インストバンドjizueが大阪で魅せたエモーショナルな夜
jizue『ROOM』 & fox capture plan『CAPTURISM』
リリースライブレポート
京都を拠点に活動中の4人組インストゥルメンタルバンドjizue。 2006年に井上典政(g)、山田剛(b)、粉川心(ds)を中心に結成され、翌年に片木希依(pf)が加入。12年のキャリアを持つ彼らが、昨年10月、ビクターよりメジャーデビューを果たした。ロックやハードコアに影響を受けた魂を揺さぶるような力強さ、ジャズの持つスウィング感、叙情的で心情を映し出す旋律が絶妙なバランスで混ざり合ったサウンドで人気を高め、フジロックやグリーンルームフェスティバル、朝霧 JAM など、大型フェスにも出演。そして今年7月25日、2年ぶりとなる6thフルアルバム『ROOM』がリリースされた。それを記念して8月から始まった全国14箇所を廻るツアーも終盤戦。大阪公演は10月28日、梅田Shangri-laにて、“jizue 『ROOM』 & fox capture plan『CAPTURISM』”と冠して、fox capture planとのツーマンライブという形で行われた。9月5日に7thアルバム『CAPTURISM』をリリースしたfox capture planとお互いのリリース日が近いということで実現したライブ。冬の訪れを肌で感じるような夜だったが、熱いエネルギーに満ちたライブとなった。この日のレポをお届けしよう。
朝と晩が涼しくなり、少しずつ冬の気配を感じはじめた10月28日。定刻を少し過ぎてもShangri-laの前には入場待ちの列ができていた。ソールドアウトしたチケットを手に並ぶお客さんの顔にはかすかに微笑みが浮かび、その表情から今日のライブへの期待を読み取ることができる。会場に入るとパンパンのオーディエンスが、今か今かと開演を待つ。
まずは fox capture plan(以下fcp)の登場。大歓声に迎えられてステージに現れた岸本亮(pf)、カワイヒデヒロ(b)、井上司(ds)の3人。静かにポジションにつくと、リリースしたばかりのアルバム『CAPTURISM』から表題曲『Capturism』を披露。続いてジャズマンへの敬意がこめられた『Greatest Blue』へ。岸本の「fox capture planです!」という挨拶をはさみ、フジテレビ系月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』のメインテーマ『We Are Confidenceman』をプレイ。安定感のあるグルーヴがじんわりと熱を帯びる。無駄のないクールな演奏で魅せたと思いきや、岸本が立ち上がって荒々しくピアノを弾いたり、井上が繰り出すパワフルなドラムソロに、目と耳が忙しく反応する。有無を言わさずfcpの世界観に惹き込んでいく演奏力は、ほんとうに見事だ。
『Mad Sympathy』ではヒリヒリするようなセッションに五感を震わされ、疾走感のある『Kick up』では音源よりもかなり速いBPMで会場全体を音の渦に巻き込んでいく。さらに熱を増した岸本が立ち上がって叩きつけるようにピアノを弾くと、勢い余ってメガネが吹っ飛び、演奏後、オーディエンスを煽りながらメガネを拾いに行く場面もみられた(笑)。MCでは「最高やないか!楽しんでる?」と嬉しそう。「久しぶりにjizueとツーマンです。一緒にやってくれてありがとうございます。大阪、もっともっと盛り上がってくれていいんだぜ?」と言う岸本に、カワイが「キャラどうしたん(笑)」と突っ込み笑いを誘う。ライブ中はものすごい熱量で圧巻の技巧を見せつける一方で、緩いMCのギャップも彼らの魅力だ。後半は、関西テレビ『健康で文化的な最低限度の生活』から『LIFE』、自然とクラップが起きた『エイジアン・ダンサー』と一気に駆け抜け、フロアをバッチリ盛り上げた。時間は短めだったが、アルバムの世界観もfcpのハイレベルな表現力も魅せつける、凝縮された濃厚なセットリストだった。大きな歓声に包まれた3人はガッツポーズを残し、jizueにバトンをつないだ。
