“欲張り”なニューアルバムを携え“裸になる”ツアーへ! サイダーガールインタビュー
前作『SODA POP FANCLUB 1』リリースからおよそ1年、11月28日リリースの最新アルバム『SODA POP FANCLUB 2』を引っ提げ、サイダーガールがぴあ関西版に戻って来てくれた! 今作にはギターロックはもちろん、メロディックパンク、ファンク、弾き語りと様々なテイストのナンバーが並び、メンバーそれぞれが作詞作曲をする彼らならではの仕上がりに。そんな前作以上に意欲を感じるこの作品について、また彼らの曲作りやライブに対する思いについて、たっぷりと話を聞いた。
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――ニューアルバム『SODA POP FANCLUB 2』は、前作を上回るチャレンジ精神と遊び心と幅の広さを持つ内容ですね!
Yurin 「前回いろんなことにチャレンジできたからこそ、今回はもっと自由にいろんなことをやってみよう!ってできたと思います。欲張りました(笑)」
知 「前作でツアーを回って、意外とサイダーガールっぽい部分ってたくさんあるんだなって思えて…。それ(サイダーガールらしさ)を手に入れて、それをちゃんと武器にして今作を作り始めたんです。メロディックパンクから始まり(笑)、弾き語りもありギターロックもあり、どれも違う顔だけど、どれもしっかりサイダーガールの音楽になったと思います」
――本当に今作もバラエティ豊かですが、すべて“サイダーガール”の音楽。その理由をご自身としてはどう感じていますか? 例えば、歌声がどの曲も“サイダーガール”の色にしているとか?
知 「僕たちはYurin君が歌うことをイメージして曲を作っているので、そういう意味ではどんなことをやってもそのイメージは残るし、そのイメージを守ろうともしているのかなとは思いますね」
――でも、Yurinさんの歌声はすごくクセが強いわけではないですよね。
Yurin 「あまりクセが強くないからこそ、(どんな曲でも)スッと聴いてもらえるのかなとは思います。クセが強過ぎるの(ボーカル)は、僕も聴いてて体力を使う場合もあるし、ましてや(激しい)ロックだとそれが顕著に出てしまうし…。なので、激しい曲でも淡々とじゃないですけど、スッと聴いてもらえるように意識はしてます。やっぱり、以前から老若男女に聴いてほしいっていう目標があるので、言い方はよくないかもしれないですけど“万人受け”というか、そういう感じであるなら、それはいいことだなと思うんです」
――そして今作は音色も様々で聴いていて楽しい。作っていても楽しかったのでは?
知 「それもありつつ、1曲目の『アクセル』みたいにシンプルでボーカルが移り変わっていく曲もできたので……確かに楽しかったかもしれないですね(笑)。あ、これやってみよう!ってすんなりできたかもしれないです。ただ、それは『SODA POP FANCLUB 1』でちゃんといろいろできるってわかったから、今回(できる、できないの)ジャッジができたのかなと思いますね」
――また、今作には映画やドラマのテーマ曲が3曲入っていますね。
Yurin 「3曲目の『パレット』の時が初めての主題歌制作でした。この曲は少女マンガの原作があって、その実写映画とドラマのテーマなんですけど、マンガや台本や映像を見て、そこからわりと自由に作っていった感じでした。でも映画『家族のはなし』の主題歌の『dialogue』は尺も決まっていたんです。それは鉄拳さんのパラパラ漫画があって、それを映画で使うので、そのパラパラ漫画の尺で、それに合わせたテイストで作ってくださいっていうのがあって。でもそれはそれで作りやすくて、あまり悩んだ記憶はないですね」
知 「曲のあがりはめちゃくちゃ早かったよね」
――この曲、7分超えですよね(笑)。
Yurin 「今までで最長ですね」
フジムラ「僕ら普通3分ぐらいの曲が多いんですけど、その2倍以上です(笑)」
知 「1曲目(『アクセル』)の7曲分(笑)」
――でも聴いていて長さを感じさせないです。
Yurin 「アウトロが長いっていう理由もあるかもしれない」
フジムラ 「レコーディングでアウトロを演奏した時は、いつ終わるんだ?っていう気持ちになりました(笑)。でも完成して改めて聴いたりバンドで合わせたりしてみると、いつもの3分ぐらいの体感で終わっちゃう」
――ライブではどうするんですか?
知 「10月に『サイダーガール 2ndALBUM先取りツアー サイダーのゆくえ -半透明、2018秋-』っていう今回のアルバムを再現するライブをやったんですけど、その時もそのままやりました。でも本当に長いって思わなかったんですよね」
Yurin 「うしろで鉄拳さんのパラパラ漫画の映像を流して、視覚と聴覚で…っていう感じでした」
知 「お客さんもグッと聴き入ってる方が多かったので、たぶん長いって感じた方も少ないんじゃないかな」
――映像も含めた楽しみ方もできるんですね。では、ほかにもいくつか気になる曲のことを。まずはフジムラさんが手がけた4曲目の『化物』。しっかり“ヨコノリ”ですね。
フジムラ 「前作では『ナイトクルージング』っていう(似たテイストの)曲があったんですけど、それとはまたちょっと違う感じで、この曲ではギターのフレージングとかで、また新しい一面を見せられたかなと思います」
――もともとブラックミュージックは好きなんですか?
