大西ユカリ、ルーツミュージックを歌う。今年でCDデビュー20周年を迎えたナニワが誇るボーカリストが、自らの音楽性を形成したブラックミュージックにフォーカスしたカバーアルバム、その名も『BLACK BOX』をリリースした。昭和歌謡のイメージが色濃い彼女だが、今作に収められたのは、ベティ・ライト、ロバータ・フラック、オーティス・クレイ、サム・クックetcから、エイミー・ワインハウスにジャネール・モネイと、彼女が影響を受けた新旧の名ソウルナンバー13曲。三宅伸治との共同プロデュースのもと、甲本ヒロト、山崎まさよし、中田亮(オーサカ=モノレール)ら豪華ミュージシャンも参加した、大西ユカリにしか実現し得ない、平成最後のナニワ・ソウルの決定盤とも言える作品となった。11月12日(月)~14日(水)には『大西ユカリの磔磔3DAYZ~秋の磔磔オン・マイ・カインド~』、来年1月5日(土)には関西音楽シーンの名物イベントとフィーチャリングした『新春!南吠える!! presents 大西ユカリ & BLACK BOX』が控える彼女に、そのルーツから生き様までを語ってもらったインタビュー。好きな歌を歌って生きていくために、彼女は今日も汗をかき、そして今でも夢を見る――。
何が起こるか分からへん“愉快な箱”やなっていう(笑)
まさに『BLACK BOX』です
――『BLACK BOX』をリリース以降の反応や、世に出た率直な気持ちはいかがです?
「ぶっちゃけた話、まさか作れるとは思ってませんでした(笑)。カバーアルバムは流行ってますけどジャンルがジャンルですので、最初は日本語で和訳することも考えたり、許諾を得るのにもすごい時間がかかったりして…曲の美観を損ねないイメージでいくと、基本的には英語で歌ってよかったなぁと今は思いますね。実際、ソウルバーのご主人とかいろんな街の方にも聴いていただいて、自分で言うのもアレですけど、“ビックリするぐらいよかったね”って、いつになく褒めてくれはるんで(笑)。オリジナルを押し付けるでもなく街場で鳴ってるのがええなって、今回はちょっと思いましたね。ほんで、『You don't have to be a star(星空のふたり)』(M-12) (マリリン・マックー&ビリー・デイヴィス・ジュニア)では、甲本(ヒロト)さんと日本語で“ドカン!”と歌ってみたり。何が起こるか分からへん“愉快な箱”やなっていう(笑)。まさに『BLACK BOX』です。ええのができたなと思います」
「もうだいぶあっちこっちに引っ張られる感じ(笑)。それでも今思たら、“あれ忘れてた! これ忘れてた!”っていうのは、正直あります。いろいろ考えたらホンマにキリがないんですけれども、今回はどんな人が聴いても大丈夫なようにというディレクターの意図とか、全体プロデュースを一緒にやった三宅伸治さんの意見も聞きながら、例えば、『Killing me softly with his song(やさしく歌って)』(M-7)(ロバータ・フラック)であるとか、『Tennessee Waltz』(M-9) (サム・クックVer.)であるとかは、皆さんもちょっとは知ってくれてるかな? とっつきやすくなるかな?っていうイメージですかね」
「そうですね。あと、エイミー・ワインハウスは20代でこの世を去ってますし、『Clean up woman』(M-3)なんかは、ベティ・ライトが17歳のときに録ってますから。その声色みたいなものも楽曲の風情ですので置いとかないかん。54にもなって17の歌を録るとなると、女優さんが女学生の役をやらはるみたいなもんですよね(笑)。よく聴くと歌もすごくかわいいんですよ。ただ、内容は男をかなぐり捨ててスッキリした女の歌なんで、何で10代でこない歌えてんねやろって思いますけど(笑)。こういう喉の開き具合だとこういう言葉は出ないというところまで一応研究はしたし、その表現を損ねたくなかったので、あえてキーも変えずに歌ってます。キーを変えるとサウンドも変わりますから、聴き慣れたソウルファンの人は“違う!”みたいになるんで、多少無理してでもその1曲に喉のコンディションを持っていって。日本語のオリジナルやったら“ここはこれでええねん!”でもいいんですけど、今回はそうはいかんっていうのはすごくありました。それでも作業としてはすごい楽しかったですけどね」
「『Killing me softly with his song(やさしく歌って)』は元々ロバータ・フラックさんが歌ってはりましたけど、私がこれを歌おうと思ったきっかけはローリン・ヒルなんですよね。彼女がまだ結婚する前にフージーズで歌ってはるんですけど、『天使にラブソングを2』('93)で出てきやってから、後に“こんなにヤバい子やったんや”っていうのが分かって。その声色を聴いたときに、“この声に近付きたい”と思った。もう本当にヤキモチ妬くぐらいカッコいいんですよ、曲も声も。その声色は私が大好きなモータウンの方やったりにも通じていて、それにまた共通してたのがエイミー・ワインハウスやったり、全部がつながっていくんですね。喉の開き方が一緒の人たちがおるんですよ」
Cover Album 『BLACK BOX』 発売中 2778円(税別) テイチクエンタテインメント TECE-3489
<収録曲> 01. You know I'm no good 02. Tightrope 03. Clean up woman 04. Precious Precious 05. That lucky old sun 06. If loving you is wrong I don't want to be right 07. Killing me softly with his song 08. Trying to live my life without you 09. Tennessee Waltz 10. Every little bit hurts 11. Rock me again & again & again & again & again & again 12. You don't have to be a star (星空のふたり) 大西ユカリ&甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ) 13. Southern Belle(南部の女)
Profile
おおにし・ゆかり…’64年、大阪府富田林市生まれ、大阪在住。山崎廣明(ダイナミックス/ex.シャネルズ)、横山剣(クレイジーケンバンド)の薫陶を受け、’86年に北米黒人ソウル音楽グループCASINOを結成、音楽活動を開始。’95年、ゴスペルクワイアJaye's mass choirに参加。’98年、『Joy』(Jaye's mass choir名義)にてCDデビュー。本館的なゴスペル・R&Bエッセンスを身に付けた女性シンガーとして国内外から注目を浴びる。’00年、大西ユカリと新世界でデビュー。昭和歌謡ブームの火付け役として君臨し、9枚のアルバムをリリース。’09年、バンド活動休止を発表しソロシンガーとして活動開始。ソウルフルな歌声と圧巻のパフォーマンスで老若男女から支持を得る。’16年7月にはシングル『大阪に雨が降れば/ユカリ☆EXPLOSION』を、翌8月にはアルバム『EXPLOSION』をリリース。 ’18年、レコードデビュー20周年を機に、初めて自らのルーツミュージックであるR&B、ソウル、ブルース、ファンクを歌うカバーアルバム『BLACK BOX』を6月20日にリリース。現在はラジオ大阪『GO!GO!フライデーショー!』のメインパーソナリティーとしても毎週金曜(昼12:00~17:00)に出演中。’19年1月9日には、『BLACK BOX』より豪華デュエットで贈る名曲2曲のアナログ化となる、7インチ・シングル『You don't have to be a star(星空のふたり)』をリリース予定。