Ivyらしさと新しい挑戦を詰め込んだ メジャー1stシングル『Parallel』リリース Ivy to Fraudulent Gameインタビュー
2010年に群馬で結成され、昨年12月アルバム『回転する』でメジャーデビューを果たした4人組バンド、Ivy to Fraudulent Game(以下、Ivy)から、メジャー1stシングル『Parallel』が届いた。現実世界に存在する非現実の存在を示唆した“並行世界”をテーマにしたこの曲は、ソリッドで少しひんやりとした感覚を与えるが、叙情的で、同時に儚さも感じさせる。そのほかカップリングには、すでにライブアンセムであり、彼らが17歳の頃に作った楽曲を再録した『error』(M-2)、そして寺口宣明(vo&g)がIvyのために初めて作詞作曲をした『sunday afternoon』(M-3)が収録されている。言い換えれば、今の彼らと過去の彼ら、そして新しい挑戦をする彼らの衝動を、独自の音楽センスと表現で彩った渾身の1枚となったのではないだろうか。今、Ivy to Fraudulent Gameは何を感じているのか。ボーカル寺口に話を聞いた。
自分たちの1番ど真ん中の芯の部分を
1stシングルで出したいという気持ちがあった
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――メジャーデビューから10ヶ月が経ち、シングル『Parallel』が発売になりましたが、今のお気持ちは?
「メジャーデビュー以降も相変わらずライブと音楽ばかりやっていましたね。1stアルバム『回転する』から結構時間が経って、ようやくシングルを出せました。待っててくれた方もたくさんいたと思うので、 1stらしいシングルが出せたのでホッとしてます」
――メジャー1枚目のシングルですが、そこのあたりは意識して制作されましたか?
「『Parallel』(M-1)が出来たのって、ほんとに発売するギリギリのタイミングだったんですよ」
――そうなんですか?
「はい。なんなら3曲中、1番最後にできたんです。他の曲も候補に上がってたんですけど、やっぱり自分たちの1番ど真ん中の芯の部分を1stシングルで出したいなっていう気持ちがあったので。だいぶギリギリに出来たんですけど、自分たちらしさ全開の曲が完成したので『Parallel』を選んで良かったなと思ってます」
――ということは、ギリギリまで方向転換するかしないか、話し合っておられたということですか。
「『Parallel』はドラムの福島(由也)が作ってるんですけど、彼は結構詰めるタイプで、曲を作るのに時間がかかるんですよ。だから方向は決まっていたんですけど、完成に時間を要して、レコーディングギリギリまで粘って作り上げた曲ですね」
――選ぶ決め手になったのはIvyの芯の部分が出ているということですよね。
「はい、そうですね」
――Ivyの芯って、どういう部分だと思われますか?
「アンサンブルやギターの音、曲の展開、サラッと曲が終わっていかない感じも含め、10代の頃から持ってる、僕たちにしかできない世界観。そんな音であり曲が、Ivyらしさかなと思います」
――カップリング含めた3曲とも、全然違う表情ですよね。『Parallel』はクールでひやっとする歌い方で、ソリッドだけど儚さもあって、美しい曲だなと思いながら聴いていました。
「ありがとうございます」
――寺口さんは曲によって世界観が伝わるように歌い方を変えてらっしゃるとのことですが、『Parallel』を歌う時に意識したことはありますか?
「この曲は僕の中ではAメロのぞわぞわ感が1番大事かなと思っていて」
――うんうん、ぞわぞわしますね。
「それだけは最初から決まってましたね。それ以外のところは割と歌いながら突き詰める感じだったんですけど」
――そうなんですね。この曲、歌詞の冷たさみたいなのは、かなりあると思うんですけど。
「うん、そうですね」
――歌い方はどうやって決めるんですか?
「曲の後ろで鳴ってる音と歌詞の世界観を掛け算した時に、歌い方が決まります。だから、良い意味での違和感みたいなものも出そうと思えば出せるんですけど、この曲はどストレートに、福島が作ってきた曲に対して、僕が思ったアンサーを思ったまますんなり出せたかなと」
――なるほど。
「Bメロで急に開けて、わかりやすいメロディーになるところは何パターンか録ってみて、どういう感じが合うかなとかやってみましたけど、1曲を通して今までやってきた中では割と悩まず、声にあてはめることができたかなと思います」
――内容的にはかなり普遍的というか、誰もが感じそうな内容ですよね。
「そうですね」
――“Parallel”は“平行世界”という意味です。曲のお話からは外れるかもしれないんですけど、寺口さんはパラレルワールドってあると思いますか?