フジムラ 「結構好きですね。でもうまくサイダーガールに落とし込むにはどうしたらいいんだろうなって悩みながら作りました。それにYurinの声はこういう曲にも合うんだなっていう発見もありましたね」
――ちゃんとサイダーガールさんのポップさもありますね。
フジムラ 「実はもともとリズム歌謡みたいなものをテーマに作ろう!って話だったんです」
Yurin 「フジムラの2曲(『化物』と『ミスターデイドリーマー』)は、80~90年代の感じが狙いどころというか…。幅広く刺さっていけばいいなと思っていたんですよね」
フジムラ 「そういうちょっとひと昔前の歌謡曲だったりを、僕らみたいなギターロックバンドがやってるのをあまり見ないので、ほかと差をつけたかったというか」
――ちなみにこの曲はフジムラさんの“ラーメン愛”から生まれたんですよね? でもフジムラさんのTwitterでは“お好み焼き牛丼、ラーメンより美味い”というツイートが…(笑)。
フジムラ 「ま、ラーメンが好きっていうのもあるんですけど(笑)、大きいテーマとしては“欲望に負けてしまう自分”っていうのです。それが自分だったら何だろう?って考えた時にラーメンが浮かんだんです。ラーメンもテーマですけど(笑)、最終的には聴いた人それぞれの欲望ですね」
知 「あのツイートを拾ってもらえてよかったね(笑)。マネージャーにそのツイートおもしろくない!って言われてたんです。でもこれで使ってもらえるね(笑)」
――実は深読みして、今度は牛丼の曲ができたのかなと思いました(笑)。個人的には、ラーメンより牛丼……前の女よりもっといい女!みたいなエロティックな曲だといいなと(笑)。サイダーガールさんのそういう曲も聴いてみたいです。
Yurin 「エロは30歳ぐらいから始めようかな(笑)。まだちょっと足りないかな」
フジムラ 「頑張ります(笑)」
――そして『化物』の次の曲『ぜったいぜつめい』はYurinさんの作詞作曲。前回お会いした時に、“(曲で)自分のことを話せない”と話していましたが、この曲はYurinさんの胸の内が詞に出ている気がしました。
Yurin 「そうですね。僕らは欲張りというか、やりたいことをやりたい!っていうのがあるし、常に変わっていきたいっていうのもあるんですけど、それでも変わらない部分は残していたいなと…。それはギターロックの部分とかシンプルさとか愚直な部分なんですけど、そういうことを斜に構えて作ってみた詞ですね。僕、曲を先に作るんですけど、曲調がどこかひねくれたイメージだったので、そこに引っ張られた感じです」
――知さんの作った曲の『約束』にも“青臭い感情を不器用だけど未完成だけど君の為に捨てないでおくよ”という詞が。意味は似てますよね。
Yurin 「そうですね。『約束』は結構ストレートで、『ぜったいぜつめい』はひねくれたバージョンという感じですね」
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――ちなみに“青臭い感情”いわゆる初期衝動などがなくなってしまうことに怖さや不安を感じることはありますか?
Yurin 「あ~。でも初期衝動がなくなって、例えば常にハッピー!みたいな曲はたぶん一生ないし、満たされることもないだろうなって思ってますね。あといつもフラットな感じというか、今もマインド的には昔と変わってないなって自分たちでは思っているし。言いたいこととかは前から変わってないよね」
フジムラ 「そうだね」
――“一生、満たされることはない”んですね。
フジムラ 「曲を作る時って嫌なことがあった時の方が多いような気がするけど、でもそれは絶望的なものでもないし…。人間は多少なりストレスがないといけないって言うじゃないですか? だからそれはいいことなのかなって思います」
――確かに曲を作る人は不幸せくらいがいいって聞きますよね。
知 「僕はもう、ずっと不幸せですよ(笑)。自分の感覚なんですけど、音楽を始めてから人に100点をもらった感覚がなくて…。100人いてそのうちの1人にでも(ダメを)言われるとすごく傷ついて、マジョリティにマイノリティが勝っちゃうっていうか…。かと言って100人に褒められたとしても、そんなことありえないじゃん!って思っちゃう。うれしいことは振り返るとあるんですけど、リアルタイムでそんな風に思ったことがないので、だからずっと満たされないし、曲もできるんだろうなって…。逆にもし僕が幸せになれたら、全然違うことをやりたくなるのかなって思いますね。もう、カレー屋やります!みたいな(笑)。それくらいの変化になっちゃうかもしれない。だから本当に根本的にそういう(満たされない)部分は昔から変わらないと思います」
――でも1回ぐらい圧倒的な幸せを謳歌してみては(笑)?