続いてjizueがステージにあがる。メンバー全員、アー写で着用している衣装で登場。1曲目はメジャーデビューとなるミニアルバム『grassroots』から『grass』。風に吹かれてそよぐ草原が目の前に情景として浮かぶような爽やかさを孕んだ楽曲。片木が楽しそうに笑顔で鍵盤を叩く。それぞれのパートのフレーズが決まるたびに、オーディエンスから大きな歓声があがる。続いては『trip』。2曲目ながら会場にはすでに多幸感が満ちている。ジャジーな4人の音が合わさった時、パッと一気に目の前が明るくなる。1曲終わる度にフロアから沸き起こる歓喜の声の大きさが、オーディエンスの期待を超えた素晴らしいものだということを物語っている。
ドラムのカウントから始まったのはアルバムのリード曲『elephant in the room』。ノイジーなギターが印象的なナンバー。そこに片木の美しくも攻撃的なピアノが加わり、どんどんグルーヴが加速していく。照明とオーディエンスも懸命に応える。意識せずとも勝手に体が揺れてしまう。まるで会話を交わすかのような片木と粉川の激しい音の応酬。ものすごい熱量だ。片木が立ち上がり全身でピアノソロを叩きつける。真剣な表情でギターを操る井上、山田は天を仰いで心地よさそうにベースを奏でる。そして、ひたすら熱量を持って刻みつける粉川のドラムに迫力に圧倒される。耳を揺るがすような拍手が送られ、ここでMCタイム。ギターの井上が「こんばんはjizueです! イエイッ!」と挨拶。ツアーも終盤のはずなのだが、井上が「ここ、大阪から始まる気持ちで」と言うと、片木がすかさず「何の話?ツアーは真ん中らへんですね、折り返し地点です(笑)」と息のあったツッコミを入れ、会場を和ませる。メンバーの仲の良さが伺える一幕だった。
曲に戻り、ニューアルバム『ROOM』から『Englishman in New York』へ。先ほどの勢いをクールダウンさせるかのように、繊細で美しいメロディーがShangri-laを包む。まるで愛おしいものに触れるような優しい表情でピアノを奏でる紅一点・片木の姿に観客は釘付けになる。
「良い季節になってきました。僕たちの地元、京都ではもうすぐ紅葉がはじまります」と井上が真面目に次の曲へのフリを始めようとするが、なぜか客席から笑いが起こる。「いっこも面白いこと言うてへん!」「滋賀出身やのに京都って言うから笑われてるんやで(笑)」という片木との掛け合いをはさんで、秋にピッタリだとアナウンスされた『green lake』へ。緑色の照明がゆったりとステージを照らす。目を閉じてしっとりと演奏する井上と山田。優しいシンバルの音に体が飲み込まれる。1音1音丁寧に響くピアノの旋律にうっとりと身を任せるオーディエンス。どんどん深いところに潜っていくような感覚になる。美しいメロディーと一緒に風になって、湖のほとりをさあっと吹き抜けるような心象風景が浮かんでくるようで、時が経つのを忘れてしまいそうだった。
『swallow』では一転してソリッドな雰囲気に。jizueの音楽の特徴ともいえる変速・変拍子の世界に引き込まれていく。一定のビートとフレーズを鳴らし続ける山田、井上、片木の横で、粉川のドラムがどんどん激しさを増し、暴れ出す。そして、また3人のビートに合流、一気に加速していく! ギラギラとまぶしいステージに思わず目を細めるが、決してそらすことができない。まるでトランス状態になっていくような中毒性がある。輝かんばかりの1曲を終えて、MCへ。井上「長かったね、(粉川の)ソロが」片木「でもサビに返った時、ちょっと鳥肌立ったわ」と、メンバーも粉川のドラムソロを絶賛していた。客席からも再び大きな拍手が送られ、嬉しそうな表情を浮かべていた。「今回のツアーでこうやって曲たちが成長していく過程がすごく楽しい」としみじみと語る井上。本当に素晴らしいアレンジで、今後のライブで見ることが心底楽しみだと思わされた。