「パラレルワールドはね、うーん、僕は割と、ないと思ってます」
――ない。
「うん、基本的にはただのオカルトのお話ではあるのかなと思いますけど、ただ、パラレルワールドっていう考え自体はおもしろいというか、もしかしたらそんなこともあるのかもしんないなと。この曲で改めて思ったのは、たとえばあの時、違う方の道を歩くことにしたり、今とは違う方を選んでたとしたら、ここにいる自分ではなくて、違う自分がいたのかな、とか。たとえば職業。僕はミュージシャンですけど、昔はサッカー選手になりたくて、挫折せずにサッカーを続けてたら、サッカー選手になってたかもしれない。それがパラレルワールドと言うのかわかりませんけど、それも一種の平行世界っていう考え方もあるのかなと思ったりもしますね」
――わかります。Ivyの曲はすごく高い共感性があるわけではないですが、『Parallel』は割と普遍的な内容なのかなと。
「うちの曲はどストレートな表現が、1曲の中で歌詞1行だけだったりするので、共感するスピードは他のバンドやアーティストに比べたらちょっと遠いけど、しっかり耳を傾けたり、歌詞を読んでもらえれば、割とみんなが思ってることだとわかってもらえるんじゃないかなと思います」
高校生が初めて曲作りするみたいな空気になってましたね(笑)
――2曲目の『error』は“青”という単語の美しさが際立っていると思いながら聴いていました。
「この曲はバンドを始めて1年ぐらいでできた曲で、17歳の頃からあるんです。その時から歌ってるので、どうしても当時の自分になろうとする自分がいて。だからレコーディングで1番手こずりましたね」
――そうなんですか。
「17歳の自分に近づけようとする自分もいるし、24歳の自分の体でそのまま歌うことが、“今”出す『error』という曲の価値になるんじゃないかという悩みもありつつ。結果的に今の自分のままで歌おうというふうに持っていったんですけど」
――今の寺口さんのままで。
「昔の曲を改めて再録すると、やっぱり当時録った音源や声のイメージが邪魔をすることがあって。高校生の時からやってる曲を、メジャーデビューしてスタジオで録り直してること自体が不思議だったりして。そんなことを考えながらレコーディングしてましたね」
――昔のことを思い出したりしましたか?
「そうですね。初めてワンマンライブした時にもこの曲はやってるし、7月にZepp DiverCity TOKYOでワンマンした時もやってる。景色は全然違うんだけども、この曲はずっとあるなというふうに思いながら、不思議な感じを抱いてましたね」
――それで“青”が余計に響くんですかね。青春という意味なのかなと思っていたのですが。
「僕はこの曲の“青”というのは、昔から“音楽”だと思っていて」
――へえ!
「“この青が音楽だと思う”ということは、作曲者の福島にも、誰にも言ったことないんですけど、俺の中では青春というよりも音楽かなと」
――当時からそう思われてたんですか?
「そうですね。17歳の時に考えたんですよね。“あの青って俺にとって何だろう”って。その時から割とそういうイメージで歌ってるかな」
――メンバーさんと、当時の演奏を思い出して“あの時こうだったよな”と喋ったりしましたか?
「ライブでは、大サビにいく前の静かなところ、ギター1本と歌だけのところを、会場全体で歌うんですよね。僕らにとってはお客さんに歌わせる、ということを初めて試みた曲なんです。だから確か、照れくささもあったんですよ。だけど“ライブをしているな”っていうふうには4人とも思ったと思います」
――“これがライブなんだ”と?
