“伝えたい!”をエネルギーに濃厚なワンマンツアーへ
め組インタビュー
今年5月、め組はドラマーとベーシストが脱退を発表し、3人の新体制となった。しかし彼らは、10月3日に早くもニューミニアルバム『Amenity Wear』をリリース! そこで、力強く前進を続ける3人の“今”もパッケージされたこの新作について、フロントマン・菅原達也(vo&g)に話を聞いた。独自の詞世界が生まれる“もと”をたどると、彼の青春時代の思い出やメンバー間の普段の会話に行き着くことに――。
――今年5月から3人の新体制になりましたが、『Amenity Wear』の制作時期とは重なっていたんですか?
「5人の時から制作は始まっていて途中で脱退が決まりました。でも、ほぼ固定になったサポートメンバーもいて、そのおかげもあってより内堀が固くなってきたというか、より強化されたというか…。それで、(作品は)もともとあった“こういうものを作りたい”というものの延長線で思い通りになったかなと思います」
――今作は全5曲のミニアルバム。せっかくなので順に一曲ずつについて話をお聞きしたいと思います。まずは1曲目のリード曲『Amenity』から。
「Amenityという言葉自体は直訳すると快適性とかそういう意味なんです。で、“自分らしくいきたいな”と思っている時にこの言葉を見つけて、快適って感じられるものを大事にしよう!というのを題名にも歌詞にも込めました。歌詞ではすごく自分のことを書いたつもりだったんです。“誰も選ばない方をわざと選んで後悔したい”とかの歌詞も自分のために作ったんですけど、MVを出したあとにTwitterで調べたら、“あなたはあなたのままでいいよ!と言われているようでうれしかった”っていう感想が書かれていて、“自分のことをただ書いただけなに、あ、そういう風に捉えてくれるんだ!”って、ちょっと意表を突かれたというか……。それで、気持ちをちょっと変換して、当たり前と言えば当たり前なんですけど、聴いてる人に伝えよう!と言う気持ちで歌えるようになったんです」
――詞には“アイラブユー”が出てきます。かなりストレートな言葉なので、攻めているな!と思いました(笑)。
「そうなんです(笑)。恥ずかしいだろ?って突っ込まれたこともあったんですけど、そう言われるまで全然気づかなかったですね。重みをもって書いたつもりなんですけど、男女問わずに向けた言葉だったので、なおさら恥ずかしくなくて」
――屈折した気持ちを綴ったなかの“アイラブユー”なので際立ちますよね。曲調は屈折と反するように明るいですが…。
「屈折が強過ぎたところを逆に利用した感じですね。(詞も曲も)同じ(質感)だとウソっぽくなっちゃうので」
――そして2曲目『5.4.3.2.1』は20代後半の焦燥感が詰まったヨコノリです。
「そこは裏テーマで… “年齢からは逃れられない”という。あと、前回のアルバム『僕だってちゃんとしたかった人達へ』は、『お化けだぞっておどかして』とか『ぼくらの匙加減』とか、(タイトルや曲名や歌詞に)フックがある曲が多かったんで、今回はそこじゃないところで勝負したいなって思って歌詞にもかなり力を注いだんです。でも逆にスゲー出し過ぎちゃって引かれているところもあると思います。“隣で寝てる女に”とか書いちゃってるし(笑)。でも、ま、発散できたところもあるんですけどね」
――これも現在29歳である、菅原さんのリアルな“今”を歌っている感じですよね。
「そうですね。アラサーの人たちに“これいいですね”って言ってもらえて…。もちろん僕も実際そうなので(焦燥感があるので)、そのまま歌詞にしたんですけど、僕より上の30歳の人に“聴いてどうでした?”って聴いたら“30歳になってもこのままだよ”って言われたんで、マジかよ!って思いました(笑)。(30歳になれば)解放されるんじゃないかな、ちょっとは開き直るところがあるのかな?って思ってたんですけどね」
――ちなみに詞には“結婚ってどう思う?”という言葉が出てきますが、結婚も気になりますか?
「そうなんですよ。20代後半になると、結婚についてどう思うか?っていう話題で2~3時間は下らなくて…。メンバーにも“こんな曲(『5.4.3.2.1』)書いたんだよね。ま、そんなの(結婚について悩むこと)は気をつけようぜ!”って話をしてから“でも実際どうだろうね、結婚って?”って、マジで出嶋(key)と話し出しちゃって、それを見た富山(g)……彼は5歳年下なんですけど……が大爆笑して、“どうして笑ってんの?”って聞かなきゃ気づかないくらい、自分たちがずっと結婚について話し込んでました(笑)」
――結婚も仕事も岐路に立たされる年齢ですよね(笑)。
「ちょうどその時期ですね。自分は実際のところ、結婚を迷っているとかではないんですけど、意外とそういう時間軸のなかにいるし、かつ俯瞰しているところもあるしで……不思議なんですけどね」
――今は昔に比べて“楽しい大人像”があまりないのが、今の若い世代の苦しいところですよね。
「あ、それはありますね。たとえばドラマとかでも、昔はものすごく焦っていてもちょっと楽しい未来が待ってるっていうのを含んでいたから、そこに期待もしていたので…。でも今、リアルタイムのドラマとかにはそれがないような気がして。でもとらえ方によるとも思いますけどね」
――では3曲目の出嶋さんボーカルの『愛をさけるチーズみたいに』の話へ。途中、菅原さんも登場して男女の掛け合い的なところもありますね。
「いい曲ができたんで、なんか彼女一人だとずるいなって……僕もちょっと……」
――……歌いたい!って(笑)?
