「音楽もいつも同じ道じゃなくて、一本違う道を通ってみたくなる」
アジア圏でも人気のサックス・ビューティー、小林香織の挑戦
らしさを刻んだ新作リリースツアーがいよいよ開幕へ!
『Be myself!』インタビュー&動画コメント
女性サックス奏者として’05年にデビューを飾り、コンスタントにアルバムを発表しながら近年には台湾、韓国、タイ、インドネシアといった海外のアジア圏でも高い人気を誇る小林香織。レコード会社を移籍し初となる新作アルバム『Be myself!』では、全曲オリジナル曲で、プレイヤーとしても、コンポーザーとしても、タイトル通り自分らしさを改めてナチュラルに発揮した作品に仕上がっている。プログラミングによる音作りも自らこなし、ジャズ~フュージョンの枠に収まることのない個性をメロウかつ独自のスタンスで発揮した新作に至るまでや、その聴きどころ、そして10月23日(火)にビルボードライブ大阪にて開催される公演について語ってもらった。
今回のアルバムを作りながら気が付いたのは
音楽にも年相応なものがあるということ
――今回はアルバムのタイトルも“自分らしく!”という意味で、全曲オリジナル曲で改めてご自身の個性をうまく反映できた手応えのあった作品に仕上がったのではと思いますが。
「’05年にデビューして、人生で初めてアルバムを作らせていただいて。その頃から大きく変わってはいないと自分では思っているんですけど、やっぱり最初は大学を卒業したての20代前半で、プロデューサーにおんぶにだっこで右も左もよく分からない状態から始まって。キャリア中盤の『SEVENth』(’12)というアルバムからセルフプロデュースをさせていただけるようになって、年齢的にも30歳を過ぎた辺りから大人としての第一歩というか、小林香織の第2章のスタートみたいな雰囲気になってきたんですよね。今回のアルバムを作りながら気が付いたのは、音楽にも年相応なものがあるということで」
――キャリアを重ねたからこそ表現できる“自分らしさ”が、強く表れてきたというか。
「やっぱりデビュー当初の自分が作った曲を聴き直してみると“若いな”というか、“待てない”というか(笑)、“間が気まずい”というか。そういう曲だったり演奏だったりしたんですけど、今回のアルバムの曲は、自分でも20代前半の頃とは少し違うなと感じられるものになったと思います。ただ、ここに至るまでに音楽的な反抗期みたいな時期もあって、サックス=ジャズ~フュージョンみたいなカテゴリーに入れられるのが窮屈で、時にはそれに少しケンカを売るようなアルバムを作っていた時期もありました。例えば、サックスはアドリブをして当たり前という風潮があるので、あえてアドリブをしないアルバムを作ったり…」
――R&B志向の強いサウンドを展開した『Urban Stream』(‘13)などは、アドリブよりもメロディや楽曲のよさで個性を発揮しようという意志が強く感じられた作品でした。
「ただ、今はそういう時期も抜けてオトナになって(笑)。今回はいい意味でフラットに作れた作品になりました」
――ただ、今回の『Be myself!』もサウンドの骨格は7人のトラックメイカーとのコラボで作り上げたプログラミングのビートなどを主体としたもので、サックス奏者のアルバムとしてはかなりポップで異色な作り方なのかなと。
「わざわざサックスをやろうと思う時点でも普通からすれば十分に変わっていると思うんですけど、その中でも奇妙な食べ合わせに興味があるというか(笑)、私生活においてもちょっと人と違ったことをしてみたい気持ちが強くて。音楽も、いつも同じ道じゃなくて、一本違う道を通ってみたくなるタイプかもしれないですね。今回のアルバムに参加してもらったトラックメイカーさんは、大きくは2人が3~4曲ずつ担当してくださっていて。そのうちの1人は私のバンドの元メンバーで、今はニューヨーク在住の泉川貴広さんで、以前にもお願いしたことはあったんですけど、その当時と比べると私が書く曲も彼が作るサウンドも変わっていて、今ならではのいいコラボになったと思います。もう1人は友達に紹介してもらったギタリストで、ポップスを得意としている野崎心平さんに4曲をお願いしています」
聴いて情景が浮かんだり妄想できたりするのが私の中のいいアルバムの定義
――曲によっては小林さん自身がプログラミングも手掛け、ほとんど1人で完成させている曲もいくつかありますが、アレンジなどはどのように進めていったのですか?
「基本的にはトラックも含めてまずは自分で作って、そのトラックを聴いていただいて、あまり変えずに進めてくださる場合と、結構イメチェンして戻ってくる場合があって。そこからさらにやりとりして完成させていきます」
――そのやりとりの中で、大きく変化していった曲などはありましたか?