「“あ、これも恥ずかしいけど間違いじゃない”というか。しかも、僕と福島は16歳で出会ってるんですけど、この曲は17歳の時にできて、18歳の時に今のメンバーが揃ったんで、Ivy歴でいうとメンバーより先輩なんですよね」
――なるほど! 今のタイミングで音源に入れようとなったのは、必然だったんでしょうか。
「これは自分たちの意思だけで入れたというよりは、お客さんの声もたくさんあった中で選ばせていただいたんですね。“ライブであの曲やってたけど CDにないよね”っていう現象がありまして」
――ああ、わかります。
「この曲をレコーディングしたのは17歳の時なんで、まだどこのレーベルにも入ってないし、自分たちで家で録音して手売りで売ってたCDしかなかったんです。で、“聴きたい”って声もたくさんあったし、僕たちもその声に応えたいし、音源に入れることに抵抗はないので、カップリングという形ですけど、入れさせてもらいました」
――そんな裏話があったんですね。
「だから発表した時、喜んでくれる人は多かったですね」
――“やっと聴ける!”って。“あの曲良いのに音源ないやん~”っていうのは確かに。
「もやもやしますよね(笑)」
――だから“ファンの不意を突くようなサプライズ”と謳っているんですね。
「うん」
――といっても、3曲目の『sunday afternoon』の方がサプライズ感は強いんじゃないかと思うんですが。
「あ、そうですね(笑)。僕が初めて作った曲ですね」
――ボサノヴァっぽいコード進行であたたかい雰囲気ですね。Ivyで曲を書こうと思ったキッカケはあったんですか?
「7月1日にZepp Divercity TOKYOでワンマンライブがありまして、6月の頭ぐらいにセットリストを決めるんですけど、曲を並べた時に、こういう曲がほしいと僕が思ったんですよ。『sunday afternoon』みたいに、キャッチーで空気がやわらかくなるような曲。そういうアプローチができる曲が1曲ぐらいしかなくて、そうすると逆にこの1曲が扱いづらくなっちゃって。だから『sunday afternoon』は、ワンマンを意識した時にできた曲なんですね」
――なるほど。
「作曲は基本的にドラムの福島がやっているので、バンドではスタジオで楽曲制作するのが初めてだったんですよ。だからそれに対する“どうやったらいいんだろう”っていう戸惑いもありつつ。完成してみてナシだなと思ったら、もうしょうがないなっていうチャレンジだったんですね。で、いざ4人で鳴らした時、弾き語りよりもすごく自分の思ってた世界観が出てくれたので、ぜひワンマンでやりたいなと。Ivy to Fraudulent Gameの新しいところにも行けるし、やることに意味があると思ったので、ワンマンライブで初披露して、シングルのカップリングに入れていただきました」
――ワンマンで披露した時のお客さんの反応はどんな感じでしたか?
「やっぱりガラッと空気が変わって、結構驚いてる人もいたかな。拒絶するような声は今のところないですけど(笑)。まあ別に否定されてもいいかなっていうふうには思いながら。どう見られてるかより、どうやりたいかを優先したいので」
――この曲はどういうことを思って書かれたんですか?
「メロディーが先にあったので歌詞は後から書いたんですけど、雰囲気的には休日の晴れた日に聴きたくなるような曲調だったので、日常の男女の話を乗せてみました。ラブソングじゃないけど、非日常ではない。『Parallel』とは真逆の日常ですね」
――白いテーブルがテラスに並んでるようなオシャレなイメージが浮かびました(笑)。
「情景をイメージしやすい曲だと思います。まあ気分を上げたい時に聴いていただければ。どよんとしてる時に聴いたら、ちょっとうざいかもしんないですけど(笑)」
――“ちょっと休憩しようか”っていう部分はセリフですよね。
「いろいろやってみたくなっちゃいまして(笑)」
――これは女の子が言ってるんですよね?
「セリフ的にはそうですね」
――どういうふうに録音されたんですか?
「1回プリプロで、レコーディング前に各パートと歌を入れた時に、ドラムと2人で仮歌を入れたんですよ。もうとにかくチャーミングな曲にしたくて、歌いながら笑ってみました(笑)。僕は楽曲によって、いろんな声を使いたくて。それも表現の1つかなと思っているので。だから何でも歌える人になりたいんですよね」
――では、寺口さんの挑戦になった曲とも言えますか。
「自分の影響されてるルーツが、歌謡曲や山下達郎さんあたりなので、いろんな人に出来上がった曲を聴いてもらった時に、“ちょっと懐かしいポップスの感じがするね”って言われるのは多分、今まで聴いてた音楽とか、聴いてる音楽からインスパイアされているのかなと」
――なるほど。作曲者としての寺口さんは、やはり歌うことも考えて作曲されるんですか?