知 「そうなんですよね(笑)。変わりたいっていう気持ちもあるし、変わってない、変われないっていう劣等感もあるというか。でもそれは自分が音楽を始めた時の初期衝動……好きだから始めたっていう気持ちもあるじゃないですか。そこには絶対に嘘をつきたくないんです。昔のことを忘れちゃったら今の自分もないから。でもそれ(昔の気持ち)があるから今の自分も満たされないし……みたいな(笑)」
――なんか……ピュアですね(笑)。
Yurin 「うんうん(笑)!」
知 「いや、ひねくれてるのかもしんないです(笑)」
フジムラ 「自分では天邪鬼だと思ってるよね(笑)」
Yurin 「でも3人だとフジムラがすごいピュアです。どピュアです(笑)」
フジムラ 「僕、褒められたらすぐにシッポ振るんで(笑)」
知 「何でも楽しむことができる。楽しい時にちゃんと楽しいって思えるよね」
――3人それぞれの性格は曲に反映されているのかもしれないですね。だからなのか、知さんの作った『最終電車』は悲しみにあふれていますよね。そして曲のオリエンタルな要素がそのムードを拡大させます。
知 「僕も曲が先なんですけど、そのイメージに引っ張られて歌詞も悲しくなりました。オリエンタルに感じるのは和のメロディを入れてるからなんですけど、畳の香りがするような曲だったらいいなって思って。夏の終わりの畳の匂い……おばあちゃん家で風鈴が鳴っているような。僕、田舎で育ったので、そういう田舎の和室を思い出しながらだったんです」
――さて、この表情豊かな作品を携えたツアーが2019年2月に! さっき話に出た「サイダーガール 2ndALBUM先取りツアー サイダーのゆくえ -半透明、2018秋-」というアルバム再現ツアーを踏まえて作戦を練ることができますね(笑)。
Yurin 「めちゃめちゃ練れます。今、練ってます(笑)。やっぱり(アルバム再現ツアーを)やってよかったなと思いますね。アルバムが完成して1か月後とかだったので結構バタバタしたんですけど、アルバムを出してそのままツアーに行くより、組み合わせ方とか見せ方とか、改善点が見つかったというか、もっとよくできるなってわかったんで、不安なく次のツアーができます」
知 「リリースしてから時間も経って、今度は曲が育った状態でツアーに行けるのが楽しみですね。僕もこういう部分をもっとこう見せたいなっていうのがたくさんあるし」
――そう言えば、知さんはライブについてTwitterで“CDを作る時はこれが似合うかなって悩みながら楽曲たちに服を着せていくのに、ライブとなると一枚一枚脱がせて裸にさせないと満たされないのってちょっとエッチだなって思ったわけ”と…(笑)。
知 「作品を作るのって完成に向けてどんどん服を選んでコーディネイトしていくというか、その素材に対して似合うなって思う服を着せていく作業なんです。で、こないだ再現ツアーをやった時、音源のまま演奏しても、お客さんはただCDを聴いている感覚にしかならないんだろうなって思って…。それだと僕たちがライブハウスでやる意味ないじゃないですか。音源流せばいいじゃん!ってなる。でも、そうじゃない(ライブの)意味は何だろう?って考えると、僕たちは普段顔出しをしてなくて、でもライブでは顔を出しているから、その表情もお客さんに伝わるし、ライブならではのアレンジもするし、もちろん生で演奏もしてるしってなって、それってキレイにしようと着せてたものをどんどん脱がせて、もともとの僕たちの持っている曲のイメージに近づけていってるんじゃないかなって思ったんです。僕たちが本当に曲で届けたいものが芯にあるわけじゃないですか。それをそのまま伝えないとお客さんに伝わんないなってすごく思って、それって脱がせてくことなんだなって…。あと、さっき話に出たんですけど、僕が次にやりたいみたいなテーマは結構エロだったりして。そういう人間の本能的な部分は、僕自身が出せてないところだから、トライしたいなって気持ちがあるんです。それは今回のアルバムを作ったから思えたことなんですけど、なんか聴いた人とシンクロしてたなって、びっくりしました(笑)」
Yurin 「(今作は)バラエティ(『娯楽』)で、次はアダルト(『大人』)……東京事変さんみたい(笑)」
知 「そういうアダルトな部分(芯の部分)を、今僕たちが出せるタイミングってライブなのかなと思いますね。生々しい部分を出せるのがライブ。生々しい人間の部分をもっと見せていくことが、このバンドにとってのライブなんじゃないかなと…。今度のツアーは『SODA POP FANCLUB 2』をちゃんと裸にして、再現ツアーの時に聴いてる人が『dialogue』を聴いてグッときていたように、お客さんの心も裸にできるかが課題かなって思います」
text by 服田昌子
(2018年12月19日更新)
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