「特に泉川さんがヒップホップ寄りにしてくれた曲がありまして、もはや私のアレンジではないなという曲に関しては、泉川さんの名前だけクレジットしています。ゴスペルの要素もたくさん入っていたり、私としてもその辺りの音楽は好きなのでそのまま収録しました」
――『Sakura』(M-4)も、トラップっぽいビートに琴も入ってきたりして面白いですね。
「今回のアルバムは私の日常生活から生まれた曲が多くて。私は切ないものや瞬間がとても好きなんですよね。『Sakura』=桜って悲しいでも嬉しいでもなくどこか切ないところがあって、その辺りをうまく曲のテイストに持っていけたかなと。『Midnight Laundry』(M-7)もそうですけど、夜、犬を散歩させているときにコインランドリーの前を通るといつも洗剤のいい匂いがして、その瞬間に胸がキュンとするんですよね。誰が洗って、どういう場所に着ていくのかとか、その人の生活や人生が垣間見えるところにワクワクして、クリエイト魂に火が付いたり。ホントに私の日常を切り取っているイメージです」
――『Make Up』(M-3)なんかも、女性の1日の始まりという感じで。
「メイクアップというと女性にしか縁のないものと思われるかもしれないですけど、男性が洋服を着て髪を整えて出かける準備をする段階でもいいと思うんですよね。ただ、この曲のタイトルをあえて『Make Up』としたのは、やっぱり自分の個性の1つは女性であることだと思っていて、“女性のサックス奏者が表現できることを”と考えたとき、こういうことをモチーフにするのもいいかなと。インストなのでイメージするのが難しいかもしれないですけど、聴いて情景が浮かんだり妄想できたりするのが私の中のいいアルバムの定義なので。聴いて何かを思い浮かべてもらえているのであれば、このアルバムは成功と言えるのかもしれないですね」
ビルボードライブ大阪ではいつもパワーをもらっているので
――インストは言葉が乗ってはいないので具体的な1つのイメージは描きにくいですが、その分、聴き手が自分ならではのイメージをそれぞれ自由に投影しやすい音楽でもありますよね。
「私はインストって“読書”と近いんじゃないかと考えていて。一冊の本を3人の方が読んだとしたら、頭の中に描く主人公って3人とも微妙に違うと思うんですよね。インストもそれでいいと思っていて、例えば今回のアルバムにも『Sky』(M-2)という曲が入っていますけど、夜空と言う人もいれば、明け方の空と言う人もいて。そこは聴いた方が作る部分だと思うし、イメージをシェアできるのがインストの優しいところでありいいところだと思っています」
――そんな充実の新作を携え10月23日(火)にはビルボードライブ大阪にてライブが行われますが、こちらはプログラミングを駆使したアルバムとはまた違ったバンド編成で、レコーディング作品とは異なるサウンドになるのでは?
「アルバムは打ち込みが中心なので全く別モノになると思うのですが、私はそうなるべきだと思っていて。後期のビートルズじゃないですけど、アルバムでできないことをライブですべきだし、ライブでできないことをアルバムですべきだと考えているので。CDが日常生活の中で楽しむ室内楽だとしたら、ライブは大きなスピーカーから爆音が出せる非現実な環境の中で演奏するものなので、ライブではCDと違った部分を楽しんでいただければと思っています。今回は会場によってセットリストを変えようと思っているんですけど、ビルボードライブ大阪では本当にコンスタントにライブをさせていただいて、いつもパワーをもらっているので。新しいアルバムの曲を中心にお届けしたいなと考えていますけど、私は予習が必要な音楽はダメだと思っているので、予習ナシで飛び込んでいただいても楽しめるライブにしたいと思っています!」
ライター吉本秀純さんからのオススメ!
「ジャズ~フュージョン界のみならず、泉谷しげるや小坂忠といった邦楽ロック~ポップスの重鎮のライブサポートなどでもそのプレイを聴く機会が多い小林香織さん。過去には普段によく聴かれているというR&Bテイストをかなり強めたアルバムなども出されており、今回に初めてインタビュー取材でお話を聞いていても、ジャズ~フュージョンの枠だけにとどまることのない柔軟なスタンスで音楽をクリエイトしている姿勢が、発言の随所からも感じられるのが印象的でした。新作では、カリビアンなリズムに謎のアフリカ風の歌声も飛び交う『Caribbean Rhythm』(M-13)という曲もオススメです」
(2018年10月18日更新)
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