早いものでライブは終盤へ。「後半戦ぶっ飛ばしていきますんで!」という井上の言葉に、片木が立ち上がり、準備運動のようにジャンプする。披露されたのは『rosso』だ。イントロと共に歓声があがる。跳ねるようなビートにフロアは大盛り上がり。楽しくてしかたない!といった様子で音を生み出す4人。ラテンジャズの要素に体は自然と踊りだす。井上のギターソロが激しくメロディアスに唸る。MCであれだけ緩い空気を放っておきながら、キメるところはバッチリキメる! ラストに向けてさらに激しさとエネルギーを増していく。圧倒される。中毒性がある。1曲の間にこれだけの表情を見せられるバンドは本当に稀有だと思う。演奏が終わると一斉にオーディエンスの手があがり、大歓声に包まれた。
「このツアーを廻ってると、ほんとに同じ曲でも同じライブってないなと思って。fcpと大阪の熱いお客さんでほんとに嬉しいです」と片木がとびきりの笑顔で語る。客席も「最高!!」とレスポンス。
そしてあっという間に最後の曲。ドラムロールから、jizue屈指のダンスナンバー、『Dance』へ。自然とクラップが沸きあがる。ギター、ピアノ、ベース、と音が重なり、グルーヴの波が会場を満たす。華奢な体から繰り出されるダイナミックなピアノソロに目を奪われる。粉川と片木がまっすぐ見つめ合い、アイコンタクトを取る。その迫力も相まって、サビでは会場がダンスフロアに早代わり。照明の演出も素晴らしかった。セッションではそれぞれの見せ場がたっぷりと用意され、4人とも全身を使ってこれでもかと思いの丈を表現する。ポップに跳ねるギターとベースのセッションのあとは、時を忘れさせるほどの長い長いドラムソロ。徐々に刻まれるビートが細かくなり、高まっていき、最後は大きくシンバルを叩いてスティックを投げ両手を上げる。一際大きな拍手が粉川に送られる。しばらくして、また曲に戻り、井上が前に出てギターソロを披露。4人ともとにかく楽そうだ。ラスサビに向けてビートが早まり、エモーショナルな渦に巻き込まれる。会場の一体感は最高潮へ。演奏後は、今日1番の大歓声!! 大きな大きな拍手に見送られ、1度メンバーがステージを去る。
鳴りやまない拍手はクラップへ。再度ステージに登場するメンバー。
MCでは、Shangri-laは因縁の場所で、お客さんが2人だった時代があったことを明かし、「それが今はこんなにたくさんの方に来ていただいてほんとに嬉しいです。音楽続けてきて良かったです。ありがとうございます」と片木が感謝を述べた。また、来年やりたいことの構想が見えてきたという井上が「来年もよりjizueのことを愛してもらえたらと思います。よろしくお願いします」とこれからの想いを口にした。
そして2016年にリリースされたアルバム『STORY』から『atom』をプレイ。一気に高まるフロア。力強い演奏。4人のキメがバシッと決まった時の爽快感は、この場にいた人しか味わうことができない。自然とクラップが沸き起こり、会場中がものすごいグルーヴの波に襲われる。目の前で繰り広げられる音楽の応酬に心が揺さぶられる。本当に素晴らしいライブだった。
メンバーの“やりきった!”というような弾ける笑顔と、割れんばかりの大歓声、ダブルアンコールを求める声が鳴りやまなかったことが、このライブの大成功を示しているだろう。12月22日のファイナル公演、東京LIQUIDROOMまでツアーは続く。その頃にはどれほどパワーアップしているのか、まだ少し早いが、来年のjizueからも目が離せない。
text by ERI KUBOTA
(2018年11月16日更新)
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