す。「今日はアルバムの曲をいっぱいやっていきたいと思います」と披露されたのは『Ego』。先ほどとは一転、低い声で深く潜っていくような大人っぽいナンバー。時折ピリリとしたクールさが背中を走るのを感じる。赤い照明に照らされて演奏されるソリッドなキーボードの高音や、タイトなビート、そして彼女の存在感の強さにオーディエンスは釘付けになる。しなやかな体をくねらせて、手を伸ばしたり額に当てたりと、歌だけではなく身体も使って歌詞を表現する姿からは芸術性を感じる。曲によって見せる表情がまったく違う。それも彼女の声が変幻自在と言われる所以なのだろう。Nao Kawamuraの世界観に引っ張られていく。
続いて「揺れる曲です」と披露されたのは、ピアノの旋律が優しくも心地よい『Dawn』。シンプルなビートに伸びやかな歌声が美しく引き立つバラード。意識せずとも自然と体が動く。この曲は全編英詞だが、話すように歌う彼女の発音の良さも、素直に感じたまま音の波に乗れる要因の1つかもしれないと思った。再びトランペットが登場し『Fading star』へ。ジャジーで濃厚なソウルナンバーだが、日本のポップス的な要素も感じる1曲だ。細い体から繰り出されるダイナミックでパワフルな歌唱力。と同時に、包みこむような母性と色気も感じさせる。グルーヴィで厚みのあるバックバンドの演奏も相まって、どんどん会場を惹き込み魅了していく空気は圧巻だった。
MCではオーディエンスとのフランクなコミュニケーションも楽しみながら、大阪での思い出を語る。大阪に来るのは高校の修学旅行とライブをあわせて今回が4回目という彼女。張り切って来阪するが、これまで全然ゆっくりする時間がなかったそう。「美味しいものが食べたかった」と心から残念そうに話していた。「5回目来る時は絶対ゆっくりしたいので、また呼んでください! っていうお話でした!」とチャーミングな笑顔で締めくくり、ライブに戻る。
今回初お披露目という新曲のタイトルは『SSS』。イントロのベースリフが印象的な夏の曲。アーバンでファンクネスなビートが会場に満ちる。“太陽燦燦ふりそそぐ明るい夏!”というよりも、サンセットビーチに沈む夏の夕陽が似合いそうな楽曲だ。パリッと映えるトランペットが心地良い。手を波の形にうねらせ、気持ちよさそうに目を閉じて歌う姿を見て、オーディエンスも思い思いに体を揺らす。まだ冬が始まったばかりだが、少し早い夏に想いを馳せたのだった。
大きな拍手の後、“Naoちゃーん!”と客席から飛んだ声に、「ありがとー!」と嬉しそうに笑顔を見せる。「私は普段カッコつけてますけど、すごいよく喋るんですよ。特に愚痴を皆に。だから歌にしたら発散できるんじゃないかと思って作りました」とのMCから女の愚痴を歌ったという『Hot shot』へ。客席に話しかけるように、ハンドマイクで自由にステージを動き回る。思わず“カッコ良い”と口に出てしまうほどクールだった。歌い終えた彼女に客席からは大歓声が送られる。
「まだまだ言い足りない私は、愚痴パート2があります。女の人はバランスを取って生きてるなあと思って。いろいろ気遣ったりする中でうまくやってる。そんな女の人たちに応援歌を作りました」と『Balance』を披露。肩の力が抜けたように、リズムに身を委ねるオーディエンス。中盤のトランペットソロから流れるように始まったドラムソロには大興奮! 「大阪踊れますかー!?」と煽るNaoの言葉でさらに会場はヒートアップ。Naoの歌声にも力が入る。ここでメンバー紹介。各パートのソロが惜しみなく配置され、客席から“もっと!”という声が飛ぶ。これにはバンドメンバーも笑顔。グルーヴィながらもホームパーティーのような暖かさと優しさが満ちたセッションに、フロアは大盛り上がりをみせた。
いよいよライブも終わりに近づく。力強く美しく情熱的な歌声を聴かせた『Curiosity』を経て、本編最後は『Rescuer』。胸の前で手を合わせてからマイクに向かう姿が印象的だった。魂を込めて言葉を届けようとする様子が伝わってくる。ダイナミックな演奏が、後半になるにつれ盛り上がっていく。大きくしなやかに体を揺らしながらバンドメンバーとピッタリと息の合ったパフォーマンスで魅せたステージだった。ひときわ大きな拍手が送られ、一度ステージを後にするメンバー。そのまま拍手はアンコールへ。しばらくしてNaoが嬉しそうに舞い戻る。
「こんなにたくさんの人が来てくれると思っていなかったので、ほんとにほんとにほんっとうに嬉しいです!」と笑顔を見せる。MCではこれまでの活動で感じた辛さや、現在の環境への感謝の気持ちを述べたあと、1stフルアルバム『Kvarda』について「0から1を作って新しいところに一歩出るようなアルバムになりました。私は音楽の力を信じていて。押し付けがましくない平和というか、いつ聴いてもいいし、いつ見に来てもいい。そんなものを作れたらいいと思って作りました」と語った。そしてタイトルは映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の主人公を影で支える親友の名前からつけたというエピソードを披露しつつ、「いろんな人の親友になればいい。“大好きだよ”とか“これはいけないでしょ”って言うだけじゃなくて、ただその人のことを見てるだけでも音楽だなと思うから。私から皆さんへのラブソングです」と、アルバムの代表曲『Watching you』をプレイ。やわらかい笑顔を浮かべながら歌われる優しい声が、会場中を満たしていく。
ラストは『Hermes』。アルバムに収録された音源はミドルテンポでゆったりと心地の良いナンバーだが、ライブではパンチのあるジャズナンバーに早変わり。ラストに向かい、変拍子を挟んでダイナミックに熱を上げていく演奏に有無を言わさずフロアは一体となる。両手を広げて指揮者のように音を操る彼女とバンドの息の合った演奏は素晴らしく情熱的でエモーショナルだった。「今日はほんとにありがとうございました!」と、一足先にステージを後にしたNao。しばらくバンドのセッションが続き、美しい余韻を残して今夜のライブは幕を閉じた。
Nao Kawamuraは不思議な魅力を持ったシンガーだ。ライブが終わったばかりなのに、またすぐに彼女のあたたかくもクールで表情豊かな歌声を聴きたい、と思わせる力を持っている。今後ますます活躍の場が広がるであろう彼女。これからも動向を楽しみにしていよう。
text by ERI KUBOTA
photo by 森好弘
(2018年12月 7日更新)
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