「マジでそういう気持ちでした(笑)」
――人生観を表した『Amenity』のスピンオフかな?って、ちょっと思いました。
「この曲は一見、恋愛の歌に思われがちなんですが、実はその恋愛は脇役で軸は『Amenity』と同じで人生観なんです。脇役である恋愛も主人公(人生観)を引き立たせるものであって、昔はきれいごとがしっかりきれいなものとして見えたけど、何かのはき違いで今はひねくれて(そうは見えなくなって)しまった…というかですね」
――『Amenity』の人生観を女性が別の視点から見ているのかな?と。
「いやでも、女性が歌うから女性視点の曲で作ろうっていう意識はなくて、対女性としての歌詞でも成立しますね」
――自身から切り離して詞を書かないタイプなんですね。
「僕は詞が先になるので、そうなりがちですね」
――実体験から生まれるから、出てくる単語が小気味いい感じですね。次の曲『しあわせのほっぺ』なら、産毛とか塩素とか…。
「産毛と塩素……マニアックですね(笑)」
――マニアックかもしれないですが(笑)、誰もがわかるものでそこに共感が生まれる…。
「あ! 今、思い出したんですけど18歳ぐらいの時、ちょっと自分たちが大人っぽいっていう自覚があったから、大人のふりをしたことがあって。案の定、大人だと思われたんですけど、“実は18歳です”って言ったら、その人(大人のふりをしていた相手)に“言葉づかいも大人っぽいし気づかなかった。なんでそんな大人っぽいの?”って聞かれたんです。で、その時に考えたのは、伝えたい!っていう気持ちが強いと、言葉も的を射たい!って気持ちになるじゃないですか。そうすると選ぶ言葉というか、たとえ話も(うまくなる)。たとえ話がうまい人って本質を理解しているじゃないですか。だから“そのせいじゃないですか?”っていう話をその時したんですよね。今、それを思い出しました(笑)。伝えたいエネルギーが無駄に強い……余計なお世話だよ!っていうくらいに。“とにかく何かを伝えるために、たとえたいんだよ、この気持ちを!”っていう感じです。あれ、これは普通か(笑)?」
――いや納得。確かにたとえ話のうまい人のインタビューはわかりやすいので、ありがたいですよ(笑)。
「やっぱり本質を伝えたいからたとえがうまくなるのかな?っていうのを思い出しました(笑)」
――そして、その言葉づかいのうまさは最後の曲『真夏の朝 2人乗り』でも。青春時代を描いていますが鮮明です。当時作った曲ではないですよね? 大人になって作ったんですよね(笑)??
「そうです。もう僕、中二病なんですけど(笑)、全然恋人じゃない人を自転車に乗せたことがあって、その時の道がだだっ広くて、なんかそこに2人で放り込まれちゃたら10代の頃のこととかが出てきて“うわ~!”ってなって…という、甘酸っぱい感じでお送りしました(笑)」
――確かに甘酸っぱい(笑)。でもそう考えると、曲を作る人はいろいろな思い出がある方がいいですね。
「あ、こないだサポートベースの寺澤君にも“コンポーザーになる人は経験がなきゃダメだよね。俺、全然ないし……”って言われて、そんなことないしなって思ったんですよね。“いやいや、君だって経験しているでしょ?”って思うんですけど(笑)」
――やっぱり伝えたいという気持ちが大事なのかもしれない(笑)。さて、最後にリリースツアーの話も。今回は新体制での初ワンマンツアーです。
「今サポートで入ってくれている2人がかなり心強いんですよ。直近のライブでも“俺と同じ熱量でやってくれ”って……嫌味とかではなくて……言ったら、ちゃんとやってくれたんですよね。あと、今回のアルバムは、ポジティブに新体制で“どうだ!”っていうところから生まれてきた曲たちなので、“わ~っ、ロックだっ!”って、パワーで押し出すんじゃなく、しっかりと思いを込めてライブをしたいなと思います。いつも僕、反省しがちなんですけど、力めば伝わるんじゃないかと思っちゃうんで……(笑)。でも実はしっかり丁寧にやることの方が、エネルギーがあるから、そこを信用しようと思ってます」
――観客と会話をするような濃密なライブになりそうですね。
「はい。それが理想です。バンドとしても、ミュージシャンとしても……」
text by 服田昌子
(2018年11月16日更新)
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