「そうですね。作ってる段階から、歌うことをかなり意識しながらメロディーやコードをつけてましたね。福島の歌を自分の中で解釈をしてやるという作業よりは、自分で作った曲の方がイメージそのままやればいいだけなので」
――やりやすかったですか?
「やりやすかったですね。メロディーとかも含め、ボーカルが作った歌っぽいですもんね」
――ポップでキャッチーですね。メンバーの皆さんの反応はどんな感じだったんですか?
「結果良いものができたとみんな思ってるし、制作に取りかかる時も、キャッチーな曲を持っていったわけなので、もうちょっと心配するかなと思ってたんですけど、そんなこともなく。まあ不安はあったと言ってましたけど、やってみてダメだったらダメだねという感じでしたね」
――不安というのは、他の2曲とうまく馴染まないとか?
「いや、おそらく不安というのは、スタジオでバンドとして1曲作り上げるということへの不安だと思います」
――今までは福島さんが作られていたから。
「そう。スタジオで、弾き語りで僕が弾いて歌うものに対して何かをつける、ということがあまりなかったので。だから高校生が初めて曲作りするみたいな空気になってましたね(笑)。すっごい新鮮でした」
――バンドの中でまた新しいやり方が開けたというような感じはありますか?
「うん、そうですね、それ以降自分の曲をスタジオで作ることも増えたので、ほんとこの曲が良いキッカケになったなと思いますね」
――今後も寺口さんの曲が聴けるかも、と期待していいんでしょうか。
「この1曲だけだったらちょっと寂しいですし(笑)」
――もっと聴いてみたいです。
「割と違うタイプの曲ができているので、いつか披露できたらなと思ってます」
――楽しみですね。改めて『Parallel』、どんな作品になったなと思われますか?
「まだまだ僕たちのことを知らない人がたくさんいますし、この1曲を聴けば俺たちのことを好きになってくれる人もたくさんいると僕は信じています。そういうものにふさわしい1枚ができたなと思う。はっきり言って 3曲とも世界観は全然違うし、統一感があるかないかで言ったら多分ないんですけど、でも、これだけ幅があるし、おもしろいバンドだと思う。『Parallel』を聴いて気になって、ライブに足を運んでくれたら、もっと広がっていけると僕は信じてるので。1stシングルという意味ではものすごく良い1枚ができたんじゃないかと思います」
――前作『回転する』のラストが『革命』で終わっていて、そこからの今作、大きな意味があると感じます。
「次どんなん作るか全くわかってないんですけど、こういうふうにいろんなチャレンジを常にしていきたいというか、やりたいと思ったら、ダメでもいいから1回やってみるのがすごい大切なのかなと思ってて。まだ24歳とかで、自分たちらしさを作りすぎちゃうことで逆にチャレンジをしないっていうことが1番僕は嫌なので。もしかしたら自分の知らない自分がまだいるかもしれないし、いろんなことを怖がらずやっていけたらと思います」
――冬からはツアーも行われますね。
「来年の春にはワンマンツアーを廻れるんで、僕ら、とてもワンマンを見てほしくて。30分じゃほんとにどれだけ良いライブしても、自分たちの3割しか見せられてない。30分でこのシングルの3曲やるのは絶対無理ですもん。しっちゃかめっちゃかですもん(笑)」
――確かに統一感が(笑)。
「だから統一しなきゃいけなくて。圧倒的にワンマンで見てほしいっていうのがあります」
――まず11月にシングルのリリースツアーが東京と大阪であって、これを経てからの2019年ワンマンツアーですよね。
「このシングルのツアーは2本しかないんですけど、来年の頭から始まるワンマンツアーは全国廻らせていただくので、来れる方は是非来て欲しいです。1人でも多くの方に僕らのことを知ってもらえたらいいなと思いながら、準備してます」
――大阪は3月2日(土)、BIG CATですね。
「大阪のワンマンで僕らがやってきた中では1番大きいですね。好きなライブハウスです。思い出もありますし」
――それまでに少し時間はありますが、11月のParallelツアーに関しては、このシングルの世界観を見せつつ?
「そうですね。もちろん3曲ともやりますし、僕らのことを知らない人も、昔から知ってくれてる人もいると思うので、時間が許す限り、たくさん曲をやりたいと思います」
text by ERI KUBOTA
(2018年10月31日更新)
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